大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 106『皿鉢料理』

2023-02-03 16:20:37 | ノベル2

ら 信長転生記

106『皿鉢料理』茶姫 

 

 

「さあ、行くよ!」

 

 踵を踏み潰したローファーをつっかけると、さっさと昇降口を出ていく孫市。

 ちゃんと履いた分、遅れたが、校門を出る時には横に並んだ。

「元康も来れば良かったのにね」

「慎重だからね、元康は」

「慎重?」

「…………」

 しまったかな。オウム返しに言ったまでだが、ニュアンスが『臆病?』になってしまった。

 仮にも戦国の英雄たちが転生してきているんだ、いわば民族の英雄。それを臆病はまずかったか。

「いや、慎重なのよ『鳴かぬなら 鳴くまで待とう時鳥』だからね。こっちに転生するときも『いきなり家康で転生しては驕りが出る。竹千代からやり直す』って言ったんだけどね、学院は高校だから、小学生は入学できませんと言われて元康から始めてるのよ」

「そうか、真面目なのね」

「ふふ、あれで抜け目も無い。だって、うちの生徒会長は今川義元で、元康ってのは義元が付けた諱(いみな)だしね」

「媚びたのか?」

「ふふ、棘があるわよ」

「あ、ごめん。男には、つい厳しくなってしまう」

「おかげで、苦労もしている。まあ、大目に見てやって」

「うん、すまない」

「もう、そんなに硬くならないでよ。あたしは100%楽しいんだからさ、大っぴらに学園に行けて!」

「フフ、そうだったね」

 学院と学園は行き来が禁じられているわけではないが、さすがに授業中に足を踏み入れるのは憚られる。授業中に行ったからといって、どうということもないと思うのだが、他の学園生はやったことが無いという特別感が嬉しいのだろう。こういう子どもっぽさは好ましい。

 

 言ってるうちにバス通りに出て、ちょうどタイミングよくやってきた巡回バスに乗って、転生学園を目指す。

 今日は、午後から転生学園に初登校の日なんだけれど、生徒会の配慮で、孫市といっしょに行くことになったんだ。

 

「いやあ、よう来たぁ! 今川生徒会長からも電話をもろうて『宜しゅう』と言われたぜよ。学校言うがは不便なもので、受け入れるとなると教師か生徒の二択しかないきね、生徒の扱いだけんど、自由にやって、心身ともに癒してちょうだい」

「はい、ありがとうございます。あ、福田校長の紹介状です」

「あはは、こりゃご丁寧に。うちから従三位さまに渡いちょくわ」

「従三位さま?」

「ああ、うちらは、そう呼んじゅー。気さくな方で、学校の事は、生徒会に任せてくださっちゅー。学園の方もそうろう?」

「いや、まだ転生に来て日が浅いので、紹介状も今川会長から伝達されました」

「そうろうそうろう、それから、うちには敬語使わいでええきね」

「しかし……」

「うちは土佐は高知の郷士の子やき、丁寧な言葉遣いというのには慣れいでねえ。海近くの育ちは、まあ、こがなんなのよ。ねえ、孫市」

「そうだそうだ」

「うちも、リュドミラが三国志の方に行っちゅーんで、射撃部の指導ができる者がおらんでさ。良かったら、孫市も時どきでええき指導に来ちゃってよ」

「ほんと!?」

「本当じゃあ! 謝礼は学食ランチ回数券一か月分やし! どうぜよ?」

「オッケーオッケー!」

「そうか、それなら、まずは歓迎会や。あ、クラスは市と同じ七組や、そうや、市も呼んじゃろう!」

 乙女生徒会長は、授業中であるにも関わらず、校内放送で市を呼び出すと学食……と思いきや、駅前の『皿鉢料理』の店に連れて行ってくれる。

「さらはち料理?」

「皿鉢と書いて『さわち』と読むがよ。学食でも出すけんど、やっぱり生きの良さでは専門店だしね」

 見ると、孫市は、きちんとローファーを履いている。むろん、踏み潰した踵には痕がしっかり見えている。TPOは心得ているようだが、こういうところが孫市らしい自己演出なんだろう。

 遅れてやってきた市は、三国志に居た時、家で信長といっしょに居る時とは、また違う、キリッとした女学生ぶりが、結んだリボンの端にまで現れていて好ましかった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・104『感情の記憶』

2023-02-03 06:43:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

104『感情の記憶』 

 

 


 柚木先生が慌てて稽古場にやってきた。


「たいへんよ、ハルサイの公演が早くなっちゃった!」

「「「「えーー、どういうことですか( ゚Д゚)!?」」」」」

 四人は声をそろえて驚いた(むろん乃木坂さんの声は、柚木先生には聞こえない)

「会場のフェリペがね、設備の故障で五月には工事に入るんで一ヶ月前倒しだって!」

「ええ、そんなあ……」

「間に合うかなあ……?」

「……なんとかしょう!」

 乃木坂さんが言った。

「なんとかなる?」

「だれと、しゃべってんの?」

 うかつに乃木坂さんに返した言葉を先生に聞きとがめられた。

「あ、二人に言ったんです! 里沙と夏鈴に。で、間をとって二人の真ん中に……はい(^_^;)」


 その日から稽古は百二十パーセントの力が入って、乃木坂さんの演出にも熱がこもってきた。


「君たちの演技は形にはなっているけど、真情がない。地上げの仕事への熱意が偽物だ。都婆ちゃんの子ども三人は、狡猾だけど、そうなってしまった人生の背景が感じられない。悪役は、ただ凄めばいいというものじゃないんだ。それに都婆ちゃんの孤独感というのはそんなものじゃない。他に迎合せず、孤高のうちにも孤独を貫き通す覚悟、そして、その覚悟をも超えてやってくる真の孤独の淵の深さ、それが出なくっちゃ(;`O´)!」

 はい……(-_-;)

 乃木坂さんの指摘は的確だけどキビシイ。だてに何十年も幽霊やっていない。

「君達の人生は、まだ浅い。理解しろと言う方が無理なのかもしれないなあ」

「だって、無理だよ。分かんないものは、分かんないもの」

 夏鈴が正直に弱音を吐く。

「馬鹿、そんなことを言っていたら、殺される演技や殺す演技は誰も出来ないことになるじゃないか!」

「それは……そうなんだけどね」

「……ごめん、つい感情的になってしまった。もっと分かり易く言わなくっちゃね」

 それから乃木坂さんは根気強く、かみ砕いて教えてくれた。

 たとえば、寂しさというのは、目の下の上顎洞という骨の空間から、暖かい液体が口、喉、胸、腹、脚を伝って地面に吸い込まれるイメージを持つこと。老人の腰は曲がるんじゃなくて、落ちる(後ろに傾く)ものなんだということ。で、そのバランスをとるために上半身が前傾し、膝が曲がる。そして、そのいくつかは、はるかちゃんがビデオチャットで教えてくれたことと同じだった。

 分からないことがもどかしかった。孤独を淋しさと置き換えてみた。

 ひいじいちゃんとのお別れ。これはガキンチョ過ぎて、分からない。

 中学の卒業……卒業してからもたびたび行ってたので、このイメージも希薄。

 忠クンとの空白の一年。いつでも、その気になれば会えるという、開き直ったお気楽さがあった。

 はるかちゃんの突然の引っ越し……これは心の底に残っているけど、去年のクリスマスで、再会。この傷は、完全に治ってしまった。

 感情の記憶は、その時の物理的な記憶を残しておかないともたないらしい。何を見て何を触って、なにが聞こえたか、その他モロモロ。

 マリ先生が学校を辞めて、乃木坂の演劇部がつぶれたのは記憶に新しいけど、これは、演劇部再建のバネになってしまって、思い出すと活力さえ湧いてくる(`0´)。

 人間の感情って複雑だってことが分かる程度には成長しました……はい。

 潤香先輩……これも奇跡の復活で、痛みは遠くなってしまっているし……。

 われながら、痛いことはすぐに忘れるお気楽人間だ(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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