大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・206『恩師の素性とガタガタ道』

2024-02-25 14:04:29 | 小説4
・206

『恩師の素性とガタガタ道』ミク 



 扶桑の月世界は狭い。

 まあ、月自体が地球よりも火星よりも小さいんだけどね。

 その中でも扶桑自治領は、代官所のあるプラトンの他は、初期開拓地が拡大発展したアルキメデス、ピタゴラス、そして鉱山が集中してるパスカルの三つ。

 あとは、開拓村とかラボという程度のドーム集落があるだけで、ほかの国々の自治領と比べると見劣りがする。

 扶桑は幕府の体制をとっているのに、なんで、パスカルとかプラトンとか、古代ギリシャめいた名前が付いているのかというと、人類が月に到達するずっと前から、そういう名前が付いていたからよ。

 ウソだと思ったら、検索してみて。

 扶桑は、火星こそ自分流の地名や名称を付けたけど、それ以外は元々の名称を大事にする。大事にすることで侵略的というか帝国主義的な領土欲は持っていないことを地味にアピールしている。

 その狭い扶桑自治領でも、火星からフラ~とやってきたオッサン一人見つけるのは、ちょっと骨折り。

「ちょっと調べてみた」

 ピタゴラスに向かう街道に入って、高機動車をオートに切り替えると、そのまま指を車載ハンベのダッシュボードに伸ばして画面を出した。

「え、これって、姉崎先生の勤務評定……税務調査……医療記録……え、マースマーケットの購買記録に通信記録……って、個人情報全部じゃん!」

「ああ、空港からの足取りがつかめないと分かった時に調べたんだ」

「って、いくら警備隊でも、ちょっち違法なんじゃないのぉ?」

「プロファイリングしなきゃ、そうそう絞れねえからな」

「あれぇ、先生、給料の半分マースバンクに振り込んでる」

「うん、誰かに貢いでるか仕送りしてるかだろうと思う」

「ああ……でも、誰の口座に送ってるとかまでは分からないみたいね」

「ああ、俺の権限では、そこまでしかな」

「若いころは月で力仕事ばっかり……」

「まあ、あのガタイだからなあ。Bの8を見てくれ」

「Bの8……あ、パスワードいるよ」

「〇〇〇の〇〇〇〇」

「〇〇〇の〇〇〇〇……え、ダメだよ」

「じゃあ、〇〇〇の〇〇〇〇」

「……え、これもダメ」

「それじゃあ……」

 七つ目でヒットした。

「ああ……軍隊に入っていたんだ……」

「静かの海紛争の直後に除隊してる……それから地球で大学に入りなおして教員免許とって、うちらの学校に来てる……ええ! 音楽と家庭科の免許も持ってるんだ!」

「え、ほんとかよ?」

「ええぇ、てっきり体育の、それも格闘技専門かと思ってた」

「他には、なにか無いのか?」

「ええと……現役の軍人だったころは、飲み代の出費が多かったみたい……うわあ、ピタゴラスの主な呑屋踏破してるっぽいよぉ……」

「どんな呑屋だ……」

 ガックンガクガク ガックン ガックン

「ウワ!」

「キャ! ちょ、なんでこんなに揺れんのよ!?」

「工事区間だ」

「あ、でも人口重力は効いてるみたい」

「不安定なんだ、メンテナンスが間に合ってないんだ、イヘッ(>.<) ……舌噛んだ」

 月には大気が無いんで、太陽風や紫外線的な、時には隕石やらデブリやらがそのまま降り注いで、人工物でも自然物でも劣化が早い。

 数年前にテルが考案して、真っ先に月で試されたんだけど、やはり、月面の過酷な条件では寿命が短いんだろう。

 今度はパルス病のワクチンも作って大活躍の同窓生、流行り病が落ち着いたら、人口重力の安定化にも頑張ってほしいと思うデコボココンビだった(^_^;)

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第91話《退役艦たかやす回航記》

2024-02-25 09:50:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第91話《退役艦たかやす回航記》惣一 




 江田島で艦長を見送ったあと、横須賀に戻ることになった。横須賀に係留されたままの『たかやす』を種子島沖の馬毛島に移送することになったからだ。

 横須賀には連日マスコミや反対派の市民団体、野党系団体、活動家、擁護派、マニアなどが押しかけ、いろいろ問題が起こりそうなので標的になる『たかやす』を再び移動させることになったのだ。僚艦の『いこま』と『かつらぎ』は、そのまま係留。全艦移動させては風当たりが強くなるということらしい。

 なんとも中途半端なその場しのぎなのだが、ドローン船事件以来、C国の内情はグチャグチャなのだ。

 国内に溜まった不平不満や危機感が『善良なC国漁船を撃沈した日本艦隊と日本政府』に向いた。C国漁船は実際にはドローン船で、爆発したのは巡視船に挟まれて停船させられた時なのだが、C国内では、たかやすを旗艦とする日本艦隊のミサイルと砲撃によって撃沈させられたことになっている。

 ご丁寧なことに、精密なCGも作られて、それがC国内では『真実』だと流布されている。反日活動は暴動に発展し、地方政府の半ば以上は武装警察による鎮圧すらできないでいる。軍も動員されて、一部では鎮圧に成功したが、出動に応じない部隊が出始めると、あえて人民の反発を買いたくない部隊は出動を渋り、三日前からは公然と民衆側に付き、とうとう北部の二省と南部の一省が独立を宣言した。
 
 この動乱の全ての責任はたかやすと日本政府にあるという点では、中央政府も地方政府も大方のC国人民の共通認識だ。

 日本政府は『遺憾の意を表明』するのが『重大な関心を持って注視』するに変わっただけで、たかやすと、その乗組員を積極的に守ろうという姿勢は無い。七十余年前、ミッドウェー海戦で大敗北した空母艦隊の生き残りを、最前線に送って磨り潰したことに似ている。

 出航の朝は、基地の司令以下十数名の見送りがあっただけで、恒例の「軍艦マーチ」の演奏すら無かった。

 しかし、よく見ると基地の建物の中から、みんな挙手の敬礼で見送ってくれている。近くの岸壁では、市民や活動家たち数百人が抗議のデモにきていて、マスコミが彼らを中心に取材しているのがブリッジにいても分かった。

「艦長が人身御供になって退役しただけでも足らんようだな」

「ま、我々だけでも日系日本人でいましょう」

 一瞬意味の分からない顔をした船務長だったが、ブリッジのみんなには分かったようで、ブリッジは少し和んで、遅れて船務長も微笑んだ。

「真田三曹が見えます!」

 ウィングの見張り員が、基地のフェンスの外から手を振っているのを見つけた。

 免職になった彼は、基地の外から密かに自衛艦旗の小旗で『航海の安全を祈る』と手旗信号を送ってくれていた。

「アンサー送ろうか」

 ブリッジの誰かが言ったが、どうせ動画に撮られている。あとで悶着になっては真田三曹にも迷惑がかかるので、ウイングの見張りが「帽振れ」で応えただけになった。真田三曹には、それでも通じていて、後日、葉書で礼を伝えてきた。

 遠州沖を通過して熊野灘に差し掛かった時、沖合の海中にC国潜水艦が潜んでいる恐れがあるので、瀬戸内海を通れという指令が入った。

「ガセだろう」

 副長も航海長も言ったが、海上幕僚長の指令なので従わざるを得ず、けっこうな燃料と時間を費やして紀伊水道から瀬戸内海に入る。 

 瀬戸大橋の下をくぐると、数百個の生卵が『たかやす』目がけて落とされた。大半は海に落ちたが数十個が艦体に当たった。

「ここまでやるか……」

 もう怒りを通り越して苦笑が出てくる。

「今の様子は記録しておきました。橋の上の人物と車も撮影しておきました」

 両舷の見張り員が報告にきた。

「船舶往来妨害だな。一応映像をつけて海保に通報」


 艦内は淡々としていた。


 さすがに海保や警察が動いてくれて、来島海峡大橋で待ち構えていた卵部隊は解散検挙された。


 13時間分の燃料と時間を無駄にして、ようやく我々のたかやすは馬毛島に到着した。

 馬毛島はほぼ全島が3000メートル級の滑走路二本を擁する自衛隊の海上基地で、本土からは隔絶されている。

 その馬毛島の自衛隊専用ふ頭、折から入港していた海自最大の空母型護衛艦『あかぎ』の陰に隠れるように接岸させられた。

 言うまでもなく『あかぎ』は俺の本籍地と言っていい艦だ。

 なんだか、外に出てさんざん苦労した息子が、やっと実家に戻ってきたような気がしないでもなかった。

「あれ?」

 下艦のため、荷物をまとめていると、さくらにもらった小さなまねき猫が出てきた。

 入れた覚えはないのだが、この程度の癒し系の不思議はあってもいいと思った。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
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