大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・008『キャリーバッグ』

2023-02-19 14:11:57 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

008『キャリーバッグ』   

 

 

 えーー! 付いて来てくれるんじゃないの!?

 

 脳みそを経由しないで文句が口を突く。

 今日は諸々の書類提出やら手続き。でもって、教科書販売と制服の受け渡し!

 荷物がハンパない! 学校でも―― 保護者同伴が望ましい ――って言ってたし、とうぜんお祖母ちゃんが付いて来てくれると思ってた!

「1970年だって特務はいるんだよ、まだまだ様子も分からないし、ウカウカ行くわけにはいかないわよ」

「ト、トクム……」

 そうなんだ。

 お祖母ちゃんは特務ってとこに務めてたベテランの魔法少女だった。

 内勤ばっかりで、アップグレードもろくにやってない型落ちだけど、みなし公務員のMS(魔法少女)だった。

 警察よりも自衛隊よりも公安よりも内閣調査室よりもベールに包まれた秘密組織で、その存在は例え総理大臣でもボンクラな奴には知らされないという危ない組織。たぶん、いまの総理大臣は知らされてない。

 単に政府や国の危ない仕事をやるだけじゃなくて、時空を超えた任務とかもあるようで、わたしが昔の宮之森に通えるのも、そういうMSの技で、大っぴらにできることじゃないんだろう。

「じゃ、式神貸してよ。離任式で酔っ払った時、お祖母ちゃん背負って送ってくれたイケメンとかさ」

「引退したMSが、そんなの使えないよ」

「ち」

「女の子が舌打ちなんかするんじゃありません」

「だってぇ」

「じゃ、わたしのキャリーバッグ貸してやろう」

「ええ……あのババキャリー(=△=)」

 

 というわけで、軽くて頑丈なだけが取り柄の婆さんキャリーを引いて学校に行くことになった。

 

 花のJK(まだ入学式もやってないけど)のババキャリーって目立つんだよ、みんなチラチラ見てるし。

 仕方がないので、駅二つ分だし、外の景色を見てる。

 やっぱ半世紀以上昔の街なんで、高い建物が少なくて、民家も、せいぜい瓦屋根の二階建て。三階建て以上はみんな鉄筋コンクリート。走ってる車は令和とあんまり変わらない。っていうか、車の事なんか分からないんだけど……え、三輪自動車? 小さいのはごくごくたまに「何年動かしてねーんだ!」的状態で放置してあるけど、いま、電車と並行の道を走ってるのは普通のトラックなのに三輪。バイクやスクーターとかも走ってるけど、原チャでなくてカブ? そんなやつ。で、違和感ありありなのが、みんなノーヘル。衝突とか転倒したら、ぜったい頭打って、血がドバドバ出て死んじゃうよ。

 女の人、ミニスカ多すぎ。それも、タイトで膝上って云うより股下何センチってしろもの。痴漢増えそう。

 え、なんだあれ?

 茶筒型の大きなタンクが檻に閉じ込められてる。檻はタンクよりも高くて、ちょっとやそっとでは逃げられません的。

 タンクのてっぺんは微妙に膨らんでいて―― 今に見ていろ、ぜったい逃げてやる! ――的な、なにか芸術のオブジェ? それとも宗教施設?

 何か足りない……あ、宮之森城が見えない! いや、無い!

 そうか、社会見学に行った時「これは復興天守と言って……」と先生が言ってたっけ……まだ復興されてないんだ。

 この時代のランドマークは宮之森城じゃなくて『囚われのタンク』なんだ。

 

 二駅だけのサイトシーングはあっという間に終わって学校へ。

 キョロキョロしていては送れるし、人目も気になるのでサッサと早歩き、前の半分くらいの時間で正門を潜る。

 

「うわあ、それってスチュワーデスのキャリーバッグじゃないですか(◎△◎)!」

 

 見覚えのある女子が突撃してきた!

  

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

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宇宙戦艦三笠30[グリンヘルドの遭難船・3]

2023-02-19 09:34:34 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

30[グリンヘルドの遭難船・3] クレア  

 

 

 エネルギーを注いであげると、エルマは話を続けた。


「……グリンヘルドの人口は200億を超えて久しいのです」

 その一言は衝撃的だった。グリンヘルドもシュトルハーヘンも地球型の惑星で、大きさも大陸の面積も地球とほぼ変わらないことが分かっている。

 ……とすれば、惑星としてのキャパは80億ほどが限界で、惑星全体として手を打たなければならないのは容易に想像がつく。

「そこまで文明が発達しているのに、どうして人口の抑制を考えなかったんだ」

 修一艦長は当たり前な質問をした。

 わたしがボイジャーとして宇宙に出たころの地球は、まだ60憶ほど。現在は80億を目前に、人口の抑制を考え始め、その成果も出始めている。

「その文明の発達が災いなんです。増えた人口は他の惑星に移住させればいい。なまじ文明が進んでいるので、古くから、そう考えられてきました」

「それで、地球に目を付けたんですか」

 樟葉が冷静に聞いた。

「ええ、皮肉ですが、地球の『宇宙戦艦ヤマト』がヒントになってしまいました」


「ヤマトが?」


「あれを受信して、地球の存在を知ると同時に、グリンヘルドとシュトルハーヘンの連合軍なら、デスラーのようなミスはしないと確信しました。上手い具合に地球人はエコ利権から、地球温暖化を信じ、数十年後に迫った寒冷化に目が向いていません。放っておいても地球の人類は100年ももちません。ところが、わがグリンヘルドもシュトルハーヘンも、もはや人口爆発に耐えられないところまできてしまいました。だから前倒しで地球人類の滅亡に乗り出したんです。もう地球には数千人の工作員を送っています。地球温暖化を信じさせるために。わたしの役割は、地球移送のための航路を開くことでした」

「あの……エルマさんは、なんで、そんな機密事項を、あたしたちに教えてくれるんですか」

 樟葉は冷静だ、エルマの話の核心をついてきた。

「わたしたちの考え方は間違っていると思うようになってきたのです。温暖化を妄信している地球も救いがたい馬鹿ですが、他の惑星の人類を滅ぼして移住しようとするのは、もっと馬鹿です、間違っています。わたしたちは、科学的に思考を共有できるところまで文明が発達しています。でも、その思考共有は惑星間戦争の戦闘時の軍人にしか許されません。そして、知ったんです。テキサスとの戦闘で……」

 エルマの目が深い悲しみ色に変わった。

「いったい何を?」

「弟は、工作員として地球に送り込まれていました。温暖化のことだけに関わっていればいいはずなのに、あの子は関係のない戦争に参加して命を落としました。その情報が戦闘中の思考共有で伝わってきました。それまで、軍は弟の名でメールを送ってきていました。わたしが怪しまないために。その後暗黒星団の監視に回され、生命維持装置がもたなくなり、救難信号を発し続けましたが、グリンヘルドは無視しました」

「そこまで、グリンヘルドは無慈悲なのか……」

「グリンヘルドは、一本の大きな木なんです……そしてわたしは枯れかけた一枚の葉っぱ。枯れた葉は、そのまま散っていくのが定めです。木は、枯れ落ちていく葉っぱに愛情など持ちません。グリンヘルドの摂理です」

「そんなこと……」

「来るわ」

 不器用なわたしは、残ったもう一隻のロボット船に目を向けた。

「さような……」

 プシュ

 エルマがお別れの言葉を言い切る前に、ロボット船は一条のビームになってエルマの体を蒸発させた。直後、ロボット船は消えてなくなり、エルマの痕跡はシートに残った人型の窪み。それも、三人が驚いている数秒間で戻ってしまった。

「なんてことだ……」

 修一が呟いて、樟葉とトシは言葉も無かった。

 わたしには分かった。あのロボット船は、最後の力を振り絞ってエルマを弔ってやったんだ。

 きれいなままで残ったエルマをきれいなままで逝かせてやるために。

 わたしもボイジャーとして、ずっと宇宙を漂っていたから、機能を停止して……いわば死んだまま宇宙を漂うのは怖かったもの。

 でも、三人には話してやらない。時間をかけて、少しずつ分かっていけばいい。

 わたしは、記録と分析は得意だけども、お話するのは苦手だしね。

 

「監視船への照準完了」

「出力は50で」

「あんな船一隻なら10で十分だぞ」

 砲術長の天音が異を唱える。

「跡形も残したくないんだ」

「分かった、出力50……設定完了」


「テーッ!」

 

 三笠の光子砲は、エルマの船を完全に消滅させた。

 言わなくても、修一には通じるものがあったのかもしれない。

 


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・かの世界この世界:014『あ あれ?』

2023-02-19 07:35:42 | 時かける少女

RE・

014『あ あれ?』   

 

 

 ……戻って来たのかと思った。

 

 だって、同じ鳥居の前だよ。

 時間は……たぶん昼? 

 鳥居も自分の影も真下にある。

 ……爽やか……南中したお日様に猛々しさはない、お日様を直に見ることなんてできないけど、イメージとしてはニコニコと穏やかに笑っている感じ。

 これは春か秋?

 社務所に戻って聞いてみれば、現在(いま)がいつなのか分かる……でも、なにか憚られる。

 もう少し観察してからでないと、うかつには動けないという気がする。

 

 鳥居の陰から周囲を観察。

 

 神社の前には昔からのお屋敷街、見慣れた百坪や五十坪ほどが落ち着いたたたずまいで並んでいる。

 五月か十月ごろの鳥居の前……てことは学校行かなきゃ……でも日曜で休みとか?

 スマホでカレンダーを見ようと思った……え、このポシェット?

 いつものリュックじゃなかった。肩から斜めに下げたポシェットと言っていい小ぶりのバッグ。

 一瞬ためらったけど、自分が下げているんだから自分のだろう。

 あれ?

 ざっくりワンピにちょっとルーズなカーディガン……自分のじゃない。

 ドキッとして顔を触る。

 ほんとは鏡で見た方がいいんだろうけど、とりあえず触った感触は自分だ。

 ポシェットを探ってみると、財布とハンカチとティッシュにもろもろ……スマホが無い。

 
 スマホが無いと、こんなに不安なものだとは思わなかった。

 
 落ち着け光子……家に戻ろうか? いや、もうちょっと考えた方がいい。

 チラチラと周囲に目を向ける。

 ちょっと違和感…………道路の両脇を走っている電線が頼りない…………あ、光ケーブルが無い!

 子どものころ、電線に並行して走っている黒いらせん状が気になってお父さんに聞いたことがある。

―― ああ、あれは光ケーブルだ。家のパソコンに繋がってるんだよ ――

 そう教えてもらって、ひどく感心したことがある。

 
 ひょっとして昔にもどった?

 
 財布の中を確かめる、一万円札が二枚に千円札が……あれ? 夏目漱石だったっけ?

 カードとかも変だ、なにこれ……テレホンカード?

 
 落ち着け。

 
 もう一度周囲を観察……振り返って神社の境内。

 あ、あれ?

 拝殿の脇にはポールがあって日の丸が掛かっているんだけど、その日の丸がおかしい。

 風にゆったり翻ったそれは、赤地に白丸……!?      

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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