大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・005『ネルといっしょに』

2023-09-02 11:44:42 | カントリーロード

くもやかし物語・2

005『ネルといっしょに』 

 

 

 あ、ところで、なんで電話なんか置いてんのぉ?

 

 食堂からの帰り道、階段を上りながらネルが聞く。

 わたしの机の上には古い黒電話が置いてある。

 いまは通じなくなった交換手さんの黒電話。

 相手が普通の人間だったら「ただのディスプレーだよ」とか適当に言っとくんだけど、ネルはエルフだ。

 エルフってのは、そもそもファンタジーの住人だから、多少の不思議は分かるだろうと思って踊り場のところで立ち止まって話す。

「うちのご先祖に樺太の真岡ってとこで電話交換手をやっていた女の人がいたんだけどね……」

「カラフトのマカオ?」

「アハハ、マオカだよ(^_^;)」

 地名から説明しなくちゃならなかった。

 スマホで地図を出して、樺太がサハリンだというところから説明。

「え、昔は日本領だったんだ!」

 ネルは賢い子で、ざっと読んだだけで、樺太や北方領土の事情を理解してくれた。

「ふうん……ウクライナとかだけじゃなかったんだね、ロシアに領土取られたのは」

「それで、なんで、交換手の女の子は逃げなかったの?」

 交換手の女の人たちが最後まで逃げずに仕事して、最後は毒を呑んで死んだのは理解できないみたい。

 わたしも、うまく説明できなかったし。

 

「さわってもいいかい?」

 

 部屋に戻ると、さっそく黒電話の前に立った。

「あ、うん。なにも聞こえないけどね」

 すぐに受話器を上げるかと思ったら、ネルは、電話機の本体を愛しむように両手で挟んだ。

 お母さんが幼子の頬っぺたを触ってるみたいだ。

「この電話、まだ生きてるような気がするよ」

「え、そうなの?」

「うん、エルフはね、森の木を触ってね、こんな風に話をするんだよ。エルフは長生きだけど、森の木はもっと長生きだからね、いろんなことを話してくれる。この電話にも同じようなのを感じるよ」

「そ、そうなんだ」

「えい!」

「わ(#'〇'#)!」

 急に耳を引っ張られてビックリする。

「ヤクモも耳が伸びたら聞こえるかもぉ(^▽^)」

「も、もう、ネルったら(;`O´)o」

「アハハ、ねえ、探検に行こう!」

「え……でも、夕食後は就寝まで外に出ちゃいけないって……ほら、校則に載ってるよ」

 壁に貼ってある校則を指さす。

「それは学校の外って意味だろ、敷地の中なら構わないさ」

 

 構わないはずなのに、なぜ物置の窓から出るのかは聞かなかった(^_^;)。

 

 学校は王宮の敷地の中にあって、王宮の敷地は山手線の内側よりも広いらしい。

「王宮の敷地ってことで自然環境を護ってるんだ、いいアイデアだ……」

 敷地の半分近くを占めるヤマセン湖の岸辺で、一人ごちるネル。

「月が出ているのに霞んでるね」

「そうだな、この湖は面白いかもしれない……ん……森の中に何かいる」

「あ、ちょ……」

「走るな、気づかれる」

「と、言われてもぉ」

「ごめん」

 30センチは身長差があるので、とうぜん脚の長さも違う訳で、それに気づいたネルはゆっくりにしてくれる。

「ニュンペーだ、隠れるよ」

 ムギュ……押しつぶされそうになる。

「ごめん、力加減がむつかしい」

「ニュンペーって?」

「えと、ニンフのことだ……湖が、ここまで伸びてるんだな、無邪気に水浴びしてる」

「えと……見えないんだけど」

「ああ、ちょっとこっち向いて」

「ウ、なにすんの!」

 ヘッドロックされたかと思うと、右手で目をグリグリされる。

「ほれ、見てみ」

「わあ……きれいな子たちだねぇ」

「よかった、ヤクモは怖がらない子なんだ」

「あはは、以前はふつうに見えてたからね」

「そうか、そうだろうね……でも、ここの敷地は広い。悪い奴もいるかもしれないから深入りはしないようにしよう」

「そだね」

「ちょっと、待ってて」

「え?」

 深入りしないようにって言ったばかりなのに。

 

 ネルは、どんどん森の中に入っていくとニンフのセンターみたいな子と親し気に言葉を交わした。

 なにを話しているんだろう?

 ケラケラ笑って、ちょっと羨ましいかも。

 え、ネルがこっちを指さして、ヤバイ、みんなこっち向いたぁ!

 

 シューー

 

 風が吹くような音がしたかと思うと、ネルが戻ってきている。

「裸眼で見えるようになったら会いにおいでってさ」

「裸眼?」

「ほら、グリグリ。100回瞬きする間だけ妖精とかが見えるんだ」

「あ、そうなんだ」

 試しに森の奥を見ると、もうニンフたちは見えなかった。

「気になることを聞いたよ」

「え、なに?」

「実は……ヤバイ、誰か来る。こっちから逃げるよ!」

「ちょ、ネル!」

 

 どこをどう通ったのか分からないルートで部屋に戻る。

 お風呂に入ったら、あちこち蚊にかまれていたよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド

  

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RE・トモコパラドクス・5『宿敵 白井紀香!』

2023-09-02 06:44:17 | 小説7

RE・友子パラドクス

5『宿敵 白井紀香!』 

 

 

 最初は雑電を拾ったのかと思った……。 
 
 わたしの義体はかなり高性能で、自分でもスペックの全ては分からないくらい。

 だから、聴覚の点でも、ボンヤリしていると、携帯電話やテレビの電波を拾ってしまって混乱する。人の感情も微弱な電波になるので拾ってしまう。一応フィルターがかかっていて、重要でないものや、無害な物は受信感度を下げて無視というか、一種の環境音と割り切る。

 

『雑電じゃないわよ』

 

 フィルターをかけ直した後、はっきりした意思として伝わってきた。

「だれ……?」

『言葉にしない。思うだけでいい』

『だれ!?』

『あなたの宿敵……』

 シュワッ!

 反射的に友子は十メートル以上ジャンプして、講堂二階の外回廊に着地した。

『過剰反応よ』

 その女生徒は、中庭のベンチに背を向けたまま思念だけを送ってきた。

『今のは誰にも見られていないわ。降りてらっしゃいよ……人間らしく階段を使ってね』

 その女生徒に害意がないことは、直ぐに分かったので、友子も緊張を解いて階段を降りて背中合わせのベンチに座った。すると、その女生徒は親しげに反対側からこちら側にやってきて、すぐ横に座った。

「鈴木友子さんね、よろしく」

『そんな、敵が親しげにして!』

「この近さでいたら、声に出さない方が不自然でしょ。それにトモちゃん、朝から敵を探そうって……ちょっとやりすぎ」

 親しげに、トモちゃんときた。

「あなたは?」

「あ、ごめん。二年B組の白井紀香。演劇部の部長で、一応トモちゃんが探している敵だよ、それも宿敵なのだぞぉ」

「宿敵が、どうして、そんなに穏やかなの?」

「わたしたちの上部組織ね、休戦状態なの。知らなかったでしょ」

「休戦状態……わたしのCPUにはプログラムされてないわよ?」

「トモちゃんを送った組織は、わたしの時代より前のホットな時代の人たち。だから敵対心が強いの」

「白井さんは、もっと新しい時代から来たの?」

「うん。もう、トモちゃんを抹殺しなきゃならないという仮説が崩れた時代」

「え…………じゃ、もう敵じゃないの?」

「それが、ややこしくてね。鈴木友子脅威説は、もう利権化してるの。この時代の地球温暖化説みたいに」

「ああ、あれって二酸化炭素の排出権が利権化したんですよね」

「そ、二十一世紀末には、世紀の大ペテンだって分かるんだけどね。トモちゃん脅威説は、まだ正式には生きてるの。だから予算がつけられて、わたしみたいなのが送られてくるわけよ」

「え~(*o*)!」

「こっち来て」

 わたしは、校内で唯一戦前の建築である同窓会館、その二階に連れていかれた。そこには古い字で「談話室」と看板が掛けられていた。

「ここって……あの談話室ですよね!?」

「そう、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語(星雲書房)』で乃木坂さんが仰げば尊しの歌の中で消えていった記念の場所」

 白井さんが指を動かすと、部屋の壁が素通しになって、一面満開の桜が透けて見え、ハラハラと桜の花びらが舞い散った。

「ウワー、小説通りだ!」

「ね、トモちゃん。演劇部入らない?」

「え(゚д゚)!?」

「あの小説のあと、演劇部はガタガタでね、部員はわたしと、トモちゃんのクラスの妙子しかいないのよ」

「ああ、蛸ウィンナーの?」

「うん。役所のアリバイみたいなことで、この時代にいるけど。目的がないとやってらんないの。今のわたしの目的は演劇部の再建。おねがーい(>ω<*)!」

 紀香は、大げさに手を合わせた。

「う~ん、急な話だから、ちょっと考えさせてください」

「ちっ、まどかは、進んで入部したんだよ( ̄~ ̄)」

「それ、小説の話でしょ」

「これだって、小説じゃん」

「そんな身もフタもないことを(^_^;)」

「だからね」

「とりあえず、わたしは帰ります」

 カバンを掴んで、出口に向かう。とたんに桜吹雪は消えて、元の談話室にもどった。

「その前に、トモちゃん。あんた、自分のスペックやら、そもそもの事件の背景、どこまで知ってんの?」

「ん~、敵を見つけて自分の身と家族を守ること」

「で……?」

「て……それだけ」

「雑だなあ、ちょっと座んなさいよ。レクチャーしてあげるから」

「う、うん……」

 そして、紀香から、とんでもないことを聞かされた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 柚木先生         友子の担任
  • 浅田 麻子        友子のクラスメート
  • 池田 妙子        友子のクラスメート
  • 徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
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