くノ一その一今のうち
会食も半ばを過ぎて王妃様は、おもしろい話をされた。
「ハワイの王さまが日本のプリンセスを王子の嫁を迎えようとされたのはご存知ですか?」
わたしとまあやは初耳で、大人たちは――ああ、あのお話か――という顔をしている。
「さすがにご存知のご様子だけれど、ここはわたくしに……」
「はい、わたしもうる憶えの話ですので」
「どうぞお聞かせください」
二人の社長は、さすがにソツがない。
「ハワイ王朝末期、明治大帝がご存命だったころ、王さまが日本を親善訪問されて、王さまは『よろしければ、日本のプリンセスのお一人を王子の妃に迎えたいのですが』と大帝に切り出されました。大帝も『それは良いお話です』と喜ばれ、宮内省は内々に皇族のお姫様方の中で適任はいないかと探しにかかりました。惜しくも、その後ハワイはアメリカに併合されて立ち消えになってしまいましが、実現していれば、きっとディズニーがアニメにしていたでしょうねえ『モアナとプリンセスの伝説』とか、ねえ、アデリヤ」
「アハハ、わたし、ジブリ世代でディズニーはあんまり見てないから(^_^;)」
「そうだったわね、じゃあ、うちの話はどうかしら」
「お母さま」
アデリヤの目が泳いだ。
「うちの五代前の国王は『うちが、ハワイ王の夢を実現しよう!』と、言い回しはいいのだけど、パクリを狙ったんです」
パクリ(^_^;)
「しかし、度重なる戦争で立ち消えになり、パクリは実現しませんでした。そして、大東亜戦争に日本が敗北して日本の公使が帰国することになったんです」
微妙に話が飛んだ。
「お母さま、そろそろお昼寝の時間じゃないかしらぁ」
「夕べは一時間余計に寝ておいたから大丈夫よ」
「はい」
「ところが、帰国する間際になって公使が使ってらっしゃったメイドが病気になってしまい、公使はメイドを一人残して日本に帰って行きました。公使といっても捕虜同然だったから仕方がなかったのね」
「先々代の国王夫妻は、このメイドを憐れに思われて、我が国の国籍を与えて看病なさいました。そして二年療養してすっかり良くなると、王子が、このメイドを見染てしまいました。国王は『彼女は日本人なのだから日本に帰してあげよう』と王子を諭しました。しかし、調べてみるとメイドの家族は戦争で全員亡くなっていて、彼女は帰国しても身寄りが一人もいないことが分かったんです」
「まあ……(இoஇ; )」
まあやが、もうウルウル。
「それで、そのメイドは我が国の人間として大臣の養女にした上で王子の妃になりました。そして生まれてきたのが、いまのわたしの亭主というわけです。思いがけず、パクリが成功しました」
「え、えと、妃殿下!」
「はい、まあやさん?」
「いまのお話って、国家機密なんじゃ……(;'∀')」
そうだろ、王家の血筋に外国人の血が混ざってるって、ちょっとヤバイ話だ。
「はい、でも、みんな知っています。そして、とても大事にしていますのよ」
程度の差はあるけど、みんな王妃さまの話に感銘を受けて、我々は指定された自分の部屋に入った。
部屋に行くと、わたしのベッドの上に日本からの航空便が届いていた。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
- 多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
- 杵間さん 帝国キネマ撮影所所長
- えいちゃん 長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
- 豊臣秀長 豊国神社に祀られている秀吉の弟
- ミッヒ(ミヒャエル) ドイツのランツクネヒト(傭兵)
- アデリヤ 高原の国第一王女