大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・431『新学期が始まったんやけど』

2023-09-03 10:00:43 | ノベル

・431

『新学期が始まったんやけどさくら   

 

 

「それでは、移動になられる先生方を紹介します」

 

 長い訓話のあと、校長先生は紅白の司会者みたいに舞台袖をさし示した。

 先生の移動は四月と決まったもんやけど、たまに年度途中のことがある。たいていは紹介だけで終わるんやけど、都合が合うときには本人が挨拶しはる。

 

 え…………!?

 

 出てきた若草色のワンピースにビックリした。

 ペコちゃん先生!?

 校長先生の話に、俯き加減やった生徒たちの顔が上がる。

 年度途中の若い女の先生の移動は、たいてい、いわゆる寿退社。ピーナツの殻を見ただけでお目出度を連想してしまうお年頃。

 せやさかいに――先生、結婚しはるんや!――と思てしまう。

 早手回しに拍手しかける子ぉもおるんやけど、まあまあと制してペコちゃんが口を開く。

「みんなが期待しているようなことではありません(^_^;)。じつは、年度途中ではありますが、不肖月島さやかは進学のために退職することになりました」

 進学? 斜め上の切り出しで、ますます生徒らの興味が高まってくる。

「承知している人もいるでしょうが、わたしの家は、学校の北にある月島神社です。休みの日には、いわゆる巫女服で、境内を掃除したり、お御籤の番をしていたりしているするので知っている人もいるかもしれませんね」

「あ」という声が上がる。

「神社の娘がミッションスクールの先生をやらせてもらって、ほんとうに感謝です。日本は、文化も宗教も平和共存が成し遂げられている珍しくて素敵な国です。共存できているのは、日ごろのみんなの理解と努力があったからです。だから、聖真理愛の先生方や生徒のみなさん。そして、なによりも見守ってくださったマリア様や八百万の神さまたちには、ただただ感謝です。このたび、わたしは宮司、つまり神主ですね。その勉強をするために大学に行くことになりました。卒業したら、赤い袴を水色に替えて、時どきはハタキの親分みたいなのを持って『かしこみかしこみ』ってやります。しばらく大阪を離れますが、二年後には、また神主で神社に戻ってきます。この中には、前任の中学からいっしょだった人も居ますが、こんなわたしによく付いて来てくれました。ほんとうにありがとう。それではお互い、同じ日本のどこかにはいるわけです。これからも、おたがいがんばりましょう!」

 深々とうちらに、そして舞台奥のマリアさまに頭を下げて引っ込んでいかはりました。

 

 新学期のホームルームが終わるや否や、留美ちゃんが教室に来た。

 

 言わんでも分かってる、ペコちゃんに会いに行こと誘いに来たんや。

「「うん」」「…………」

 メグリンと返事して、ソニーは無言で、四人揃って職員室に向かう。

 留美ちゃんはうちと同様中学から、ソニーは高校に来て散策部の顧問として世話になった。

 顔を見て挨拶しとくのはあたりまえ、っちゅうか、なんで事前に言うてくれへんかったんや!

 先生、水くさいでという気持ち。

 

「あ、いま、理事長先生やらPTAの人やらに挨拶してらっしゃる」

 職員室で居合わせた体育の長瀬先生が――ペコちゃんどこやろ?――いう顔してるうちらに説明してくれる。

「さくら、だいじょうぶ?」

「う、うん、10分くらいやったら」

 けど、15分たってもペコちゃんこーへん。

「ごめん、もう時間ないわ!」

 後ろ髪ひかれる思いで駅に走る。

 3時にはスタジオに入って『宇宙戦艦三笠』の収録。

 

 そんで、この一週間、ずっと学校休んでしもた。

 いつも通り、宗武監督の仕事はジリジリ遅れて、そのまま東京に居続けですわ。

 9月3日、今日は、いよいよ『宇宙戦艦三笠』のオンエア。

 栄えある第一回『黎明の時』は、なんとか家のリビングで観ることができた。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・トモコパラドクス・6『友子のスペック』

2023-09-03 06:56:08 | 小説7

RE・友子パラドクス

6『友子のスペック』 

 

 

 

 紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

 

「トモちゃんの娘が、アジア大戦を引き起こすんだ」

「え、ええ!?」

「五十年後の未来。トモちゃんの娘は、アジア大戦で極東方面のリ-ダーになって戦うんだ。最終的には極東地域の指導者になる。それをこころよく思わない人たちが、三十年前に大挙タイムリープして、首都高でトモちゃんとトモちゃんを助けた男、ケインて云うんだけど、いっしょに消そうとした。トモちゃんを消せば娘は生まれてこないからね」

「え、なんで!? ちょ、ちょっ待って。それなら、その子の父親を殺しても同じじゃない、そっちの方を」

「その子の父親は分からないんだよ、これがぁ(-_-;)」

「え、わたしって、そんなふしだら(#'o'#)」

「情報が欠落してるっぽい。はっきりしてるのは、トモちゃんが母親だってこと。でね、スーパーコンピューターのナユタで計算したらね、父親がだれでも、その子は生まれてくることが分かった」

「そんなぁ、ありえないっしょ! 父親が変われば、当然生まれてくる子は違うじゃん、いまどき小学生でも知ってるでしょーに!」

「それがぁ、トモちゃんの遺伝子は強力で、生まれてくる女の子は同じなんだ。トモちゃんの遺伝形質を80パーセント以上受け継いで、同じ行動をとる! どんな男とイタしても!」

「イ、イタしても(#^皿^#)って……あ? アハハハ、ヤダア、せんぱい! だいいちだいいち、わたしって義体だから子供なんてできなくなくない?」

「それが、できるのよ(-_-;)」

「え…………!?」

 友子は、思わずズッコケて、椅子からずり落ちそうになった。

「トモちゃんの義体は、義体技術と生命テクノロジーの結晶なんだ。あんたには生殖能力があるのよ……」

「うそ!?」

 ジィ…………

 紀香は、じっと友子の下腹を見つめた。

「そ、そんなマジマジ見ないで。恥ずかしいし(#><#)」

「トモちゃんの遺伝子情報は、トモちゃんが三十年前に息を引き取る前にCPUに取り込んである。それに合わせて生体組織ができてるから、そういうことも可能だそうよ……」

 友子は、蹲るように自分の下腹に手を当てて、頬を染めた。

「で、じつは、わたしの時代では、トモちゃんの娘は生まれてるんだけどね……」

「え、ええ! 生まれてるの!? いやだ、どうしよう。ね、どんな子!?」

「言えない、禁則事項だから」

「そんな」

「ただ、そんな世界的な指導者になる兆候は、まるでなし。アジアの情勢も落ち着いてるしね。ナユタ2で演算しても、可能性は限りなくゼロ!」

「じゃ、なんでわたしは……」

「そりゃあ、国家的な事業計画だもの。義体産業やら生命工学産業のメンツや利権が絡んでるから、今さら中止はできない」

「地球温暖化と同じ……」

「国連が主導してアンケートもとられたんだけど、アンケートに選択肢は三つだけ。『ある』『ない』『どちらとも言えない』とあって、『どちらとも言えない』は『ある』に集計されてるんだ。まったく温暖化のアンケートといっしょ。で、予算執行上止められない計画だから、一応カタキ役として、この白井紀香が派遣されてるってわけ……どうかした?」

「なんか、虚しくなってきた|||(-_-;)||||」

「まあ、10兆円もかけたプロジェクトだから、簡単に中止にはならないでしょ。それまで、どうなるか分からないけど、お互い仲良くやりましょうってことで。はい、ここにサイン」

「え……?」

「入部届!」

 友子は、しぶしぶ入部届にサインした。

「それから、トモちゃんの筋力は十万馬力。多分空も飛べる」

「鉄腕アトムか(^_^;)」

「あとのスペック、目力は強力」

「おとこ殺し?」

「スペシウム光線出るからね。両手首からはジュニア波動砲、発射の時は手首が百八十度曲がって発射されるから、手首の皮に切れ込みが入って、しばらくはリストカットしたような跡がつくけど、ナノリペアーが三十分ほどで修復してくれる。あとは、わたしにも分からないブラックボックスがいくつか。まあ、自分で、少しずつ覚えることね。はい、ちょうだい」

 入部届をふんだくると、紀香は保護者欄のところにサラサラと母親の春奈そっくりの筆跡でサイン。ハーっと親指に息を吹きかけると、書類に捺印。拇印かと思ったら、きれいに『鈴木』の三文判の跡。

「すごい、手品みたい!」

「一応これでも、トモちゃんのカタキ役。この書類今日中に出したら、目出度く部員三人で、同好会から正規のクラブに昇格さ。じゃ、連休明けからよろしく!」

 

 同窓会館を出ると、街はとっくに黄昏時。

 乃木坂を、ため息つきながら駅へ向かっていくと、紀香が電柱の陰から出てきた。

 

「え、どこから?」

「わたしだって、義体だよ。これくらいは夕飯前」

「プ、朝飯前じゃないの?」

「だって、夕飯前の時間でしょ。ちょっと待っててね」

 紀香は、道を渡って、タイ焼き屋に向かった。

「はい、入部祝い!」

 小倉あんのタイ焼きをくれた。ふと紙袋に目がいった。

「閉店特価……あのお店、閉店なんだ」

「うん、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』からの名物だったんだけどね……」

「そうだよね、理事長先生が、まどかたちのためにたくさん買ってきてくれたんだよね」

「そう、演劇部再出発の日にね。ヘヘ、ゲン担ぎ」

「おいしい……」

「それから、連休明けたら、いちおう先輩だから。言葉遣いとか、気を付けてくれると嬉しいかな」

「ラジャー(^^ゞ!」

 アハハハハ(^O^) ウフフフフ(≧◡≦)

 

 乃木坂に幼なじみが戯れるような影が長く伸びていった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田 麻子        友子のクラスメート
  • 池田 妙子        友子のクラスメート
  • 徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする