巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
昭和の学校に個人情報の概念は無い。
控え目に言っても、その概念は低い。メッチャ低い。
令和がスカイツリーだとしたら、家の屋根に載ってるテレビアンテナかというくらいに低い!
学校には緊急連絡網というものがある。一番上に藤田先生(担任)の住所と電話番号があって、そこから下に二本の矢印。一つが委員長の高峰君、もう一つが副委員長のたみ子。
二人のところからさらに、それぞれ三つの矢印が伸びて、矢印の下には七人か八人の名前があって、順番に矢印で繋がってる。むろん、それぞれに住所と電話番号が付いている。
そして、イザという時には藤田先生が高峰君とたみ子に電話して、あとは伝言ゲーム式に緊急連絡ができるという仕組みになっている。
この個人情報野ざらしの極めつけは卒業アルバム。巻末にはダメ押しに住所と電話番号と進路先(進学先とか就職先とか浪人中とか)が印刷されている!
一学期の全校集会で『不幸の手紙』の被害が出てると生活指導の若杉先生が注意してたけど(028『臨時の全校集会』)、そもそもの元凶は、この個人情報の扱い方だと思う。
でもね、あたしは令和からの越境入学なんで、不要な自己主張やら意見表明はやらない。
「まあ、実際に使われることは無いと思いますよ」
情報屋のロコも平気で住所録の調査書に書いてたしね。
お祖母ちゃんからも、あらかじめ言われていた。
「住所は昭和でも令和でもいっしょだし、電話はね……これ書いとけばいいよ」
「え、うちに固定電話は無いでしょ?」
お祖母ちゃんが示してくれたのは局番から、うちの町の固定電話だと分かる。
「昔使ってた番号」
「昔の番号なんて、どうすんの?」
「これでかけてみて」
お祖母ちゃんは自分のスマホを差し出した。
で、かけてみると、わたしのスマホが鳴った。
「まあ、かかってくることなんてめったにないし。友だちからかかってくるとしても、夜中か休日。それも毎日登校してりゃあ、学校にいる時に済ましちゃうから、問題ないよ」
「あ、そうなんだ(^_^;)」
気楽に納得して九カ月。緊急連絡網も住所録も活用されることは一度も無かった。
しかし、明日は節分「今年の恵方巻はどこで買おうかなあ……」とお茶をすすりながらお祖母ちゃんが呟いた時にスマホが鳴った。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 教頭先生
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人