大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:230『戻れた!』

2024-02-17 14:29:01 | 時かける少女
RE・
230『 戻れた!』テル 





 部室に戻れたらいいのにと思った。


 だって、前回の旅立ちは駅前だった。

 あの時、駅の改札を出ると、前を冴子が歩いていた。

 ちょっと追い越したぐらいのタイミングで気が付いたことにして、ペコリと頭を下げるくらいの挨拶をしよう。
 少し速足になって、肩が並んだところでペコリとお辞儀して――ああ、昨日の?――という感じで始めようとしていた(169『再びの決意』)。

 そこから、ほんの知り合いから冴子との友だち関係を取り戻そうとしていた。

 でも、後ろから自転車が来て、それを避けようとして、転んだ拍子に犬のウンコの上に手を突いて、おまけに、その手で冴子のスカートを掴んでしまった(;'∀')。

 あそこに戻ったら、周りの人間からエンガチョされまくって最初から破局だ。


 戻るなら部室のお布団の上!


 そう念じていると、白い闇の中にうっすらと四角い灯りが浮かんできて、それが元作法室の部室の灯りだと気が付いて。

 いっしゅんフワってブレーキがかかって、背中に軟らかいけどしっかりしたお布団の感触。

 やったぁ! 

 取りあえずは、ババ掴みになることもなく部室に戻れた。

 ソロっと首を動かす。

 前回戻った時は、覗き込む二人の先輩の顔があった。

 今回……部室に人影は無い。

 覗き込まれるはイヤだけども、誰も居ないのは、ちょっと寂しい。

「先輩……キャ」

 小さく呼んで横を向くと、オデコが中身の前頭葉ごと滑り落ちた。

 よく見ると、オデコに掛けられていたタオルハンカチが落ちたんだ。


「あ、気がついた?」


 死角になっていた足もとから優しい声がした。

「あ、美空先輩!?」

「ああ、よかったぁ。昨日から姿は現れていたんだけど、完全じゃなくて、熱も出てきたから……」

「先輩……」

 一瞬キスされるのかと思ったら、先輩のオデコがくっついた。

「よかったぁ、もう熱は無いみたい」

「あ、ありがとうございます」

「みっちゃん頑張ってくれたから、ほら……」

 モニターの三つのビル、いずれも半分以上が青に変わって、赤い部分はずいぶん減った。

「がんばった甲斐ありました?」

「うん、しばらくは大丈夫でしょうね。ありがとう、みっちゃん」

「あ、いいえ……左の方、ちょっとチラチラしてますね」

「ああ、まだちょっと不安定かなぁ……」

 三つのビルは多次元世界の模式図だ。最初に部室に転がり込んだ時は、赤や橙色が多くて、模式図とは分からなかったけど見るからに不安定だった。

「それに、見て!」

 先輩が拭うように手を振ると、模式図は青空ににたなびく日の丸に変わった。

「あ、白丸じゃなくなった!」

「うん、ちゃんと源氏が勝って、無事に日の丸が受け継がれることになったのよ」

 与一さんの姿が浮かんだ。壇ノ浦からはエスケープしたけど、屋島の活躍、それと黄泉の国までがんばってくれたおかげで日の丸が確定したんだ。

「あのう、もう一つ聞いていいですか?」

「なに?」

 ちょっと緊張した。

 以前、試しにやったら、時美先輩が生まれない世界になってしまったことがあるからだ。
 時美先輩の姿が見えないし、美空先輩は、そのことに触れようとしないし(-_-;)

「あの……時美先輩は?」

「え?」

「あの、志村時美先輩は?」

「え、だれ……それ?」

 え……え……ええ( ゚Д゚)!?



 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第84話《孫文桜・2》

2024-02-17 10:39:08 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第84話《孫文桜・2》忠八 




 ガチャ!

 乱暴にドアが開いたかと思うと、コンビニの女の子が入って来て「すみません、バッテリー切れてたみたいです(;゚Д゚#)」と、焦りながらロボットのお腹からお茶とお茶うけを取り出して給仕してくれる。

「あ、さっきの!?」

 それは、ついさっきコンビニでアンパンを買った時のコンビニの女の子だ。

「ほう、もう憶えてくれたんですなあ(^▭^)」

「え、まあ(^_^;)」

 腋にコンビニの上着を挟んでるし。

「孫の孫文桜(そんぶんおう)です、おうは桜と書きます」

「お初にお目にかかります、孫文桜です。学校ではサクラって呼ばれてましたからサクラと呼んでいただいてもけっこうです」

「あ、はあ……あ、えと、四之宮忠八です。お爺様とは古くからというか、明治時代から家同士の付き合いで……あ、どうぞよろしく」

「あ、いえ、こちらこそ!」

『どうぞごゆっくり』

 突然回復して、ロボットは回れ右して出ていく。

「え、あ、あれえ(;'∀')? あ、では、どうぞごゆっく……」

「サクラも居なさい」

「え、あ、はいお祖父さま」

 一礼するとサクラは『に』の字の縦棒に当るソファーに腰掛けた。

「お茶うけは、そのアンパンにしようか。サクラはこのお茶うけをいただきなさい」

「あ、はい……」

「あ、すまん、サクラの分のお茶が無かったね」

「あ、淹れてきます、少し失礼します四之宮さま(;'∀')」

「あ、いえ(^~^;)」

 ドアの向こうに消えると――あ、お茶ッ葉!――の声がして、気配が遠のいていく。

「いや、どうも、根っからのオチャッピーでしてなぁ、ワハハハ(´∀`)」

 水戸黄門みたいに笑うと、こちらもつられてアハハと笑ってしまう。

 サクラとさくらのイメージが重なるが、こっちのサクラは、どうも孫大人の演出が入っているような気がする。

「あのコンビニは大人の持ち物なんですか?」

「はい、各国の大使館やマンションやらがあって、繁盛してます。元々は、このビルの敷地だったんですがね、付近にコンビニが無いと近所の大使館からの希望もありましてなぁ」

「ああ、隣もどこかの大使館でしたねぇ」

「ああ、C国大使館です」

 ウ……気が付かなかった(;'∀')

「ウクライナ大使館も道を挟んだところに、他にもいろいろ。どちらさまにもご贔屓にしてもらってますよ」

「ああ、それはスゴイですねえ」

 正直、ちょっとビビる。

 祖父さんの代までは、いろいろあった四之宮家だけど、親父の代になってからは、昔の仲間や知り合いは、旧華族の付き合いが園遊会のエキストラのようになったのと同様に、ただのゴルフやマージャンの仲間だと思っていた。

「まあ、まずはアンパンでもいただきましょう」

「あ、はい」

 二人、ワシャワシャと袋を破り、アンパンにかじりつく。

「アンパンと言うのは大発明ですねえ」

「あ、そうですねえ。明治になって間もないころは、パンというのは人気が無かったそうですねえ」

「モソモソしていて、味も薄い。若いころ芝居をやっていた時期がありましてねえ」

「あ、うちの祖父もやってました。アマチュアでしたが」

「わたしもアマチュアですよ。舞台でパンを食べるシーンがあるんですがね、パンを食べると、口の中の水分を全部もっていかれて、往生したもんです」

「役者をやってらしたんですか?」

「最初はね、じきに向いてないと分かって。それからは演出と脚本です。僕には、そっちの方が向いている。アンパンは木村屋が工夫したもので、明治天皇が御気に入られて、それから全国に広まったんです」

「ああ、それは聞いたことがあります」

「そのアンパンを明治天皇にお勧めしたのが、忠八君の五代前です」

「え、そうなんですか!?」

「はい、五代前の四之宮公は、実にアンパンの大恩人なんですなあ」

 そう言うと孫大人は、美味しそうに最後のひと口を口に収めた。

「ええと、それで、本日の御用件は何でしょうか?」

「あ、そうそう……」

 大人は、慌ててお茶を飲むと、口の端っこにアンコを付けたまま言った。

「サクラを嫁に貰って下さらんか」

「え!?」

 ガッシャーン

 ドアの向こうで茶碗の割れる音がした。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
 
 
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