大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

パペッティア・007『初めてのベース』

2023-02-22 10:17:59 | トモコパラドクス

ペッティア    

007『初めてのベース』晋三 

 

 

 陸軍特務旅団のベースは首都の南にある。

 

 ベースは二十年前のヨミのファーストアクトで出来た巨大なクレーターの中に潜むように存在している。

 クレーターの直径は差し渡し三キロほどもあり、所狭しと対空兵器が並んでいる。

 中央にはベースのコアに通じる入り口があり、入り口はカメラの絞りのような構造になっていて、出入りするものの大きさに合わせて変化する。

 直径二十メートルほどに開かれた入り口を、夏子たちを乗せたオスプレイが巣に着地する猛禽類のように下りていく。

 バラバラバラバラバラバラバラバラ!

 絞りの上十メートルぐらいに差しかかると、とたんに爆音が大きくなる。元祖のオスプレイよりもプロペラの効率がいいんだろう、巻き起こした風圧は、あまり横には逃げず真下に圧を掛けている。絞りの周囲の排気ダクトからはオスプレイの爆風がいなされて直上に噴き上がっている。演出というわけじゃないんだろうけど、勇壮な雰囲気がいい。

 発着デッキまでは少しある。

 空港の手荷物検査を縦にしたみたいなところを通過して緑に光る。隔壁通過を知らせるシグナルだろう、それが三つ光って発着デッキ。

 ガクン ガチャン

 着地すると同時にギアがロックされ、前方にキャリーされる。キャリーされる間にプロペラは急速に回転速度を落とし、ハンガーが口を開けるころには風車ぐらいに落ち着いて停止。

 ブーーーー

 油圧シリンダーが唸ってハッチが開く。ベテランの添乗員みたいに開き切っていないハッチを飛び出るみなみ大尉。

 デッキボスの端末にチェックを入れ、ボスがOKサイン、それを受けてみなみ大尉がノルマンディー上陸の隊長が部下をせかすように腕を回して夏子を呼ぶ。

 スターウォーズの基地のように思えてキョロキョロする夏子。

「ウッヒョオオオオオ……」

 遠慮なく感嘆の声をあげる。ちょっと恥ずかしい。

 こういう、遠慮のない反射が良くも悪くも夏子の個性だ。どっちかっていうと、生前の俺は、妹のそういうところが苦手だったが、いまの俺には好ましく思える。過去帳を住み家として二年目、少しはホトケさんらしくなってきたか。

「さ、ここからはリフトよ。三回乗り換えるから、迷子にならないでね」

 みなみ大尉はテーマパークのベテランスタッフのようにまりあをエスコートしていく。

 

「大尉、またお腹が空いたんですか?」

 

 二つ目のリフトに向かう途中、カーネルサンダースの孫みたいな曹長に声をかけられた。

「え、CICに行くとこだけど?」

「そっちは士官食堂ですよ。CICはリフトを下りて三番通路を右です」

「わ、分かってるわよ」

 見かけの割には抜けているところがあるようだ。

「こちらは主計科の徳川曹長、ベース内での日常生活は彼が面倒見てくれるわ。こちら舵司令の娘さん、いろいろ面倒見てもらうことになるから、まず徳川君のところに連れて来たんじゃない(^_^;)」

 強引な強がりに、夏子も徳川曹長も吹き出しかける。

「えと、舵夏子です。お世話になります」

「こちらこそよろしく。司令からも話があるだろうけど、ここでは君は少尉待遇だ。一応士官だからベース内の大概のところには行けるよ。当面必要なものは後で届ける。ベースの詳しいことは、その時にレクチャーさせてもらうよ、みなみ大尉に任せたら日が暮れそうだ」

「ちょっとねえ!」

「はい、回れ右して二つ目を左、二番のリフトに乗って……自分が案内しましょうか?」

「大丈夫、ここへは君に会わせに来たんだからね!」

「それは恐縮です……じゃ、幸運を祈ります」

 夏子は徳川さんに付いて来てほしかったが、目を三角にしたみなみ大尉には言えなかった。

 曹長の案内が良かったのか、それからは迷うことなくCICに着いた。

 

「司令、夏子さんを連れてまいりました」

 

 レーダーやインターフェースを見ていた四人が振り返った。夏子の姿を確認すると三人は任務があるのかでCIC内のパネルやモニターをいくつか確認したあとCICを出て行き、残った老士官も夏子とみなみ大尉に笑顔を残して出ていってしまった。任務じゃなくて人払いかよ。

 で、驚いた。

 え?

 CICは俺たちだけになってしまった。

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉
  • 徳川曹長        主計科の下士官
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宇宙戦艦三笠32[水の惑星アクアリンド・2]

2023-02-22 07:45:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

32[水の惑星アクアリンド・2] 修一  

 

 


 暗黒星団ロンリネス以上の歓待だった。

 アクアリンドは、夕刻の入港を指定してきた。

 船の入港は朝が多く、異例といえたが俺たちは素直に従った。

 二十一発の礼砲を鳴らすと、それが合図であったように、港街であり首都であるアクアリウムの各所から一斉に花火が上がり、花火には無数の金属箔が仕込んであって、それが他の花火や夕陽を反射して、ディズニーランドのエレクトリカルパレードの何倍も眩く、この世のものとは思えない美しさだった。

 三笠のクルーは正装して上甲板に並び、登舷礼の姿勢のまま美しい歓迎を喜んだりビビったり。

「悪いけど、わたしは神棚にいるわね。この星の雰囲気、どうも肌に合わない」

 で、ミカさんを除く全員で上陸し、アクアリンドの大統領以下、この星の名士やセレブの歓迎を受けた。


「いやあ、よくお越しくださいました。実に八十年ぶりの来航者で、我々も感動しております」

 大統領の言葉から始まり、各界名士の挨拶が続いた。

 歓迎レセプションには、この星一番のアイドルグループのエブザイルや、AKR48(アクアリンド48)のパフォーマンスが繰り広げられた。

「正直、退屈な民族舞踊なんか見せられると思っていたけどニャ。良い感じニャ!」

 ネコメイドたちは、ほとんど素の猫に戻って地元猫たちと楽しくやっていたが。他のクルーたちは微妙な違和感を感じていた。

 たかが水の補給にきて、この歓待はなんだ? 違和感の元は、ここにあった。


 深夜になって、クレアが憂い顔で艦長室にやって来た。

 クレアは元々はボイジャー1号で、漂流していたのを三笠で保護して、ミカさんが人間らしい義体を与えたものだ。ヘラクレアの娘さんのイメージが反映されているようだけど、並み居る敵艦隊を一手に引き受け玉砕した壮烈な軍人それではない。聡明で、でも少し引っ込み思案な……うん、トシの従姉だと言われたら、そのまま頷いてしまいそうな感じ。


「ちょっと、いいかしら……」


 と言った時には、その夜の晩さん会の素晴らしさを語り合う二人のフェイクデータをダミーに流していた。だから「今夜のおもてなしは素晴らしかったわね」とアクアリンドの諜報機関には聞こえていたが、実際は「この星、おかしいわよ」になっている。深夜になったのは、このダミーデータを作っていたかららしい。


「具体的に言ってくれ」


「レセプションでも気づいたと思うんだけど、この星には伝統芸能や、伝統技能がないの。それに、この星のコンピューター全てにアクセスしてみたけど、八十年前以前の記録がどこにもないの」

「ロンリネスのときみたいにバーチャルってことはないのかい?」

「そう思って調べたけど、全て実体よ。人口は一億八千万。惑星としては少ない人口だけど、大陸としてはほどほどの人口。ジニ係数も二十以下で、地球のどの国よりも貧富の差が少ないの」

「歴史が分からないという点を除けば、よくできた星だな」

「それから、この星は、ほとんど無宗教。アクア神というのがあるけど、信者は数百人といったところで布教している様子もないの。大陸の南端に神殿があるほかは寺院とか教会とか呼べるものが無いし、サーチした限り僧侶や神官らしき人も居ない……穏やかに見えるけど、どこかおかしいわ、この星」

「明日、名所案内をしてくれる。そのときに、ちょっと気を付けてみよう」

「それから、この音を聞いてみて」

「あ、ちょ……」

 クレアは、俺のオデコに自分のオデコを近づけて、自分の聴覚とシンクロさせてきた。見かけに似合わず大胆だ(;'∀')

「五感の99%を聴覚に集中して聞こえてきたの……目をつぶって集中して、そうでなきゃ聞こえないくらいに微かだから」

「う、うん……」

 それは、微かにサラサラと水の流れる音だった。

「えと……クレアの体の中を流れる血流?」

「違います! わたしのは……」

「ちょ!」

 頭を挟んで胸に持っていきやがる。

 ドックンドックン

 ウ!?

 意外に強い乙女の血潮に、ちょっとたじろぐ。

 俺の反応に満足すると、再びオデコに戻される。

 見かけも振舞も、ほとんど普通なんだけど、まだ人間に成り切れていないんだ。ま、いいんだけどな。俺が指摘したら、逆に変になりそうな気がする。俺も器用なほうじゃないからな(^_^;)

「ちょっと、聞いてる?」

「あ、すまん」

 横須賀港で見かけた自衛隊の……世界一と言われる静粛性を誇る潜水艦、それが限界潜行深度でたてるキャビテーションノイズを聞いたような気がした。

 うかつに目を開けると、目の前にクレアのドアップ。

(灬╹X╹灬)

「ちょっと、なにやってんの二人で!?」

 樟葉が怖い顔をして立っている。

 三笠の外にはバリアを張ってくれたクレアだが、艦長室のドアには気が回っていなかったようだ(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  


 

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RE・かの世界この世界:017『なにかお困り?』

2023-02-22 07:06:57 | 時かける少女

RE・

017『なにかお困り?』   

 

 

 無意識にポケットをまさぐる。

 
 分からない事があると脊髄反射でスマホを探してしまう。

 今は昭和63年だから、スマホはおろか携帯も存在しない、どうしよう……どうしよう……。

 意味も無く胸を押える。

 なんとも落ち着かない。

 スマホがあれば、A駅近辺の喫茶店で検索できる。それ以上にスマホを持っていないという現実を突きつけられ、とても不安になる。

 スマホ無しで、どうやって調べたら……。

 
 人に聞くしかない……至極当たり前の解決策が湧いてくるが、これが簡単なことじゃない。

 子どものころから見知らぬ人は不審者という決めつけがある。

 小学校入学時から防犯ブザーを持たされ、見知らぬ人に気をつけましょうと注意されてきた。

 当然世間の大人たちも子どもにものを尋ねるようなことはしない。

 
 路上でものを尋ねて警戒されないのは、マイクを持ってカメラマンを従えているテレビ局とかの人間ぐらい。

 
 どうやって聞いたらいいんだろう……。

 駅前の交番が目についた。うまい具合にお巡りさんも居る。

 足を向けてためらわれた。

 わたしは別の世界の令和五年からやってきた人間だ。

 三十年以上のギャップ。数分でも会話すれば、なにかボロが出てしまうんじゃないか……こちらは日の丸が白丸になっているように、とんでもないところで違いがある。

 もし、異世界の令和五年から来たと分かったら……いや、そもそも信じてもらえない。

 変なことを言う女! 某国のスパイか工作員か! いかれたオタク女! いや、オタクって言葉も無い時代…… 

 
 次々に湧いてきて、顔が引きつるだけで身動きが取れなくなってしまう。

 
 なにかお困り?

 ヒ(# ゚Д゚#)!!

 
 口から心臓が飛び出しそうになった!

 胸を押えながら振り返ると、買い物帰りのオバサンが穏やかな笑顔で立っていた。

「あ、はい! 困ってるんです!」

 ほとばしるような勢いで言ってしまった。

「そうなの、怖い顔して、とても思い詰めてるように見えて。お節介でなくてよかった。で、どうなさったの?」

 なんだか、とても懐かしい感じのオバサンで……というか、わたしが、そこまで途方に暮れていたということなんだ。

「この辺に、ミカドっていう喫茶店ありませんか?」

「ミカド?……ミカドね……」

 どうやらハズレ……すると、同じような買い物帰りのオバサンが寄って来た。

「どうしたの?」

「あ、おけいさん。この娘さんが……」

 どうやらお仲間の様子。

「ああ、それだったらB駅じゃなかったかな。カタカナ三つの喫茶店が開店してた。A駅前を考えていたらしいけど、借地料が合わないとかで、ここいらは駅前の再開発で地価が上がってるからねえ」

 そうか、反対だったんだ! B駅も隣だ!

「ど、どうもありがとうございました!」

 頭を下げると―― お母さーん ――という声がして、ロータリーの向こうから学校帰りの女子高生が駆けてくる。

 
 ほんの一瞬だけ見えて、逃げるように駅の構内に向かった。

 一瞬だったけど確信した。

 

 ……あの女子高生は、若いころのお母さんだ。

 

 オバサンが懐かしかったのは、三年前に亡くなったお祖母ちゃんだったからだ。お葬式に来てくれたお婆さんの一人がナントカ恵子さんだったような気がする、それがおけいさん?

 そんな疑問も思いも振り捨て、切符を買うとB駅を目指して電車に飛び乗った。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
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