大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・391『ヤマセンブルグの卒業式』

2023-02-26 13:10:21 | ノベル

・391

『ヤマセンブルグの卒業式』さくら   

 

 

 前回は飛行機の他に鉄道を使ったり、途中で泊まったりして四日もかかったけど、今回は大回りしたとはいえ、なんとか二十時間ほどでヤマセンブルグに着いた。

 全行程の操縦を覚悟してたソニーやけど、操縦桿を握ってたのは離陸の時と途中の四時間余り。今回の操縦は、操縦技能の昇級テスト兼ねてるんやとか。

 大半はお馴染みのジョン・スミスのおっちゃん。おっちゃんは、ソニーの昇級テストの教官と検定官も兼ねてるんやとか。

 ジョン・スミスは領事館の勤務を解かれて情報局に戻ってたんやけど、ソフィーが頼子さんと共に国に戻ると決まった時に、また領事館に戻ってきた。ヤマセンブルグはNATOの中で一番小さな国やけど、大国に任せっきりにすることなく、積極的に動いてるらしいです。

 

 空港には、頼子さん自身とソフィー、我が従姉の詩(ことは)ちゃんが出迎えてくれてて感激やった。

 ソニーは到着の挨拶もそこそこ空港のビルへ。それでも、空港を離れて王宮に向かう頃には戻って来て『無事』に昇級テストに合格したことを嫌そうに教えてくれた。

 頼子さんの話によると、昇級すると仕事もメチャ増えるらしい。

 

「それでは……聖真理愛学院2022年度の卒業証書授与式を行います。全員起立!」

 

 卒業証書の授与は、なんと、歴代国王の戴冠式が行われるライオンキングチャーチ(獅子王教会)で行われる。

 ライオンキングというのはディズニーとタイアップしたわけと違って、第三代国王が獅子王と呼ばれる勇猛な王様やったんで、それにちなんでるらしい。

 それから、卒業証書の授与は女王陛下、つまり頼子さんのお祖母さまが聖真理愛学院学院長のローブを取り寄せて、本格的な代理として行われます。

 式場には、日本大使や教育大臣、統合参謀本部議長、ヤマセンブルグ大司教、侍従長、侍女長、他にえらいさんいっぱい(^_^;)

 式壇の上には、ヤマセンブルグ国旗、王室旗、日章旗、それから聖真理愛学院の校旗が並んでる。

 でもって、式壇に近い右前列には、もう二度とは見られへんと思てた制服姿の頼子さんとソフィー。

 左前列には、同じく制服姿のうちら(さくら 留美ちゃん メグリン ソニー)が控えてる。真鈴先輩は後ろの来賓席、真鈴先輩は卒業式終わってるもんね。せやけど、なんでか制服姿。

 うちらが制服着てるのん見て、自分一人私服なのが寂しくなってトイレで着替えたんやとか。でも、校章やらは外しててケジメはつけてはります。

 式そのものは小規模やけど、こないだやった卒業式よりも立派です(^_^;)

 で、卒業式よりも凄いのは、参列してるヤマセンブルグ国民の人ら!

 教会は800人入れるんやけど満席! 入りきれへん人らは教会の前に3000人余り(もっと居てるねんけど、教会前の広場は3000人が定員)、教会から王宮までは人垣ができて、もう、戴冠式かいうくらいに賑わってるそうです。

「Singing the national anthem Everyone stand up!(国歌斉唱 全員起立)!」

 なんと、女王陛下の音頭で君が代斉唱。その後にヤマセンブルグ国歌。

 教会の内と外からも大合唱! で、早手回しに花火の爆ぜる音。

 もう、なんやお祭りですわ。

「卒業証書授与、ソフィア・ヒギンズ」

「はい」

 ちゃんと日本語で返事して式壇に進む。ちなみに、女王陛下は英語。

「ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン」

 毎回すごいと思うねんけど、女王陛下は、頼子さんの正式名を一息で言うてしまう。これに勝てる名前は落語の寿限無しかないやろね(^_^;)

 名前呼ぶときは証書見てないから、空で言うてはる……と思て、あとで見せてもろたけど、小さな字でほんまに書いたった! 学校もきっちりやってます!

「在校生代表、送辞」

「はい」

 え!?

 ビックリした、留美ちゃんが静々と式壇に!

「The chirping of birds flying in the sky. warm spring light. Full bloom of plum blossoms
Cherry blossom buds in the schoolyard about to open. It seems that all of them are celebrating the departure of seniors……」

 なんと英語で送辞をブチかまし始めた!

 日本語やとトツトツとしてる留美ちゃんやけど、英語でやると、なんとクリアでハキハキしてることか!

 これも後で聞いたんやけど、詩ちゃんを通じて極秘で要請があったらしい。

 極秘やいうのは頼子さんの気遣い―― さくらが気にするからね ――です。

 アハハ ちょっと複雑な心境。

 続いて頼子さんの答辞やねんけど、これは、また改めてね。

 どっちも感動的で、教会の内外から盛大な拍手が起こった。送辞答辞ともに日本語訳が式次第に挟んであって、あとで読み返してシミジミでした。

 

「真鈴ちゃん、やっぱすごいよねえ……」

 詩ちゃんがしみじみ呟いたのは、全てが終わって、戻ってきた宮殿の庭。

 外から引き込まれた小川が流れてたりしてて雰囲気。

 実は、ソニーに教えてもろた―― お話するんだったら、小川の傍 ――やて。

 無口で武骨で、そのくせ黙ってたら姉のソフィーよりも可愛らしい陸軍伍長という変な奴。

 せやけど、こういう雰囲気のええとこを勧めてくれるとは、やっぱり持つべきものは友だち。この際、親友のカテゴリーに入れたろかと思ったりした。

 で、真鈴先輩。

 ライオンキング教会から駅前までのパレード、沿道は式が始まる前の三倍ぐらいに増えてて、街路樹に上ってる人もおってお巡りさんに怒られとった(王族を見下ろしてはいけないという伝統と警備上の問題)り、迷子案内の放送が掛かったり(^_^;)。

 で、パレードに移ると、一番人気は頼子さんと女王陛下。ま、これはいつものこと。

 で、同じくらい人気やったんが真鈴先輩!

 

 キャーーマリン! コイスルマネキン! マネキ! ネキン! キャー!

 

 声優百武真鈴の人気は日本以上かもしれへん。

 頼子さんも最終回にノルンの女神役で出て評判やったんやけど、やっぱりレギュラーで、それも恋する二人の恋人の声を一人でやってのけたのは超有名な話で、ファンの数もハンパやない。

 それに、女子高生の制服姿いうのは海外のオタクさんたちにも人気で、人気の真鈴が人気の制服姿やねんから、もう人気爆発!

 で、地元の放送局の要請で、急きょサイン会。

 むろんサインだけで済むはずもなく、放送局前でライブをおやりになっています。

「日本の放送局が企んだんだろうけど、あれは、今回の卒業式も含めて真鈴ちゃんの力だと思う」

「あ、それは思う!」

 大江戸プロに呼ばれたことやら、文化祭のことやらが頭に溢れる。

「うん、わたしもSNSで見たし、ここじゃ、地上波でもやってたしね。真鈴ちゃんは声優としてもすごいけど、プロディユーサーの才能もあると思う」

「うん、頼子さんもノセてしまうほどの人たらしやしぃ!」

「さくらも、そういうとこあるよ」

「ええ、ないない、それはない!」

 うちは単なるオッチョコチョイ。

「わたしね、こっち来て仲良くなった人がいるんだよ」

「ええ!?」

 おっちゃん、おばちゃん心配するでえ!

「あ、男の人じゃないよ」

「いや、きょうびLGチーズの時代やし」

「え、ああLGBTS?」

「アハハ そういうボケも才能だあ」

「もう、いじらんといて!」

「ごめんごめん、仲良くしてくださってるのはイザベラさんだよ」

「ええ、あのサッチャー!」

「うん、宮廷の作法や伝統に詳しくってね、フォークロアや民間伝承のことも造詣が深いの。さすがは女王陛下の秘書ね。近ごろじゃ月に三回ほど呼んでくださって、いろいろレクチャーしてもらってるのよ。陛下もたいてい顔を出されて、議論に加わってくださったり」

「いやあ、あのオバハンと五分以上話ができるのは、やっぱり超才能やしぃ!」

 他の人が聞いたらリップサービスと思うかもしれへんけど、従妹のうちはよう分かる。

「ぜったい、才能や!」

「アハハ、ソニーがここを勧めてくれたわけが分かったよ(^_^;)」

「へ?」

 小川のせせらぎが絶好の防音壁になると気が付いたのは日本に帰ってからでした。

 くそ!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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宇宙戦艦三笠35[虚無宇宙域 ダル・1]

2023-02-26 06:14:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

35[虚無宇宙域 ダル・1] 修一  

 

 


 アクアリンドのクリスタルは、クレアが送った情報をもとに三笠でレプリカをつくって交換した。

「組成や形態がいっしょだから、80年たたなければ偽物とは気づかないわ」


 クレアも、レプリカを作ったトシも自信満々だった。


 本物は、三笠の二つある機関の真ん中に置かれた。仮にも一つの星の運命を握っていたクリスタルだ、いまは眠っているような状態だが、数百年の記憶を取り戻し稼動し始めた時に巨大なエネルギーを放出する恐れがあった。三笠の中央に置かなければ、いざと言う時に、船のバランスを崩すおそれがあるという僧官長の意見に従ったものだ。


「微弱だけど、クリスタルから波動が出るようになった。なにか感じているみたいだよ」

 トシがインジケーターを指さした。

「さすが世界一の殊勲艦。与える影響も違うんだ!」

 ウレシコワが感心して言った。

 クチュン

 神棚でみかさんが小さくクシャミをしたようだ。

「で、なにか三笠の役に立ちそうなエネルギーとかは出てないの?」

「居候なんだから、なんかの役にたってもらわないとね」

 天音と樟葉は、夢が無いというか現実的だ(^_^;)。


「樟葉、これからの航路は?」

 艦長らしく航海長としての樟葉に聞く。

 樟葉も航海長の顔に戻って応えてくれる。

「5パーセク先が分岐になりそう。直進すれば、ダル宇宙域に突入するわ」

「避けるのか?」

 樟葉のニュアンスから、修一は先回りをして聞いた。

「ダル宇宙域の外周は、グリンヘルドと、シュトルハーヘンの艦隊が百万単位で待ち伏せている。切り抜けられないことはないけど、三笠も無事ではすまないわ」

「四十万の飽和攻撃で、シールドが耐えられなかったからな……」

 ダル宇宙域を突破するしかないという気持ちになってきた。

「待って艦長、ダル宇宙域は、恒星が二個あって、その恒星も惑星も公転していないわ。とてつもない負のエネルギーが満ちているような気がする」

「アナライズの結果か?」

「エネルギーそのものは感じないけど、全ての星が動いていないということは、動いていないだけの理由があるはずよ。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、哨戒艦すらここには出していない。状況から考えて未知の何かがある」

「しかし、ここを避けたら、敵の待ち伏せのど真ん中に突っ込んでしまう。確実な脅威に飛び込むよりは、未知の可能性に賭けてみたい。みんなはどうだ?」

 ……………………。

 艦橋のみんなに言葉は無かった。

「しかたがない。ミカさんに聞いてみよう」

 神棚のあるホールにいくと、ミカさんはセーラー服でニコニコ待っていた。

「その顔は、ミカさん、いい答えを持ってるんだね!?」

「ううん、みんなが前向きの気持ちだから嬉しいの。わたしがここにいるというのは、三笠に差し迫った危機がないということだから、みんなが話し合った結果でいいんじゃないかしら」

「ミカさま、お茶の用意ができましたニャ(^▽^)/」
 
 ミケメがワゴンを押してやってきた。他の三人のネコメイドたちも『猫ふんじゃった』をハミングしながらテーブルを整えたり、ティーカップを並べたり。

「気楽だなあ。それで今まで、どれだけの危機に出会ったか」

「でも、結果として三笠は無事でしょ? まだまだ試練はあるだろうけど、大丈夫。いまのあなたたちなら乗り越えられるわ」

「そうニャそうニャ」「みんなもお茶するといいニャ」「ダージリンニャ」「オレンジペコニャ」

「いいのよ、みんなで出した結論で進みなさい。100パーセント問題なしに進める道はないわ。でも、みんなに前に進む勇気が出てきたのなら、それで十分よ」

「そうだねミカさん。決めたんだ、迷わずに前に進むよ」

「そう、それがいいわ。ワープの準備が済んだら、ここにいらっしゃい。ちょっと寛いで、それからワープすればいいから」

「分かった。じゃあ、ブリッジに戻ってワープの準備だ。それから、お茶にして、一気に切り抜けるぞ!」

「「「ラジャ('◇')ゞ」」」


 寛いでいるようだったけど、ミカさんは、それとなくダル宇宙域突破を示唆してくれた。
 
 やんわりとだけど、俺の方針を後押ししてくれた。

「よし、ワープで一気に抜けるぞ。ダル宇宙域は1・5パーセクしかない。最大ワープで抜けるぞ!」

「じゃ20パーセクで」

 トシは、機関室へ向かおうとした。

「いや、100パーセクだ!」

「100パーセクもワープしたら……二三日動けなくなってしまうよ。その間に攻撃されたら、反撃することもバリアーを張ることもできなくなる」

「勘だよ。それだけワープして、やっとダル宇宙域を突破できるぐらいだと思う」

「でも」

「ものごとやってみなければ、前には進めん……だろ」

「う、うん」

「よし、では100パーセクのワープの準備をして、お茶会だ」

 了解!!

 みんなの声が揃って、三笠は能力の五倍を超えるワープの準備に入った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:021『ダイブの鍵』

2023-02-26 04:37:24 | 時かける少女

 RE・

021『ダイブの鍵』   

 

 

 ドッシーーーーーン!!

 
 いまどきアニメでも使わないような擬音が鳴り響いて倒れた。

 アイターーー!!

 これまた戦車アニメの戦車隊長が吶喊直後に撃破された時のような悲鳴が出た。

「ごめんなさい、急いでたもんだから」

 スカートを掃いながら立ち上がって絶句した。

「け、健人! なに女装してんのよ!?」

「イ、イテーなあ……くそ、食べかけのトーストがあああああ、邪魔すんなよテル!」

 砂まみれのトーストを投げ捨て、ズレたボブのウィッグを直しながら健人は行ってしまった。

「なによ、意地も誇りもないってかあ! 舐めてんのか照姫を!」

 ドラゴンボールの敵役みたく仁王立ちしたわたしはテル、小早川照姫(こばやかわてるき)と名乗るようだ。

 前回は三十年前の世界にデフォルトの自分で飛び込んだけど、今回は、その上に上書きされた人格のようだ。詳細は分からない、とにかく走る!

 砂ぼこりを払って健人の後を追うころには、テルの人格に成りきっていた。

 視界の左上はインターフェイスのようで。レベル・3 経験値・5 HP・55 MP・55と表示されている。

 
 他にもいろいろ表示があるが、先を急がなきゃならない。

 
 健人はつまらない賭けをしやがった。

 マヤのグループとどっちが先にダイブするかで賭けたんだ。

 マヤのグループは揃って成績優秀、スポーツも、それぞれ運動部の部長が務まるくらいの奴ばっかり。

 タイマンならまだしも、一対七、あっさり負けを認めれば恥をかくだけで済んだのに、マヤの挑発に乗ってしまった。

 
 これを着て八時までに登校したら一緒にダイブさせてやるわよ( ´艸`)。

 
 そう言って投げ出された女子の制服。

 恥ずかしい真似はさせられない! たとえ遅れてダイブすることになっても見っともない真似はさせない! メッセを打ちながら後を追う。

―― 馬鹿な真似なんかしねーよ ――

 返事は返ってきたけど、馬鹿な真似の意味がわたしとは違うんじゃないか?

 予感がして寄ってみたら、このざまだ。

 
 馬鹿はよせ……

 
 祈りながらの学校へ。

 昇降口を二階へ上がってすぐの教室に入ると、誰も居ない教室の真ん中に健人は立ちつくしていた。

「なんちゅー格好なのよ!」

「るっせー」

 汗みずくの崩れた女装が痛々しいを通り越して不潔で惨めったらしい。

「テルとぶつかってなきゃ……」

「人のせいにすんな!」

「あいつらだけじゃ勝てっこないし、俺が一人ダイブしたってどれほどのこともできゃしねーよ」

「ただのゲームに、なんでそこまでムキになんのよ」

「テルには分かんねーよ」

 そう言うと、健人は背中を見せて後ろのドアから出て行こうとした。

 あーーーイライラする奴だ!

「どこにいくのよ」

「屋上からダイブする。地上スレスレで飛べば追いつくかもしれない」

「100パーセント死ぬよ」

「俺なら行ける」

「止してよ、創立記念日の学校で女装のまま墜落死するなんて!」

「…………!」

 

 キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン……

 

 健人が抗弁しようと息を吸ったところでチャイムが鳴った。

 健人の目からホロホロと涙の粒が落ちていく。

 どうやらチャイムがタイムリミットの合図であったようだ。

 
 分かったア、わたしが付いて行ってやるから。

 
 無意識にポケットから出したのは……ダイブの鍵だった。

 
 で、ちょっと待って。この設定って、中二の時にプロットの状態で放り出したラノベの設定に似ている。ヘタレの幼なじみを異世界の中で鍛え直すって物語……その冒頭の部分に似ている。

 えと、このあとどうなるんだったっけ? 幾百と書いたプロットやアイデア、中には途中で挫折したのもあって、この先の展開が思い出せない……だめだ、チャイムがリフレインのキンコンカンコンを打ち始めた!

 ダイブの鍵。

 ……とても危険なものなんだというアラームが頭の中で明滅している!

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

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