大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・031『勅使三方・2』

2024-02-19 10:48:21 | カントリーロード
くもやかし物語 2
031『勅使三方・2』 


 
『ヤマセンの山にも湖もいまだ冬景色の中とは申せ、森の下草にはフキノトウが芽吹き始め、人知れず春の訪れを感じさせる早春の良き日に勅使さまの訪ないをいただき、このティターニア喜びに耐えません。ヤマセンの森王の妃として、謹んでご挨拶申し上げます』


 皇居を訪れた外国の王族が天皇陛下にするように、片膝ついて挨拶した。


「三方さんて、あんなに偉いの!?」

『勅使だからね、天皇と同じ礼式でなきゃダメなのよ。それに、今上さまのではなく、仁徳天皇の御勅使だからね、気合いも入るわよ』

「御息所、あなた、元々は東宮妃だったんだから、勅使とかやったことあるんじゃないの?」

『ないわよ。娘は伊勢の斎宮とかやりに行って付いて行ったことはあるけど。勅使やる人って、位はそんなに高くないのよ。三方さんだって、ただのメイド長だし』

「でも、雛壇の中ではいちばん偉いとか言ってなかった?」

『それは内々でのこと、公の位は高くないのよ』

「そうなんだ」


 そのあと、オーベロンが葉っぱの渦のままご挨拶。いつもは葉っぱをベロンベロンと渦巻かせて、それこそ枯れ葉が燃えるみたいにワシャワシャと喋るんだけど、時どき葉っぱを戦がせるくらいに大人しくしゃべっている。

 それでは後ほどという感じで、三方さんはこっちに戻ってきた。

 ティターニアさんの後だから、ちょっと緊張したけど、ちょっと会釈しただけで、車いすの詩(ことは)さんの方へ進んで行ったよ。


『お久しぶりです詩さん』

「え?」

 どうやら、詩さんには初めて見えたみたいで、ちょっとビックリしている。

『わたくし、詩さんのお雛様の一段下で三人官女を務めておりました三方でございます。真ん中で、三方を捧げ持っておりました』

 三方さんは、三方を捧げ持つ仕草をして、ひょいと顔を上げると、いっしゅん眉無しの鉄漿の顔になった。

「え、あ、ああ……思い出したぁ。歌叔母さんのには三方居なかったから、かけもちしてもらってたのよねぇ」

『はい、いかにも。去年のひな祭りが終わってからは、ごりょうさんの大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)、すなわち仁徳天皇の女官を拝命いたしております』

「そうだったの、よかったわぁ。わたしはこっちに来ちゃったし、さくらも留美ちゃんも、声優とか役者の仕事で、お雛様どころか学校も欠席がちだって言ってたから……」

『はい、しかし、魚心あれば水心。それに、歌さんの三方さんも、わたしより先にお仕えして活躍されています。大鷦鷯天皇が勅使をお遣しになるのは、昭和天皇が、まだ東宮の時代、英国をご訪問されて以来。この道をつけて下さったのは、いつにかかって、詩さん。あなたと、こなたの小泉やくもさんのおかげなんですよ』


 え、そうなの!?

『あ、あれはリップサービスよ、調子に乗らないでね』

「う、うん。でも、なんか嬉しい(^_^;) あ、なにか渡してる……」

『ただのお土産よ、下されものって有難そうだけど、実際は専売公社のタバコだったり、木村屋のアンパンだったり、大したものじゃないわよ』

「あ、でも……」

 それは、仄かに光る石のようなもので、詩さんが「まあぁ」と胸に抱くと、不思議なことに消えてしまった。


 そのあと、森の入り口に行った三方さんは、再び姿を現したティターニアさんにエスコートされて森の中に姿を消した。


 この修学旅行では、もっといろんなことがあったんだけど。ぜんぶ書くとすごい量に成っちゃうんで、折に触れて少しずつお話できたらと思う。


 でもね、もういっこだけ。

 昼食会も終わって、わたしたちのB班は船に乗って、ヤマセン湖の周遊。

 船が桟橋を離れて、森に向かうA班や王宮に向かうC班に手を振っていると、桟橋の近くのベンチに腰掛けてる三方さんに気付く。
 三方さんの横にはデラシネが座っていて、なにか二人で話している。

 100メートル競走のゴールとスタート地点ぐらいの距離があったけど、様子は分かった。

 なんだか、運動会の日に怪我とか病気で参加できない子に付き添ってる先生みたいだったよ。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第86話《あんまり面白くない》

2024-02-19 06:50:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第86話《あんまり面白くない》さつき 





 店を出て五分で女子高生の一群に取り囲まれた……。


「あの、さくらさんですよね!?」

 一番元気そうなのが聞いてきた。

「え、うん。佐倉だけど……」

「や、やばいよ。ほんものだ!」

「「「うわあ、ほんものだ(# ゚Д゚#)!」」」」

 女子高生たちがピーチク騒ぐので、周りの通行人の人たちも注目しはじめた。これは、なんの間違いだ!?

「サインして!」

「あたしも、このハンカチに!」

「あたし、このスマホの裏に!」

「大河ドラマ出演決定おめでとう!」

「「「おめでとう!」」」

「まって、あなたたち何か勘違いしてない。あたしは……」

「つまりい、さくらさんなんでしょ? 『ワケテン』の?」

「え、ワケテン?」

「もう、『はるか、ワケあり転校生の7か月』で由香役やったあ!」


 やっと分かった。


「あなたたち、佐倉さくらと間違ってるのよ」

「「「「ええ、うそ!?」」」」

「悪いけど、それ妹。あたしは姉の佐倉さつき。なんの変哲もない女子大生!」

「なんだあ……」
「だったら、そんなさくらちゃんそっくりにしないでくださいよぉ」

「ええ、そんなに似てない姉妹なんだけどな……」

「そんなことないです!」

「そうそう!」

「これ見てください!」

 元気のいいのがポップティーンを出した。

「ね、そっくりでしょ?」


 あ……!?


 ヘアスタイルが、まるでそっくり。あたしはセミロングか、ひっつめアップのどちらかだけど、雑誌のさくらは、前髪に癖を付けたサイドポニーテールだった。美容師のオネーチャンンが「あたしの得意なので……」と、言ったのが、これなんだ(-_-;)。

「というわけで、そっくりになっちゃったわけなので悪しからず」

 で、行こうとしたら、改めて女子高生たちがついてきた。

「あの、考えたらさくらちゃんのお姉さんに会うなんて、とっても奇遇。それにお姉さんて、自衛隊のイケメンといっしょになって、飛行機助けたひとでしょ! ぜひ写真とサインお願いします!」


 で、改めて写メとサインになってしまった。あんまり面白くない。


「ただいまぁ」

「おかえり、ちょっと遅かったわね」

 あらかじめメールを入れておいたので、お母さんは、ちょっと不満顔。でも、フランスの留学やら自衛隊でひと月近く幽閉されていたことなんか無かったみたいに日常的。

「お帰りぃお姉ちゃん!」

 なんと、さくらが、あたしと同じ頭で降りてきて抱き付いた。

 それから、ピーチクパーチクと互いの数か月を喋りあった。気が付いたら、お母さんの夕飯の手伝いをして、次に気が付くと食べ終わっていた。

「で、お姉ちゃん。なんで、あたしと同じヘアスタイルしてんのよ?」

「もう、あんまり面白くないのよねぇ(-_-;)」


 もう一度、最初から説明するあたしだった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする