くノ一その一今のうち
航空便は卒業証書のような筒状で、封を切ると、勢いよく丸まったのが飛び出し、空中でシャキンとした。
「ああぁ、やっと楽になったぁ!」
プルンと音を立てて真っ直ぐに伸びたのは、帝国キネマのえいちゃんだった!
「え、えいちゃん!?」
「はい、帝国キネマの長瀬映子、ただいま到着しました('◇')ゞ!」
「え、え、なんで?」
「所長から出向を命ぜられました!」
「出向?」
「はい、この撮影に限りお手伝いするように申しつかって参りました」
「えいちゃんて、大阪限定だと思ってた」
「はい、本来の所属は昭和5年の帝キネで、時代を超えた行動範囲も京阪神に限られているんですが、所長が裏技をつかってくださったんです」
「うらわざ?」
「はい、あて名書きのスタンプを見てください」
「スタンプ……」
空になった筒のあて名書きとスタンプを見てビックリした!
発送は長瀬郵便局、宛名は高原の国王宮、そして配達日時は今日を指定してある。
そしてそして、もっとビックリしたのは、差し出された日付。
昭和5年9月1日
「え、93年も留め置きだったの!?」
「あはは、だから、もうあちこち凝っちゃって。あとでお布団の下に入れて伸ばしていただけると嬉しいです(^_^;)」
「わかったわ、でも、帰る時はどうすんの? あ、もちろん、このまま21世紀に居てもらってもいいんだけど」
「その時は、配達日を昭和5年9月2日にして郵便局に出してください。書留で」
「え、あ、うん分かった」
「お願いしま……キャ!?」
クルン
93年間のまるめ癖で、安心したとたんに、元の丸まった状態に戻ってしまった。
アデリア王女に頼んでスチームした上で一晩ガラスに挟んでもらって、本格的に伸ばしてもらった(^_^;)。
「ここでの仕事は二つだ」
撮影隊だけの朝食の席で三村先生が服部半三の顔で言う。
ただ、まあやだけは王妃がアデリヤ王女共々自室ででの朝食に招いているので、ここには居ない。
「首都に留まってロケハンと撮影の準備に入る者と、西部に向かって敵と戦う者の二組だ」
なんで、二組に分かれるんだろう?
「我々は、表面は撮影隊だが、実質は木下豊臣家とその傘下に入ってしまった草原の国との戦闘部隊だ」
うん、それくらいは分かってる。
「これは忍の戦いで表に出ることはないし出すべきでもない。しかし、じつは世界中が注目している戦いなのだ。だから、撮影隊と名乗ってここに我々がいることは、関係国の中枢や諜報機関は掴んでいる」
「それで……」
徳川社長が、あとを続ける。
「鈴木豊臣家が全力を挙げて、この戦いに臨んでいることを撮影隊である我々が、首都とその周辺で世界に見せつけ、かつ作戦指揮の実質を握る。戦闘部隊は……」
「自分が言います」
百地社長が身を乗り出す。こんな真剣な社長を見るのは初めてだ。
「桔梗、そのいち、ミヒャエルの三名で敵の本拠地に入ってもらう。目的は、敵の戦意を挫くこと。必要に応じて本部の我々から加勢の人員、あるいは部隊を派遣する。桔梗組の出発はヒトサンマルマル……」
締めくくろうと、三村、いや服部課長代理が口を開いた時、ダイニングのドアが元気に開いた。
バァーーン
「このアデリアを忘れてもらっては困るぞ!」
ダイニングのみんなが驚く中、ズカズカと入ってきたアデリア王女は、テーブルの上座にドッカと腰を下ろした。
みんな驚いたりヤレヤレという顔をしたり。
でも、これで予定通りなんだろう。
もともと、こんな大事な話、忍び語りもせずにやるわけがない。
ちょっとムカつくのは、このヤラセも含めてわたしには何も伝えられていなかったこと。
まあ、徳川の下請けの百地のアルバイト、仕方がないっちゃ仕方がないんだけど。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
- アデリヤ 高原の国第一王女