大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・41『甲府城・2』

2023-02-17 16:23:10 | 小説3

くノ一その一今のうち

41『甲府城・2』 

 

 

 え、わたしからですか?

 

 待ち合わせの稲荷櫓の前で落ち合うと「ノッチが想うところを聞かせて」と涼しい顔で言われる。

 三村紘一、いや、課長代理なんだから、なにか見通しがあってのことだとお昼ご飯もロケ弁一つで済ませた。

 もう一つや二つ食べたかったんだけど(忍者は食べられるときに食べておく=風魔流極意)、猿飛佐助たち木下の忍者たちとの戦いも予想される。食べ過ぎては体が重くなる。

「僕なりに見えてきたこともあるんだけど、十分とは言えない。被っても構わないからノッチの感想を聞かせてほしいんだけどね」

 脚本家三村紘一として喋っているから優しいんだけど、課長代理服部半三としての狙いが潜んでいる。

 上忍として下忍を教育すると意味もあるだろう、ゴクンと唾を呑んで答える。

「城はJRによって南北に分断されています。これは、単に鉄路施設の適地を選んだためですが、信玄公以来続いてきた武家勢力の命脈を断ち切るという明治政府の底意が窺えます。城址公園としての整備が行き届いていますが、石垣と城門の復元に重点が置かれ、天守閣の復元などの一点豪華主義に走らず、城としての構えに力が注がれていることが見て取れます。その中にあって、この稲荷櫓のみが独立した櫓として復元されています。これは、下を走る列車からの景色を意識したためだと思います。単に、近隣県民のみならず、通過する旅行客にもアピールする狙いがあるんだと思います……」

 パチパチパチパチパチパチ

「素晴らしい、ノッチは明日からでも甲府市の観光課長が務まりそうだ!」

 ムグ……これは誉め言葉ではない。肝心の事が抜けていることを「観光課長が務まりそうだと」冷やかしているんだ。

「ひとつ伺っていいですか?」

「なんなりと、でも、口を尖らせるのは止しましょう」

 プ

 目にもとまらぬ早業で頬っぺたを挟まれて空気が漏れる。

 アハハハ

 いっしょに笑ってしまう。くそ、なんだか年の離れたカップルみたいじゃないか!

「え、えと……あそこ、本丸に謝恩碑があるじゃないですか、明治の大水害で明治天皇が復興援助されたときの」

「ああ、山梨県民の謝恩の心が現われていて、けっこうな石碑だね」

「忠魂碑や兵隊さんのお墓もそうなんですけど、なんで、オベリスクの形になってるんですか?」

「あれはオベリスクでは無いんだ」

「でも、あの形はエジプトに起源があって、ワシントンDCとかにもあるじゃないですか」

 ちょっと主題からは離れているんだけど、カップル擬装としては適当だろう。

「あれは、方尖塔と云ってね、ちゃんと神道に則った様式で、明治の初年には確立されたものなんだ。だから戦後は国家神道に繋がると忌避されて作られなくなった」

 へえ、そうだったんだ。

「でも、謝恩の気持ちを表すなら天守台の方が良かったんじゃないですか、天守台の方が高いし」

「甲府城に天守閣があったという確証は無いんだ。天守台までは作ったんだが、江戸城の天守も明暦の大火で焼けてしまったからね、遠慮があったのかもしれない……うん?」

「なんですか?」

「今度はノッチの手で僕の頬っぺたを挟んでくれないか?」

「え?」

「いいからいいから(^▽^)」

 言われて周囲に気を飛ばした……微かにだけど、こちらを窺う気配が二人分。

「いや、三人分だ」

 やっぱり課長代理は鋭い。ここは年の離れたカップルでいかなきゃ。

 膨れた三村紘一の頬っぺたを両手で挟んで圧を加える。

 

 プゥゥゥ~~

 抜けた空気は口からではなくお尻から出た(#^_^#)。

「もお!」

 直後、三人分の気配は霧消した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・かの世界この世界:012『ループ』

2023-02-17 07:17:04 | 時かける少女

RE・

012『ループ』   

 

 

 いちど帰宅してから神社に向かう。

 
 巫女神楽は三度目だけど、二度目が終わった時に心の糸が切れているので、形はともかく気持ちが入ってこない。

 日数が無いのですごく集中する。

 バイト同然の巫女仕事に力を入れてもと思われるかもしれないけど、わたしも冴子も、そういう性格だから仕方がない。

 左手に榊、右手に神楽鈴を持って、舞台中央で冴子と交差する。

 シャリン! トン!

 鈴を打ち振ると同時に、右足で床を踏み鳴らし、踏み鳴らした勢いのまま旋回して冴子と向き合う。

 勢いも良く平仄も合って、宮司さんも満足そうに微笑んでいる。

 三間(5・4メートル)向こうの冴子、軽く眉間に力が入って、それがとても美しい。

―― 光子も美しいよ ――

 冴子が目の光だけで言っている。

―― でも、わたし負けないから ――

 そう続いて、さらに冴子の表情が引き締まる。後ろではヤックンがお囃子の中でわたしたちを見ている。

 ヤックンに近づいちゃいけない。ヤックンにコクるきっかけを与えちゃいけない。

 その思いだけでお稽古を終わり、サッサと着替えて宮司さんたちに挨拶。

「お先に失礼します」

 ペコンと一礼、

 視界の端で、ヤックンが立ち上がる気配。

 ダメだ、わたしを誘っちゃ!

「一緒に帰ろ!」

 二人の間に冴子が立ち上がる。冴子も信じられないくらい早く支度を済ませている。

 わたしとヤックンを二人っきりにしたくないんだ。

「そうだね、じゃ、鳥居のとこで待ってる」

 二人とも装束を仕舞えていないので、わたしが先に出る。

 
 鳥居の所で待つこと二分ほど、社務所の陰から二人のシルエット。

 陰気なのはいけない、肩の高さまで手を上げてヒラヒラと振る。冴子も明るく返してくる。

「じゃ、いこっか」

「「うん」」

 声が重なって鳥居を出る。ボス戦のダンジョンに踏み入ったように緊張する。

 ここから帰宅するまでは、親しい友だちを演じなければならない。

 三人揃ってというのは久々のはずなのに、何度もやっているような徒労感がある。

 
 寺井さん

 夜道の斜め前から声が掛かる。

 
「あ、中臣先輩!?」

「こんな時間にごめんなさい、ちょっと部活の事で話があるの。寺井さん借りてもいい?」

「ごめんね。二人で帰ってくれる?」

 少し戸惑ったような顔をしたが、うん、じゃね。と二人連れで帰っていく。

 この帰り道のどこかで、冴子がコクればいいのに……そう思うけど、冴子はヤックンがコクるのを待っているんだ。自分からコクるなんて百年待ってもやらないだろう。

 二人が闇に溶けるのを待って、先輩が口を開く。

「これで、108回目……」

「え、なにがですか?」

「三人で帰るのが」

「え、えと……話が見えないんですけど」

「ヤックンに告白させないまま三人で帰るのが107回あったの。そして家に帰って玄関を開けると、今日の夕方に戻って、また神社に急ぐ」

「え、そんな?」

「学校を帰ってから、この瞬間までがループしてるの」

「ループ?」

「……うん」

「ヤックンに告白させないために、無意識に時間を巻き戻している」

「もう、旅立たなければ無限ループの闇に落ちてしまうぞ」

 いつの間にか志村先輩も現れて、咎めるように腕を組んでいる。

「このままでは、光子、あなたが世界の綻びになってしまうわ」

「そうなったら、今度は光子を……」

「時美」

「すまん……しかし、そこまで事態は進んでいるということだ」

「…………」

 
 二人の真剣さに、ゾゾッと背中を怖気が走った……。

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長
  •  

 

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