大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 108『御山に登る』

2023-02-16 14:22:34 | ノベル2

ら 信長転生記

108『御山に登る』信長 

 

 

 ユッサ ユッサ ユッサ……

 

 腰の運びが小気味い。

 久々に太刀を佩いて山道を跋渉する。

 山路の緑鮮やかにして、渓流の流れ我が心を洗わんとす、飛鳥山峡に鳴くは警蹕の声に似て、悠久の時を我に感得せしめ、もって、その天命を知らしめるが如し……フ、言葉までが昔に戻りかけている。

 これが本来の姿とはいえ、熱田大神、いや、あっちゃんは寡黙に過ぎる。

 

 ゆうべ、俺の部屋のドアを叩いたあっちゃんは、いつになくシリアスだった。

 

「なんだ、ご飯会はこれからが本番だろう」

「少しだけ真剣な話があるのよ」

「なんだ、そんなマジな顔をすると、まるで神さまのようだぞ」

「…………」

 ジョークに付き合う風もなく、立ったまま間合いを詰めてきた。まるで、本能寺で首になって初めて会った時のような圧を感じる。

 あの時は、見下ろしながらも町娘のような匂いがあって、直ぐに馴染んでしまったが、今のあっちゃんは文字通り熱田大神のままだ。

「茶姫のことなんだけど、このままじゃダメだと思う」

「ダメなのか?」

「学院も学園も、いずれは転生する者ばかり。いわば、前世の悔いや失敗で傷んだ心を癒し、力を養って、来たるべき来世に備えるところよ」

「で、あるな」

「茶姫は、この世界の三国志での務めがある」

「三国志の人間は転生してきているのではないのか?」

「そうだと思うけど、前世の欲を生のまま持ってきている。扶桑のように自分を磨こうというよりは、前世のまま支配、征服することに執着する者が多い」

 そうだ、曹操などは三国どころか、潜在的には、この扶桑の国にまで食指を伸ばそうとしている節がある。

「どうすればいい?」

「分からない」

「分からんのか」

「わたしの本性は草薙剣。本朝においては最も尊い剣だけども、そもそもは天照大神が剣の形で権(かり)に現れたもの」

「それは知っている。ただの思い付きで桶狭間の先勝祈願ははやらん」

「そう。だから、分からない先を知るためには、元々の天照大神であるわたしに合わなければならないのよ」

「どこに行けば会える?」

「あそこよ」

 そう言って、あっちゃんは窓の向こう、転生してから一度も脚を向けたことが無い御山を指さした。

 

「サルのように喋り散らすのも疎ましいが、無言というのもつまらんな……」

 

 あっちゃんは、本来の剣の姿になって腰に収まっている。

 直刀の草薙剣ではおさまりが悪いと思ったが、天下一の神刀、佩き心地がとてもいい。

 鳥居を潜り、二百段はあろうかという石段は中ほどでくの字に曲がり、曲がって上り切った石畳を進んだところで目に見えないこんにゃくのようなものにぶつかった。

 ムニュ

「な、なんだ?」

『結界よ』

「喋れるのか?」

『神域に近づいたから。二礼二拍手一礼すれば通れる』

「分かった……」

 最後の一礼をすると、見た目には変わらないが、目の前に立ちふさがれる圧迫感が無くなり、清々とした気が満ちてきた。

『進んで』

「うん」

 石畳を進むと、さらに石段で、そこを抜けると社が……無かった。

「おや?」

 百坪ほどの清げな芝があって、芝の真ん中に人の頭ほどの石が鎮座している。

『見覚えがあるでしょ?』

「ボンサンか?」

『フフ』

 それは、俺が安土の天守に置いて、城を訪れる偉そうなやつらに拝跪させたボンサンという石そのものだ。

『わたしを石の前に置いて拝跪して』

「俺がか?」

『是非に及ばず』

「真似をしおって……」

 ちょっと嵌められた気がしないでもなかったが、幼いころの市の悪戯に付き合うような感じがして、我ながら素直に拝跪した。

『素直でよろしい、顔を上げて』

「ああ……」

 

 顔をあげると、あっちゃんのお姉さんという感じの巫女服が立っていた。

 なぜか、俺の好きなバニラの香りがしたぞ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

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宇宙戦艦三笠28[グリンヘルドの遭難船・1]

2023-02-16 07:43:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

28[グリンヘルドの遭難船・1] 樟葉  

 

 


 ―― 国境の長いトンネルを過ぎると、雪国だった。宇宙の底が白くなった ――


 変なフレーズを口づさんで苦笑してしまった。


「なんだ?」


 艦長席の修一が目だけ向けて聞いてきた。

「ううん、こんな穏やかな宙域に出て、思わず出た感想。でも川端康成の借り物なんで、笑っちゃった」


「雪国か……おれ読んだことないよ」

「わたしは……」「ボクは……」「わっきゃ……」


 星団を抜けてホッとしたのか、わたしの独り言に応えてくれるんだけど、ほとんど同じ。

 元ボイジャーのクレアは、タイトルだけは知っていた。ボイジャーとして打ち上げられたときに、世界文学の中で、ただ一つ入っていた日本小説が、この『雪国』だったんだって。

「素敵な書き出しですね。雪国の前に『そこは』なんて、余計な言葉を入れてないところがいいですね」

「うん、模試で出た問題が、その『そこは』の有り無しの二択だった。たいていの人は『そこは』って無駄な言葉を付けて覚えてる。文章にぜい肉が付いちゃうし、直ぐ後に『夜の底』で同じ音が出てくるからありえない」

「すごいなあ、文学への愛を感じるぞ」

 天音が素直に感心した。

「修一よりはね。あたしんちブルジョアじゃないから、奨学金で進学すんだ。ある程度の成績でなきゃ奨学金取れないからね」

「オレんちも似たり寄ったりだけど、勉強はしてねえ」

「修一は、それでいい。あんまり先のことを心配してると、人生小さくまとまってしまうからな……」

「なんだか、妙に優しいんだな、樟葉」

「この宙域のせいかな……ピーススペースって、まんまだけど、ほんとに穏やかなとこだな、レイマ」

「ピレウスが付げだのよ。暗黒星団の者はめったに星団の外には出でいがね。出だっきゃ秘密の暗黒星雲でなぐなってまるはんでね。こぃがらの宙域は、みんなピレウス付げだ名前だよ……まだ、グリンヘルドもシュトルハーヘンも大人すくてあったごろのね」

 しばらく穏やかな沈黙が続いた。


 そう……暗黒星団を抜けると、ピースペ-スだったのさ。


 ウレシコワが自分で作ったサモワールで、お茶を配っているときに思わず呟いてしまった。

 その時、コスモレーダーに微かな反応。

「前方0・5パーセクに三隻のクルーザー……エネルギー反応微弱。遭難船の可能性大」

「ぼくも、捉えた。グリンヘルドの哨戒艦の様子」

 トシが、穏やかにつづけた。ナンノ・ヨーダの訓練の賜物か、みんな、普段の任務もテキパキこなせて、艦内生活も穏やかになってきた。

「レーダーを映像に切り替え、拡大」

「ラジャー」

 修一の指示で1000倍の映像にする。

 おお……

 グリンヘルドの三隻は立体としては全く無駄のない球体をしていた。

 なんだか作りかけの雪だるまが放置されているようにも見えた。

 解析すると、意外にも新鋭艦。二隻はロボット艦で、残り一隻に生命反応がある。

―― 危害は加えない。遭難しているのなら救助に向かう。乗船してよろしいか ――

 そう通信を送ると「救助を要請する」と穏やかな女性の声で返ってきた。


 グリンヘルドのクルーザーには、修一とわたしだけで乗り込む。ロボット艦への警戒も緩められないからだ。


 全き球体のどこに入り口があるのか戸惑ったけど、近づくと一点が仄かに光り、近づくと、円形に口が開いた。

 二重の隔壁を通ると、ホログラムの艦内案内図が点滅してブリッジへのルートを示してくれる。

 そして……。

 金魚鉢のようなブリッジに入るとシートをほとんど水平にして、女性のクルーは眠っているように見えた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長



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RE・かの世界この世界:011『世界を助けて(^▽^)』

2023-02-16 07:16:54 | 時かける少女

RE・

011『世界を助けて(^▽^)』   

 

 

 2000人助かると、時美のお母さんは別の人と結婚することになるの。

 

 中臣先輩は、学食でお蕎麦が売り切れだったらラーメンを食べるのというくらいの気楽さで言う。

「時美には生まれて来て欲しいから、やっぱり震災の犠牲者は6000人」

 え?

 さすがに、ギョッとする。

 だって人の命、簡単すぎ……

「ただいまあ(^▽^)」

 先輩が訂正すると、隠れん坊で最後まで隠れおおせた子どものように志村先輩が現れ、年表も元の姿に戻った。

「いくつもの小さな変化を加えると、2000人助けた上で時美が生まれるようにもできるんだけどね、すごく難しい方程式を解くようにしなくちゃならない。たとえできたとしても、遠い将来に別の影響が出る」

 ヤックンの告白を無かったことにして、冴子を殺すことを回避していなければ信じられない話だ。

 それに、二人の先輩はティータイムの雑談のように話すので、まるで切迫感が無い。たった今、ギョッとした気持ちが日向のドライアイスのように消えていく。

「だから、今のところ震災についてはいじらないんだけど、全ての出来事を放置していると……」

 ガラガラガラ!

「わ!」

 三つ子のビルが音を立てて崩壊していく。

 思わずのけ反ったが、モニターに映った3D映像なので、吹き飛ぶ破片や濛々と寄せ来る爆煙に襲われることもない。

「これって、世界が崩壊したことを意味しているんだ」

「歴史は三つ子ビルほど単純じゃないけど、いくつかの出来事を修正しないと世界は崩壊してしまうの」

「かの世部はな、そんな歴史のイレギュラーを修正していく活動をしているんだ」

「それでね、寺井さんには才能があるのよ。歴史を修正していく力が」

「そんな力がわたしに?」

「ついさっき、ヤックンの告白を回避したじゃない。あれが成功していなければ、寺井さんは二宮さんを殺してしまう」

「そして、校内を逃げ回ったあげくに、この旧校舎の屋上に追い詰められ飛び降りて死んでしまうことになる」

「わたしや時美にも力があるけど、屋上に逃げる寺井さんを中廊下奥のここ(部室)へ誘導するのが精いっぱいなのよ」

「だから、ぜひキミに入部してもらって、わたしたちを……」

「「世界を助けてもらいたいの(o^―^o)」」

 
 先輩二人の声が揃ったところで再び意識が遠のいていった。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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