大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

パペッティア・006『ドーン!!』

2023-02-12 09:27:30 | トモコパラドクス

ペッティア    

006『ドーン!!』晋三 

 

 

 みなみ大尉は車を路肩に停めると、まりあを引きずるようにして路地に跳び込んだ。

「どこへ行くんですか!?」

「シェルター! 万全じゃないけど地上にいるよりはまし!」

 ズウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 ビルの谷底から見える四角い空を巨大な何かがよぎった。

「みなみさん、あれは!?」

「ヨミよ」

「あれが……」

「さ、急ぐわよ!」

 俺もぶったまげた。二十年前に東京とその周辺を壊滅させたヨミのことは知識としては知っていたが現物を見るのは初めてだ。


 瞬間見えたそれは、巨大なクジラを連想させて圧倒的ではあったけど、かっこいいと感動してしまった。
 流行りのレトロ表現でいうところの仮想現実に慣れた俺たちは、瞬間圧倒されても、ゲームの中でラスボスに出会ったぐらいにしか感じない。


 しかし、路地を出て二つの角を曲がって目に飛び込んできた光景は、凶暴なリアルだった。

「う、なんてこと……」

 それまで敏捷に夏子をリードしてきたみなみ大尉は立ちつくしてしまった。

 夏子は大尉に手を繋がれたまま青ざめてしまい、俺は胸ポケットの中で妹の止まらない震えを感じていた。

 仮想現実は視覚的にはリアルと区別がつかないが、そのリアルは視覚とグローブを通した触覚だけだ。目の前のリアルには全身で感じる熱と臭いがある。

 そこは、大地に骨格があったとしたら大きく陥没骨折をしたような感じだ。

「シェルターが壊滅している……」


 陥没骨折の亀裂からはホコリとも煙ともつかないものが噴きあがり、それは見る見るうちに炎に取って代わられた。
 それが数百メートル離れた交差点には圧を持った熱と臭いとして届いてくる。

「ウッ、この臭い」

 夏子は制服の襟を引き寄せて鼻と口を覆った。

「崩れた鉄筋とコンクリートが焼ける臭い…………人が焼ける臭いも混ざってるわ」

「中の人たちは?」

「過去にこうむったどんなヨミの攻撃からも耐えられるように作られている……」

「あ、あれは?」

 その時、西の方角から大量のミサイルが飛んでくる音がした。

「軍の攻撃が始まったの?」

「ええ、でも時間稼ぎにしかならない……伏せて! 耳を塞いで口を開けて!」

「は、はい!」

 やがてミサイル群が飛んで行った彼方に小さな太陽のような光のドームが膨らんだ。

 ドーーーーーーーーーーーーン!!

 ウグ!

 閃光! 衝撃! 

 地面と夏子の胸に挟まれて過去帳の俺も息が詰まりそうになる。

 遅れてハリケーンのような暴風がやってきて、ありとあらゆる破片やゴミやホコリを巻き起こしながら吹き荒れ、あたりは真夜中のようになった。

 五分……ひょっとして一時間かもしれない時間が過ぎて、ようやく曇り空ぐらいに回復してみなみ大尉は顔を上げた。

「さ、もう一つ向こうの交差点で救援を待つわよ」

「は、はい」

 

 そして、やがてやってきたオスプレイに救助されて現場を離れた。

 

 数キロ離れた海上にヨミの上半分が突き出ている。なんだかオデンの出汁の中に一つだけ残った玉子のように見える。

「やっつけたんですか?」

「球体だから、まだ生きてる。球体はヨミの避難姿勢だからね。球体が一番衝撃に強いの。ダメージを受けてはいるけど、ヨミはすぐに復活する……」

 そう言われると、玉子に似たヨミは僅かに鼓動しているように見えた。

「怖い?」

「えと……オスプレイの振動です」

「頼もしいわ、ナッツ」

 大尉は夏子の頭をワシャワシャと撫でた。

 普段は、こういう子供にするようなことをされると嫌がる夏子だったが、ベースに着くまで大人しくしていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉

 

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RE・かの世界この世界:007『二日後に戻る』

2023-02-12 07:30:59 | 時かける少女

RE・

007『二日後に戻る』   

 

 

 そのまま二日後を迎えた。   

 
 ヤックンに告白させなかったんだから、冴子も穏やかなはずだ。

 昇降口へ下りる階段で冴子に呼び止められることもない。

 従って、昇降口で乱闘になることもなく、不可抗力とは言え冴子を殺してしまうこともない。

 制服のブラウスを朱に染めて逃げ回ることも無ければ、旧校舎の屋上に追い詰められることも無いし、飛び降りて頭蓋を柘榴のように割って脳みそをぶちまけて死ぬこともない。

 
「このまま神社行く?」   

 
 終礼が終わって廊下に出ると冴子が待っていた。

 お祭りの準備と巫女神楽の稽古が佳境に入って来たのだ。三回目の巫女神楽とあって、冴子もわたしもWKだ。

 WK、つまり期待と緊張。

 神社の記録でも三回の巫女神楽をやった例は江戸時代に一度あったきりだそうだ。

 巫女の病気とか事故とかじゃなくて、あまりに美しい少女だったので、神さまも――十八になるまで務めさせよ――とご託宣されたんだとか。その時は一人舞の神楽を三年続けたそうだ。

 わたしと冴子の場合は、単に舞手の子が入院したからなんだけど、それでも評判や期待は上がる。

 冴子は、ヤックンへの想いもあって、三年連続の巫女神楽をやったらチャンスも増えるし、ひょっとしたら江戸時代の先例にあやかって、少しは魅力的になれるかと口には出さないけど思っている。わたしもそうだけど、冴子もラノベとか書くから、そういう伝説めいたことに気持ちが傾斜する。

 
「ちょっと寄ってくとこがあるから、先に行っといて」

「あ、うん。じゃ、そこまで……」

 そう言いかけて、中庭の方へ足を向けたので――あれ?――という顔になる冴子。

「三年の先輩に……」

 あいまいに旧校舎と芸術棟が重なるあたりを指さす。

「そか、じゃ、ヤックンとおさらいしとくね」

「うん、破のところで微妙に合わないから、しっかりやれって言っといて」

「ハ?」

「序破急の破」

「ああ、その破ね。テンポ変わるからむつかしいとこだもんね」

「もう三回目だしね」

「そうだね、きっちり決めたいもんね」

「じゃね」

 自然な形で、冴子とヤックンが一緒になれるようにという思いもあるけど、それは考えない。

 
 とにかく、とりあえずは、志村・中臣両先輩に報告と相談だ。

 旧校舎の扉を開くと、そこはかとなくヒンヤリ。

 わたしは中廊下の奥を目指した……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

 

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