大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 002『若宮第二公園』

2024-02-28 14:51:53 | 自己紹介
勇者路歴程

002『若宮第二公園』 





 正門を出て65m50㎝。

 耐寒マラソンをやる時に測ったから正確だ。

 学校南東側の交差点、ここを斜め横断した角に立てば、校舎の二階から上が見える。

 アリバイの為に、今は自販機だけになってしまった元酒屋の自販機で缶コーヒーを買う。これを飲んでいるうちは、壁越しに校舎を拝んで感傷に更けられる……と思ったら小銭がない。

 プルルン

 仕方がないと上体を起こしたところでバイクが停まった。

「先生、いまお帰りですか?」

 バイクの主は学食のオヤジだ。オヤジといっても二代目。

 先代そっくりの髭面が目尻と口元にしわを寄せる。

「アハハ、歳なんで、ちょっと休憩中」

 芸の無い返事をすると、オヤジはバイクを歩道に上げて、後ろに積んだケースから紙パックのお茶を出して、グイッと突き出す。

「どうぞ、こんど入れようと思ってる試供品です」

「あ、すまん、ありがとう」

「学食の収入源は自販機ですからね、季節や需要に合ったものを入れんと儲けになりませんからねぇ」

「ああ、昔に比べたら生徒数は半分だもんなあ。まだ、やっていけそう?」

「なんとか西校と掛け持ちで」

「そうか、近ごろは学食止める学校も出てきたから、がんばってね。高校は、やっぱり学食と購買部が無いとね。中学と変わらなくなっちまう」

「あ、購買も四月からは、うちでやるんですよ」

「え、岸田のオバチャン、辞めるのぉ?」

「アハハ、僕らにはオバアチャンですけどね、階段下の購買は体に堪えるんで、引退だそうです」

「あ、あ、そうか……オバチャン、俺よりも年上だったなあ、挨拶しときゃよかった」

「あ、先生も?」

「あ、うん。荷物整理したら、このバッグ一つで間に合った」

「いや、申しわけない。気が付かなかった。どうも、長年ごくろうさまでした」

「あ、いやいや、退職そのものは10年前に済ませてるからね。あ、そろそろ学食開く時間でしょ」

「あ、じゃあ、また近くに来たら寄ってください」

「ありがとう、お父さんによろしくね」

「じゃ、失礼します!」

 ブルルル~~ン

 バイクが行ってしまうと、自販機の前で紙パックのお茶を飲んでいるのも決まりが悪く、もう、このまま駅に向かおうかと歩き出した。


 あ、この公園。


 次の四辻に行くと、取り壊し中の民家の向こうに公園が見える。

 手前に家があったので、普段はほとんど忘れている。

 もらったパック茶を飲んでしまおう、この公園からでも校舎は見えたと思うしな。

 若宮第二公園……くすんだ石柱に半ばゴミ収集場所を示す札に隠れた陰刻の文字に気付いて、そういう名前だったかと思い出す。

 学校の近所だから、一度や二度は来たかもしれない。たしかに、園内の楠や奥まったところが一段高くなった様子には見覚えがある。

 そうか、学校が荒れていたころ、校外パトロールで立ち寄ったことがあるのかもしれない。

 三カ所ほど遊具が設置されていた跡も見えるが、撤去されたあとに更新もされていない。その分、ベンチが三つ設えてあって、公園というよりは、散歩途中の休憩所という感じだ。

 真ん中に『野球、サッカーなどの球技を禁じます』と、野球をやったらピッチャーマウンドのところに看板が立ててある。子どもには魅力のない空間だ。

 少し駅寄りに学校の敷地ほどに大きい若宮公園があるので、こっちはオマケのようなものだろう。年寄の憩いや保育園児のあそび場には向いている。

 振り返ると校舎も上の方だけだが見えるから、ま、ここでいいか。

 どっこいしょ。

 木の下のベンチに腰掛ける。

 サワサワと、葉の戦ぐ音に包まれて、意外に心地よかった。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村一郎       71歳の老教師
  • 原田光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉大輔       二代目学食のオヤジ

 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第94話《さつき今日この頃・2》

2024-02-28 07:08:54 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第94話《さつき今日この頃・2》さつき 





 意外な人が周恩華さんの身元引受人になってカタがついた。


 なんと、裏のアパートの冴えない住人、四ノ宮忠八クンだ。

「よかったら、さつきさんもどうぞ」

 というので、迎えのタクシーにいっしょに乗った。

 違和感は、ここからだった。

 四ノ宮クンと言えば東京大学に籍があることだけが取り柄の、冴えない上に貧乏な学生という認識しかない。

「四ノ宮クン、どこに行くの?」

「恥ずかしながら、僕の実家」

 そう言ったなり黙りこくってしまった。

 タクシーは山の手の高級住宅街に入って、ひときわ大きなお屋敷が見えてきた……と思ったら、お屋敷の八の字に開いた門を抜けて、玄関の前の車寄せで止まった。

 クシーのドアが自動で開くのは当たり前だけど、開いたドアの前に執事さんとメイドさんが出迎えているのにはタマゲタ。

「四ノ宮クン、あなたって……」

「めったに、ここには来ないんだけどね……」

「奥の座敷になさいますか? それとも坊ちゃんのお部屋で?」

「僕の部屋。肩の凝らないところがいいだろうから」

「若奥様は、間もなくお出でになります」

「え、まだ来てないの。桜だけが頼りなのに」

「え、さくら!?」

「あ、来てから説明するけど、あの『さくらちゃん』じゃないから。ま、どうぞ。南さん、お茶だけおねがいします」

「かしこまりました」

 アキバや渋谷のまがい物ではないメイドの南さんが言った。メイドも本物になると迫力と気品がちがう。

 四ノ宮クンの部屋は広いだけが取り柄のガラクタ部屋だ(^_^;)。

 プラモデルやフィギュアの類なら、まだ理解はできるけど、かなりの量のプラレールや、骨董品屋さんの倉庫のように鎧があったり、模擬刀なんだろうけど刀があったり、壺や茶わんや掛け軸。よく見ると、なんかの専門書や漫画などがゴタマゼで平積みになっている。天井からは、モビールやら、模型飛行機なんかもぶら下がって乱雑、いや、熟成した趣味を感じさせる(^_^;)。

 あたしはぶっタマゲタだけだけど、恩華さんは不快を絵にかいたような顔になっていた。

 二三分すると、メイドではないかわいい子がワゴンにお茶とケーキを載せて現れた。

 若奥さんではないと思った。身に着いた気品や、そこはかとなく感じる人としての幅が四ノ宮クンとはかけ離れ過ぎている。
 言ってみれば、この娘さんはドラマで主役が張れそう。で、四ノ宮君は、どう見ても通行人というかエキストラというかモブの学生A。

「妹の篤子です。こないだまではオレのお目付け役だった」

「過去形で言わないでくれます、お兄様」

「おいおい、じゃ、お目付け役が二人も居るってことかい?」

「たった二人だと思ってたの? まあ、頼りない兄で申し訳ありません。そういうわたしも盲腸のときはさくらさんにお世話になりましたけど。どうぞ恩華さん」

 恩華は、お茶を受け取るふりをして、少し先にあった脇差を抜くと自分の喉元に当てた!

「恩華さん!」

「来ないで!」

 それ以上近づけば、自殺しかねない勢い!

 誰も身動きができなかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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