大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:208『櫛名田比売と天叢雲剣』

2023-09-28 11:20:26 | 時かける少女

RE・

208『櫛名田比売と天叢雲剣』テル 

 

 

 

 七色に滲んだ瑞雲からは一条の光が差して山頂一帯を荘厳している。

 

 山頂は薄紫の花々に縁どられ、正面に鳥居、右に小さな石の祠、左には剣……おそらくは天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)をかたどった大きな石碑が建っている。

 

桃太郎二号:「ええ、これがアメノムラクモって剣なのかあ? なんか字が彫ってあるぞ」

ヒルデ:「日本の字は難しくて読めんなあ」

イザナギ:「天叢雲剣出顕之地と彫ってあります」

桃太郎二号:「しゅっけん?」

与一:「現れたという意味だ、須佐之男命が八岐大蛇を退治して、尻尾を切ったら、中から天叢雲剣が現れたんだ」

桃太郎二号:「オレの刀にも字が彫ってあるぞ」

ケイト:「そうなのか?」

桃太郎二号:「ほら」

 シャラン

 ちゃんとした効果音をさせて抜き放った刀は、映画村のお土産に売っていそうなビニールの刀だが。本人は立派な本身の刀だと思っている感じなので誰も笑わない。子どもの夢を壊してはいけないからな。

イザナギ:「うん、どれどれ……」

雪舟ねずみ:「桃栗三年柿八年……」

桃太郎二号:「どうだ、カッケーだろ!」

イザナギ:「大器晩成、未来の自分を信じてがんばろうというスローガンですね。立派ですよ桃太郎二号くん」

桃太郎二号:「あはは、それほどでもねえけどな」

ケイト:「祠の方は……なにも入っていないなあ」

 小さな仏壇ほどの祠は立派な石造りなのだが、しめ縄も扁額も無い。前に鳥居が無ければ、ただの灯篭と見間違ってしまう。

タングニョースト:「それに、誰もいませんねえ、白ウサギの話では我々を待っている者がいるという話でしたが」

雪舟ねずみ:「あれ?」

 

 雪舟ねずみが声に少し遅れて、我々も気が付いた。

 無風だった山頂に微かな、でも香しい香りがしたかと思うと、祠の中から気配がする。

 何事かと祠の洞を見ていると香りは薄桃色の光を放ち、祠の前に巫女服姿のきれいな女性が現れた。

 巫女服というのは学校の制服のように体の線を隠してしまうものなのだけど、その女性は170センチはあろうかという長身で、巫女服を通してさえ、ふくよかでメリハリのきいた中身が偲ばれる。

桃太郎二号:「タングのねえちゃんよりもすげえかも……」

ケイト:「おまえ、タングニョーストが好みなのかぁ」

 ポコン

ヒルデ:「静かにしろ」

 桃太郎二号がタングニョーストにしばかれ、ヒルデに注意されて、巫女服は静かに口を開いた。

巫女服:「八雲立つ ~出雲八重垣妻籠みにぃ~八重垣つくる その八重垣を~~~~の櫛名田比売(クシナダヒメ)でございま~す。どうもお待たせいたしました~」

イザナギ:「おお、あなたが櫛名田比売でありますか」

櫛名田比売:「はい、そうです、お義父さま」

 お、おとうさま!?

櫛名田比売:「はい、お義父さまの娘の櫛名田比売でございま~す」

ヒルデ:「え、二人が生んだ神々に、こんなアフロディーテのような女神がいたか?」

イザナギ:「いえ、櫛名田比売は息子の須佐之男命の嫁です。八岐大蛇を退治した縁で嫁になります」

櫛名田比売:「はい、須佐之男さまは、とても愛してくださって、八重の垣根を作って外の空気にも触れさせないほどに大事にしてくださいましたぁ」

イザナギ:「いや、そうなんですか。あんな乱暴者に嫁いでくれて、ほんとうに感謝です」

櫛名田比売:「いえいえ、わたしこそ、八岐大蛇の生贄にされるところを助けていただき感謝の仕様もありません。のろけに聞こえるかもしれませんが、キングギドラの二倍半と恐れられた八岐大蛇を退治するなど並みの勇気で出来ることではありません。それを成し遂げられたのは、かの人の大きな愛情があったればこそなのです。須佐之男さまは、わたしを小さな櫛に変えて髪にさしたままお戦いになられました。か弱い櫛ですので必死に御髪につかまって、弓を射かけ、矛を突かれ、太刀を振るわれる度に『おみごと!』『すてき!』『頼もしいです!』と声援いたしました。須佐之男さまも『いきます!』『次です!』『目に物見せてやります!』『トドメです!』と終始声をかけてくださって安心させてくださいました。あの戦いの最後の一太刀がわたしへのプロポーズ、わたしも、あの方の御髪をギュっと抱きしめることで永久の愛をお誓いしたのです(#*´ω`*#)」

 フワァ~~(n*´▽`*n)

 なんちゅうノロケ、まさか、このノロケを聞かせるために鬼ノ城から呼んだのではないだろうなあ。

櫛名田比売:「しかし、この幸せは、いつにかかってお義父さまのお働きにかかっているのです」

イザナギ:「あ……そうですね。黄泉の国から戻って、わたしが鼻をかんだり目を洗わなければ、須佐之男も天照も生まれてこないんですよね」

櫛名田比売:「はい、それで、少しでもお義父さまのお手伝いに成れればと、これをお持ちいたしました」

 シャラ~ン!

 気合いの入ったエフェクトとともに、櫛名田比売が差し出しのべた手の上に見事な剣が現れた。

イザナギ:「これは……!?」

櫛名田比売:「はい、これこそが天叢雲剣!」

 

 これがああああああ!?

 

櫛名田比売:「どうぞ、これでご本懐をお遂げになって、無事にお戻りくださいませ」

イザナギ:「……そうか、このためにわざわざ……ありがとう、櫛名田比売」

櫛名田比売:「では、これにて……」

 大任を果たして、小さく息を吐くと二歩後ろに下がってから回れ右をする櫛名田比売。

 と、そこで、彼女の美しい足がもつれてしまった。

櫛名田比売:「キャ!」

 

 ズデーーン!

 

 あ!?

 

 倒れたショックで、櫛名田比売の背中が割れて、小学五年生くらいの女の子がこぼれ出てきた。

 

櫛名田比売:「あ、あ、こ、これは違くて! 違うんです! と、とにかく、いってらっしゃいませーー(;゚Д゚#)!!」

 慌てて、元のボディーに潜り込むと、すぐに光になって祠の中に吸い込まれるようにして消えてしまった。

 

イザナギ:「櫛名田比売は八人姉妹の末っ子なんです、七人の姉がみんな生贄にされて、最後に番がまわってくるんですよ。七人の姉たちは十九を筆頭にした年子でしたからねえ……」

ヒルデ:「ということは、たかだか11歳……」

ケイト:「見栄を張ったのかぁ?」

桃太郎二号:「いや、須佐之男がロリコンなのかもなあ」

与一:「それは詮索してはいけません」

雪舟ねずみ:「そろそろ参りましょう、いまなら日のあるうちに米子に着けます」

テル:「よしそうしよう」

 

 頂上を後にすると、吹く風が――八雲立つ ~出雲八重垣妻籠みにぃ~八重垣つくる その八重垣を~――と、櫛名田比売が歌っているように聞こえた。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売

 

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RE・トモコパラドクス・31『友子 複製術に目覚める』

2023-09-28 06:17:46 | 小説7

RE・友子パラドクス

31『友子 複製術に目覚める』 

 

 

「うわーソックリ!」

 

 十分後、友子に連れられてきた影武者を見て、まどかは歓声をあげた。

「じゃ、簡単なテストをやります。いい、マドカ?」

「うん?」

「いや、影武者の方に言ったんです(^_^;)。もう成りきってますから。じゃ、決めぜりふから」

「イェイ!」

 影武者は、本物と寸分狂わぬポーズで決めた。

「あの窓この窓そんな窓、夢と希望を届けます、あなたとみんなのまどかだよ(^▽^)!」

「かんぺき!」

 それから、立ち居振る舞いや、「マネージャーはデベソ」など、基礎知識をチェックして、拝むようにして、まどかは裏口から抜けて行った。

 

「「わたしに、こんな力があったなんてね……」」

 

 友子と、まどかの影武者が同時に言った。

「はい、まどかちゃん、ニッコリ笑ってスピンしてジャンプ……今度は、思い切り両足後ろにあげてジャンプ『あなたとみんなのまどかだよ(^▽^)!』……はい、決まり。あとはモニターにラッシュ出して選びまーす」

 カメラマンの篠山さんもOKを出した。

「うまくいったね」

 と、影武者。

「もう、友子には怖い者なしだね」

 と、友子。

 むろん、だれにも気づかれないように、スタジオの隅でヒソヒソ話している。本当は、こんなヒソヒソの会話もいらない。だけど、今日のこの結果が嬉しいために、わざと会話にしている。

 

「おかしいなあ……」

 

 モニターを見ながら篠山さんが呟いた。

「なにか……」「問題ありますか……」

 父であり弟である一郎と母であり義妹でもある春奈も美粧堂のスタッフとして心配顔。

「いや、いい絵はとれてるんですけどね。ほら、これとか、これとか……」

 大きなモニターに出てる何百枚の写真から、何枚かを指差した。

「さすが、篠山さん。実物以上によく撮れてますね……あ!」

「さすが、まどか、気がついたかい?」

 

 それは、ごくごく微妙な違いだった。

 

「きっかけ出して、ポーズが決まるのが、いつもより0.1~0.3秒遅れてるんですよね……まどか、表情には出てないけど、ちょっと疲れてんぞ。こんな遅れははじめてだ。佐々木さん、ちょっと無理させすぎてないですか?」

「はあ、レギュラーが一本増えただけなんですけどね。気をつけます」 

 マネージャの佐々木はメモを取り、スケジュ-ル帳とにらめっこした。

「大丈夫です、すぐに慣れますから。ほかに問題無かったら、次ぎお願いできますか、テンション高いうちにいきたいと思いますんで」

「よっしゃ、次ぎ、衣装メイク替えて、二十分後再開」

 友子は、控え室でメイクや衣装を替えている影武者を調整した。むろん他の人間には気づかれない。パソコンのソフトのアップグレードのようなものである。

 影武者は、スタジオ近くに捨てられていた自動車のパーツを分子変換して新たに作ったまどかの義体である。

「もう一人まどかがいれば済むことじゃん」

 それがヒントだった。思いついて五秒後には義体ができていた。ただ、友子の意識というかパーソナリティーは一つしかない。

 そこで、意識は、友子とできたての義体の間を毎秒1/100秒で行き来している。だから、篠山の指示があって、表現になるまでに、ごく僅かのタイムラグができてしまうのだ。

 友子は、プログラムを数万回変えて(かかった時間は、ほんの数十秒だが)1/1000秒まで縮めた。

 

 百個ほどのチョンガリコーンが宙に舞った。

 

 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 それを、まどかは目にも止まらぬ早業で食べていく。むろんチョンガリコーンはCG、あとで合成する。やろうと思えば毎秒百個ぐらいのチョンガリコーンは食べられるんだけど、やったら、みんなが目を回す。

「うん、動画はメッタに撮らないけど、今のはいけたと思う。静止画の中にほんの二秒の動画だけどインパクトはあると思う。それにしても、まどか、立ち直り早いなあ」

 篠山さんが感心した。

 

 夕方、本物のまどかが戻ってきた。

 

「大丈夫っぽそうね?」

「そちらは?」

「うん、初期治療がよかったんで、なんとか……しばらくはリハビリだけどね」

 明るく言ってはいるが、母の突然の脳梗塞は堪えたようだ。

「心配しないで、それはわたしがやるわ」

 見透かした影武者まどかが身を乗り出す。

「ディズニーランドのミッキーと同じ。同時に違う場所には出現しないけど、何体も同じ着ぐるみがいるから、タイムラグ無しでいけるわ」

「そんなことまで、お願いしていいの?」

「まかせてください。困ったときはお互い様の乃木坂です」

 現に、今も移動中の車の中で、もう一体のまどかの義体が疲れ果てて寝たフリをしている……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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