大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・008『先代ボビーの墓参り・2』

2023-09-24 14:13:56 | カントリーロード

くもやかし物語・2

008『先代ボビーの墓参り・2』 

 

 

 王室墓地はまるで小さな森だよ。

 

 王宮の敷地は山手線の内側よりも広い。

 でもね、国王が力に任せて広げたわけじゃないんだよ。

 宮殿の周囲は豊かな自然に恵まれていて、その自然を守るために王宮の敷地にしたんだよ。

 他の国なら国立公園とかにするんだけど、そうすると国立公園法とかの法律を作って、管理するためのお役所とか作って、とうぜんお役人の数も増えて大変。

 それで、百何十年か前に「じゃあ、ぜんぶ王宮の敷地ということにしよう」と王さまが言って今に至っている。

 王宮の敷地は一般の国民もお出入り自由なんだけど、ヤマセンブルグの国民は王室に敬意を払っていて、けして無茶なことはしない。

 無茶っていうのは、勝手に家を建てたり、木を切ったり、地面を掘り返して鉱物資源を取って行ったりしないということよ。

 でもね、木の実を取ったり薪を拾ったり、時期と場所を限って狩りをしたりはOK。

 

「難しい言葉で『慣習法』というんだ」

 

 墓地に向かいつつ、ソフィー先生が教えてくれる。

「かんしゅうほう?」

「ああ、法律には実定法と慣習法がある。実定法は議会で決める普通の法律だ。慣習法とは、昔からある習慣を法律と同じ効力があるとしてみんなで大切にする取り決めだ。例えば、商売の取引の慣習……これはむつかしいなあ」

「日の丸がそうだったじゃない?」

 王女さまが付け加えられる。

「そうそう、日本の日の丸は長い間国旗とは明記されてなかったんだ」

「え、そうなんですか!?」

「ああ、日本人のほとんどが『あたりまえ』と思っていたんで、あえて法律では縛らなかった。でも『法律で定められていないものに敬礼なんかできるか』と、左翼が体制批判の道具にしたんでな、20世紀の終りに法律で国旗にしたんだ。それまで、日の丸を国旗たらしめていたのが慣習法だ」

「他にもあるわよ」

 詩さんが指を立てる。

「え、なんですか?」

「日本語」

「ええ?」

「法律で決めたわけじゃないのに、みんな日本語喋ってるでしょ? べつに国語法とかで縛ってないのによ」

「え、ああ……」

 ちょっと虚を突かれたっぽい。

「もともと、ここいらは農民が薪や木の身を取ったり、羊を放し飼いにしたりする共同の土地、日本の言葉では入会地というんだが、それが半分近く。動物や妖精の棲家とされる森が半分近く。残りの僅かが王宮の敷地だった。しかし、産業革命が起こって土地の所有権をはっきりさせようという風潮が出てきた。所有権をはっきりさせて持ち主が大農場を開いたり、石炭や鉱物資源を漁ったりする動きだ。それを防ぐために全てを王宮の敷地ということにして、乱開発されることから防いできたんだ」

「ちょうど、境目にうち(王室)の墓地もあったしね、王宮と墓地を結ぶ線から北側を、そういうことにしたの……ということで、ここからが墓地の聖域。いちおう、お祈りしてから入るわね」

「お祈りって、どんな……」

「十秒ほど頭を下げてくれるだけでいいから」

 王女さまが先頭で頭を下げる。

 墓地の森の前、ご先祖と精霊に敬意をはらってる感じで、ちょっと清々しい。

 チラ見すると、子犬のボビーまで大人しく俯いて可愛かった(^_^;)。

 

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 

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RE・トモコパラドクス・27『きかんしえん・1』

2023-09-24 07:13:44 | 小説7

RE・友子パラドクス

27『きかんしえん・1』 

 


 ゲッフ! ゲップ! ゲッホ! 

 ゲップが派手に三連続した。


 乃木坂学院高校の昼休み、梅雨の中休みと言うよりは、梅雨が早期退職したような晴天続き。友子は、クラスメートといっしょに中庭でお弁当を食べている。

 メンバーは、その日によって入れ替わりはあるが、今日は玉子焼きが美味しい麻子、蛸ウィンナーが見事な妙子。そして、転校してきて、早くも馴染んだ水島結衣。そして、こういうことには頓着しないで混ざってくる保健委員の亮介、亮介はただの自信過剰のオッチョコチョイということが分かってきたので、もうイケメンという冠は付けない。

 で、友子と結衣を除いた三人が、食後のコーラを飲んで、いっせいに派手にゲップをしたところだ。

「もお」「うふふ(* ´艸`)」

 友子は眉をひそめ、結衣はハンカチで口元を隠して品良く笑っている。

「これが、コーラの醍醐味じゃない。なんか、お腹に溜まっていたものがいっぺんに解放されるって感じでいいじゃんꉂꉂ(ᵔᗜᵔ)アハハ!」

 麻衣が、口の端にコーラの泡を付けながら、爽やかに言い放った。考えたら、この三人の共通点は、コーラ愛好者であることに気づいた。

 品の良い、大佛聡(おさらぎさとし)や、資産家令嬢の長峰潤子、華僑の娘の王梨香などは、このグループにはあまり加わらない。その原因が、多分食後の大ゲップであろうかと、友子には思われた。

 

「トモちゃん、いつもカフェオレなんだね?」

 

 亮介が、ナニゲに聞いた、この一言がドラマの発端になるとは、友子にも想像できなかった。

「え、コーヒー牛乳だよ」

「だって、カフェオレって書いてあるよ」

「え……ほんとだ」

 友子のコンピューターには、この時代に生きるため。また、いざというとき本来の能力を発揮するために、無数の情報がインストールされているが、いつも意識しているわけではない。友子の元来の生活習慣にあったことなどは、ノーマルな状態では昔のままであるものも多い。

 で、このコーヒー牛乳が、そうである。

 義体になる三十年前には「コーヒー牛乳」が、当たり前の名前だった。

 それが、2003年の飲用乳の表示に関する公正競争規約により百パーセントの牛乳でなければ「牛乳」の二文字が使えなくなり、友子が飲んでいるそれは、パッケージデザインはそのままで、カフェオレに変わってしまっていたのだ。友子は検索して言葉の上書きをしようとしたが止めた。やっぱコーヒー牛乳はコーヒー牛乳だ。

「ま、わたしは、コーヒー牛乳でいいや」

 すると、後ろで拍手がした。

「あ、理事長先生!」

 亮介がキヲツケした。

「ああ、そのままでいいよ。なーにコーヒー牛乳の言葉に、ちょいと感激したもんでね」

「はあ……」

「コーヒー牛乳というのは、わたしたちの子どものころから定着したものだからね。カフェオレじゃ、鈴木さんの言うようにピンとこないよ」

 理事長は、とうに九十歳を超えているが、心身共に、まだ七十歳程度であった。とくに名前を覚えるのが得意で、全生徒の名前と顔を覚えているという噂だ。

「そして、コーラは高校生が好きなノンアルコールのナンバーワンだね」

「そうなんですか? お茶とか、コーヒーだと思ってました」

「理事長ってのはヒマでね。パソコンで、そんなことばかり見ては喜んでいる。君たちだってボクのことを理事長って呼んでくれるけど、ある日、これがboard chairmanって呼べと言われたら面食らうだろう?」

「英語では、そんな風に言うんですか!?」

「なんか、カッコイイですね!」

「いかにも偉い人って感じ!」

 と、みんなの反応は無邪気だった。

「ハハ、君らにかかっちゃ、しょうがないなあ。鈴木さんは、どうしてコーヒー牛乳?」

「あ、両親がずっとそう言ってますので、家じゃ、これが普通なんです」

「それがいいなあ、なんでも言葉が新しくなれば良いというもんじゃない。学校も、副校長や首席なんてなのが出来て、きみたちも呼び方苦労するだろう」

 友子には、分かっている。理事長先生の中では、ちゃんとカテゴライズされていて、きちんと学校経営の中では生かしていることを。そして、わざわざ、わたしたちの話の輪の中に入ってきたことも。

「そろそろ予鈴か。君たち、次の授業は柚木先生だろ?」

「はい、そうです」

「一つ頼みなんだが、君たちから自習にしてくれと頼んでみてくれないかね。六限は、君たちの苦手な英語でもあるし、ま、理由は適当でいいから」

 友子には、理由が分かった――先生にも、いろんな事情があるんだ。

 でも、いま頭をよぎった『きかんしえん』てなんのことだろう……疑問の残る友子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格
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