大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・202『孫大人と鍋を囲む』

2024-02-01 13:21:20 | 小説4
・202
『孫大人と鍋を囲む』越萌マリ 





 日漢友好の釣り大会になった時には居なかった。

 孫大人。


 世界を相手に商売やってる男だから、ちょっと姿を消しても不思議ではないんだけど、島のエライさんたちが大統領との友好に務めているところ、それも大好きな釣りをやろうかという時に姿が見えないというのは大人らしくない。

 大人の乗り物は筋斗雲というパルス機。軍事用に作られた試作機だけど、メンテナンスがむつかしく、コストも高くつくので実用試験に通りながら正式採用にならなかった名機。それを開発した技術者ごと買ってきたというぜいたく品。筋斗雲一機で火星航路の新造船が作れるという。

 その筋斗雲が夜中に戻って来て、孫大人はお岩食堂にわたしを呼んだ。

「いやあ、やっぱり畳敷きのちゃぶ台はいいアルなあ、お岩さ~ん」

「ああ、釣り大会のネタがいっぱいあるからね、勝手に冷蔵庫から出してやっとくれぇ」

 釣り大会の残り物の魚でしっぽりと鍋をつついている。お岩さんはテーブル席でリアルタイムの動画を観ながら一人で晩酌。苦労人だけあって、人との距離の取り方、TPOをよく呑み込んでいる。

 座敷のレトロテレビは、昼間の劉宏大統領の西之島訪問の特集を流している。こちらは環境映像化された番組で、ニュースとしては半日遅れている。

「それで、筋斗雲に乗って須弥山にでも行ってきたの?」

 締めにご飯を入れておじやにしながら聞いてみる。

「うん、それがなぁ……うちの倉庫が気になってなあ」

「倉庫……どの?」

 孫大人の倉庫というのは幾つもある。漢明だけではなく、世界中、月や火星にもあるという噂だ。

「奉天の倉庫アル」

「奉天といえば、ガラクタばっかりの?」

「失礼アルよ、いずれは本物の北大街作ろう思て、大事なものしまてアルよ」

「孫大人がアルアル言葉使う時は、美人を目の前にした時かよっぽど困ったときアルよ」

「あ、ああ……その両方アルよ(^△^;)」

「なに?」

「あ、卵は、あまりかき混ぜないで入れて欲しいアルよ」

「はいはい……それで、いったい何があったというんですの?」

 甲斐甲斐しく溶き卵を鍋に入れながら、大人が苦手な完全越萌マリバージョンで聞いてやる。

「実は……JRが盗まれたアル」

「JR……!?」

 一瞬大昔の鉄道を思い浮かべたけど、そうじゃない。

 どこから手に入れたのか敷島博士がJQの次に作った超ロボットあるいは超義体。火星から地球に戻るUSのクルーザーで孫大人と出くわした時に大人が紹介してくれた舞姫だ。地球で演舞集団『北大街』のスターにすると鼻を高くしていた。

「他の事業にかまけて、しばらく倉庫にしまっていた。気になって戻ったら、別のロボットにすり替えられていたアルよ」

「それ……ひょっとして……」

「ハイぃ、そうアルよ、今朝劉宏大統領に会って――あれ?――思たアルよ。いろいろ変えられてるけど、これ、ひょとしてJRちがうアルかぁてね」

「いや、しかし、あれは元々は王春華よ。王春華は岩田首相が劉宏と秘密会談したときに通訳同士で出会ったし、この島でも戦ったわよ。はい、できたわよ」

 おじやをよそってやるけど、さすがに箸をつけようとはしない。

「……あれは、いろんな個性をpiやらPIして成長したものっぽいアルよ」

「確証はあるのか!?」

 思わず児玉元帥の声が出てしまった。

「いや、それは……」

「それは……どうしたのよ?」

「ハァ(*´Д`)」

「なによ、らしくないわね」

「間違いないアル、あれは……」

「うん?」

「いや、なんでも……アッチぃ!!」

 大人はみごとに舌を火傷した。

 水を飲ませてやると、アルアル言葉も止めていつもの孫大人に戻ってしまった。

 やれやれと視線を外すと、鏡に映ったお岩さんが酒呑童子みたいな大口を開けて叫んだ。

「え、火星でパンデミックだってぇ!?」



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 
 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第68話《次の役は佐倉さくら!?》

2024-02-01 07:22:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第68話《次の役は佐倉さくら!?》さくら 





 次は東京だよ


 京都駅を出て――次の停車駅は名古屋です――の車内放送が終わるとマネージャーの吾妻さんが言う。通路を席に向かっていたオジサンがギョッとしてドアの上の電光掲示板を見る。手にした切符には『京都→名古屋』の文字が見えた。乗り慣れてないとビックリするかも。新幹線は最速ののぞみでも名古屋には停まる。
 地理や交通機関には疎いわたしだけど、京都の次は名古屋で、東京の直前には新横浜と品川に停まることぐらい知っている。
 でも名古屋ってビミョーだから、一瞬――停まらない――と勘違いするよね。


 吾妻さんが言った東京は行先や停車駅のことなんかじゃない『次の仕事は東京だぞ』っていう意味で、電池が切れかかったわたしに念押ししたんだ。
 

 二カ月ちょっとに及んだ『ワケテン』の仕事もやっと一段落。最後まで遅れていたマサカドさんの役も、あたしがモーションキャプチャーをやって、あっけなく終了。
 由香の役の撮影が終わった時に花束をもらったけど、マサカドさんの仕事で、撮影そのものが終わり、もういっぺん花束をもらうとは思ってもいなかった。
 久々に東京に帰って学校にいきたかった。思えば、一月に学校の先輩であり、シンガーソングライターでもある原鈴奈にそそのかされ、新曲のプロモにちょっと出たのがきっかけだった。

 気が付けば、半年足らずで女優のはしくれになってしまった。

 四月の初めに、この『ワケあり転校生の7ヵ月』の仕事をもらったのが本格的な女優の仕事だった。
 役が大阪の女子高生だったので、ほとんど大阪に居続けだった。まともに学校に行けた日はほとんどない。さすがに中間テストは日帰りだったけど、まともに受けられた。
 この仕事が終わったら、しばらく普通の帝都女学院の生徒に戻りたい。毎日授業のノートを解説付きでファックスしてくれたマクサや恵里奈と机を並べたかった。

 でもね……たとえ、東京での仕事とはいえ、ドラマや映画の仕事ならば、まともに学校に行けるのは望み薄だ。
 
 正直、フルマラソンを終えたあと、もう一回走ってこいと言われたようなもの。

「今度の役は、むつかしい。それに女優としては、一度は通っておかなきゃならない道でもある」

 わたしの落ち込みを屁とも思わずに、吾妻マネージャーは、今時めずらしいシステム手帳とにらめっこしている。むろんパソコンやタブレットなんかも使っているけど、システム手帳だと、まず自分で書き、その上日に何度も見なおすことで、常に頭の中に自分のスケジュールや担当しているタレントのことなどが入ってくるので、このアナログでかさばるばかりの手帳の化け物がいいらしい。

「今度の役はむつかしい。主役だしな……」

「……ありがとうございます」

「なんだ、気持ちが入ってないわね」

「いいえ、そんなことありません。主役に時めいています!」

 本当は、時めいてなんかいなかった。こんどのワケテンで、女優の大変さ。特に主役の重圧ははるかさんを見て、よく分かっている。だから嬉しさよりも気の重さが先にやってくる。

「今度の役は、佐倉さくらという役だよ」

「え?」

 一瞬どこかで聞いた名前と思った……で、自分の名前であることに想い至って戸惑った。どういう意味だろう?

「しばらくお休み。自分の生活に戻るんだよ」

「は……」

「今まで学校に行っていたのとは大きく違う。佐倉さくらを演ずるつもりで学校にいけ」

「は、はい(^_^;)!」

 あたしは、吾妻さんにドッキリをしかけられたように、ドギマギしながらも嬉しかった。

 しかしね、吾妻さんが言ったのは、単なるドッキリではないことが、学校に行って分かることに……なるんだよね(-_-;)!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
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