やくもあやかし物語 2
たった半日の滞在だし、聖真理愛学院の修学旅行は300人の大所帯だし、まとまった行事は合同の昼食会だけ。
300人はABCの三班に分かれて、宮殿の見学、湖の遊覧、森と周辺の散策の三チームに分かれてる。
聴講生の詩(ことは)さん、衛兵士官のソフィー先生、それと畏れ多いことにヨリコ王女さまは日本語と英語の両方がいけるので、通訳としてそれぞれの班についている。わたしも頼まれたんだけど、もともとコミュ障だし、こっちの生徒だし、未成年だし、詩さんのサポートということで勘弁してもらったよ(^_^;)。
いまは、校舎前の芝生広場で全体の説明、班分けは、あらかじめ言われていて、それぞれの班の前に並んで紹介があって、付き添いの先生が諸注意の真っ最中で、取りあえずは通訳、わたしは助手だけど、ヒマ。
わたしたちはB班。
ええと、いろいろ面白いこととかあったんだけどね、例の三方さんのことについて触れとくね。
『三方って、雛人形の三人官女の真ん中よ』
胸ポケットに場所を移して御息所が説明してくれる。
「さんにんかんじょ?」
『ほら、お内裏様の下の段に三人並んでる』
ああ、お祖母ちゃんがいっかい飾って見せてくれたっけ。
『あの真ん中の三方を捧げてる』
「あ、あの鏡餅の台みたいなの……」
思い出した、お雛さんの段飾りの中で、ちょっと怖い印象だったよ。
なんでだろ?
『あいつ、雛壇の中で、いちばんエライのよ』
「え、お内裏さまよりも?」
『うん、あいつ、男雛も女雛人もオムツの頃から世話してるから、もう怖いものなしって女。今風に言うとメイド長ね』
「オツボネサマなんだ(^_^;) オールドミスなんだろうね」
『旦那持ちよ』
「そうなの?」
『うん、眉毛剃ってるし鉄漿(おはぐろ)してるし』
ああ……そうだった、眉毛無いし少し開いた口の中真っ黒だったし、だから怖かったんだ。
「あ、でもでも、あの三方さん眉毛もあったし、歯も黒くなかったよ」
『時代だからでしょ、あんな眉無しの鉄漿で外国に行ったら、みんな気絶しちゃうわよ』
御息所と話してるうちに、諸注意とか終わって、いよいよ出発。
うちのB班は森と周辺の散策から。
うちの生徒たちは、所どころでプラカード持って人間案内板やったり、昼食会の準備に駆り出されたり。一応スマホに通訳アプリ入れてるから、最低の会話は出来るようになってる。
「あれ、森の住人たちも入り口で並んでるよ」
見物に並んでるという感じじゃなくて、お出迎えという感じで、ティターニアさん、ドレスにティアラ。他の妖精たちも、おめかししてティターニアさんの後ろに並んでる。
なんでだろ、森の住人は普通の人間には見えないのに。
と、思ったら、三方さんが地上10センチくらいのとこをスーっと滑るように移動してティターニアさん達の方に行ったよ。
――パンパカパーーン♪――
ファンファーレが鳴って、ちょっとビックリしたんだけど、それは妖精のパックが吹いたもので、人間には聞こえていないようだ。
ティターニアさんが進み出ると、まるで王さまか皇帝陛下にするように、小さく腰をかがめてから三方さんに握手したよ!
興味津々のわたしは、通訳助手の役割も忘れて聞き耳をたててしまったよ!
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方