大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・145『強襲』

2023-02-08 13:48:12 | 小説4

・145

『強襲』  

 

 

 チルル空港制圧隊長の胡盛徳大佐は戸惑った。

 

 戸惑いは二つだ。

 A4ガンシップ隊による対地攻撃のあと、二個大隊で強行着陸と空挺部隊による降下。待ち構えていた空港守備隊との戦闘に突入した。

 連隊の全兵員による奇襲は海と空から行われた。空海共に二個大隊。北部攻撃部隊と合わせると一個旅団の兵力だ。

 23世紀の今日でも、二個大隊1000人の空挺部隊の展開には10分はかかる。もたついていては、存外な被害を被る。

 ガンシップ隊による対地攻撃では、まともに反撃されることは無かった。反撃すれば居所が知れてしまい、強烈な航空攻撃が加えられ被害を大きくするからだ。事実、自動で反撃してきた対空ミサイル、レーザー砲の大半を第二撃を放つ前に沈黙せしめ、当方の被害は二機の被撃墜、四機の中破に留まっている。

 警戒しながらの強行着陸も空挺降下も反撃らしい反撃を受けずに、演習のような穏やかさで実施することができた。

 二百数十年前の硫黄島の戦いに似ている。

 胡大佐の電脳部分が三秒で硫黄島の戦史、戦闘詳報を吟味し、人工衛星を通じて軍のコンピューターにも紹介。五秒後には、本日いっぱいの戦闘・戦術計画が立てられ、瞬時に全兵員に共有された。

 硫黄島の戦いでは、米軍は上陸直後には反撃らしい反撃を受けなかったが、島の内部に入るにしたがって、強烈でしたたかなゲリラ攻撃を受け、多大の損害を被ることになった。

 この戦いでも、敵は島のあちこちに坑道をめぐらし、ゲリラ的な攻撃を仕掛けてくるに違いない。島は、元来はパルス鉱の島で。採掘の為に無数の坑道が走っている。同様なことは、沖縄戦でも行われ、米軍は大戦を通じてただ一人の将官の戦死者を出している。

 これは封じ込めるに限る。

 坑道の七割は日ごろの調査で分かっている。若干名のスパイもリクルートしてある。

 空や宇宙からの偵察資料もある。付き合わせれば、おおよその敵の集結地、攻撃ルートは把握できる。

 全滅させる必要はない。押さえさえしておけば、後のことは沖の司令部が判断する。

 島北部の国際空港にも二個大隊が同様の攻撃を加えている。この南部の攻撃と合わせ、有利な方に増援を加え、一気に西之島全体を制圧占領する。残った一方は占領地の確保と牽制に務め、積極的な攻勢には出ない。

 つまり、大規模な強行偵察、あるいは陽動と言っていい作戦なのだ。

 攻撃している側が、自分は主力なのか陽動なのかの自覚が無い。防御する側が分かるはずも無く、敵は、いつまでも戦力を二分したままにせざるを得ず。やがて、弱った方から撃滅される。

 自分のような中級指揮官の立場からでも、この戦いは三日。長くても五日あれば片が付く。伝説の指揮官劉宏将軍(133回 134回『日漢秘密会談』参照)なら、一日で片付くかもしれない。

 惜しい、あの劉宏将軍が大統領などという世俗にまみれず、作戦指揮をとっていただけたらと夢想するほど、基本的に楽勝の特別軍事行動だった。

 それが、作戦開始から二時間になろうというのに、司令部からの判断が下らない。

 まず、このことに戸惑った。

 

 次に戸惑った、いや、驚愕したのは敵の攻撃だ。

 

 敵の大半は滑走路の真下に居た。

 そう、真下も真下、強行着陸した兵員輸送機の真下から湧き出てきた。

 ドン!

 輸送機がグッと持ち上がったかと思うと、滑走路が爆ぜて穴になって輸送機を呑み込んでしまう。

 そして、爆ぜたひび割れの端に、次々に小爆発がおこり、小爆発の穴やひび割れから古典ホラー映画のようにズタボロのゾンビ、いや、ロボットたちが現れた。

 ロボットたちは、爆発によって生体組織が棄損されて見るも無残な姿なのだが、我が方の兵が集まっていると見るや、全力疾走で駆けてきて、爆発していく!

 ロボットというものは、特有のアルゴリズムを持っていて、並列化した情報を元に行動する。人間もハンベによって得られた情報や指示、命令で動くものだが、ロボットのように瞬時の並列化はできない。

 並のロボットなら、こちらもロボット。その並列化したネットワークにアクセスし、比較的に容易く攻撃目標や攻撃ルートを暴露し、短時間のうちに撃破できる。

―― 大隊長! 敵のアルゴリズムが読めません! ――

―― スタンドアローン!? ――

―― 敵は並列化していません! ――

 兵たちは悲鳴のような報告をあげながら、次々に敵ロボット部隊の自爆に巻き込まれていく。

 並列化を解いたロボットは再生できない。

 ロボットというものは、たとえ全損しても電脳のメモリーが健全なら、新たなボディーに移し替えてやれば元に戻る。

 電脳もクラッシュしてしまうような損害でも、リアルタイムでサーバーにリンクしていれば復元は出来る。

―― 大隊長、敵は言語と手話で意思疎通しています ――

―― 言語はなんだ? ――

―― 分かりません! 我が方の言語ライブラリーには無い言語……ウワア! ――

 並列化を解けば連携した戦闘は出来ない。連携なしの戦闘なんて、短時間なら混乱を呼べるが、人もロボットも思考や行動には必ず型ができる。多少の犠牲は出るが、こちらは完全に並列化して情報を共有している。

 じっさい、混乱が収まり、反撃に出ている兵もいる。

 所詮は、追い詰められた者の悪あがき、殲滅は時間の問題だ。

―― 8分 ――

 敵殲滅までの時間が浮かび上がる。ここまでの戦闘を解析して予想される必要時間。

―― 7分 ――

 こちらが全滅するまでの時間。

 サーバーを探ると、北部国際空港を襲撃した部隊も似たような状況。

 インタフェイスに黄色のシグナルが点滅。

 司令部は、次の攻撃の有用性を試算し始めた。

 予備のボディーにインストールしてくれ、次は勝てる!

 ボン!

 衝撃と爆発音がして、意識が無くなった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

 

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宇宙戦艦三笠21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]

2023-02-08 08:47:47 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]   

 

 


 暗黒星団とは、真っ黒、あるいは真っ暗な星団と言う意味ではない。

 前世紀末に発見されて以来、地球や地球の周回軌道にある電波望遠鏡で観察はされている。

 発見者は中国の安告正(アンコウチャン)。しかし、これといった発見や生命反応のある星が確認されたことが無い。安告正は真面目で清廉な学者であったので、観察に予断を交えることもなく、親が名付けた名前の通り、学会の中では正しきを告げる人で、学者としては不遇のうちに亡くなった。

 告正の死後、注目する学者も減って、面白みのない星団との評価が定着し、研究や観察を続けても宇宙物理学者としての名声が上がったり将来が明るくなる見通しが無いということで、いつしか発見者の安告正をもじって『暗黒星団』と呼ばれるようになった。

 逆に言うと、通り一遍の調査しかなされたことが無く『実際に行ってみれば、なにが飛び出してくるか分からない星団』と、SFやアニメの分野で想像力を逞しくする者もいたが、なんでも逆説やどんでん返しでしかストーリーを組み立てられない貧困クリエーターの戯言と揶揄された。

 まあ、宇宙戦艦ヤマトやガンダムでしか宇宙に飛び出せないリアルでは仕方のないことだがな。


「他の国の船は、この星団を迂回しています」

 アナライザーのクレアが、航跡の残像を検知して、そう言った。

「ここを通らなきゃ、他の船に追いつけないからな」

 みんなの覚悟を促すように腕を組む。皆は、無言をもって賛同の意を示してくれる。

 ピピピ

 受信のシグナルが鳴って、モニターにメッセージが浮かぶ。

 な、なんだこれは!?

 惑星ロンリネスから微弱ながら「歓迎」の信号が送られてきたのだ。

 ロンリネスの存在については、そのスケールと軌道は知れていたが、それ以外は影絵を見るように分からなかった。

 つまりはシルエットしか分からなくて、どうせ暗黒星団。生命反応はおろか、大気さえ無いだろうと決めつけていた不毛の惑星だ。

 星団の周囲には、いくつか宇宙船の航跡残滓が見られたが、全て、勢い余ってかすめた程度のもので、星団内部に入り込んだものは無かった。

 間もなく三笠は暗黒星団に突入。入り込むとレーダーもソナーも感度を取り戻し、クレアがせわしくアナライズし始める。

 調べてみると、自転速度は遅く、仮に地球方向から星団に突入しても荒涼とした月面のような半球しか見えていなかったことが分かった。

 世の中には、近づいてみなければ分からないことがある、ということを実感した。

「こんな面を隠していたのか!?」

「見えていなかった半分は地球型です」

「そんなことがあり得るのか?」

 ドリフターズかなにかのコントに、体の前はちゃんと服を着ているのに、後姿は丸裸というのがあった。惑星全体でコントをやっているのか、めっぽう恥ずかしがり屋の惑星なのか。

「地球の1/3程の生命反応があります。寄ってみます?」

 クレアが背中で尋ねる。

「儀礼的に一日だけ立ち寄るか」

「地球に似すぎているのが気になる……」

 ウレシコワ一人が慎重だったが、他のメンバーは、平均的日本人らしいというか、しょせん高校生というか、流れのままに招待を受けることにした。

 地球ソックリの半球は七割の海と三割の陸地でできていて、ちょうど恒星からの光を斜めに受けているせいか、ほんのり恥じらっているようにも見える。

 東西に大陸というか、月面めいた裏側の端っこが見えていて、中央の海には、地球のどこかにありそうな島々が浮かんでいる。

 その中の一つが、関東地方だけをデフォルメした日本列島のような形をしていて、東京湾を思わせるところから電波が発せられている。

 ピピピ ピピ ピピピピ

 寄港地はヨコスカを指定された。着水して近づくと、それは見れば見るほど横須賀に似ていた。

「懐かしいね、島のあそこだけが横須賀にそっくり」

「他の地域は?」

 樟葉が、当然のように聞いた。

「日本のような街が、あちこちに……ただ……」

 クレアの濁した言葉に全員が注目した。

「サーチの結果が出るのに、0・05秒タイムラグがあります」

「原因は?」

「弱いバリアーか……この星の磁場の影響か……三笠からでは確認できないわ」

「ま、とにかく存在するんだから寄るだけ寄ろう。天音、礼砲の用意だ!」

「了解」

 三笠は、21発の礼砲を撃ちながら、ヨコスカに入港した。

 港は横須賀にそっくりだった。港を出入りする船、アメリカ第七艦隊に自衛隊の横須賀基地。三笠公園にある三笠までそっくりだ。

 桟橋には、自衛隊とアメリカ海軍の音楽隊が軍艦マーチとアンカーアウェイの演奏で出迎えてくれた。

 市長、自衛隊、第七艦隊の挨拶を受けたあと、留守番にクレアを残して、全員が、横須賀ホテルに向かった。

「横須賀の街にそっくりなんですけど、ひょっとして、僕たちと同じ人間がいたりするんでしょうか?」

「さあ、どうでしょう。広い意味では地球とパラレルな世界ですが、なにもかもというわけではないと……まあ、ご自分の目で確かめてください」

 出迎えの市長は、にこやかな顔で応えた。

 望み薄だと思った。市長もミスヨコスカも自分たちの世界とは違う人物だったしな。

「ロシアの人は来ないんですか?」

 ウレシコワが淡い期待を込めて聞いた。

「あなたはロシアの方ですか?」

「今はウクライナになっていますが」

「それはそれは、さっそくロシア領事館にお知らせしておきます」

「お聞きになるならウクライナ大使館です」

「え、ああ……」

 市長が助役に耳打ちすると「早急に用意します」と返事するのが聞こえた。

 耳に掛けた骨伝導イヤホンから『ウクライナ大使館が出現しました』とクレアから連絡が入った。

 昼食会のあと、リムジンで、ヨコスカの街を見て回った。

「桜木町駅が昔のままよ……」

 樟葉が呟いた。

「まるで、『コクリコ坂』の時代だな」

 さすがにオリンピックのポスターなどは無かったが、あきらかに20年以上昔の横浜・横須賀の姿だった。

「あたし、自分ち見てくる!」

 天音がたまらなくなってリムジンを降りた。もし20年前のヨコスカなら中東で亡くなったお父さんが生きているだろうからな。


 学校の横を通ってもらった。古い校舎などはそのままで、十分自分たちの学校と言えたが、違和感を感じ、そのまま素通りした。

 ドブ板横丁は、昔の賑やかさがそのままで、アメセコの店などが繁盛していた。

「お父さんがいた……」

 ホテルに帰ると、天音が目を赤くして、ラウンジのソファーに掛けていた。

「会えたのか!?」

 意外だった。日本列島の形もいい加減だったしクリミア大使館も大慌てで用意したみたいだし、そこまでそっくりだとは思わなかったからだ。

「20年前のお父さんとお母さん。あたし知らないふりして道なんか聞いちゃった。娘だなんて言えないもんね……だって、あたしが生まれる前の時代っぽかったもの」

 樟葉も、ブンケンらしく、夕方までトシと二人でヨコスカの街を見て回った。

「ブンケンに残ってた資料そのままの横須賀だったわ」

「多分、20年遅れの地球と同じパラレルワールドじゃないっすかね!?」

 トシも喜んだ。

 三笠に残したクレアに交代しようかと連絡した。

「20年前なら、もう、あたしは打ち上げられていた。だからいいわよ」

 と答えが返ってきた。

 市長の提案で、あくる日はトウキョウに行ってみることになった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
  •  樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
  •  天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
  •  トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
  •  ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
  •  メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
  •  テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
  •  クレア         ボイジャーが擬人化したもの 
  •  ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
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RE・かの世界この世界:003『かの世部』

2023-02-08 06:59:19 | 時かける少女

RE・

003『かの世部』   

 

 

 ぼんやりと天井が見えた。

 
 和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の優しい感触。

 自分の部屋で目覚めた感覚……悪い夢を見たんだ……でも、よかったぁ、夢だったんだ。

 ……いけない、起きなきゃ遅刻する!

 人の気配、お母さんに起こされるのは癪だ。

 

「目が覚めたようですね」

 

 え……お母さんじゃない?

 仰向きの視界に入って来たのは、見慣れないセミロング、制服の襟には一つ上の学年章……三年生?

「よかったな、パニックにならないで」

 もう一人の声……目だけ動かすとポニテの三年生。

「あ、あ、あの、わたし……」

「大丈夫みたいだな、起こそうか?」

「え…………」

「「……うんしょ」」

 返事をする前に起こされる。

「すみませ……!?」

 

 起こしてもらって視界に入ったのは、枕もとに血が滲んで無残に破れた制服。

「痛い……」

 同時に胸から顎にかけての痛みが走る。

 これは……冴子の爪にやられた傷……破れた制服……追い詰められて屋上から飛び降りたはず?

「ごめんなさいね、事件が起きる前までは戻せなくって」

「旧館に飛び込んで、廊下を突っ切るか、屋上に行くかで迷ったろ?」

 たしかに、廊下の先は行き止まりだと気づいて屋上に向かったんだ。

 でも……。

「時間を巻き戻して、あなたが廊下を突っ切るという選択肢にいたしましたの」

「廊下の突き当り、一つ手前が、この『かの世部』への入り口になってるんだ」

「めっぽう分かりにくいんですけども、あなたは、うまく気づいて飛び込んできてくれましたのよ」

「おまえは、勘がいい」

 

 え? え? えーーーー!?

 

 事態をよく呑み込めない、でも、でも、冴子を殺してしまったことが現実であることに激しく動揺してしまう。

「そう、心配ですよねぇ。まだ事件は起こったままなんですから」

 二人の先輩は、痛ましそうに眉根を寄せる。

「でもね、ここからは、寺井さん、あなた自身の力でやってみなきゃならないんですの」

「や、やるって……?」

 ポニテ先輩の顔が寄って来る。

「もう少し時間を巻き戻して、事件の原因を取り除きに行かなきゃならない。寺井光子、あんた自身の力でな」

「でも、そのためには『かの世部』に入ってもらわなきゃなりませんのよ」

「とりあえず仮入部でいいから、美空、書類を」

「ほうら、ここにクラスと氏名を書いていただけます?」

 え? え? 訳わかんないよ?

「ええとね、わたし達『かの世部』の部員でして、わたくしが部長の中臣美空(なかとみみそら)、ポニテールのほうが副部長の志村時美(しむらときみ)ですの、よろしくね光子さん(^o^)」

 

 ドタドタドタ……ドタドタドタ……

 

 天井の斜め上あたりで何人もの人がイライラと駆け回る音がした。

「先生たち戻って来たみたいだぞ」

「「急いで!」」

「は、はい」

 慌てて入部届にサインした。

 
 とたんに光が溢れて目を開けていられなくなった……。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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