せやさかい・431
「それでは、移動になられる先生方を紹介します」
長い訓話のあと、校長先生は紅白の司会者みたいに舞台袖をさし示した。
先生の移動は四月と決まったもんやけど、たまに年度途中のことがある。たいていは紹介だけで終わるんやけど、都合が合うときには本人が挨拶しはる。
え…………!?
出てきた若草色のワンピースにビックリした。
ペコちゃん先生!?
校長先生の話に、俯き加減やった生徒たちの顔が上がる。
年度途中の若い女の先生の移動は、たいてい、いわゆる寿退社。ピーナツの殻を見ただけでお目出度を連想してしまうお年頃。
せやさかいに――先生、結婚しはるんや!――と思てしまう。
早手回しに拍手しかける子ぉもおるんやけど、まあまあと制してペコちゃんが口を開く。
「みんなが期待しているようなことではありません(^_^;)。じつは、年度途中ではありますが、不肖月島さやかは進学のために退職することになりました」
進学? 斜め上の切り出しで、ますます生徒らの興味が高まってくる。
「承知している人もいるでしょうが、わたしの家は、学校の北にある月島神社です。休みの日には、いわゆる巫女服で、境内を掃除したり、お御籤の番をしていたりしているするので知っている人もいるかもしれませんね」
「あ」という声が上がる。
「神社の娘がミッションスクールの先生をやらせてもらって、ほんとうに感謝です。日本は、文化も宗教も平和共存が成し遂げられている珍しくて素敵な国です。共存できているのは、日ごろのみんなの理解と努力があったからです。だから、聖真理愛の先生方や生徒のみなさん。そして、なによりも見守ってくださったマリア様や八百万の神さまたちには、ただただ感謝です。このたび、わたしは宮司、つまり神主ですね。その勉強をするために大学に行くことになりました。卒業したら、赤い袴を水色に替えて、時どきはハタキの親分みたいなのを持って『かしこみかしこみ』ってやります。しばらく大阪を離れますが、二年後には、また神主で神社に戻ってきます。この中には、前任の中学からいっしょだった人も居ますが、こんなわたしによく付いて来てくれました。ほんとうにありがとう。それではお互い、同じ日本のどこかにはいるわけです。これからも、おたがいがんばりましょう!」
深々とうちらに、そして舞台奥のマリアさまに頭を下げて引っ込んでいかはりました。
新学期のホームルームが終わるや否や、留美ちゃんが教室に来た。
言わんでも分かってる、ペコちゃんに会いに行こと誘いに来たんや。
「「うん」」「…………」
メグリンと返事して、ソニーは無言で、四人揃って職員室に向かう。
留美ちゃんはうちと同様中学から、ソニーは高校に来て散策部の顧問として世話になった。
顔を見て挨拶しとくのはあたりまえ、っちゅうか、なんで事前に言うてくれへんかったんや!
先生、水くさいでという気持ち。
「あ、いま、理事長先生やらPTAの人やらに挨拶してらっしゃる」
職員室で居合わせた体育の長瀬先生が――ペコちゃんどこやろ?――いう顔してるうちらに説明してくれる。
「さくら、だいじょうぶ?」
「う、うん、10分くらいやったら」
けど、15分たってもペコちゃんこーへん。
「ごめん、もう時間ないわ!」
後ろ髪ひかれる思いで駅に走る。
3時にはスタジオに入って『宇宙戦艦三笠』の収録。
そんで、この一週間、ずっと学校休んでしもた。
いつも通り、宗武監督の仕事はジリジリ遅れて、そのまま東京に居続けですわ。
9月3日、今日は、いよいよ『宇宙戦艦三笠』のオンエア。
栄えある第一回『黎明の時』は、なんとか家のリビングで観ることができた。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
- 江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行)
- 声優の人たち 花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎
- さくらの周辺の人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)