大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・388『おお、これが雛人形か!』

2023-02-18 11:30:05 | ノベル

・388

『おお、これが雛人形か!』さくら   

 

 

 来週から学年末試験。せやさかい、こんなことしてる場合やないねんけど。

 

「おお、これが雛人形か!」

 本堂に入るなり、ソニーが感嘆の声を上げた。

「やっぱり、昔の人がやると飾りつけも違うわねえ!」

 留美ちゃんもカバンを下ろすのを忘れて感動。

「こんな間近で見るのは初めて!」

 先週ペコちゃんとこで巫女服着でお神楽やった時と同じくらい感動のメグリン。

 

 今年は、檀家のお婆ちゃんらが飾りつけをやってくれた。

 なんでかいうと、一昨年飾りつけをやったとき、実は、いろいろミスしてたらしい。

 それでも婦人部のお婆ちゃんらは、今どきの子ぉらがお雛さんを大事にしてるいうことだけで感動してくれた。

 去年は流行り病でお雛さんどころやなかったしね。

 うちには、詩(ことは)ちゃんのと、お母さんのと二組のお雛さんがある。

 二年前は、本堂と部室(本堂裏の座敷)に分けて飾ったんやけど、田中のお婆ちゃんの提案で二組とも本堂で飾って大勢の人に見てもらうことになった。

 

「婦人部で見本やったげるさかい、もう一つをあんたらでやってみい」

 

 ということで、テスト前や言うのに、お仲間そろって本堂に集合!

「うちは、雛祭りは、お内裏様の色紙を出すだけだった」

「軍人の家は転勤が多いから、大げさなことはできないんだろう」

「うん。でも端午の節句は鎧を出してた」

「鎧! 本物か!?」

「あ、たぶん。お祖父ちゃんが送ってきたの」

「メグリンは武士の家系か!?」

「どうだろ、熊本の農家だよ」

「熊本といえば肥後の国、肥後の国と言えば加藤清正ではないか!」

「あはは、清正公とは関係ないよ」

「謙遜するな、清正に公の尊称を付けるのは、武門の血筋であるからだろ!」

「あ、熊本じゃ誰でも清正公って云うし(^_^;)」

 なんか、マニアックなノリやけど、あっという間に雛壇を完成させるソニーとメグリン。

「うん、野戦のテント張りみたいで感嘆だったぞ」

「問題は、これからだよね……」

 箱から出したお雛さんたちと、出来あがっている雛飾りを見比べる留美ちゃん。

「キングとクィーンの並べ方は欧米と変わらんのだなあ」

 なるほど、お内裏さんはキングとクィーンか。

「明治のころまでは逆やってんでぇ、大正天皇が結婚式で西洋風にしはったんで変わったいう話やで」

「へえ、そうなんだ」

「あ、なに、その『さくらにしては』的な驚きの顔は(^_^;)」

「ん……この侍女、変だぞ?」

「さすがソニー、気ぃついたんや」

「眉毛が無いし、口の中が真っ黒だぞ……あ、こっちは侍女が一人足りんぞ」

「ああ、それは三方さんて云うて……」

 三人官女と、それにまつわる我が家の事情(125~127『お雛さん』)を説明する。

「そうか、それぞれの家にドラマがあるんだなあ」

 いや、ソニーの家ほどやないと思うよ。ソニーの家は魔法使いの家系やし。

 

「やあ、あんたら、もう来てたんやなあ(^▽^)」

 

 田中のお婆ちゃんがテイ兄ちゃんを従えてやってきた。

「あ、お婆ちゃん」

「田中さんがネットオークションで競り落としてくれはったんや、ほら、開けてみい」

「え、どれどれぇ?」

 テイ兄ちゃんが持ってきた桐の箱には三方さんが入ってた!

「ちょうど、この三方さん一人だけ云うのんが出ててなあ。焼き芋焼きながらポチったら、他に入札してる人もおらんでなあ、まんまとゲットしたんや。まあ、教えてくれたのはテイぼんやけどなあ」

「あ、それナイショですがなあ(^0^;)」

「戦前の優月の品物らしいわ、歌おばちゃんのも優月やさかい、ピッタリやろ」

「さっそく、並べたげぇ」

「ありがとう、お婆ちゃん!」

「……おお、留美とさくらを従えたメグリンみたいだぞ!」

 ソニーが感動。

「あ、そんな、わたし……」

 三方は、他の官女よりもワンサイズ大きいみたいで、ちょっと面白い。真っ赤に照れるメグリンも可愛い。

 

「田中さん、忘れ物、忘れ物」

 

 鈴木のお婆ちゃんがレジ袋ぶら下げてやってくる。

「あ、せや。お雛さんで気ぃせいてしもて、肝心なもん忘れてた!」

 お婆ちゃんが忘れてたのは焼き芋。

 お婆ちゃんは米屋さんやけど、夏以外は焼き芋もやってて、時どきご馳走になってた。

 高校に入って、お店の前通らんようになってご無沙汰やったし。

 懐かしく、みんなで焼き芋頂きながらテイ兄ちゃんがカメラで撮って、たちまちのうちにヤマセンブルグとスカイプ。

 テイ兄ちゃんは、ハナから、その狙いでお婆ちゃんを焚きつけてたみたい。

 まあ、ええけどね。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

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宇宙戦艦三笠29[グリンヘルドの遭難船・2]

2023-02-18 08:34:35 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

29[グリンヘルドの遭難船・2] 樟葉  

 

 


 遭難船の女性クルーは衰弱死寸前だった。

 と言って、見たは目は健康な女性がうたた寝をしているようで、とてもそうは見えない。

―― 残った生命エネルギーを、外形の維持にだけ使っていたようです ――

 スキャンした彼女のデータを送るとクレアから答えがトシといっしょに返ってきた。

「なんで、トシが来てるんだよ?」

「クレアさんの意見で、三笠から携帯エネルギーコアを持ってきました。これを船の生命維持装置に取り付けて、この女の人を助けたらってことで。オレ、一応三笠のメカニックだから」

「でも、グリンヘルドの船の中なんて、初めてでしょ。トシにできるの?」

「フィフスの力で……うん、なんとかなりそう」

 トシは目をつぶって、調査船のメインCPとコンタクトをとり、船体の構造概念を知った。

「トシ、ツールも何にも無しで、CPとコンタクトできたのかよ!?」

 俺も樟葉も驚いた。

「ナンノ・ヨーダの訓練はダテじゃないみたいだよ。それぞれが持っていた能力を何十倍にもインフレーションにしてくれたみたい。とりあえず作業に入るよ」

 トシは、自分のバイクを修理するような手馴れた様子でエネルギーコアを船の生命維持装置に取り付け、グリンヘルド人に適合するように変換した。

 やがて、ただ一人の女性クルーは昼寝から目覚めたように、小さなあくび一つして覚醒した。

「おお、大したもんだな!」

「それもそうだけど、この人のリジェネ能力がすごいんだよ」

「まずは挨拶よ。えと、こんにちは、救難信号を受けてやってきました……」

「三笠のみなさんですね。助けていただいてありがとうございました。わたし、グリンヘルド調査船隊の司令のエルマ少佐です。もっとも、この船隊の人間は、わたし一人ですけど。あとの二隻はロボット船。あの二隻が救難信号を……あの二隻は、もう回復しないところまで、エネルギーを使い果たしたようです」

「ボクが直しましょうか?」

「もう無理です。アナライズしてもらえば分かりますけど、あの二隻は、もうガランドーです。すべての装置と機能をエネルギーに変換して、わたしの船を助けてくれたようです……ほら」

 片方のロボット艦は、最後の力を振り絞るようにブルっと震えると、陽に晒された氷細工のように霧消してしまった。もう一隻も昼間の月のように頼りなくなってきた。

「なんで、ここから外が見えてるんだ?」

「シールドが組成を維持できなくなって……質量比……1/100……負担の軽いアクリルみたいなのに変換したんだ」

 アナライズしながらトシが感動する。

 三笠から照射されるサーチビームが照明に変換され、船内は懐かし色に染まっていく。

 コチ コチ コチ……

「なんの音?」

「この船も崩壊が始まってるんです、せめてもの雰囲気……あなたがたのイメージに合わせて変換……合っているかしら……」

 ああ……!

 いっぺんにイメージが湧き上がった。

 これは、小学校の音楽で聴いた『おじいさんの時計』のイメージだ。

 悲しくって、でも暖かくって―― でも いまは もう 動かない おじいさんの時計 ――のところでは、樟葉は目に一杯涙を浮かべていたっけ。

「グリンヘルドは救援にこられなかったの?」

 指の背中で目を拭って、樟葉が聞く。

「わたしは、数億個の細胞の一つみたいなものだから、救難する労力を惜しんだみたいです……」

「つまり、切り捨てられた?」

「全体の機能維持のためにはね……それがグリンヘルド。さっそくだけど、お伝えしたいことがあります」

「もう少し、休んでからでも」

 トシがパラメーターを見ながら言った。

「見かけほど、わたしの機能は万全じゃないのです。いつ停止してもおかしくない。地球人の感覚で言えば、わたしは120歳くらいの生命力しかありません。時間を無駄にしたくないのです」

 三笠の三人は、エルマの意志を尊重した。

「……地球の人類は、あと百年ほどしか持ちません。地球の寒冷化は進んでいるのに、温暖化への対策しかしていません」

「ああ、温暖化は今や世界のエコ利権になっているからな」

「だから、あたしたちが、ピレウスに寒冷化防止装置を取りにいくところ」

「グリンヘルドもシュトルハーヘンも、寒冷化で人類の力が衰えて、抵抗力が無くなったところに植民するつもりなんです」

「だいたい、そんなところだろうと、オレたちも思ってる」

「グリンヘルドの実態を、三笠のみなさんに知っていただきたいのです」


 そう言うと、エルマの姿がバグったように、若い姿と老婆の姿にカットバックした。


「すみません、エネルギーコアを、もう少しだけ充填していただけないかしら。わたしの命は間もなく切れます。今の姿のまま逝きたいんです」

「なんなら、三笠の動力から直接エネルギーが充填できるようにしようか? 接舷すれば直接送れる」

「艦長、エルマさんの体は、もうそんな大量のエネルギーを受け付けられないところまで来てるよ」

「トシさんの言う通りです。あと少しお話しが出来ればいいんです」

「それなら、三笠のCPに情報を送ってもらった方が。少しでもエルマさんが助かる努力がしたいわ!」

 樟葉らしい前向きな意見だ。

「いいえ、情報はただの記号です。直に話すこと……人の言葉で伝えることが重要なんです……」

「トシ、急いで携帯のエネルギーコアを!」


「大丈夫、あたしが持ってきました」


 クレアが、携帯エネルギーコアを持って、調査船のブリッジに現れた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長 ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

 

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RE・かの世界この世界:013『時の神、空の神』

2023-02-18 07:09:20 | 時かける少女

RE・

013『時の神、空の神』   

 

 

 世界の綻び……このわたしが?

 

 わたしは、ヤックンに告白させないことだけを願っている。

 告白させたら、冴子がブチギレる。

 ブチギレた冴子は鬼になって跳びかかって来る。昇降口の階段をもつれ合いながら転げ落ち、不可抗力とは言えわたしは冴子を殺してしまうんだ。冴子を殺したわたしは旧校舎の屋上に追い詰められ、飛び降りて死んでしまうんだ。

 それを回避したいために過去に戻っているんだ。

 先輩には悪いけど、自分のためなんだ。世界の綻びと言われても困る。

 
「旅立たなければ、この半日が無限にループするしかないの。108回ループして分かったわ」

「で、でも、この帰り道に冴子が告白するかもしれないし」

「冴子は、そんな子じゃない」

「……知っているでしょ、あの子はヤックンが告白してくれるのでなければ受け入れられないのよ」

 中臣先輩が悲しそうに首を振る。

「で、でも108回もループしているなんて……」

 二人の先輩の言うことを認めれば、なにかとんでもない世界というか段階に足を踏み入れざるを得ない気がして、頑なになる。

「ずっとループするんだ、今すぐ飛べ!」

「時美」

「すまん……」

「その玉垣の上を見てくれる」

「玉垣……」

 
 神社の結界を玉垣という、子どもの背丈ほどの石柱の垣には石柱ごとに奉納者と寄付した金額が彫り込まれている。

 鳥居のすぐ横が、最高額の奉納者である地銀の社名……そこから始まって、数えると108番目の玉垣まで小石が置かれていた。

 
 これは……!?

 
「思い出した?」

「ループし終わると記憶が無くなるから、帰りに鳥居をくぐるたびに小石を載せておくように暗示をかけたの」

 小石を置く自分の姿が機関銃のように蘇る。

「こことは違う世界、わたしたちは『かの世界』と呼んでいる」

「三つ子ビルの一つ一つのブロックのように無数の『かの世界』が寄り集まって宇宙とでもいうべきものを作っているの、そのいくつかの『かの世界』がほころび始めているの」

「それを修正して来て欲しいんだ、修正しなければ、三つ子ビルのように宇宙全体が崩壊してしまう」

「世界の修正だなんて、わたしにはできません。自分の不始末さえ108回かけても直せないのに」

「光子はお話を書くでしょ? もうノートに何冊もプロットを書き溜めているわね」

「子どもの頃のメモを含めると、とうに万を超えるくらいになるだろ」

「その粘りと想像力があれば、きっとできる」

「「必ずできる」」

 すると、コラ画像みたくノートに書き溜めたプロットやストーリーの断片がキラキラと明滅しながら神社の境内を取り巻いて数えきれない流星群のようになった。

 流星群は急速に輪を縮め、先輩とわたしを、ついにはわたしだけを取り巻くようになって、恐ろしくて動けなくなった。

 
「ここにも歪が出始めたわ!」

「時間がない、飛べ!」

 二人は、わたしを挟んで白魔導士のように手をかざしてきた。

「「我ら求めん訴えたり!」」

「ちょ、先輩!」

「「時の神、空の神、時のことわり、空の定めを停め、この者を飛ばせ給え、万の神々援け給ええ! エイ!」」

 
 ウワーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 
 とたんに鳥居を中心に世界が渦を巻いて捩れ、ついにはわたし自身も捩れて意識が飛んでしまった。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

 

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