大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・204『新米看護師の落とし物』

2024-02-15 10:04:39 | 小説4
・204

『新米看護師の落とし物』ダッシュ 





 月の夜がようやく開け始めたころ、やっと未来から合格をもらった。


 火星や地球の感覚だと「おお、わずか一晩で合格とは!」と感心されるかもしれないが、なんせ、月の夜は二週間もある。

 他の仲間は早々に合格をもらって検査や検疫業務に入っているのだから、絶対に早い方じゃない。

 それで、合格したころには検査も山場を越えて、あえて新米が入る必要も無いので、わずか三日で元の警備担当に回された。

「なんとか2500で済んだぁ」

 倉庫兼カフェでマスプレッソを楽しんでいると、同じのを持って未来が横に腰を下ろした。
 
 プッ

 下ろしたケツ圧で、クッションが鳴る。

 学生の頃なら「ちっとは遠慮しろよ」とか「失礼ねえ!」とかじゃれ合うんだけど、そんな余裕はない。峠を越えたとは言え、任務が厳しいことに変わりはない。それに、そういう子どもじみたじゃれ合いをするには微妙に歳をとってしまった。

「他の所じゃ一桁上をいってるんだろ?」

「ああ、うん、養生所の指導が早くて的確だったから」

 意図してではないんだろうけど、謙遜だ。

 幕府はパンデミックが起こる40時間前に、ことの重大さと対処方法を扶桑全域と月の自治州にも伝えてきた。むろん幕府の対応は他の火星諸国や地球、月世界の知るところとなった。しかし、死者の数を2500に抑えられたのは、現場の力だ。

 キャーー アハハハハ

「ちょっとそこ! うるさい!」

 一つ向こうのテーブルで新人たちが騒ぎ出したのを一喝する未来。

「「「す、すみませぇん(;'∀')!!」」」

 慌ててトレーを片付けて出て行ってしまった。

「おまえ、もうお局さまかよ」

「うっさい、ああ、もう看護手帳落としてるしい」

 扶桑と言うのは良くも悪くも『昔』を残していて、記録はデジタルやパルス以外にアナログで残すことにこだわりがある。兵隊も看護師もハンベの他に、ポケットに手帳を入れている。

「感心感心、業務はちゃんとやってるみたいねぇ……」

 おお、チェックする姿は、まるで生活指導の先生だ(^_^;)

「え……」

「おい、あんまり見てやるなよ」

「この子の担当患者に……姉崎すみれっていうのがいる」

「え?」

 姉崎すみれ……高校で、俺たちの担任の名前だ。

「同姓同名なんじゃないのか」

「だろうけど……」

 ハンベで調べてみると、それは、まごうかたなき七年ぶりの姉崎先生のプロフィールに違いなかった。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第82話《オレって脇役なんだけど》

2024-02-15 07:18:43 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第82話《オレって脇役なんだけど》忠八 





 この物語を始めたのは、オレの責任らしいよ。


 去年の暮れに、豪徳寺の脇道で水道工事のガードマンのバイトをやったのが、そもそもの発端。そして間違いだった。

 オレは……改めて自己紹介。

 四ノ宮忠八って古風な名前の大学生。特に取り柄もないけが、欠点もない。世間でいう「毒にも薬にもならない人間」の典型。

 一応は東大生だけど、今のご時世、東大生というだけではなんの値打ちもない。「理一、文三、ネコ、文二」って格言知ってるだろうか?
 東大の中のランク付け。オレは、この中の文二(文系二類)。つまりネコの下で、東大ではいちばんヒマ。ヒマな分将来の選択肢に贅沢は言えない。まあ、普通の公務員か中堅企業。学校の先生というシンドイだけでやりがいのない仕事も入っている。

 だから、物語の最初のころの東大生というところにアクセント置いてもらっては困るんだ。

 でも、微かだけど才能めいたことがある。

 選挙なんかがあると、国の内外にかかわらず八割の確率で当選者が分かる。

 中三の時トランプの当選を当てたし、自民党総裁選挙も安倍さんからこっち全部当てた。特に統計資料を分析したり、政策や公約から判断するわけではない。ただ、なんとなく「この人になるだろうなあ」と思うだけ。
 実は、次のアメリカ大統領も日本の総理大臣も分かってるんだけど、誰にも言わない。この才能めいたことで注目を浴びようなんて、ちっとも思っていないからね。

 AKBの総選挙も第一回から全部当てた。これは楽しかった。2016年の指原さんを予想した時はみんなにバカにされたけど、予想道理になって、クラスのみんなから尊敬されて嬉しかった。

 それなら、賭博の才能も……と言われると俯かざるを得ない。親父以上のご先祖には、このバクサイもあったらしく、五代前の爺さんは岩倉具視の賭博場でずいぶん稼いだようだ。
 で、この五代前は岩倉具視の悪友で、岩倉具視の貴族とは思えない面構えの責任の半分は五代前にある。

 このへんの話で分かると思うんだけど。オレの家系は華族で、いま時の人である竹田さんとは遠い親類になる。

 こうも取り柄のない人間なんで、オレは普通に生きようと思った。

 親父の会社なんか相続しても、オレには人徳も経営の才もない。だから下手にご先祖のマネなんかしたら、あっという間に重役たちの陰謀か、株主総会の議決で社長をクビになる。クビに成らないためには、最初からならないことだと達観している。

 だから、去年の年末は、並の大学生らしく水道工事のガードマンをやっていた。

 そこで、たまたま出くわしたのが佐倉さくら。

 一目見て……恋に落ちたのなら、オレも自分を誉めてやるんだけど、そうではない。目が合った時に猛烈にドキドキして、ひょっとして一目ぼれとか思ったけど、これは単なる吊り橋効果。それと、生まれついての微妙な女性苦手症。

 それで、狭い工事現場の端っこの道を誘導しているときに、さくらのスカートに誘導棒をひっかけてしまい、一騒ぎになったのは、最初の方を読んでもらえば分かると思う。

 後から振り返ると、あの時のドキドキには――この子は、近いうちにスターになるかも――と予測していた向きもあるんだけど、なんせみっともない事件だったので本人にも、妹の篤子にも言っていない。

 その後元華族ブームなんかがあって、一時はマスコミにも追い掛け回されたけど、ブームが過ぎれば、ただの人に戻った。

 さくらには「チュウクン」と軽く言われてはいるけど、家(アパート)が近所なんで、たまに会ったときなんかは気軽に声を掛け合う付き合いをしてくれている。ま、救急車事件で世話になって以来、篤子もさくらも仲良くなって、その付き合いのおこぼれにあずかっているだけ……というのが、正しい答かもしれない。

 まあ、この物語においては豪徳寺駅前のまねき猫と同じくらいの脇役。

 そんなオレの運命の歯車が回り始めたのが、C国と自衛隊の佐世保沖海戦だった。

「お兄ちゃん、すぐに出かけなさいって」

 篤子が、全てを用意してアパートで待っていた。旅行に必要なもの一式と真新しいスマホ。

「そこに載っている人に電話して」

 昔から妹には頭があがらないので、素直に電話した。

―― はい、孫文章ですが ――

 きれいな日本語だったが、オレの勘はタダモノではないと言っていた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
 
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