大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・76『作戦変更』

2023-09-20 14:53:14 | 小説3

くノ一その一今のうち

76『作戦変更』そのいち 

 

 

 ほんの一瞬迷っているように見えた。

 

 それが並の人間なら――そういうこともある――と見逃す、いや、迷ったことにさえ気づかなかっただろう。

 たとえば、自販機で飲み物を買う時、コインを投入するまでの一秒にも満たない時間、スポーツドリンクにしようかお茶にしようかと悩むような。駅のホームに上がって、一瞬どこの乗車マークに立とうかと迷うような。学食のカレーを食べる時、付け合わせを福神漬けにするかラッキョウにするか迷うような、そんな僅かな間。

 パソコンの画面には高原の国が国境を接する五つの国が表示されている。

 一つは、わたし自身初の大仕事だった草原の国。その他にA・B・C・Dの四か国。

 Cを除いては、いずれも元はソ連の中の共和国だった。

 AとBにアラームが灯っている。アラームといっしょに、その理由が出ている。

――A国の国境付近で爆発事故、国境警備兵二名死亡、三名負傷。A・B共に一級警戒態勢をとって、国境付近に軍隊を集結中――

「作戦変更」

 ひとこと言うと、三村紘一は服部半三の顔でこちらを向いた。

「桔梗とミヒャエルでA国へ、B国へはそのいちと王女殿下とで向かってもらう。A国の方が積極的に事態を拡大させようとしている。むろん背後には草原の国と木下豊臣が付いている。仕掛けてくるとしたらA国だ。なんとしても、AB両国の戦闘を回避させろ。B国が先に手を出すことはないと思うが、様子を探ってくれ」

「わたしは様子を探るだけなのか?」

 王女が不足そうな声を上げる。

「大事な仕事です。それに、いつ状況がひっくり返るかもしれません。そのいち、手に余ると思ったらすぐに撤退してこい」

「「「了解!」」」

「あ、ちょ……」

 まだ気が済んでいない王女をひっぱり、とりあえずB国との国境を目指した。

 

 ドバカラドバカラドバカラドバカラ…………国境へは馬でいく。

 

 草原の国に潜入した時は途中まで原チャを使った。帰路の予想がたっていたからだ。

 今度は予想がつかない、AB両国と高原の国は一応の国交関係はあるが、草原の国が今以上の力で軍事行動を起こせば、いつ敵対関係になるか知れたものではない。馬なら、途中で乗り捨てても自分の意思で王宮の厩に戻っていく。万一発見されても熱を発しない馬であれば誘導兵器で撃破される心配も無い。

 今朝のA国の爆発事故は、A国の不安を煽って自分の勢力に組み入れようとする草原の国の陰謀に違いない。B国との国境で起ったというのはB国の仕業に見せかけるブラフだ。

 AB両国に緊張状態を作り、どちらかに味方して勢力を拡大し、合わせた力で高原の国を攻めようという魂胆だ。

 高原の国は、今のところミサイル攻撃を受けているだけだが、AB両国を傘下に組み入れてしまえば、本格的に陸上部隊を送り込んで一気に高原の国を取りにかかるだろう。

 その大攻勢をかけさせないためにも、AB両国の国境紛争を拡大させてはならない。

 

 キュイーーーン

 

 怪鳥の鳴き声のような音を立て、いくつものミサイルが飛んで行く。

「王都を狙っていますね」

「大丈夫、旧式の巡航ミサイルだ。迎撃ミサイルで大半は墜とせる」

 大半……いくつかは着弾するわけだ。

 それを大丈夫と言えるのは、王女の強がりもであるんだろうが、戦争状態に慣れてしまっているということでもあるんだろう。そう思うと、王女の意地を張ったような敢闘精神も痛々しく思える。

「敵は、混乱を我が国にまで広げようとしている。ぜったいに阻止するぞ!」

「はい」

「あの峠を越えればB国との国境が見えてくる、一気に超えるぞ」

「殿下、少し身を隠しましょう」

「なぜだ?」

「ミサイルは20発を超えています。おそらく戦果確認のためのドローンが遅れて付いてきます、このままでは発見されます」

「そうか?」

「王都撃破、動画をあげれば恰好の宣伝になります。付いているカメラは4K対応の3Dカメラ、侮れません」

「分かった」

 癖のある王女さまだが、変に我を押し通すタイプでもないようなので、少し安心。

 

 道を外れて切通脇の薮に身を潜める。

 

 ブイーーーーン

 

 やがて、ミサイルと同じ軌道を通って模型飛行機のようなドローンが飛んできた。

 危ないところだ、乗り物を使っていたら、エンジンを切っても排熱を感知されているところだった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女

 

 

 

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RE・トモコパラドクス・23『水島クンのアドベンチャー・2』

2023-09-20 07:13:18 | 小説7

RE・友子パラドクス

23『水島クンのアドベンチャー・2』 

 

 

 海王星近くであいつぐ小爆発! 太陽系辺縁に異変……!?

 

 そんなニュースが世界を駆けめぐった。ただし……扱いは、ほんのコラムではあったが。

 今の二十一世紀初頭の科学技術では、海王星の近くまで行って確認することが出来ない。ハッブル宇宙望遠鏡をもってしても、小惑星か隕石の衝突ぐらいにしか見えず、実際、そこから出てくるデータを解析しても、そういう答えしか出てこなかった。

 ただ、これまでの観測のデータでは、海王星の近くに、こんな大量の小惑星や、隕石などが確認されていなかったので、世界中の天文学者が騒いだのである。

 むろん、このニュースは友子も紀香も知っていた。友子は未来の義体ではあるが未来の出来事に関するデータは入っていないので、他の人類と同じ程度の知識と興味しかない。

 紀香のコンピューターには、この情報はあった。

『2023年、海王星付近の未確認連続小爆発』

 これに該当するものだと思った。ならばなんの問題もない。

 一週間ほどで、この現象は終了するし、地球にはなんの影響もないのだから……。

 

 先週の日曜は、父であり弟である一郎が、新製品開発のツメのため休日出勤。義母の春奈と家中の片づけをやった。片づけたガラクタの中から出てきた友子の昔の写真、その写真で友子が一郎の姉であり義体であることが春奈には分かってしまったが、春奈は、やはり娘として友子を扱ってくれている。一郎にはナイショである。

 今日は、一郎も春奈も、新製品のルージュの発表会に、それぞれ開発者と営業担当として休日出勤。従って、今日の友子はホームアロ-ンである。

 今日はアキバにでも行って、紀香とAKRのメンバーにでも化けて遊んでみようかと思った。

 お気に入りのチュニックを取りだしたところで緊急のメールが直接頭に飛び込んできた。圧縮してあるが、広辞苑二冊分ぐらいの内容があった。そして最後の署名。

――SOS 乃木坂の宇宙人――

 あいつだ!

――了解――

 そう返信すると、友子はろくに発進地点も確認しないままテレポートした。

 

 え?

 

 気がつくと、そこは宇宙船の中だ。テレポデータを参照すると43億3千万キロを超えている。

 地球上のものなら、初めての船の中でも、その全体を掌握し、自在にコントロールすることもできる。しかし、この宇宙船は、そういう点でセキュリティーがきついようで、見えている範囲のことしか分からず、その見えているところも、その構造やスペックまでは分からなかった。

「ごめん、急に呼び出して」

 宇宙人が友子と友子の後にいる者に声を掛けた。振り返ると、紀香があさっての方角を向いていたが、驚いて、こちらを見た。ここでは義体同士の相互認識力も人間並みに落ちている。

「あ、ごめん。セキュリティーをかけたままだったわね。一秒間だけ解除する。船に関する情報をインストールして」

 頭が一瞬グラリとした。ハンパな情報量ではなく、ショックで後ろの紀香は倒れてしまっている。

「あ、大丈夫?」

「大丈夫、こんな情報量だとは思わなかったんで」

 友子は、倒れている紀香に手を貸して起こしてやった。

「じゃ、ブリッジにいきましょう」

「あなた、マネって言うのね」

「あんまり好きな名前じゃないけど、一応、そう呼んで」

「あたしたち、この船コントロールできるようになっちゃったけど、いいの?」

「その必要があるから、そうしたの。さ、ここが……」

 ブリッジには、もう一人のマネがいた。

「二人とも、そのマネから離れて、偽者だから!」

 もう一人のマネの声に、友子も紀香もプチテレポして離れ、ブリッジの両端に移動した。そして両目のスペシウム光線で、もう一人のマネのコンピューターを直撃した。

 ビビビビビビビ!

「ど、どうして……分かったの、完ぺきな義体だったのに……」

 偽マネは、苦しい息の中で聞いた。二人は、それに答えず、トドメを刺した。

 ジュ!

「ありがとう、助かったわ」

「この子のコンピューターには、パンケーキのレシピが欠けていたから」

「そうでなきゃ、偽者とは分からなかった」

「さっき、セキュリティーを解除したときに進入したのね」

「一秒で……?」

「船体に張り付いていたら、一秒あれば十分。右舷の装甲が破れて、シールドが効かなかったからでしょうね」

「処分するね……」

 友子は、偽者の義体を船外十キロの位置までテレポさせると、舷側のパルスレーザー砲を発射した。

 

 ドーーーーーン

 

 原爆並のショックが返ってきた。

「こっちの弾が当たる前に爆発した……自爆装置が付いていたのね」

 紀香が、生体組織から冷や汗を流していた。

「やっぱり、あなたたちに来てもらって正解だったわ」

 マネも声を震わせ、三人安堵のため息をついた。

 ホーーー(*´Д`)

 その時左舷後方から一隻の宇宙戦艦が漂流してくるのが分かった。

「宇宙戦艦ヤマト……!?」

「いいえ、あれは宇宙戦艦キイ。ヤマトの拡大発展系……昭二クンが乗っている」

「え?」「談話室の幽霊?」

 モニターの映像を拡大する。

 

 ああ……

 

 もし、ここが海なら、キイは沈没寸前の姿であった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊

 

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