大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・054『隣は「ロミオとジュリエット」』

2023-09-26 15:19:26 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

054『隣は「ロミオとジュリエット」』   

 

 

 君の行く道は~ 果てしなく遠~い(^_^;)♪

 

 自主的に居残って『若者たち』の練習をしている。

 ほら、文化祭の取り組み、合唱コンクールに参加でしょ。

 舞台に立ってみんなで合唱しておしまいかと思ったら、熱の入り方がちがう。

「~さん ~さん ~くん、ちょっとだけ残ってくれる?」

 指揮をかって出た早川さんが5人を指名、で、その中に「時任さん」も入っていたわけ(^_^;)。

 

「加藤君、インターナショナルじゃないんだから、そんなに力まないでくれるぅ」

「え、あ、うん(;'∀')」

 10円男は「~歯を食いしばりぃ~♪」のところで、拳を握って、ほんとに歯を食いしばる。

 早川さんのコンセプトは――自由に!――ということで、あんまり注文はつけない。

 みんな自由に歌って、それが結果的に調和すればいい的に考えている。

「自由はいいけど、不協和音的なのは困ります」

「了解だ、同志早川!」

 ププ(* ´艸`)  みんな噴き出す。

 10円男は留年生で、前の年(1969年)がピークだった学園紛争を引きずってる。

 でも、どこか道化じみていて、それなりにクラスの居場所はあるようなないような(^_^;)。

「それで、他の四人は声ね。地味とか派手とかは個性でいいと思うんだけど、声が出てないと萎んで見える。声さえ出てればフリとか動きとか相応しいものが自然に出てくるわよ」

 なかなか本質をついている。

「「「「メグリ、がんばれ!」」」」

 前から声がかかる。

 言わずと知れたお仲間(真知子 たみ子 佳奈子 ロコ)ですよ。他にも五六人残って見てるしぃ。

 ほんとはね、動画撮って見直しとかできるといいんだけど、スマホ出すわけにもいかないしね。

 

 ウワアア(≧▽≦)

 

 なんだか隣の四組で盛り上がっている。クラスの何人かが――え、なになに!?――と様子を見に行く。

 

 ワハハハハハハ(≧艸≦*)

 

「ええ、なんなのよぉ?」

 早川さんが――もーなんなのよ!?――という感じで腰に手を当てる。

 タタタタ

 こういう時にタイミングを外さないのがロコ、駆け戻って来ると、目をへの字にして報告してくれる。

「す、すごいです! 花園先生がジュリエットやってます!」

 ええ!?

 

 隣りの4組は、舞台で『ロミオとジュリエット』をやることになっている。5組の合唱コンクール参加なんて霞んでしまうほどに前評判も良くて、我が担任の藤田先生も「おまえらも頑張れ!」と、慣れない檄を飛ばすほど。

 主演のロミオは、昔は児童劇団に入っていたという本格派の滝沢君で、もう一人の主役のジュリエットも学年で三本の指に入ろうかという美少女の栗原さん。

 ところが、その栗原さんが居なくて、彼女の衣装を花園先生が着て、台本片手に「おお、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの~(#・ω・#)♡」なんてやっている。

 元々小柄で大学出て二年目ということは、まだ二十代前半の花園先生は、テレまくっているということもあって、滅茶苦茶かわいい!

「本番も花園先生がやるのか?」

 10円男が、こっそり4組男子に聞くと、男子は「ああ、そうだ」と勝ち誇った顔で言うのだった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・29『バニラエッセンズ』

2023-09-26 06:53:28 | 小説7

RE・友子パラドクス

29『バニラエッセンズ』 

 

 

 水島結衣は学校に来るのが早い。八時前には教室で予習のチェックなどをしている。

 これに次いで早いのが王梨香である。

 

 おはよう

 

 静かに挨拶を交わし、それぞれ勉強に没頭するのが、結衣が転校してからの一年A組の習わしになってきた。

 二人に影響されて、他の子たちも勉強に熱を入れてくれればと、ノッキーこと柚木先生も願っている。

 特に、A組の出来が悪いというわけではなかった。学年でも上位のクラスだ。新採三年目で初めてもった一年生。生徒たちには恵まれたと思った。

 思った分、ノッキー先生の生徒たちへの愛情は膨らむばかりであった。「ばかり」の「ばか」で、鈴木友子を連想して少しおかしい。

 友子は、けしてバカではない。だが、いろんなことに気を取られ、集中しきれないでいるところがある。で、このごろは、ほんとうにバカな顔をしていることもある。

 現実の友子は違う。

 頭はスーパーコンピューター以上の能力を持った数十年後の技術で作られた義体で、ノッキーの知らないところで、ダイハードやったり、宇宙人の戦いに巻き込まれたり、幽霊の水島昭二が結衣という女子高生としてやっていけるのを見届けたり、けっこう忙しい。

 たまにアイドルに擬態して、先輩の紀香と街をうろつくのが、ささやかな息抜きであった。勉強は、目立たないようにわざと真ん中の順位をキープしている。

 

―― ピンポンパ~ン♪ 一年A組の水島結衣さん、一年A組の水島結衣さん、理事長室まで至急に来て下さい ――

 

 長閑な校内放送で、結衣は理事長室に呼び出された。

「失礼します……」

 そう言って入った理事長室には、あまり長閑ではない顔つきのノッキーが、先に来て座っていた。

「まあ、掛けたまえ」

「はい」

 理事長は自分の椅子に座ったまま、内容を伝えた。

「一時間ほど前に、東亜テレビから電話があってね。放課後水島さんのことで取材に来たいって言うんだ」

「え……わたしにですか?」

「ああ、これだよ」

 理事長はモニターの電源を入れた。そこには東京ドームの横で、バニラというディユオといっしょに楽しそうに歌っている結衣の姿が映っていた。

「あ、これは……」

「もう、アクセスが四万を超えている。なかなか大したもんだよ」

「わたしは、反対よ」

 ノッキーが先回りした。

「転校してきてから、一週間ちょっとだけど、水島さんの力と熱心さはよく分かっているわ。今は勉強中心にやってもらいたいの」

「まあまあ、柚木先生。水島さん本人の気持ちも聞こうじゃありませんか」

 理事長は、手を頭の後ろで組んで、ノビをした。びっくりするほど若く見える。

「スマホで撮られていたのは、知っていましたけど、こんなに話が大きくなっているなんて……」

「でしょ、だから今のうちに。理事長先生、お願いします」

「ボクは、青春時代、いろいろチャレンジしてみればいいと思う」

「先生」

「柚木先生。ハイティーンというのは、可能性の固まりなんですよ。時に自分で制御できないほどにね。僕は戦時中、そうありたくてもできなかった生徒をたくさん見てきました。生きていくことさえままならない時代でした。年寄りの妄想と笑ってくださってもいいが……時々、生徒の中に見つけてしまうんですよ。こいつは青春をやり直すために生まれ変わってきた奴じゃないかと」

「え、生まれ変わりですか?」

「いや、水島さんがそうだということでは無くて。ほら、つい、こないだも、坂東はるかさんと仲まどかさんが来てくれたでしょ。坂東さんは、この学校は中退だが、転校先の大阪の学校で素晴らしい成績を残し、得難い体験をして、今は女優の道を歩いている。類は友を呼ぶで幼なじみで後輩の仲まどかさんも女優になってしまった」

「ああ、うちのクラスにも入ってくれて、弾けてましたね(^▽^)」

「坂東さんは大阪でも充実した高校生活を送ったようですが、乃木坂に居ても人の何倍もドラマのあった人だと思うんです。で、たった半日でそれを取り戻されたような。仲さんも部活ばかりだった分を柚木先生のクラスで取り戻した。なんというか、乃木坂は中身が濃い。ハハ、いささか我田引水ですかな(^▢^)」

「『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』も『ワケあり転校生の7カ月』も読みました!」

「いささか誇張されているが、ほぼあの通りだよ。水島さんにもそういうところがあるのかもしれない。試してみてはどうかなぁ。向いていなければ、いくらでも方向転換の道はある。でしょ、柚木先生の先輩の貴崎マリ先生には驚きました。先生を辞めてタレントさんになっちまった」

「貴崎マリ?」

「ああ、芸名は上野百合です」

「え、あの上野百合ですか『のどあめカンタービレ』の?」

「そう、柚木先生より五歳は年上……あ、これは業界じゃ秘密だがね」


 そういうわけで、放課後は、東亜テレビが、でっかい中継車とマイクロバスでやってきた。

 

「中継の上野です。スタジオのタムリさん。聞こえてますか?」

 

 驚いたことに、MCでやってきたのは、その上野百合だった。ノッキーは驚き、理事長は、タヌキのような顔でとぼけていた。

――百合ちゃん、なんだか自分の学校みたいにスイスイ行くね――

 スタジオのタムリが本質をついてきた。

「そりゃあ、天下の乃木坂学院ですよ。もう、ネットで、トイレの位置まで確認済みです。ああ、バニラ、早くきて!」

 バニラの二人は生徒たちに取り巻かれ、素人らしく緊張している。

「こんにちは。東京ドーム……の横で、頑張ってますバニラの岩崎広也です」

「あ、西川康志です」

「今、SNSで人気のバニラ……っても、一人足りません。そう、メインボーカルの秘密の彼女が、ここにいます。で、本日の突撃アタックは、その彼女に、正式にメンバーになっていただけるよう、こんな中継車まで用意してコクリにきました。これで断られたら、今日の経費は、このバニラの二人が……」

「ええ、そんなの聞いてないっすよ!」

 マジに聞いた西川がビビリながら抗議した。

「うそよ。タムリさんがもつことになってます」

――え、ええ!?――

 タムリが奇声を発した。

「では、さっそく。ボーカルの彼女いるかなぁ……」

 一瞬生徒たちがシーンとし、結衣がこわごわと手を上げた。みんなからどよめきが起こった。

「すみません……一回歌わせてもらえませんか? それで決めたいと思います」

「よっしゃー、バニラ、いいわね、今月のタムリさんの家賃がかかってるんだからね。しっかりね!」

 この事態を予想していたスタッフによってPAの準備はバッチリだった。結衣はマイクを持つと、ゆっくりバニラの前に立った。もう顔つきがちがう。何かが降りてきた顔になっている。


 《ぼくの おいたち》 作詞:岩崎広也   作曲:西川康志

 ぼくのおいたち ぼくのおいたち ぼくのおいたち

 でも 兄貴と姉貴のむすこじゃなくってね~♪

 

 コミックソングが、きれいなバラードになって、グラウンドにいたみんなの拍手が鳴り響いた。

 すると、ロケバスから業界では名の通ったHIKARIプロの会長・光ミツルが降りてきた。

「はい、じゃ、君たち、ここにサイン」

「え……?」

 当然驚くバニラの二人。

「水島さんは未成年だから、あとで保護者のハンコもらってね」

 結衣は、もう迷うことなくサインした。保護者のはんこ……まあ、なんとかなるだろう。

 陰で見ていた友子は、紀香を振り返った。

「じゃ、新ユニット名を発表します……バニラエッセンス改め……」

 光会長が宣言した。

 そして、ここにHIKARIプロの新ユニット「バニラエッセンズ」が誕生した……。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする