大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』

2024-02-24 15:08:17 | カントリーロード
くもやかし物語 2
032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』 




 その木の別名を思い出して、ハイジが転ぶのを連想してしまった。


「え、なんだぁ?」

 ハイジが睨みつけてきて、ネルがクスクス笑う。

「なんだよ、ネルにまで笑われちゃあ立つ瀬がねえぞ」

「これはね、ヒメシャラっていうんだよ」

「ヒメシャラぁ?」

 その記念樹は、聖真理愛学院の人たちが植えてった記念樹。

 物事は正確にというカーナボン卿の意見でStewartia monadelpha という学名が最初に書いてあり、その下に姫沙羅・赤栴檀と漢字で書いてある。

 横文字はラテン語だし、漢字は日本人のわたしでも『姫』の一字以外は苦しい。

 水やりをご一緒した王女さまが「サルスベリと呼ばれることもあるのよ」と教えて下さった。

 で、今朝は三人で水やりしていて、王女さまが言った「 サルスベリ」を思い出してしまったんだよ。

 桜を植えようという意見もあったらしいんだけど、これから開花期を迎える桜は、花を咲かせるのに力を使ってしまう。そして、土に馴染めなくて、大して花も咲かせられず、ストレスばかり溜まって枯らす恐れがあるというので、ヒメシャラに決められたそうだよ。夏には、小さな花をいっぱい咲かせるそうで、ちょっと楽しみ。

 さて、当番の風呂掃除。

 福の湯の方は、別の班なんで、あたしらは露天風呂。

 露天風呂の方は入浴で入るのは人気だけども、掃除の方は不人気。

「これってよぉ、最後に使った奴が掃除するのがいいんじゃね?」

 ハイジがプータレる。

「それやると、みんな自分は最後じゃないとか言って、掃除しなくなると思うぞ」

 ブラシをかけながら、ネルが答える。

「そうだよね、入浴のついでだと、掃除してる間に湯冷めしちゃうなあ」

「ええ、掃除してから、もっかい浸かればいいじゃん」

「う~ん……そういう発想はなかったなあ……けど、それじゃあ、掃除したことにならないような気がする」

「そうなのかぁ、ネルはどう思うよ?」

 端っこまでモップかけて、振り返りながらハイジ。それとすれ違いながらネルが答える。

「う~ん……正直、よく分からないけどさ。今はやくもの言う通りやってればいいと思うよ」

「そうなのかぁ」

「たとえば……ハイジ、そっち持てよ」

「おう」

 すのこ大を二人で持ち上げ、わたしがモップでガシガシ。

「たとえば、風呂入るついでに、みんなの下着とか洗濯機にかけたとする」

「おお」

「早風呂のハイジは、さっさと上がって服を着る」

「おお、ハイジは何をやっても早えからな」

「で、パンツ穿こうと思ったら、忘れてきた」

「アハハ、たまにやるなあ(^_^;)」

「そしたら、他のやつが新品の着替えのパンツを脱衣籠に用意してるんで、ちょっと拝借」

「ええぇ!?」

「ちゃんと、きれいに前も後ろも拭いてからな。それで、急いで部屋に戻って、自分のパンツに履き替えて、風呂に戻って借りた新品パンツを返しておく」

 アハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))

 思わず三人いっしょに笑ってしまう。

 でも、掃除の手は止まらないで、もう一枚のすのこにとりかかる。

「そういう時はよぉ、パンツ穿かないで部屋に帰るぞ。返しに戻るのめんどくせえ」

 アハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))ワハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))キャハハハハ(((ᵔᗜᵔ*)))

 バカなことを言いながらも、ちゃんと掃除は進んでいく。

 ちょっと前は、飽き性で、遊んでばかりいたハイジ。考え事をすると他のことは御留守になりがちだったネル。

 意識してないだろうけど、みんな変わりつつある。

 そして、三人のバカな掃除を脱衣場の屋根から見ているデラシネも噴き出しそうになって( ´艸`)手で口を押えてる。

 デラシネは、みんなからは姿が見えないようにして、それでも、悪さはしなくなって、こんな風に観察するようになった。

 つまり、わたしにだけは見えてるんだけどね。

 それは、もうしばらく、やくもとデラシネの秘密だよ。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第90話《長徳寺の終戦・3》

2024-02-24 07:09:21 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第90話《長徳寺の終戦・3》さくら 





 たまに高射砲に当たって墜ちてくる敵機がいる。

 間抜けとも不運とも言える。高射砲というのは時限信管と云って、弾が一定の高度に達したときに爆発するらしい。
 だから、現代のミサイルと違って、相手目がけてとんでいって爆発するようなシロモノじゃないんだ。
 直撃なんか、まずありえない、爆発半径10メートル以内に飛び込んできて、運悪く、その弾片を食らったものが落ちてくる。
 まあ、空を飛んでる雀の群れに石を投げて墜とすよりも確率が低い。

 で、その不幸……と言うより間抜けの部類に入る飛行機が落ちてきた。正式にはP38ムスタングっていうんだけど、みんなは、省略してP公と呼んでいた。

 日和山の高射砲陣地には、それまで敵機を一機も落としたことのない高射砲陣地があった。

 まあ、八王子まで飛んでくる敵機はあまりいないので、チャンスにも恵まれなかったこともある……というのは日和山の兵隊さんの言い訳だとみんな思っていた。
 でも、予備役応召の隊長さんや、どう見ても半分以上は明治生まれだろう兵隊さんに悪いので、米軍機も性能がよくなったし、とか、威嚇の役割は十分果たしていますよ。などと、取りようによってはオチョクリになりそうな慰めの言葉をかけていた。
 それでも、日和山の隊長さんも兵隊さんも怒ることもなく、頭を掻いているだけだった。

 その高射砲が敵機を墜とした。陣地の兵隊さんも、里の村人も茫然だった。

 敵の間抜けさは、パイロットが脱出して決定的なものになった。

 なんと敵のパイロットは、長徳寺の本堂の上に降りてきてしまったのだ。屋根のてっぺんに落下傘がひっかかり、降りてくることができない。なんとか落下傘は外したけど、小なりと言えどお寺の本堂。とても飛び降りられる高さではない。

 そのうち、村人や憲兵さんたちがやってきたけど、容易に手が出せない。敵のパイロットは拳銃を持っているのだ。パイロットは大汗をかきながら喚いている。だが意味が分からない。

「この暑いのに、あれじゃ、半日ももたねえよ」

 かづゑの父が長閑に言った。兵隊さんたちも下手に本堂の大屋根に上るのは得策ではないと手をこまねいている。だれも口に出しては言わないけど、日本の劣勢は明らかで、捕虜には死んでもらいたくはない。


 で、かづゑがセーラー服にモンペ姿で大屋根にあがることになった。


 女学校4年のかづゑは、一年だけ英語の授業を受けたことがあるので、選ばれてしまったのである。

「ハウ、ドウユードウー。アイム、ア、エルダードーター、オブ、ディステンプル。スクールガール。OK?」

「ヤー、アイム、マイク・ルーニー。キャンユー スピーク イングリッシュ?」

「イエス、アイ キャンスピーク リトゥル。アーユー、サースティー?」

 そう言って、かづゑは水筒を差し出した。マイクは弱っていて、水筒を落としてしまった。とても悲しそうな顔になった。

「アーユー サッド?」

 マイクは、力なくうなづいた。かづゑは頭の回転のいい子であった。

「すみませーん。そこの消防ポンプのホース、投げてくれません!」

 村人が、ホースの口を投げあげ、兵隊たちが、手押しポンプを漕ぐと、ホースから勢いよく水が吹き出し、本堂の上に虹がかかった。マイクも日本人も一瞬感動した。かづゑは、マイクに水をかけてやった。

「オー ナイス! カムファタブル!」

 マイクは、素直に喜び、直にホースの口から水を飲んだ後、真上に向けて水を撒き、さっきより大きな虹が本堂の上に現れた。

 その虹は、CG処理され、三越紀香のときよりも盛大な虹になった。


 スタッフとマイク役のジョ-ジの提案で『長徳寺の終戦 ファーストレインボウ』と改題された。


 この後、終戦の日に防空壕を掘るという間抜けたエピソードが入り、クランクアップになった。

 この三越紀香のピンチヒッターで入ったドラマが意外な反響を呼び、さくらの運命を変えることになるとは、だれも想像できなかった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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