大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・203『フィロラオスクレーター検査場』

2024-02-09 15:48:34 | 小説4
・203

『フィロラオスクレーター検査場』ダッシュ 




 火星で大きな戦争は起こらないだろうと思っていた。


 この二百年で火星は二度の大戦争を経験し、直近の大戦では、火星人類の一割が死んだ。

 戦後、火星に見切りをつけて地球に戻ったり月に再入植する者もいて、戦後二年目にはさらに一割が減った。
 前後して二割の人口が減ったので、戦後の復興は大変で、やっと戦前の水準に戻ったのは、親の世代が成人したころ。

 火星には連合国・マス漢・扶桑を始めとする13の国があって、国連的な組織こそ作らなかったけど、この数十年の間、まあまあ平和にやってきた。

 昨年、扶桑とマス漢の間でミサイルを撃ち合う紛争が起こった。

 ミサイルの数には限りがあるので、派手な打ち合いは半月も続かなかったけれど、どういうわけか変な病気が流行り出した。

 どうやら、野生化したチーチェ(半機械生物)が戦死者にある種のウィルスを植え付けることで発症するらしい。
 最初はロボット。感染した戦死体、後には健康なロボットや義体にも感染するようになった。
 感染すると、まさにアンデッドというかゾンビ化して、次々に人やロボットを襲って仲間を増やしていく。

 正式にはマースパルスウィルス、縮めてマッパウィルス、マッパウィルス病。もっと略してマッパとかマッパ病というようになった。

 確率は低いのだけど、義体化していない人間も感染すると、軽くて発熱、重症化すると脳を侵されて死亡にいたるケースもある。こののち変異体が出現する可能性も高く、マス漢や連合国は地球との往来が絶えることを恐れて、未だにパンデミックを認めていない。

 しかし、扶桑の宣言で知れ渡り、地球も月も火星への渡航を禁止した。

 月の防疫は一段と厳しくなり、渡航してきて一年に満たない火星人はパスカルに近いフィロラオスクレーターのキャンプに隔離された。

「もう、呑み込み悪いなあ」

「ちゃんと教えろよ」

「もう、あんたは明日、やん直し。これから検査業務に入るんだからね。ああ、もう二分遅れてる! ダッシュで行かなきゃ……」

 そう言うと、未来はマスクをつけて訓練ブースを出て行った。

 検査をやる医者や看護師が足らないので、軍の兵隊にも即席に訓練を施して検査要員に差し出すことになった。
 もう二回もレクチャーを受けているんだが、俺の担当になった未来は簡単にOKを出さない。
 訓練は、二名の医者や看護師から受けて、二名ともの合格をもらわなければ現場には出られない。
 
 まあ、しかし、キャンプの警備も重要な任務だ。

 万一の感染を恐れての事だが、カルデラドームの外縁から収容者を見下ろすのは気持ちのいいもんじゃない。

 軍の上層部からは銃のセーフティーを外して常に構えておけと言われているが、司令は「市民に銃を向けられるか!」と言って、担うだけにしてある。

 いざとなれば、担えの姿勢からコンマ一秒で射撃に移れる。

 背後が薄暗いと思ったら、この任務に就いて二度目の日の入りになる地平線が見えた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 



 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第76話《ええぇ!? 登舷礼やないかぁ!》

2024-02-09 09:19:52 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第76話《ええぇ!? 登舷礼やないかぁ!》惣一 





 予想はしていたが、政府の発表もなく、マスコミはいっさい報道しなかった。

 K国が我が哨戒機に火器管制レーダーを照射した時には映像付きで報道されたので少し期待したのだが無駄だった。

「まあ、こんなもんや三度笠」

 プゥ~~~

 抜錨完了の合図がブリッジに届き航海長操艦に移ると、艦長は放屁しながら古いギャグをかました。

 臨時乗り組みの俺は平静を保ったが、ブリッジのみんなはクスリとかフフフとか笑って、穏やかな空気の中、たかやすは横須賀への航路についた。


 四国沖に達した時に艦長室に呼ばれた。


「いま、おもろい連絡が入った」

「どんな連絡ですか?」

「やしまが曳航してたドローン船をロストしよった」

「ロ、ロスト!?」

「曳航中に沈んでしもたという話や」

「なんですか、それは!?」

 あり得ない、真田三曹と船内を調べたが船は健康だった。台風並みの嵐でもなければ沈没などあり得ない。

「あの背広の指示やろなあ、あいつらは運輸省の役人やで。おそらくは運輸大臣……独断か、官房長官あたりの差し金か。現場が領海線付近やったんでな、やしまとC国艦の無線はあちこちで聞かれてる。隠しきれんと思て、証拠隠滅に走りよった。アホなことしよる!」

 艦長の怒り通りの展開になってきた。

 隠しきれないと思った上の方が、一転C国の領海侵犯と漁船の拿捕を認め、マスコミを通じて全世界に知らせたが、捕獲した漁船は沈没したということで、強引に幕をひこうとしたんだ。

 静岡沖に達したころには、事態はさらに悪化していた。

――日本の海上保安庁と海上自衛隊は、無法にも日本の領海外を航行していた我が国の漁船一隻を沈没させ、他の一隻を拿捕した。我が国海軍艦艇は、当初からこの事態を認知し、漁船団に帰国を促していた最中であり、明らかな主権侵害である。事態の共同調査と日本側関係者の処罰、漁船乗組員遺族に対する補償を要求する――

「そんなバカな!」

「やしまは、ずっと有人船という建前で呼びかけとった……ほら、映像までつけてけつかる」

 モニターには、八島が電光掲示板と大音量スピーカーで有人船として呼びかけている様子が映っている。爆発炎上したところでは、炎に包まれた操舵室で舵輪を握っている人影。むろんマネキンであることは、俺と真田三曹とで確認済みだ。

「黙っているんですか?」

「わしらは自衛官や、現役である限りなにも言えん。真田君にも言うたけど、佐倉君、君も早とちりなことはせんといてや」

「……承知しました」


 大人しく艦長室を辞して、自室のベッドにひっくり返る。


 浦賀水道に入ると、米軍の駆逐艦二隻が前方に見える。

「最上甲板に米艦の乗組員が徒列しています」

 見張り員が報告すると、艦長はウィングに出て身を乗り出した。

「ええぇ!? 登舷礼やないかぁ! 手すきの者、最上甲板! 米艦の登舷礼に応えろ!」

「米艦から発光信号と旗りゅう信号――貴艦の栄誉を讃え無事を祈る――」

 米艦は明らかに、たかやすの正当性を認識している。いや、アメリカ自身がC国と日本政府の不当性を、こういう形で表しているんだ。

「ちゅうことは、横須賀に着いたら、えげつないもんが待ってるというこっちゃなあ」

 横須賀に入港すると、艦長と俺は即刻任を解かれ総監部預かりにされた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
 

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