鳴かぬなら 信長転生記
モンモンモンモン モンモンモンモン モンモンモンモン……
岩に木霊してなにやら聞こえてくる。
くぐもった響きは過行く夏を怨みながら最後の力を振り絞る蝉のようでもあり、地の底で繰り言を呟く土地神たちの群れのようでもあり、地底の風穴が大地の血流の響きを拾っているようでもある。
「……あれは念仏の響きだウキ」
親父(織田信秀)の葬儀に乱入した時、菩提寺の本堂に満ち満ちていたクソ坊主どもの読経に似ている。
元々は漢語である経を、そのまま音だけ拾ってモンモン唱える読経など、参列者はおろか当の坊主どもも意味など解してはおらん。
それを、さも有難そうに唱える坊主どもも、それに和する参列者の有象無象たちも反吐が出るほど嫌いだった。
リチャード三世も真っ青というような権謀を巡らし、領民や家臣どもから恐れられながらも尾張半国しか取れなかった親父にも腹が立った。
ムカムカして焼香壇に進むと、想いが溢れ、香を手づかみにして位牌に向かってドバドバ投げつけた。
「さらわれた坊主たちに違いないッパ」
「様子を見に行こうブヒ!」
「ウキ!」
岩陰を拾いながら風穴の奥に進む。
「あれだッパ!」
沙悟浄が指差す穴を覗くと、大勢の坊主が特大の平鍋に半身を漬けられモンモン経を唱えているのが見えた。
鍋の中央に薬草や香草が積み上げられたところがあって、我らが三蔵法師がニコニコと経を唱えている。
ボ!
音がしたかと思うと、鍋の周囲に陽炎が立つ。
「あ、いま火をつけたブヒ!」
「とろ火だ、じっくり煮込んでエッセンスを搾り取ろうという算段だッパ!」
「くそ、玉門関で助けてやったというのに、無防備すぎるぞ坊主どもブヒ!」
「俺たちも三蔵法師を取られているんだ、文句は言えないウキ! まずは、鍋の火を止めるウキ!」
「「よし!」」
穴を飛び降り、鍋の周囲を駆け巡る。
「どこにも元栓は無いッパ!」
「これは妖術鍋ブヒ!」
「くそ、元凶を倒さなければ停められないのかウキ! 羅刹女の居所を突き止めるウキ!」
「この岩山のどこかに居るブヒ!」
「やみくもに探しては鍋が煮えてしまうウキ、なにか目星、ウキ!」
「そうだ、いまは牛魔王が来てるブヒ、牛魔王はデカイから目立つブヒ」
「いや、今は人の形だッパ」
「じゃぁ、しらみつブヒ!?」
羅刹女の岩山は全山が軽石のように無数の岩室がある、探すとなると手間取りそうだ。
「いや待て、人の姿ということは……お楽しみに至る可能性が高い、いや、真っ最中かもしれんッパ」
「ブヒ、お愉しみ(n*´ω`*n)!?」
「牛魔王の本性は黒牛、牛の体温は40度もあるし体臭がきつい、ヒト化してましにはなっているだろうけど、狭い岩室、きっと換気をしているに違いない。臭いと温度を探るッパ」
「よし、ウキ!」
坊主たちの鍋も少しずつ温度が上がって、そこからも熱が放散され始め、そこの放熱と区別がつきにくくなる。いや、うかうかしていては、三蔵法師も坊主どもと諸共に煮上がってしまう! 時間の問題だ! 時間の勝負だ!
俺たちは、岩山を駆けまわって羅刹女の岩室を探した!
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主