大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・179『赤間関』

2023-09-01 14:32:05 | 小説4

・179

『赤間関』胡蝶 

 

 

 トラコン(虎ノ門コンプレックス)はリトマス試験紙のようなものだ。

 

 虎ノ門ヒルズと呼ばれる地域にある住宅と商業の複合施設で、増加しつつある移民と扶桑人を混住させてスラム化するのを防いでいる。

 今のところは、多民族共生がうまくいって、少々猥雑ではあるが活気のある国際街として外国人旅行者にも人気の街になっている。

 上様直属の隠密としては異例に長く、新設された虎ノ門の大型交番を預かって三年。

 隠密が、他の部局に籍を置くのは、あくまで擬態なんだが。ほとんど本職になってしまった感がある。

 トラコン及びトラヒルが我々の手に余るようなことになった時、それは、扶桑が鎖国する時だ。

 野放図に移民を受け入れていては、扶桑そのものが倒れてしまう。

 だから――ここまで――という時を見極めるために虎ノ門交番があり、そこの所長をわたしが務めている。

 

「殿下」

 

 しばらく使っていなかった敬称で声をかけたので、さすがに緊張の表情を向けられる心子内親王殿下。

「なんでしょうか、胡蝶さん」

 殿下も役職名の所長とは呼ばれない。

「御城にお戻りいただきます」

「いよいよ限界ですか?」

「昨日、殿下と交代で入った北町の同心二人がやられました」

「殺されたんですか!?」

「重傷と軽傷です。奉行所に戻るまでは辛抱していたのでトラコンでは知られていませんが、トラコンにもいろいろ流入して来ている様子です。わたしも任を解かれ、別の任務に就きます」

「そうですか……残念ですが仕方ありませんね。荷物をまとめます」

 

 殿下の準備ができるころには、南町奉行所から後任の所長と所員二名が到着し、引き継ぎもそこそこに御城に戻る。

 

 そして、今日は元の小姓頭(隠密9課隊長)として、穴山彦と国境の赤間関に向かっている。

「どうだ、このまま実働部隊に所属しては」

「いやあ、勘弁してください。ぼくはあくまで文官です(^_^;)」

「そうかぁ、交番勤務ではなかなかだったじゃないか」

「いや、ドンパチとか力技とかは一度も無かったですから」

「それが力なんだ。ドンパチやるのは愚の骨頂だ、やらずに済ませるのが真の力だ。停めて……」

 言い切らないうちに車を停めてくれる。

 

 赤間関というのは新しい地名だ。

 

 以前は緯度と経度の座標でしか呼ばれなかった。

 マス漢他五か国と扶桑の間にある砂漠地帯、その扶桑寄りの荒れ地。

 ここで数年前にマース戦争当時の犠牲者のミイラが発見された。ミイラは扶桑軍の兵士のもので惨い扱い方がされた痕が歴然だった。発掘が進むと他にも三か国のミイラが発見され、三年前に戦争史跡に認定され外国人も訪れるようになって、赤間関と名を付けられた。平和が続くようなら史料館も建てられて観光地になったかもしれない。

 その赤間関が不法の移民の流入口になっている。慰霊と称してここを訪れ、そのまま扶桑に居ついてしまうのだ。

 

 黙祷

 

 たとえ任務とはいえ、慰霊碑の前を素通りするわけにはいかない。

 ほんの二十秒ほど首を垂れる……振り返ると、守備隊司令の少佐が立っている。

「先輩が来られるとは思いませんでした!」

 敬礼した手を下ろすや否や少佐は懐かしさを溢れさせた。

「そんなにビックリしてくれたら、エドからやってきた甲斐があると言うもんだな。守備隊長の橘少佐だ。こちらは隠密課の穴山彦だ、わたしの副官をやってもらっている」

「隠密課祐筆の穴山です」

「穴山……ご老中の?」

「息子だ、こいつはゆくゆくは老中になるぞ。サインでももらっておけ」

「勘弁してください、隠密課で老中になったものは居ませんから」

「だからこそ値打ちがあるんじゃないか、今度の任務は目立ってなんぼだ。少佐、敵の目玉は残っているだろうな?」

「はい、五機は破壊しましたが一機は残してあります。外すのに苦労しました」

「すまん、自然な形で露出しなくてはならんのでなあ。その一機はどこだ?」

「は…………」

「そうか。ヒコ、あの三時方向の岩山に石を投げろ」

「え、石をですか?」

 ブィーーーン

 岩の一つに羽が生えたかと思うと、西に向かって飛んで行く。

 ビシ

 監視哨からレーザーが伸びて、あっという間に撃墜してしまう。

「あんなにハッキリ姿を現されては墜とさざるを得ません(-_-;)」

「これで監視は衛星だけになるだろう、ほどよく見せるというのが大事なんだ。さあ、塀の視察に行くぞ」

「「はい」」

 ヒコと少佐が同時に返事をして、国境の塀の視察に向かう。

 当然、敵には見られている。

 

 それでいい、隠密9課のトップが視察しているという事実が大事なんだ。

 隠密9課とは将軍直属、つまりは将軍が直接見ているということと変わりなく、その上で不法移民を送って来るとなれば、ケンカを売っているに等しいからな。

 それに、これだけ露出しておけば、ヒコが実働部隊に回されることも防げると思う。

 ヒコはいつまでも隠密課に留めないで外務奉行に戻してやった方がいいからな。

 

 車が左にハンドルを切ると、先日完成したばかりの塀がうねりながら地平線にまで伸びていた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・4『友子の初登校』

2023-09-01 06:49:36 | 小説7

RE・友子パラドクス

4『友子の初登校』  

 

 

「今日から、クラスに新しい仲間が増えます。みんなよろしくね。じゃ、鈴木さん入ってきて」

 

 柚木先生の紹介で、友子は教室のドアを開けた。

 すでに廊下に人の気配を感じていた生徒達は、拍手と共に好奇心むき出しの目で友子を見た。

 パチパチパチパチパチパチ

 友子は、ほどよく頬を染め、うつむき加減で教壇の隅に立った。

「こんど、お家の事情で乃木坂学院に転校してきた鈴木友子さんです。鈴木さん、一言どうぞ」

 友子は、緊張した顔で、教壇中央をめざしたが、教壇の端のリノリウムの出っ張りに足を取られて、前につんのめり、こともあろうに柚木先生の胸を両手で掴んでしまった。

「キャ(; ゚゚)!」「ウワ(*゚◇゚#)!」「アア~(☉∆☉)!」

 という声が、順に、友子、柚木先生、生徒(主に男子)からあがる。

 数秒フリーズして友子は手を離した。

 柚木先生も、同性とは言え胸を鷲づかみにされたのは初めてなので、かなり動揺した。

 

「おもっさっげね!」

 

 初めて見る担任の動揺、可憐な見かけとは裏腹な友子の方言に、教室は湧いた。

「あ……ども。鈴木友子です。えと盛岡の出身です。隠しておこうと思ったんだけど、柚木先生の胸デッケーんでつい方言が出てしまいました。まんず……まず、これから、よろしくお願いします!」

 ゴツン!

 ペコリと頭を下げると、友子は教卓に思い切り頭をぶつけてしまった。

「いでー……」

 切れてはいなかったが、オデコの真ん中が赤く腫れてきた。

「鈴木さん、よかったら、これ使って(^_^;)」

 イケメン保健委員の徳永亮介が、サビオを二枚くれた。

「ありがとう……」

 指定された席に着くと。友子は鏡を見ながらサビオを貼った。しかし、その貼り方がフルっているので、柚木先生が吹きだし、それで注目した生徒達がまた笑い出した。

「その貼り方……」

「だって、カットバン貼るのオデコだから、少しはメンコク、いえ、可愛くと思って……」

 友子のサビオは、見事な×印に貼られていた。

「盛岡じゃ、カットバンて言うの?」

 隣の席の浅田麻子が、小さな声で聞いた。

「え、東京じゃ、そう言わないの!?」

「声おっきい。バンドエイドって言うのよ」

「ああ、バンドエイド。書いとこ……」

 友子が生真面目に生徒手帳に書き出したので、またみんなが笑った。で、また友子の顔が赤くなった。

 

 噂は昼には学校中に広まった。

 

 なんせ初手からズッコケて柚木先生の胸を鷲づかみにし、オデコに×印のバンドエイドである。職員室でも「柚木さん、あなた着やせするタイプ?」と同僚の女の先生から言われた。

「どうして?」

「だって、鈴木友子が、そう言ってるって。Dはあるってさ」

 そこに運悪く、朝礼で出し忘れた書類を友子自身が持ってきた。

「鈴木さん!」

「はい?」

「人の胸のこと話の種にしないでくれる!」

「いいえ、わたしはなんも……」

「だってね……!」

「あ……男子が、先生の胸でっかかったかって聞くもんだから、わたしよりは大きいって、そんだけ」

 柚木先生は友子の胸に目を落とした。たしかに友子の胸は小さい。

「話に尾ひれが付いたのよ。鈴木さん責めるのは可愛そうよ」

「んでも、先生の胸は大きくっで、わたし感動したんです!」

 友子は地声が大きいので、職員室のみんなが笑った。バーコードの教頭などは、洗面台の鏡に映る柚木先生の胸を、しっかり観察していた。

 

 お昼は、仲良くなった麻子の仲間といっしょにお弁当を食べた。

 

「わあ、友ちゃんて、ちゃんとお弁当作るのね」

「あーー(^_^;)、ただ冷凍庫にあるものチンして詰め込むだけ。お母さん血圧低いから、お弁当は自分」

「でも、ちゃんと玉子焼きなんて焼くんだ」

「チンしてる間に作れっから」

「一個交換していい?」

「うん、どうぞ?」

「あ、プレーンで美味しい」

「液体のお出汁ちょこっと入れるだけ……麻子ちゃんの、甘みと出汁加減が、とってもいい!」

 そこで、五人ほどのグループで玉子焼きの品評会になった。麻子の玉子焼きに人気があった。

「お、懐かしの蛸ウインナー!」

 友子の遠慮のない賞賛に、池田妙子は、惜しげもなく蛸ウインナーを半分くれた。

「お、お醤油の隠し味だ!」

「うん、焼き上げる直前に垂らすの」

 賑やかにお昼も終わり、放課後になると、柚木先生が遅れてきたこともあり、教室の前は友子見物の、主に男子生徒が集まっていた。

 

 思惑通りに進んでいた。

 

 いずれは現れる敵、目だった方が早く見つけられる……。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田麻子         友子のクラスメート
  • 池田妙子         友子のクラスメート
  • 徳永亮介         友子のクラスメート 保健委員
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