大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・083『第五回MITAKAは作法室で』

2024-02-23 11:05:20 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
083『第五回MITAKAは作法室で』   





 今日は久々のMITAKA(みんなでたのしく語る会)だ。


 学校は、いわゆるテスト休みという奴で、実質春休みと変わらない。

 だからね、数えて五回目になる今日は学校の作法室を借りて朝の10時からやっている。

 作法室というのは、小中学校には無かった教室。

 一年の教室がある北館の一階に、調理実習室、洗濯実習室、作法室と並んでいる。
 普通教室二つ分の作法室は二つに分かれている。

 一つは洋間。板敷で暖炉が設えてあって、テーブル席とソファーの席がある。隅っこに小テーブルに載った給水機みたいなの、寸胴に猫脚、下の方にガスコンロが入ってるけど、ガスのホースは外してある。

「ああ、サモワールだ」

 真知子が、田舎で骨とう品を見つけたように珍しがる。

「おお、サモワール!」と喜ぶ者と「え、サモワール?」と、わたし同然の者もいる。

「ロシアの湯沸かし器だ、ブルジョアは、これで湯を沸かしてお茶ばかリ飲んでた」

 これは10円男の感想。

「チェーホフの作品によく出てくるわ。この一角だけ切り取ったら、そのまま『ワーニャ伯父さん』とか『三人姉妹』とかできそうね」

 これは、代議会で堂々、生徒規約と部活動の現状の矛盾を突いて部室の確保を確約させた演劇部の牧内千秋。

「集まりは、隣の和室だからね。ここで落ち着いちゃダメよ」

 たみ子の一言で、みんな和室に移動。

 和室は、旅館みたく玄関があって、上がると、八畳が二間。一つには茶の湯の風呂もあって、横には、ちゃんと水屋もある。普段は、茶道部、華道部、筝曲部で使っているらしい。

「おお、電気カーペットですよぉ!」

 ペチ

 ロコが足元の絨毯が電気カーペットであることに気付いてスイッチを入れる。

「これだけじゃ足りないから、洋間の方にストーブあったでしょ」

 真知子が言うと、男子三人が立ち上がってストーブを取りに行き、女子は、すでに沸いている電気ポットでお茶の用意。残ったみんなで座卓テーブルの脚を出して四つくっつける。

 いやはや、五回目となると、みんな段取りがよくなった(^_^;)。

 今日は特に予定していた話題は無い。真知子は「いやあ、ただのズボラよ」と謙遜するけど、狙いはいいと思うよ。人の集まりだから、世話役はいるし、自然にリーダー的になってしまうけど、けして、議論とかの方向付けはしない。グループとして色とか傾向性は持たないでおこうというのは大賛成。

「畳敷きだから暖かいかと思ったけど、落ち着くと、やっぱり寒いねえ」

 バレー部の佳奈子も、じっとしていると寒いようだ。電気カーペットとストーブでかなりマシにはなってるんだけど、エアコンの無い鉄筋校舎は寒いよ。

「寒いって言えばさぁ、昼からストーブ切るのは勘弁してほしい」

 四組の自称冷え性さんがこぼす。

「ああ、15度だったか18度だったか超えたら切らなきゃならないって決まりなんだろ」

 高峰君が三杯目のお茶を飲みながら付け加える。

「花ちゃん(花園先生)が言ってたけど、事務所で温度計ってるらしいよ」

「え、事務所って、いつ行ってもストーブ、ガンガンに焚いてるわよ」

「ああ、職員室とか教官室とかもぉ」

「教室はちがうのにねえ」

「でも、ストーブの前の席って、暑くてボーっとしてしまう」

「うん、逆に窓際は隙間風とかひどくて、水滴さえつかない」

「水滴って?」

「外との温度差でさ、窓が汗かくじゃん」

「ああ、うちらの席は汗かいてるよ」

「ええ、あたしだけなのぉ!?」

「いや、俺の席も、そうだし」

「男子はいいわよ、パッチとか履けるしぃ。女子はスカートなんだよぉ」

「なんで、女はスカートって決めつけるのかなあ」

「そりゃあ」

「あ、加藤君、目がやらしい」

「ああ、言いがかりだ!」

「だって、もう今年で19でしょ」

「19だって未成年だ!」

 アハハ、令和じゃ、18から選挙権あるし(^_^;)。

「歳の話はフェアじゃないから」

 真知子が一言。

 まあ、令和の感覚じゃナンチャラハラになるんだろうけど、昭和の時代は、けっこう無頓着。

「思うんだけどな」

 挽回するように10円男は続ける。

「教室に扇風機を付けるべきだと思う」

「ええ、暖房の話してるんだけど」

「いや、だからな。教室の部分、上とか下とか、真ん中とか窓際とかで、ずいぶん温度がちがうはずなんだ。だから、扇風機を付けて空気を攪拌すれば、相当な改善になると思う」

「それ、いいかもな。いきなり全教室というのは無理かもしれないけど、実験的にやってみればいいんじゃないかなあ」

「さすが高峰君」

「いや、アイデアは加藤君だ」

「さすが年の功!」

「年の功言うなあ!」

 アハハハハハ

 それから、いろんな話題が出た。

 ビックリしたのは、ロコの新聞ネタ。

「いやあ、朝刊の訃報記事に慶応生まれのお爺さんが無くなったって出てましたよ」

「ああ、明治元年は1869年だから……まだ居るだろうねえ江戸時代生まれ」

「ああ、文久ぐらいはいるかもねぇ」

 なんか、昭和って、江戸時代と地続きみたいだ(^_^;)。

「東京で、ソ連人男性不審死とかもあります。S新聞によると、去年3人で、今年はもう2人目らしいですよ」

「ロシア人はウォッカ飲むからねえ」

 ちょっとビビった。

 令和じゃ三日前に、そういうのあったばかりだしぃ。


 無駄話をしようということだったけど、扇風機とか、実りのあるMITAKだった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  

 

 


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

2024-02-23 08:38:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第89話《長徳寺の終戦・2》さくら 





 なるほど……後ろ姿はそっくりだ。


 初日、衣装を着けメイクも仕上げてカメラテスト。前後左右から撮られ、モニターで確認していると、ディレクターが呟いた。

 自分でも、そう思った。

 横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。

「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」

 監督も誉めてくれたけど、わたしは一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。

 たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなものかと思ったけど、どうやら、それより強い力を持ってるみたいでおっかない。子どもに対してだけじゃなくて、先生たちにもビシバシ文句を言う。
 
 配属将校。これも分からない。

 学校に、軍人。それも将校がいるのは、まるで惣一兄ちゃんがうちの学校にいるようなもんで、想像したら吹き出してしまった。

 とにかく、ざっと読んだだけなんだけど。明るくて頭の回転がよくて、でも、大きなところで抜けているのが、かづゑという役だと理解した。


 あ、そうそう。まず最初に、この名前が分からなかった。


「え、かづ……最後の字はなんて読むんだ?」

 この「る」だか「ん」だか、よく分からない字一つで一時間。あたしは、そういうところで引っかかると次に進めない性質なので、苦労したよ(^_^;)。

 あいにくお母さんも出かけてて、お姉ちゃんにスマホで「かづゑ」を写して送ったけど、忙しいのか返事がかえってこない。

 仕方がないので裏のアパートのチュウクンに聞いてみる。あっさり「かづえ」と読みがいっしょだと分かったけど、ちょっと驚いた。
 アパートに妹の篤子さんとは違うきれいな女の人がいたのだ。質問に来た身であるので、あからさまに聞くことははばかられ、ちょっと演技した。

「あのぅ、もう一個聞きたいんだけど」

 そうやって、チュウクンを廊下に呼び出した。

「なんだ?」

「ちょっと、だれなのよ、あのきれいな人?」

「ないしょ(>〇<)!」

 そう言われると気になるもんで、アパートの住人のハニエさんに聞いてみる。

「フフ、それがね。サクラって言うらしいわよ」

 と、ニューハーフの聞き耳頭巾は教えてくれた。

「え、あたしと、同じ名前?」

「うん、なんかわけあり。偶然なのか、倒錯したさくらちゃんへの愛情からなのか……興味津々なのよね( ´艸`)!」

 と、ここでも三十分ほどのロス。

 ま、こんな感じでトロトロ読んでいるもんだから、昨日の本番までに一回しか読めなかった。


 最初の撮影は家族九人の集合写真。他の役者さんも来るのかと思ったら。撮影は、わたし一人。あとはデジタルのはめ込みでやるらしい。

 他のシーンも、大方このやり方。

 かづゑのお父さんは住職兼学校の先生で、よく休むので、父親の欠席届を出してから自分の学校に行く。それも、一番下の妹の子守をしながら。

「お父さん、また休みぃ? この非常時にぃ……あ、戦死した中村さんのお葬式? じゃ、昼からは出勤できるわね。そう言っとくよ」

「糸枝ちゃん、あたしがするから。いいよ気にしなくっても」

「あ、すみません。急いでたもんで!」「回覧板でーす!」「衣料切符どこぉ?」「美佐江ちゃーん、風呂焚きお願い!」「総代さん、今年の報恩講は……」「お母さん、賢慈に赤紙きた!」「賢正、兄ちゃんいないんだから鐘撞きぐらいやんな!」「今月、お米大丈夫かなあ……」「え、挺身隊の招集かかっちゃった!」「あとは、頼んだよ糸枝!」

 などなどの台詞を相手役無しでやる。後ろ向き横向きは三越さんのをまんま使って、声だけ吹き替える。どうにもやりにくい。

 でも、一番やりにくいのは、相手役ありの撮りなおしだった。はめ込みでも処理できないことはないんだけど。相手がこだわりのある人で納得しないらしい。

 それで。

 その相手役は、なんと、この撮り直しのためだけにアメリカから来たんだよ!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 

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