大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・182『アジト閉鎖・1』

2023-09-22 16:09:33 | 小説4

・182

『アジト閉鎖・1』アルルカン 

 

 

 カーーーーーーーーーーーーーーーン

 

 蹴り上げたオイル缶はカラとはいえ、100メートルの高さに舞い上がった。

 ピシュンピシュン ピシュピシュ ピシュピシュピシュピシューーン

 オイル缶は二つのパルス波によって100メートルの高さで踊らされ、三秒後にはほとんど蒸発したように消えてしまった。

 蒸発しきれなかった微細な破片がキラキラと宙に舞う。

 

 アルルカン:50  マーク:50  

 

 チェ!

 

 三度目のスコアが空中に浮かんで、二人の舌打ちが揃った。

「もうよそうぜ」

「なんだ、止めるのかぁ?」

「朝までやってもケリがつかん」

「言い出したのはマークの方だぞ」

「口やかましいボスがいたんじゃ、部下がやりにくいだろうが」

「まあいい、次の予定もあることだしな」

 ガチャガチャガチャ……空中のスコア票が古典的なエフェクトをさせながら、今日、88シュートの成績を表示する。

 88シュート全て50:50

 ガチャガチャガチャ……続いて、今までの99回分の成績を表示する。

 第一回の51:49を除いて、全て引き分け。

「いいのか、わたしの勝ち逃げになるぞ」

「続きはこんど会った時だ」

「フフ、そっちが生きていたらな」

「そっちこそな」

「…………」

「…………」

 ガラにも無く黙りこくって隠れ家に向かう。

 キュ キュ 

「やっぱり鳴き砂か?」

「ああ、ミナホの趣味でな」

 キュ キュ

「わざわざ入れ替えたのか?」

「いや、特殊なパルス波で処理すると、ここいらの砂は変質してこうなる。バルスの新案特許だ」

「ほほう、あの朴念仁がか」

「ふふ、いろいろあってな」

 面白そうなのでわけを聞こうと思ったら、副長のツナカンが気が付いて不満そうな声を上げる。

 

「ええ、もう帰ってきたんすかぁ!? まだバイクの整備終わってないっすよ!」

 

「かまわん、シャトルでいく」

「シャトルって、ステルスだけども光学迷彩じゃないからバレるっすよ」

「そんなヘマはせん」

「まさか、そのまま母船に拉致られるとかねえだろうなあ」

「ヒンメルは心子内親王殿下もお乗せするほど綺麗な船だ、ゴミは乗せん」

「ゴミか、オレは!?」

「あ、ゴミに失礼だったか?」

「この、くされ女海賊がぁ!」

「なにを! この宇宙ドブネズミがぁ!」

「ああ、もう仲がいいのは分ったっすから、さっさと済ませて戻って来てください。カサギの最終チェックもしなくちゃならないんすからぁ」

「ああ、そういうラブコメ風締めくくりはすんなぁ!」

「そーだそーだ!」

「ふん、いくぞマーク!」

「おお!」

 

 シュィーン

 

 図体のわりには、かそけき発進音でシャトルを起動させる。モードをアナログに切り替えると、立ち働く部下たちを尻目に、シャトルは地を這うように扶桑とマス漢の紛争地に向けて飛んだ。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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RE・トモコパラドクス・25『水島……結衣? 昭二?』

2023-09-22 06:34:50 | 小説7

RE・友子パラドクス

25『水島……結衣? 昭二?』 

 

 

「今年の転入生は二人ともかわいいねえ」

 この噂に友子は満足した。

 二人とは友子自身と、今日転校してきた清水結衣だったから。

「でも、今日来た清水結衣ちゃんは、抜群ってか、もうテッペン取ったて感じだよね!」

 この噂には、友子は二つの「し」の付く気持ちを持った……心配。そして、嫉妬。

 もともとが、あの都乃木(都立乃木坂高校)の宇宙人がアテンダント用義体を利用して作った義体だ。スタイル抜群、容姿端麗、眉目秀麗、明眸皓歯(めいぼうこうし)、曲眉豊頬(きょくびほうきょう)、花顔柳腰(かがんりゅうよう) 羞月閉花(しゅうげつへいか)、沈魚落雁(ちんぎょらくがん)、萌え萌えキュンと、CPUの言語野に入っている限りの慣用句を並べても足りないぐらいであった。

 

 ふゎぁぁぁ………(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)(〃♡ω♡〃)

 

 朝礼の時に自己紹介したとき、教室は萌キュンの溜息でいっぱいになった。

「もう……」

 と、眉をひそめたのは友子一人だけだった。柚木先生さえ、その声と顔と姿にほれぼれして、次の言葉がなかなか出なかったほどである。

 その日は、ほとんど授業にならなかった。男子生徒ばかりか、女生徒までが、いや、授業に来た先生たちも、ポーッとして、もう授業は、いつもの半分も進まなかった。

 休み時間には、他のクラスや他学年の生徒まで押し寄せてきて、生活指導の先生が規制に出てきたほどである。

 

 昼休、思いあまった友子はお手洗いに向かう結衣を部室にかっさらった。

 

「なにを、そんなに急いでいらっしゃるの?」

「あのね、し、心配してんのよ(`Д´#)!」

「わたしを……?」

「あなたと学校をね! 分かってんの、今の状況(`◇´#)!?」

「はい、少し困りますねぇ(^_^;)」

「う…………(`皿´#)」

 この、少し眉根を寄せた憂い顔が……癪に障る。

「な、なんとかしなきゃね、とても普通にはやっていけないわよ(`△´#)」

 紀香が入ってきて言って付け加える。

「まったく、マネも、少しは加減してくれなくちゃね」

「あなた、水島昭二だったころの記憶あるのぉ(#>Д<#)?」

「え、水島……結衣。ですけど?」

 

 ああぁ…………(`□´#)

 

「完全に上書きされちゃってる……友子、これインストールしときな」

 紀香が美少女耐性のプログラムを送ってくれて、やっと友子もまともになった。

「ちょっと、結衣ちゃん、ごめん」

 プツン

 友子は、結衣の動力を切った。

「うん、止まれば、ただのかわいいお人形さんだ。今のうちにCPUに手を入れておこう」

「わたしがやる……」

 友子は、結衣のこめかみに両手を当てた。

「…だめだ、ブラックボックスになってる。手伝ってもらえる?」

「分かった」

 左側のこめかみを紀香が替わった。ジーンという低い音がして、途切れた。

「ありゃりゃぁ…………昭二の人格が、義体のCPUに融合しかけてる」

「分離させようか?」

「下手にやったら、バグって元に戻らなくなるぞ」

「ちょっと、わたしのCPUを通してやってみる」
 
 友子はシンパシー(共感)の回路を少しずつ解放し、まだ昭二である部分をコピーしていった。

「どうだ友子?」

「うん……だいぶお兄さんへの抑圧された感情があるわね。ほとんど自己否定してるっぽい。ちょっとお兄さんの映像出してみるね」

 友子は、目の前に昭二の兄である水島昭一のホログラムを出した。

「ああ……見かけで、まず負けてるね」

「素敵な人ね。二枚目にも三枚目にもなれる。相手に合わせて個性を変えられるんだ。智あって驕らず。情にも厚い。ひとの幸せも痛みも感じることができるんだぁ」

「詳しくは『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』をご覧下さいって、とこだね……」

「こんなところでコマーシャル?」

「それが、一番てっとりばやいからさ」

「いい本だもんね」

 

 停止した結衣の目から涙が流れた。

 

「あ……」

「苦しかったんだ、そんな兄貴を持って」

「だから、幽霊になってもダクトなんかに引きこもっていたんだね」

「少し、楽にしてあげよう」

「どうするの?」

「海王星戦争での、昭二クンの活躍、そして、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の中のお兄さんの姿。お兄さんも、こんなに悩んで、こんなに苦労したんだよ。君は知らないだろうけど……いくよ、インストール!」

 兄のホログラムは、結衣と重なって消えた。

「うん、良い感じでインストールできた」

「じゃ、起動するよ」

 

 結衣か昭二か分からないものが目を開いた。

 

「あなたは、だれなの……?」

「……水島結衣……で……水島昭二?」

 その二重人格は、ゆっくり二人に目を向けると、素直なこぼれるような笑顔になった。

「あ、トイレに入ったところで連れて来ちゃったけど、だいじょうぶ?」

「うん、みんな爽やかな涙になって流れたから」

「ええ!?」

「うそうそ、今からお手洗い行って、教室に戻る」

 午後のみんなの態度は落ち着いた。好ましくかわいい子という人間的な印象に変わったようだ。

 

 しかし、放課後は大変だった。

 

 みんながこっそりスマホで撮った写真や動画がSNSで拡散して、マスコミが興味を持ち始めた。結衣が校門を出たとたんに、草むら、路地、駐車中の車、電柱の陰、中には宅配のピザ屋に化けたのたちが、いっせいに現れた。

「すみませーん、通行の妨げになります」

 とかわそうとしたが、ラチがあかない。

「あ、飛行機が落ちてくる!」

 うわああ!

 紀香が、落ちてくる飛行機の3Dで見せたので、みんな蜘蛛の子を散らすように居なくなった。

「ありがとう」

 そう小声で言って、愛すべき二重人格は駅に向かった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格

 

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