やくもあやかし物語 2
福はぁうちぃ~(^▽^)/(^〇^)/(^皿^)/(^▽^)/(^◇^)/ バラバラバラバラ!
鬼はぁそと~(^〇^)/(^▭^)/(^〇^)/(^▽^)/(^〇^)/ バラバラバラバラ!
吹き抜けになった階段ホールから始まった!
寮生、先生、非番の衛士、食堂のオバチャン、一緒になって豆をまく!
豆は変換魔法のソミア先生が魔法で作ってくれたビーンズバレル!
「ヒントはね、映画館のポップコーンよぉ(^▽^)」
きっかけは変換魔法の授業だった。
「映画館のスナックの定番と言えばポップコーンよね?」
ああ、そうですね……という感じでみんなが頷いた。
国際色豊かな学校なので、なにか質問されて、全員が頷くことは少ない。
それが、みんな頷くと言うのだから、映画館のポップコーンというものの普遍性や偉大さが分かる。
ちなみに、わたしは映画館は苦手で、学校の芸術鑑賞で一回行った以外は、新聞屋さんがくれたチケットでお母さんと行ったのがあるきり。
そんなわたしでもポップコーンだと思うんだから、大したものなんだ。
「ポップコーン食いてえ(^▢^;)!」
ひとりよだれを垂らすハイジを無視して先生は質問した。
「では、なんでポップコーンなんだろ?」
先生の問いかけにはいろんな答えがあって面白かったんだけど、話が横っちょに行きそうなんで省略。
「映画を観てるとね、興奮した観客が物を投げるのよ! 手近なものを投げるから、売店で買ったドリンクとかスナックを投げる! ビンとか缶とか投げたら危ないよね。キャンディーやチョコでも当ると痛いよね。ホットドッグとか投げたらバッチイよね。そこで、映画館のマネージャーが考えたのがポップコーン!」
ああそうか! みんなピンときた!
「そう、ポップコーンなら遠くに飛ばないし、当たっても痛くないし、それで20世紀に入ったころには映画館の必須アイテムになったわけなのよ」
なるほどぉ……みんな感心したんだけど、もう半年も授業を受けているから遠慮なく質問が出る。
「でも、あとの掃除大変じゃないですかぁ、ポップコーンのバレルの底って、カスやら塩とかぁ、キャラメル味とかチョコ味とか、けっこうくっつくんじゃないですかぁ」
ロージーが手を挙げる。
「そう、いい質問ね。実は先生も修業時代に映画館でバイトしていてね、その問題には頭を悩ませて、それでいい手を思いついたわけよ!」
そう言うと、先生は教卓からポップコーンのバレルを取り出して、「エイ!」と掛け声をかけてみんなにぶちまけた!
キャ! ウワ! アチャア!
いきなりだったので、みんなビックリ。ハイジだけは大口開けて、ぶちまけられたポップコーンの二割は食べたけどね(^_^;)。
「……あれ、先生、このポップコーン、口の中で消えてしまうぞぉ!?」
「そう、これには変換魔法がかかっていてね、投げるとかぶち当たるとかのショックが加わると窒素や酸素やらの分子に変わるというか変換されるのよ」
「ああ、なんか余計にお腹減ったぁ」
「アハハ、肝心の食欲を満たさないということでNGになったんだけどねぇ」
変換魔法のなんたるかを教える、いい授業だった。
「そうだ!」
その昼休みにハンター・ヤングが閃いた。
「なあ、ヤクモ、ソミア先生の魔法があったら豆まきができるんじゃないか!?」
ハンターは日本のアニメが好きで、アニメでやっていた豆まきをやってみたくて仕方がなかった。
同室のメイソン・ヒルといっしょに学校に掛け合ったんだけど「あとの掃除が大変だぞ」というソフィー先生の意見で却下。
ソフィー先生は日本への留学経験もあって豆まきのなんたるかを(後の掃除が大変)知っていたんだね。
そこで、ソミア先生のアイデアを元に売りこんだら「他文化を理解するいい機会」ということでOKが出た。
それで、先月の末から、みんなで変換魔法の実習を兼ねて『消える豆』を大量生産。
「やるからには、本格的にやりましょう!」
という王女さまの発案で、わたしが巫女に扮してバレル100個分の『消える豆』に御祈祷をした。
かけまくも~畏き大神に額づき、かしこみかしこみ申さく~
バサリバサリと幣を振って御祈祷。
むろん巫女の資格も修業もしてないからカッコだけなんだけど。
「なんか、空気が浄められた感じがするぞぉ……」
ネルが耳と鼻をひくつかせる。
で、めでたく節分の午後。
ホールを手始めに学校中で「福はぁうちぃ~」「鬼はぁそと~」をやっているわけ。
なんせ、投げたら数秒後には消えるという豆まき専用なので遠慮がない。
寮や校舎内はあっという間に撒き終わって、一部は校舎の外に出て撒きだした。
「みんな見ろ!」
ソフィー先生が指差した校舎の屋根から、寮の軒端から、ニョロニョロと濁った人玉のようなものが逃げていく。
「トトロに似たのがあった!」
ハンターが手を広げて振り返って、半分くらいの子が「ああ……」という顔をする。
「そうだ、ススワタリが家から逃げ出すのが、こんな感じ!」
オリビア・トンプソンが手を叩いて、やっとわたしも思い出した。
「すごいぞ、ほんとうに厄払いの効果があるのかもしれないぞ」
ソフィー先生まで褒めてくれて、犬のボビーも「賛成!」という感じで尻尾を振る。
「他の所でも撒いてみよう!」
誰かが言いだして、全校生徒があちこちに散って「福はぁうちぃ~」「鬼はぁそと~」の声が広い敷地に木霊した。
「見て、森からも上がってる!」
ネルが最初に発見した。
「ええ、なんだあ?」
ハイジが横っちょに来る頃には、森の、おそらくは学校に面している側だけだと思うんだけど、いろんな人玉みたいなのが逃げ出していく。
「みんなぁ、森はやめた方がいい。妖精たちのテリトリーだよ!」
言った時には遅かった。
わたしの横にティターニアが立っているし(;'∀')
「あ、申しわけありません、日本の行事で、あ、その……ほんの遊びなんです。すぐに止めさせますから!」
「ううん、いいのよ。森の浄化には常々気を付けているんだけどね、気づかないうちにはびこっていたのね……大したことない者ばかりだけど、数が多い。オーベロンに記録させている。森の向こう側はわたしたちでやってみるわ」
「は、はい」
「中には、森の浄化に役立っていると思っていたのも混じっている……見かけによらない者もいるようね」
「すみません、変な効き方したかもです」
「いや、こっちが認識を改めるべきだったのかもしれない、フフフ、オーベロンの奴、なんだか楽しそうだ」
遠目で見るオーベロンは木々の戦ぎに紛れてしまうけど、わたしが見ても、雪の降り始めに元気づいた子供のようだ。
「では、またね」
そう言うと笑顔を残してティターニアは消えて行った。
よかったぁ、トラブルにならなくてぇ。
ホッとして向きなおると、少し離れた小高い芝の上にデラシネがオーベロンみたいに機嫌よく体を揺らしていた。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン