大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・181『奥の院』

2023-09-16 10:31:41 | 小説4

・181

『奥の院』穴山新右衛門 

 

 

 奥の院は御庭の奥にある。

 

 御庭の奥は五月の斜面を挟んで啓林が借景の山のように蹲っている。

 斜面の小道は緩いカギ型で、啓林の入り口には二本の石柱が立って結界になっている。

 石柱の先は、めったに入れない。

 石柱の先、苔むした小道の尽きたひそみに奥の院がある。啓林に足を入れると、周囲より二度ばかり気温が低く、その静謐さと相まって、いかにも神域めいている。

 拝殿があって、奉行以上の役職に任ぜられたときは、ここまで来て祖神と祖霊である一仁(かずひと)様に精励の誓いをたてる。

 法的には将軍家の私的な霊廟であるが、扶桑の国にとって一番の聖域でもある。

 

「奥まで入るよ」

 

 てっきり拝殿でなにやらお誓いすることになるのかと思っていたら、奥の奥、神社で言えば本殿まで行くと仰せになる。

「しかし、平服でありますし、斎戒もいたしておりません」

「それはわたしも一緒だ」

「はは!」

 

 正面に『扶桑大神』 左に『扶桑一仁』 右に……なにも書いていない木牌。

 

 主従並んで最敬礼したあと、お上は、厳かにおっしゃられた。

「祖神、祖霊の御前で命ず。穴山新右衛門、大老職を受けよ」

「は、ははあ!」

 ここに至って否とは返せない、お上の並々ならぬご決意、お受けする他に道は無い。

「ハンベを鑑(かがみ)にせよ」

 鑑とは役人言葉で、書類の表紙の事を言う。ハンベの鑑とは大昔のスマホでいうところのマチウケのようなものだ。

 役人の場合、持ち主の姓名と職員番号が秘められている。

「鑑にいたしました」

「自分の姓名を、右の木碑が光るまでクリック」

「は?」

「はやくいたせ」

「は!」

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ……

 息子の親友たちの顔が浮かんだ、ハンベゲームで、よく弾幕シューティングゲームをやっていた。息子の彦には禁止こそしなかったが、あまり見っともいいものではない。この歳で、不本意ながらも大老職を引き受けたばかりの大人がやることではないだろう。

 パンパカパーーン!

 今どき、子どものゲームでも使わないようなエフェクトがして、木碑が輝いた。

「よし、これで、シキシマとの縁が結べた」

「シキシマ?」

「ここでは畏れ多い、黒書院……いや、東屋で話そう」

「は!」

 

 もう一度最敬礼すると、二柱の木碑も輝き、どうやら祖神、祖霊も嘉したもうご様子であった。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・19『Let It Be……』

2023-09-16 06:55:26 | 小説7

RE・友子パラドクス

19『Let It Be……』 

 

 

「もう! 散らかしっぱなしで!」

 春奈(お母さん)の声で友子は目が覚めた。

 

 友子は、なるべくリアル女子高生に見えるように調整している。

 パンケーキ屋の新装開店にも並ぶし、少しお喋りだし、軽率に噂話には加わらないが聞き耳はたてるし、そのくせ授業の集中力は25分が限度だし、教科書で隠してスマホはも観るし。

 そして、休日はなかなか目が覚めないようにしもていて、その感度は、乃木坂女子の平均値。だから、休日の朝はなかなか目が覚めないのだが、友子の頭には危機感知モードというのがあって、声の大小にかかわらず、そういう事態には目が覚める。

 

 今の春奈の声は夫婦の危機レベルであった。

 

「どうしたの、お母さん?」

 とりあえず、ハーパンにTシャツという横着な寝間着姿でリビングに向かう。

「トモちゃん。見てよ、このざま!」

「ああ、なーる……」

 リビングは、夕べ一郎が仕事のために出した資料や、サンプル、予備のパソコンや周辺機器で一杯だった。

「研究職って、これだからヤなのよ。商品開発のためなら、なんでも許されると思ってるんだから!」

 そう言いながら、春奈はテキパキと片づけ始めた。 

「顔洗ったら、わたしも手伝うねぇ」

「ごめん、トモちゃん。テスト明けの日曜だっていうのに……少しかたしといてくれる。回覧板まわしてきたら本格的にやるから」

「はーい」

 一見してガラクタだと思った。

 一郎は昔から、そうだった。

 子どもの頃、八畳間を姉弟二人で使っていた。とくに仕切なんかなかったものだから、読みかけのマンガやガラクタが、いつの間にか友子のテリトリーに進入してきて、そう言う時は泣くまで叱ってやった。少し懐かしい気持ちになって、リビングと一郎の部屋を往復する。

「あ……」

 思いがけない物を見つけた。

 一郎が三年生の夏休みのとき、少年科学雑誌に熱中し、図工の宿題を忘れてしまった。工作が苦手な一郎は途方にくれて、友子に泣きついてきた。友子は自分の宿題の分の紙粘土が残っていたので、それでピカチュウの貯金箱を作ってやった。そのずんぐりむっくりな姿と、機能性を評価され、いつにない成績をもらった。

――こんなもの残していたんだ――

 思わず、しみじみ眺めているうちに春奈が戻ってきた。

「あ、それ亡くなったお姉さんが作ったもんだって、初めてあの人が自分の部屋に呼んでくれたときに見せてくれたのよ。お姉さんには想いがあったみたい」

「そうなの……」

「研究職の資料だから、勝手に整理できないし……でも、このスペースじゃ、収まりきれないわね。よーし……」

 春奈は、腕まくりすると、床が見えなくなるほどのガラクタを片づけはじめた。

 あわ!

 ドッシャーン

 春奈は、スカイツリーほどに積み上げられたガラクタの山を崩してしまった。

「あ、もぉ(`m´#)……ああ!?」

 そして、その中に自分たちの結婚写真帳が混ざっていることに気付いた。

「こんな大事なものを、あ~あ~角が折れちゃったよ……ん?」

 春奈は、結婚写真を収めた白い写真帳のノリが剥がれて、中にもう一枚の写真が入っていることに気づいた。

「あれ……」

 と言ったときには、もう遅かった。

 それは、友子が児童劇団を受けようとして撮ったとびきりの写真だ。友子の義体化が長引くことが分かったときに当局からの指示で、友子に関する物は全て処分された。戸籍から、学校の在学記録まで、全て……でも、一郎は処分しきれなかったのだろう。この写真一枚大事にとっておいたのか、あるいはうっかり残してしまったのか、自分の結婚写真の裏に入れてしまった。しかし、もともと不器用なこととノリの劣化、そして、さっきの衝撃で口が開いてしまった。

「え、これって……トモちゃんよね?」

 募集用の写真なので、裏には、生年月日と名前まで書いてある……。

「昭和52年……どういうこと?」

「あ、あのね……お母さん(-_-;)」


 友子は観念して、義理の妹に全てを話した。


「そう……トモちゃんて、わたしのお義姉さんだったの……」

 友子は、その後に来るパニックを恐れた。

「あ、えと……」

「アハハハ…………ああ、おっかしい」

 春奈は、涙を拭きながら笑った。

 友子は後悔した。

「トモちゃんは、やっぱトモちゃんだわよ。どう見ても十六歳の高校生。ほら、そんなに涙ぐんじゃって。どう見ても思春期の女の子。今まで通りの母子でいきましょう。たとえこれから、なにが起こるか分からないけど、トモちゃんはわたしの娘だって、決めちゃったんだから!」

「……うん、ありがとう、お母さん」

 友子は、穏やかに頷いた。それが、プログラムされた能力なのか、自然な心なのか分からなかった。でも、実感としてはお母さん。

 Let It Be……

 むかし好きだったジョンレノンの曲を思い出した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする