大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:231(最終回)『また明日』

2024-02-22 11:35:10 | 時かける少女
RE・
230(最終回)『 また明日』テル 




「アハハ、嘘よ、嘘(*^ω^*) 」


 目をへの字に、口をωにする美空先輩。

 清楚で真面目一方の先輩が、こんなお道化た表情をするのは初めてなので、この表情だけで上手くいったんだと分かった。

「もー、先輩」

「ごめんごめん、時美はね、あそこ」

 先輩が指差したのは模式図の左側、ちょっと不安定でチラチラしているやつだ。

「あそこって……」

「うん、なんとか峠は越えたし、ミッチャン一人に任せておくのも申し訳ないって……」

「一人で飛び込んだんですか?」

「うん、時美、ベテランだしね。心配ないわよ」

「そうだったんですか」

 安心した。

 でも、ちょっと申し訳ない。

 ムヘンと日本神話と二つの異世界を経巡って、どちらも完全には取り戻せてはいない。もう一度あの世界に戻れと言われたら、正直、尻餅ついて立ち上がれないだろう。

 それに、あの、キリリとした時美先輩なら大丈夫だろうし。

 頭を切り替えた。

「ちょっと、外に出てきます」

「それなら、もう帰った方がいいわよ。わたしも、ミッチャンが元気になったら帰るつもりでいたから」

 そうだ、先輩は丸二日、わたしに付き添ってくれていたんだ。

「じゃあ、いっしょに」

「ありがとう、でも後始末があるから、構わないで先にいって」

「そうですか、それでは、お先に失礼します」

 お茶のお点前みたいにお辞儀をして、部室を、旧校舎を出た。


 日差しが傾き始めた中庭は、大団円を予感させるように、微かにセピアが混じる。校舎も木々も草花も穏やかに影を伸ばし、飛行機雲は風に千切れてfineの崩し文字を描きそう。

 なべて世はことも無し。

「「ワ!」」

 中庭を出てピロティーに向かおうとしたら、校舎の向こうから急に人が出てきて、互いにビックリ!

「光子ぉ、もう捜したんだからねぇ」

「さ、冴子……」

「もう、カバンほっぽり出していっちゃうんだもん。ホレ」

 グイッとカバンんを押し付ける。

 見ると、冴子はカバンの他にサブバッグと傘を持っている。

 あの時、階段を転げ落ちて胸を貫いた、あの傘……ちょっと頬が引きつる。

「そんな呪物を見るような目で見ないでよ。てっきり夕方からは雨だと思ったのよ。天気予報も当てにならない、ほら、天気予報、まだ雨のままだよ」

 スマホのお天気画面を見せる冴子。

「あれ、マチウケ変えたの?」

 冴子のは、高校に入って以来、和風アニメの『まほろば戦記』のキャラだった。新キャラが出るたびに変更してお守りのようにしていた。

「なに言ってんの、そんなのは一年で卒業。来年は、もう三年なんだしさ、いつまでも成ろう系やってらんないって、光子が言い出したんじゃない」

「え……」

 言われて、自分の心を探る。

 ブリュンヒルデ……トール……ラグナロク……主神オーディン……タングリスとタングニョ-スト……世界樹ユグドラシル……懐かしい単語とイメージがフワフワ浮んでは消えていく。

 なにかの拍子で、熱中したアニメとか思い出して――そんな時代もあったんだ――と、瘡蓋をカリカリ触ったような感覚。


「あ、ヤックンだ……」

 
 冴子が呟いたのは、降りたばかりのローカル、二両前に乗り込むヤックンに気が付いたんだ。
 電車のドアは『ドアが閉まります』のアナウンスのと共に閉まって、発車ベルが鳴って、ゴミ収集車が次に行くような感じでローカルは出て行った。

「ヤックンも大変ねえ……ね、光子」

「あ、え?」

「神社、工事中だからさぁ、お神楽の練習市民会館でやってるそーよ。交通費は出るらしいけど大変ねえ、去年で終わってて正解だったねぇ、うちらは」

 お神楽しなくていいんだ……それに『ヤックン』ていう冴子の声にはお友だち以上の熱が無い。

 まあ、いいか。

 とにかく、平和なリアルに戻ってきたんだ。

 これが、わたしのリアルなんだ。

 微妙な寂しさはあるけど、それは、レールの彼方、カーブを曲がって姿を消そうとしているローカルのお尻を見ているせいだろう。

 ゴロゴロゴロ……

 ローカルが曲がった向こうで雷が鳴った。

「お、天気予報当たったじゃん」

「でも、こっちに来る頃には家についてるね」

 ヤックンは傘を持っていなかった。

 でも、あいつはモテるから、きっと大丈夫。

 改札を出ると、ロータリーの信号が点滅。

 冴子は――エイ!――と渡って、わたしは渡れなかった。気の早い軽自動車が動き出していたからね。

「先に行ってぇ!」

 手をメガホンにして叫ぶと、冴子は傘を振って行ってしまった。

 うん、どうせ信号を渡ったら家は逆方向。『また明日』とか言って分かれるんだもんね。



 RE・かの世界この世界 第一期 終わり



☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 


 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

2024-02-22 07:01:00 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第89話《長徳寺の終戦・2》さくら 






 なるほど、後ろ姿はそっくりだ。


 初日、衣装を着けメイクが終わってカメラテストで前後左右から撮られ、モニターで確認していると、ディレクターが呟いた。

 自分でも、そう思った。

 横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。

「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」

 ディレクターは誉めてくれたけど、あたしは、一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。

 たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなもんかと思ったけど、どうやら、それより強い力を持ってるみたい。お寺に疎開してくる学童の世話を懸命にやっている先生で、人柄は良さそうだった。で、その人柄に対しての演技でぶつかってみようと思った。

 配属将校。これも分からない。

 学校に、軍人。それも将校がいるのは、まるで惣一兄ちゃんがうちの学校にいるようなもんで、想像したら吹き出してしまった。

 とにかく、ざっと読んだだけなんだけど、明るくて頭の回転がよくて、でも大きなところで抜けているのが、あたしの役のかづゑという役だと理解した。

 そうそう、まず最初に、この名前が分からなかった。

「え、かづ……最後の字はなんて読むんだ?」

 この「る」だか「ん」だか、よく分からない字一つで一時間。あたしは、そういうところで引っかかると次に進めない性質なので、苦労したよ(^_^;)。

 あいにくお母さんも出かけてて、お姉ちゃんにスマホで「かづゑ」を写して送ったけど、忙しいのか返事がかえってこない。

 仕方がないので裏のアパートのチュウクンに聞いてみる。あっさり「かづえ」と読みがいっしょだと分かったけど、ちょっと驚いた。
 アパートに妹の篤子さんとは違うきれいな女の人がいたのだ。質問に来た身であるので、あからさまに聞くことははばかられ、ちょっと演技した。

「あのぅ、もう一個聞きたいんだけど」

 そうやって、チュウクンを廊下に呼び出した。

「なんだ?」

「ちょっと、だれなのよ、あのきれいな人?」

「ないしょ!」

 そう言われると気になるもんで、アパートの住人のハニーさんに聞いてみる。

「フフ、それがね。サクラって言うらしいわよ」

 と、ニューハーフの聞き耳頭巾は教えてくれた。

「え、あたしと、同じ名前?」

「うん、なんかわけあり。偶然なのか、倒錯したさくらちゃんへの愛情からなのか……興味津々なのよね( ´艸`)!」


 と、ここでも三十分ほどのロス。


 ま、こんな感じでトロトロ読んでいるもんだから、昨日の本番までに一回しか読めなかった。

 最初の撮影は家族九人の集合写真。他の役者さんも来るのかと思ったら。撮影は、あたし一人。あとはデジタルのはめ込みでやるらしい。


 他のシーンも、大方このやり方。


「糸枝ちゃん、あたしがするから。いいよ気にしなくっても」

「お父さん、また休み? この非常時にぃ……あ、戦死した中村さんのお葬式? じゃ、昼からは出勤できるわね。そう言っとくよ(かづゑのお父さんは住職兼学校の先生)」

「あ、すみません。急いでたもんで!」

 などなどの台詞を相手役無しでやる。後ろ向き横向きは三越さんのをまんま使って、声だけ吹き替える。どうにもやりにくい。

 でも、一番やりにくいのは、相手役ありの撮りなおしだった。はめ込みでも処理できないことはないんだけど。相手がこだわりのある人で納得しないらしい。

 それで。

 その相手役は、なんと、この撮り直しのためだけにアメリカから来たんだ!


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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