大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・051『短縮授業最後の日』

2023-09-05 11:41:49 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

051『短縮授業最後の日   

 

 

 地味なニュースなんですけどね……

 

 短縮授業も今日で終わりという三時間目は二学期初めての自習。

 なんだけども、だれも自習なんかしてなくて、図書室に行ったり、教室でグターっとしている。むろん、わたしもグター組で柱の陰の席で下敷きをパタパタさせてダレている。

 そこに、オデコに汗粒を浮かべながらも生き生きした表情でやってきたのは情報オタクのロコだ。

「ええ……なにい……」

 エアコンなしでは生きていけない令和少女のわたしは、ドロリと顔を起こす。

 ニチャ

 顔と一緒に動かした腕は机の上に汗の魚拓ならぬ腕拓を残した。

 みっともないので、ポケティッシュを出して腕拓を拭いて――しまった、1970年にポケティッシュは無かった――と気づいてソロリと仕舞う。

「これなんですよ!」

 ロコご自慢の情報ノートが開かれる。

 ノートには1970夏と書かれていて、新聞や雑誌の切り抜きがていねいに貼り付けられている。もう見慣れたけど、ロコの意欲はスゴイよ。この子にスマホとかパソコンとか使わせてあげられたらと思う。

「どれどれ……」

 ロコが指差したのは――心臓移植手術の和田教授不起訴に!――という記事だ。

「一時は殺人罪とか言われてましたからねぇ、これで日本も一歩前進ですよ!」

「ああ、そうだね……」

 返事しながら記憶を探る。令和の時代はドナーカードとかもあって、保険証の裏には――いざという時には臓器移植してもいいかい?――的な選択肢があったような気がする。

 でも、そんなに普及はしてないかも。令和でも身内に重篤な心臓疾患の者がいない限り、意識は高くないと思う。

「あらあ、あなたたちも興味あるの!?」

 真知子がロコの後ろから迫ってきた。

「はい! え、ああ、そっちの方ですか」

 真知子もかと思ったら、彼女の視線は違う切り抜きを向いているのに気付いたロコ。

「これは、よく分からないんですよね……」

「ええ、ウーマンリブだよ。この夏最大のニュースだよ!」

 二人が見ているのはミス・アメリカのコンテストに反対した女なの人たちのデモが起こって、アメリカのメディアがウーマンリブと呼んで注目されているという小さな記事。

「ロコはさ、お祭りとか技術系のニュースにしか興味ないと思ってたけど、やっぱ意識高いんだね」

 なんだか真知子は、ロコをより深いところで仲間認定したみたい。

「いやぁ、とりあえず珍しいのは切り抜いちゃうんで、よく分かってないんです」

「ううん、なかなかのもんよ、ロコのアンテナは……うん、そうだ!」

 

 なんだか閃いた真知子は、教室を飛び出して、どこかに行ってしまった。

 5分ほどして帰ってきた真知子は、さっきよりも目をキラキラさせ、後の黒板になにやら書き始めた。

―― 9月12日(土)放課後応接室にて『みんなで楽しく語る会』をやります! 会場:応接室! ――

「なんですか『みんなで楽しく語る会』って?」

 さっそくロコが聞きにいく。

「まえから考えてたんだけどね、部活とかじゃなくて、みんなで気楽にお喋りできる集いみたいなのができないかと思ってたんだ」

 たみ子がロコの頭の上から質問する。

「でも、来週って、まだまだ暑いよぉ」

「それがねぇ、夏休み中に工事されて、冷房完備になったのよ!」

 冷房完備ぃ!?

 教室の八割がたがこっちを向いた。

「PTAがクーラーを寄付してね、とりあえず応接室に付いたのよ。PTAは電気代までは出してくれないから、とりあえず、使用頻度の低い応接室に付けたみたい」

「それはいいですねえ!」

「話題はね、出たとこ勝負。みんなが食いつきそうな話題を投げかけて、あとは流れ次第で千変万化」

「いいですね!」

「面白そうね!」

 ロコとたみ子が正月の飾り餅みたいになって賛意を表明。

「あたしは部活でだめだなあ」

 万博いくのに休んだので佳奈子はダメっぽい。

 他にも何人かがこっちを向いてくれている、10円男はそっぽ向いてるけど。

 

 帰り道、商店街を通ると電器屋のショ-ウィンドウに見慣れた顔が映っている。

 こっちにはお尻を向けているけど、MS銀行のアイさん。

 視線を前に向けると不法駐輪の自転車の間につくも屋のマイさん、駅前書店のレジには寿書房のミーさんが潜んでいた。

 

 え、わたし、今日も狙われてる?

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

   

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・8『乃木坂の白い雲』

2023-09-05 06:59:15 | 小説7

RE・友子パラドクス

8『乃木坂の白い雲』 

 

 


 連休明けの空にポッカリ雲が浮かんで、乃木坂を学校へ向かう友子は見とれてしまった。

 義体になる何年か前に、両親に連れられていった遊園地のことを思い出していた。

 いま父をやっている一郎は、まだ保育所。ちょこまかとよく動く子で目が離せなかった。友子は、面倒なガキだと思いながら、姉として弟への愛情は十分持っていた。だから遊園地で一郎が急に走り出し「コラぁ!」と言って、背中のリュックを掴まえバランスを崩し姉弟重なって芝生に転んだときも、じゃれ合いながらケラケラ笑えた。その時も、こんな雲が浮かんでいたなあ……そう思ったら、歩道の敷石につまずいて、前を歩いていた担任の柚木先生のお尻を掴んでしまった。

「ウワ[ *Д* ]!」「キャー(≧◇≦)!」

 ダブルの悲鳴に、通学通勤途中のみんなが注目した。

「また、あなたぁ!?」

「あ、すみません。つい雲見て思い出にふけっていたもので……」

「鈴木さんねぇ」

「あ、でもでも、先生って、いつも生徒が危ないというところにいらっしゃるんですね! 偉いです! 教師の鑑です!」

「うう……嬉しいけど、今度は他の先生にしてちょうだい(≧ヘ≦)」

「はい、すみません」

 先生は、さっさと先を急いで行ってしまった。

「どうだった、柚木先生のお尻の感触は?」

 気がつくと、クラスの委員長大佛聡が、落っことしたカバンを拾ってくれてニヤニヤしている。

「その質問はセクハラよ、オサラギサトシ君。委員長としても問題ありだな」

「お、名前、覚えていてくれたんだな、正確に。たいがいのやつはダイブツソウとか読んじゃうんだぜ」

「カバン拾ってくれてアリガト!」

 そう言って、友子はさっさと歩き出した。

「おい、待ってくれよ!」

「まったねえ!」

 友子は、競歩の試合なら世界新のスピードで校門へ向かった。大佛も走って追いかけてくるほどのバカではないようだ。

 

 まだ自分の力がコントロールできていない。

 

 昨日は外交官を危機から救って、ネットへの介入と瞬間の指技と擬態の能力があることが分かった。スゴイと思ったら、さっきみたいにズッコケる。初日は敵を誘い出すための計算した行動だったけど(それで白石紀香は姿を現したけど、もう、敵などという状況ではないことが分かった)今のは完全な不可抗力。どうやら、自分の中にはいろんなモードやスキルがあるようだけど、その種類も切り替え方も分からない友子だ。

 クラスはおろか、この二日あまりで見た生徒や先生の情報は全て記憶してしまった。今も大佛聡の情報が一瞬頭に浮かび、彼が一番好意を持つようなリアクションをしたことなど、友子の意識の中にはなかった。

 これは、デフォルトの親和的プログラムのなせるワザで、三十年ぶりに人と接することができる喜びから増幅されたものだ。本来宿敵である白石紀香が敵ではなく、当面は誰とも戦わずに済むという安心感もプラスになっている。

 

 放課後までには、ほとんどのクラスメートと仲良しになってしまった。

 

 六時間目に柚木先生が授業に来たが、歩き方が微妙におかしい。他の生徒は気づかないが、先生のニュートラルな歩き方を覚えてしまった友子には分かった。朝、友子が掴んだお尻が、目を透視モードにすると青あざになっていることが分かった。

 少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 同時に、先生の気持ちに曇りがあることにも気づいた。

 先生は空席になっている長峰純子という生徒のことが気に掛かっているのだ。

 入学して一週間ほどで来なくなった子だ。電話や家庭訪問をくり返しているがラチがあかないようだ。柚木先生の記憶を基に長峰純子の情報を取り込んだ。長峰興産という大きな会社の社長の一人娘だ。するとネットを介して長峰興産の表と裏の情報が頭に流れ込んできた。

 え、ええ……!?
 
 その情報に友子は慄然とした。

「鈴木さん、十五ページの漢文読んでみて」

 柚木先生が、ボンヤリしている友子に当てた。目の奥には若干の意地悪が籠もっていたが気にもならなかった。

「はい……渭城朝雨潤輕塵 客舎青青柳色新 勧君更盡一杯酒 西出陽關無故人」

 教室中がシーンとなった。

 王維の『送元二使安西』を完全な中国語の発音でやってのけてしまったのだ。

――しまった(-_-;)――

 そう思った時は、華僑の生徒である王梨香(ワンちゃん)が一人感動の眼差しで見つめている。

「鈴木さん。中国語できるの……?」

「あ…………NHKの中国語講座で、ちょっと」

「汝会说汉语! あ、あなたとっても中国語がうまいわ!」

 梨香(ワンちゃん)が感激のあまり、中国語と日本語で賞賛した。

「じゃ、ついでに訳してもらおうかしら」

「は、はい。渭城の朝の雨が軽い砂埃を潤し旅館の前の柳の葉色も雨に洗われて瑞々しい。君にすすめる。昨夜は大いに飲み明かしたが、ここでもう一杯飲んでくれ。西域との境である陽関を出れば、もう友人は一人もいないだろうから……アハハ、こないだ中国語講座で出てきたとこなんです」

「ああ……こ、ここの解説は、又今度にして、白楽天にいきます!」

 やってしまった。と、反省しきりの友子であった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛 聡         クラスの委員長
  • 王 梨香         クラスメート
  • 長峰 純子        長欠のクラスメート


 

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