大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・006『二度目の合格者説明会』

2023-02-07 14:30:35 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

006『二度目の合格者説明会』   

 

 

「しっかり聞いて、しっかりメモを取ってくれればいいよ」

 

 受付の先生に正直に言うと、そう指示されて受験番号の振ってあるパイプ椅子に腰かける。

 見ると、わたしの他にも保護者同伴ではない子がチラホラ居て、ちょっと安心。

 ホッとすると直ぐにスマホを出してしまう。

―― 保護者同伴でなくても大丈夫だったけど、マジ、ビビったよ(;'∀') ――

 お祖母ちゃんにライン打ってスクロール……よし、とりあえず未読はない。

 習慣で天気予報をチェックして、Yahooニュースをチラ見……ヤバイ!

 1970年にスマホは無いんだ!

 まあ、この時代の人には手鏡にしか見えないようになってる。この時代でもスマホを使えるようにしてくれているんだけど、ちょっと用心しなくっちゃねえ。

 落ち着いてスマホを仕舞った手で、資料の入った袋を開ける。

 ホーーー

 五十三年前でも中身は変わらない。

 ひょっとしたらね、伝説のガリ刷りじゃないかと期待したのよ。

 小さいころに、古い荷物整理してたら黄ばんだ更紙に手書きっぽい字の文集やらプリントやら出てきて、お祖母ちゃんに見せたら「あ、わたしのだ!」と喜んでた。

 お祖母ちゃんは文芸部で、年に二三回、ガリ刷りで文集を出していたんだって。ま、同人誌的なものらしい。

 何か温かみがあって、だから、ちょっと期待したんだけど、ちゃんとした活字の印刷物。

 ん?

 ちょっと雑なのがある。入学者案内は活字なんだけど、選択教科の説明プリントはフォントが貧相というか雑。微妙に傾いてるのやらあるしね。

 制服の案内は……へたくそなイラスト。アニメのラフみたいというか作画崩壊というか、そういうレベルの男女の制服姿。

 でも、しっかり、私好みの昔の制服だよ。

 リボンじゃなくてボータイだし、ジャンスカ風のチョッキの部分、仕組みと着脱方法も書いてあってナルホドだ。

 袋を覗くと、B5サイズの正誤表。これがガリ刷り!

 オフホワイトの紙に青インクのカクカク文字で、いい雰囲気。

 

 ピーーーーーーーーン!!

 

 クラブ紹介の冊子を見ようとしたら、すごいハウリングの音。

 おまけにボコボコ音をさせて! オッサンがマイク叩いてるし!

「アーアー、お待たせしました、ただいまより、昭和四十五年度の合格者説明会を始めます」

 市役所の窓口に居ますって感じのおじさん……教頭先生が説明を始める。

 中身は、令和5年の説明会で聞いたのとほとんど同じ。

 ただね、学校のホームページとかの説明は無し。まあ、ネットが無いから当然なんだけど、微妙に『なんか忘れてます感』が残る。

「各種書類や証明書に貼る個人写真が必要ですが、これは制服が出来た後に、制服着用のうえ、指定の写真館……ええと、案内8ページにあります、三つの写真館のいずれかでお撮りいただき、入学者説明会の日に持参してください。他の写真館で撮って頂いても構いませんが、指定の写真館よりも割高になります……」

 え、自分で撮りに行くの?

 写真なんて、ほんのこないだの中学までは写真屋さんが学校に来て撮ってくれてた。

 写真館とかで写真とか撮ったことないし。普通だったら、友だち同士で撮りに行ったりするんだろうけど、この時代に友だちなんかいないし。

 よし、プリントに地図も載ってるし、駅前商店街の写真館、見て帰ろう。

 

 ということで、説明会のあと、令和ではパスした制服の採寸をやってもらって正門に向かう。

 

 ドスン! 

 

 いきなり斜め後ろからぶつかられてこけそうになる。

「「キャ!」」

「ごめんなさい!」

 知らない中学の制服、すぐに、こっち向いて謝ってくれる。

「えと……みんな何してるの?」 

 その子を含めて数人の子が空を眺めてる。見渡すと、同じように同じ方向を見上げている人たちがいる。

 合格者や在校生、中には、先生や制服の業者の人たちまで。正門の外でも空を見上げてる人が居る。

「あ、もうじきジャンボが、この上を飛ぶんですよ(^_^;)」

「ジャンボ?」

「ジャンボジェット! 体験飛行で東京の上グルって飛ぶんですって」

 ものは付き合いなので、いっしょに空を見上げる。

 クチュン!

 まぶしいんだろう、可愛いクシャミをする。

 

 ゴーーーー

 

 やがて南の方から音がして、珍しくも無いジェット機が飛んでくる。

 

 おお…… 大きい…… うわあ…… 素てきぃ…… かっこいい…… 乗ってみたいぃ……

 

 真上を通って、姿が見えなくなるまで見上げている人たち。

 ジャンボジェットよりも、感動している人たちが新鮮で、ちょっと校舎の裏に行ってググってみる。

 ……なるほど、初めて日本に来たんだ。

 え?

 もっとびっくりしたのは、令和ではジャンボがとっくに退役して引退してること。

 でも、新幹線の旧型が引退するようなもので、特別にファンでなければ興味ないよねえ。

 フフ( ´艸`)

 でも、古い制服に憧れて50年以上前の高校に通おうっていうんだ。こっちの方が、よっぽど変わり者なのかもね。

 帰りは、商店街で写真館の場所を確認して帰った。

 たかが証明写真撮るのに入るのは、ちょっと億劫だなあと思った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

 

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宇宙戦艦三笠20[空母遼寧の船霊ウレシコワ・2]

2023-02-07 09:21:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

20[空母遼寧の船霊ウレシコワ・2]   

 

 

 

 Расцветали яблони и груши……Поплыли туманы над рекой;……Выходила на берег Катюша……


 彼女は小さく「カチューシャ」を口ずさみながら、やってきた。

「なんだかメーテルみたい……」

 天音呟いたとおり、黒のコートに黒の毛皮帽にブーツといういでたちで、艦首の甲板に佇んでいる。

 艦首のそこだけが黄昏色に染まって横殴りに雪さえ降っている。俺は、広瀬中佐の戦死を知って、はるばるペテルブルグからシベリア鉄道に揺られ、大連駅のプラットホームに降り立ったアリアヅナのように思えた。

「遼寧のウレシコワさんです……」

 クレアが冷静に、しかし語尾は濁して呟いた。

「なんだか、ワケありだな」

「あんなとこ寒いよ!」

「ちょっと!」

 トシは、天音が止めるのも聞かずにブリッジを降り、艦首のウレシコワの元に駆けた。遼寧として発見した時は「放っておこうよ」と言っていたのに、訳の分からん奴だ。

「なんだか、トシ君、鉄郎みたいね」

 船霊のみかさんといっしょにミケメたちネコメイドも現れて、あっという間にウレシコワ歓迎の形ができてしまった。

「やれやれ」

 これ以上抱え込んで大丈夫かという気持ちもあったけど、この雰囲気を無下にすることもできない。

 テキサスジェーンといい、ボイジャーのクレアといい、宇宙戦艦三笠は宇宙的規模で頼られるように出来ているのかもしれない。

 

「遼寧では、つっけんどんでごめんなさい」

 

 ブリッジに着くと、以前のウレシコワと、打って変わった穏やかさで頭を下げた。

「ブリッジじゃ狭いわ、長官室でお話しましよう」

 みかさんの提案で艦尾の長官室に向かった。ウレシコワが艦内に入ってから、心なし……いや、はっきり寒い。

「ウレシコワ、どうしてこんなに寒いの?」

「ごめんなさい。たぶん、あたしの心が寒いから……」

 メーテル風の暖かそうなコートは見せかけだけではなかったようだ。

 

 長官室はスチームが効いて、そんなウレシコワをさえ包み込むような温かさになっていた。

 

「なにか、暖かいものを頂きながら、お話しましようか?」

「じゃ、わたしに作らせて」

 ミカさんの提案に、ウレシコワは全員分のボルシチ風鍋を作った。甲斐甲斐しく給仕をするウレシコワだが、どこか屈託がある。

「いつまでも、三笠にいてくれていいのよ」

 ミカさんの言葉は、クルーたちにもウレシコワにも意外だった。

「なにもかも、お見通しのようね……」

 ウレシコワは、安堵したようにオタマを置いた。

「いっしょにピレウスに行きましょう。ピレウスへの旅は、どこが勝ってもいい。どこかの国の船が、寒冷化防止装置を受け取れればいいの。これは全人類と、全ての船霊の戦いなんだから」

「わたしは、三笠に勝ってほしい。わたしもクルーとして働くわ。三笠こそ勝つべき船なのよ」

「どこが勝っても、誰が船霊でも、それは地球の勝利よ」

 そう言うと、ミカさんは、オタマを置いて所在無げなウレシコワの手を取った。

 ネコメイドたちが食後のお茶を給仕してくれる。

 そのティーカップの紅茶が微かに揺れて、三笠は増速した。


 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
  •  樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
  •  天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
  •  トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
  •  ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
  •  メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
  •  テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
  •  クレア         ボイジャーが擬人化したもの 
  •  ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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RE・かの世界この世界:002『グシャ!』

2023-02-07 07:35:25 | 時かける少女

RE・

002『グシャ!』   

 

 

 

 キャーーーーーーーーーー!!

 
 昇降口が悲鳴に満ちてドアや壁や窓ガラス、さらに階段を伝って校舎全てを震わせた! 

 標本箱の昆虫のように傘に貫かれて四つん這いの冴子。

 だけど、すぐに横倒しになって胸と口からおびただしい血を溢れさせた。それは、瞬くうちに床に広がって、近くに居た生徒たちをのけ反らせた。騒ぎは上層階や昇降口の外にまで広がり、異変に気付いた先生や警備員の気配が迫ってくる!

 どきなさい! 外へ出ろ! うっ! これは! 見るんじゃない! 救急車!

 怒声が背後で弾ける。

「ち、違う! 違うんです!」

 そこを動くな! 凶器は!?

「ち、ちが! 違うんです!」

 来んな! 動くな!

「だから、ちが……!」

 あとが続かず、腰を浮かせたかと思うと、勝手に足が動き、動いた先の人波が開いて、わたしは逃げる。

 逃げたって、起きてしまった惨事が戻るわけでもなく逃げ切れるわけでもない、逃げてもなにも解決しない、そうなんだけども目の前の恐怖から逃げようという慄きが、突き飛ばすように、わたしを前に押しやる。

 待ちなさい寺井! 

 冷静さを取り戻した先生の叫び。停まるわけがない、足はもつれながらも速度を増す。

 正門方向に走るが、恐怖と憎悪の混ざった視線が突き刺さって方向転換、植え込みを超えて中庭へ。

 逃げるな! 停まれ! 停まりなさい!

 中庭に面する校舎の廊下と、正門の方角から先生たちの怒声。

 まっすぐ行けば外界と分かつ三メートルあまりの塀、左は獄卒と化した先生や警備員たちが植え込みや花壇を乗り越えて迫りつつある。

 どこへ、どこへ逃げたら!?

 
 右手の旧館に飛び込む。

 
 なんの考えもない。追い詰められた動物が、ただただ逃げ場を求めているだけだ。

 跳び込んだまま廊下を突き進む。

 入学して間もなく冴子と探検に来た。異世界系ラノベやアニメ大好きのわたしたちには、大正時代からそのままという旧館は絶好のロケーションだった。

 設備上教室として使えない旧館は倉庫の他、わずかに部室として使われている。数年前に部室棟が出来てからは、多くのクラブがそっちに移り、今はほとんど残っていない。数年先には取り壊しの予定になっている。照明がきれて、人気のない廊下は北欧神話のグニパヘリルの洞窟のよう、記紀神話が好きな冴子はイザナギが妻のイザナミを訪ねた黄泉の国の洞窟のようだと面白がっていた。

 だめだ、廊下の先は行きどまり!

 探検した時の記憶が弾け、身を翻して階段を駆け上がる。

 むろん上がった先には屋上があるきりで逃げ場はない。

 
 バーーーン!

 
 階段室のドアに体当たりして開ける。

 三歩も進めば屋上の淵だ。

 足許に古いケーブルがわだかまっている。

 解体の準備作業にでも使うんだろうか、そいつを拾うと観音開きのドアノブをグルグルに巻く。

 何秒か、何分かは時間が稼げる。

 
 開けろ! そこに居るのは分かってる! 寺井! 開けろ! 開けなさい!

 
 稼いだ分、心がさいなまれるだけ。体どころか思考までブルブルと震え出す。

 もう、永遠に逃げるしかない。

 屋上の淵に立ち、飛び降りて十六年の人生と共に、この状況を終わらせるしかないと思う。

 わたしはプールでも飛び込みが出来ない。

 でも、足から飛び降りればスカートがお猪口になった傘のように翻り、みっともないことこの上ない。

 
 できるかなあ、頭からの飛び込み……。

 
 中学で水泳部だった冴子、その冴子の美しい飛び込みのフォームを思い浮かべる。

 息を整えて三つ数えるんだよ。

 そう教えてもらったけど、一度も出来なかった。

 

 1……2……3……GO!

 

 フワリ

 

 一瞬、イカロスになったような浮遊感。次に、ムスカの飛行船から墜ちていくシータのイメージ。

 できた! 

 頭が下になってるよ、冴子……あ、わたしが殺したんだ。でも、殺すつもりじゃなかったんだよ。

 十六年の人生が動画の百倍速みたいに流れて行くよ……

 

 グシャ!

 

 頭蓋骨が砕ける音がした……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
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