大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・053『文化祭の取り組みが決まった』

2023-09-19 15:13:44 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

053『文化祭の取り組みが決まった』   

 

 

 ちょっと反省

 

 そう呟くのはMITAKA(みんなで楽しく語る会)を見事に成功させた真知子。

「え、反省?」

 意外な呟きに思わず聞き返したけど、意味は分かってる。

 月末に迫った文化祭の取り組みが延び延びになって、やっと今日のホームルームで決まった。

 本番まで二週間を切っている。大きな取り組みはできないので『合唱コンクール』への参加でお茶を濁すことになったんだ。

「でも、いい曲に決まったからいいじゃないですか」

 ロコが励まして、真知子が頷く。

 

 今日は珍しく真知子と帰り道がいっしょ。

 

 週に三日はロコと駅まで歩く帰り道、昇降口出たところで真知子が追いついて来て「いっしょしていい?」ということで、三人並んで歩いている。

「あ、うん、『黒猫のタンゴ』明るい曲だし、『若者たち』は、よそのクラスとかぶりそうだけど、みんな知ってる曲だしね、高いポテンシャルで始められそうね」

 真知子は人格者なので、グチをこぼしながらも楽観的に話す。

 わたしは『カントリーロード』が頭に浮かんだんだけど、机の下でスマホを開いて見ると、この1970年はジブリの『耳をすませば』はおろか、ジョンデンバー元歌も発表されていない。

「カンツォーネって『サンタルチア』とか大人が原曲で歌うイメージで、歌声喫茶とかでもあまり歌われないじゃないですか。それを子どもの曲にして、めちゃくちゃ身近になりましたよ。うん、一年五組はカンツォーネの二十世紀旗手です!」

「ハハ、なんだか太宰治」

 え、なんで太宰治?

 太宰と言えば『走れメロス』と『富岳百景』しか知らないわたしは戸惑うんだけど、笑われそうだからウンウンと頷いておく。

「うん、ロコの言う通りね、決まったことだからがんばろう」

「はい!」

 君の行く道は~ 果てし~なく遠い~ ♪

「「「お」」」

 おあつらえ向きにレコード屋から『若者たち』が流れてきた。

「「「歯を食いしばり~君はいくの~か~」」」

 思わず口ずさむ。

 あ、そうだ、これってお祖母ちゃんのオハコだった。思い出すと笑っちゃう。

「え、なんか可笑しい?」

「ううん、お祖母ちゃんのオハコなんだけどね、最後のね『アテもないのに~』をね『アテはスルメで~』に替えちゃうんだ」

「え、スルメ?」

「あ、正しいですよ。スルメは堅いから、歯を食いしばらないと噛めません!」

「「アハハハ」」

「あ、そうか」

 お祖母ちゃんは正しかったんだ。

「でも、メグリンのお婆さんはお若いですね」

「そうね『若者たち』を歌う明治生まれって、そうそういないわよ」

「あはは、変なお祖母ちゃんだからぁ(^_^;)」

 ちょっと墓穴を掘りかけた。

「でも、文化祭の一週間後に体育祭っていうのはきついよね」

「あ、ああ……」

 そうだった、令和の時代は体育祭は五月というのがほとんどだった。十月第一週の体育祭は、ちょっと変。

「加藤君とは意見の合わないことだらけだけど、この件に関しては正論よねえ」

 思い出した、10円男は「そもそも行事の有り方がぁ!」と異議を唱えたんだ。

 みんな――また加藤の演説が始まった――と思って相手にしなかったけど、真知子はちゃんと話の中身で評価している。

「学校の運営って先生たちで決めちゃうよね、それは仕方ないと思うんだけど、生徒にもフィードバックする仕組みは必要よね」

 ちょっと背伸びしてみる。

「あ、うん。仕組みとしては生徒会を通して要望は出せると思うんだけど、そうね……たみ子に言ってみようか。他にも予算の事とか、文化祭そのものにしてもいろいろあるもんね」

「そうですよ、今年は仕方ないけど、来年は二年生です。実り多い高校生活を目指したいですよ!」

「うん、そうだね。ありがとう、ちょっと元気出てきた。じゃ、わたし、こっちだから」

 

 商店街の手前で、真知子は本来の通学路に戻って行った。

 

「真知子さんて、ほんとに意識高いですねえ」

「ううん、ロコだってすごいと思うよ」

「ああ、自分なんか、情報集めて喜んでるだけですから……いて(>.<)」

「ん?」

「なにか顔に……」

 オデコを押えたロコの手にモミジの葉っぱが挟まってる。

「あ、商店街の飾りつけ、秋仕様になったんだ」

「あ、ほんとだ」

 アーケードの柱や釣り物のディスプレーが秋仕様になっている。

 

 戻り橋を渡って令和の時代に戻る。

 橋を渡ったとたん、モワ~っとした空気がまといつく。

 令和の九月は、連日の猛暑。

 でも、まあ、今日も無事だった。正体不明のスナイパーに狙われることも無かったしね。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・トモコパラドクス・22『水島クンのアドベンチャー・1』

2023-09-19 06:39:56 | 小説7

RE・友子パラドクス

22『水島クンのアドベンチャー・1』 

 

 

 妙子がヨダレを垂らして眠っている……かわいそうなぐらいだらしなく。

 しかし、妙子は悪くない。紀香と友子によって眠らされているのだ。

 

 水島クンが現れて三日目。

 

 土曜日なので、しっかり時間をとって部活ができるのだが、今日は、そうもいかない。

 水島クンがサゲサゲなのである。

 水島クン自身は、ダクトの中で満足していた。

 彼は、兄の水島昭一と同様に、昭和二十年三月の大空襲で死んだのだが、他の戦災幽霊のようには、この世に未練は無かった。

 空襲で、みんなが死んでいくのは辛かった。B29も憎くて怖かった。しかし、自分に関しては自業自得だと思っていた。

 三年ちょっと前には、世界を相手に戦争しても神国日本は必ず勝つと思っていた。

 ミッドウエー海戦が終わって半年ぐらいから、変だと思い始めた。山本連合艦隊司令長官が戦死して、もう日本は負けるなあと思った。でも、自分も熱烈に賛成した戦争なので、恨みの行き場所も無かった。

 父や『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で、名脇役を果たした兄は、この戦争には最初から反対だった。だから、日本もアメリカも等しく恨むことができた。また、自分の命と引き替えに助けてやりたいと思う人も居た。

 兄は、麻布高女の池島潤子という女生徒に恋していた。もっとも通学途中にすれ違うだけの仲だったのだが。

 昭二は、そんな兄がまどろっこしくって通学途中、友だちに頼んで潤子さんにわざとぶつかってもらい本を落とさせたことがある。

「あ、本落ちましたよ」

「ど、どうもありがとうございます」

 兄は、これで池島潤子さんの名前を確認はしたが、それ以上には、いっこうに進まなかった。そのくせ自分が死ぬときには、潤子さんのことを思い続けた。

――君は助かってくれ――

 そして、潤子さんが、まともな幽霊にも成れないほど焼き尽くされたことを知った兄は、戦後六十余年にわたって、潤子さんが成仏するのを待ち続け『はるか 真田山学院高校演劇部物語』の終盤に成仏するのを見届けて、やっと先年、逝くべきところに逝った。

 そこに至るまでに、兄は消滅寸前の乃木坂演劇部の立て直しに大いに力を発揮し、坂東はるかや仲まどかが俳優として身を立てる手助けもした。最後は消えゆく姿のまま『仰げば尊し』を、みんなと共に渾身から歌い上げ、ドラマチックに昇天していった。

 この弟の方の水島クンは、そんなに心を寄せる人もおらず、他の幽霊のテンションにもついていけず、一人ダクトの中でくすぶっていた。

 幽霊の引きこもり、というのが実際である。

 

「そうだ、演劇部の手伝いをしようか?」

 

 昭二も兄に負けず、浅草などに通っていたので、芝居のことは詳しい。

「あたしたち、義体だからさ、演技なんてお手の物なのよ。ねえ、友子……」

「うん、いざとなれば、世界中のコンピューターにもアクセスできるし、有名無名を問わず演劇関係者の頭脳も覗き込めるしね」

「じゃ、道具とか、力仕事は!?」

「わたし、こう見えても十万馬力(^_^;)」

「そうか……(-_-;)」

「ごめんね、せっかくダクトの中でタソガレてたのに」

「いや、いいんだ……」

 水島クンはうなだれてしまった。

 

 コンコン

 

 そのとき談話室がノックされた。

「どうぞ」

 と言ってみたものの、相手の正体が見抜けない。一応の外見は分かる。乃木坂学院の女生徒のナリはしているが、テンプラだ。全生徒の情報を検索しても、こいつは出てこない。

「こんにちは(^_^;)」

「だれなの?」

「分からない、初めての気配……」

 紀香と友子は、念のため戦闘モードに切り替えた。

「ごめんごめん。この気配なら分かるでしょ?」

 友子には覚えのあるオーラに変わった。

「……ああ、なんだ、あの時の宇宙人さん」

 そいつは、駅前のパンケーキ屋でいっしょになり、富士の樹海にテレポートしてバトルを繰り広げた宇宙人であった。

「これ、お土産」

「わ、駅前のパンケーキ!」

「レシピ分かったから、レプリケーターで合成したものだけどね。あ、その眠っている妙子ちゃんには、これね。保温になってるの。それから水島クンには、こっち。幽霊さんでも食べられる、特別制」

 水島クンは、恐る恐る手を伸ばして口に入れた。

「う……美味い(#◎□◎#)! ほんとうに食べられるものなんて七十何年ぶりだ(;'∀')!」

 涙さえ浮かべて喜ぶので、三人は女子高生らしくコロコロと笑った。

「ダクトから出てきて正解だった!」

「ハハ、今の今まで落ち込んでたのに」

「エヘヘ」

 初めて、年相応に水島クンは笑った。

「でもね、水島クン。食べ物食べて楽しいのは、ほんのしばらくだよ。どう、ちょっとしたアドベンチャーに出てみない?」

「アドベンチャー?」

「うん、アドベンチャー(^ω^)」

 水島クンの目が輝き、宇宙人が微笑んだ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊

 

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