大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・205『行方不明の恩師とワクチンと』

2024-02-20 11:17:26 | 小説4
・205

『行方不明の恩師とワクチンと』ダッシュ 



 逃げられました!


 看護手帳を渡しにいってやると、Mナースは子どもっぽく口をとがらせた。

 Mナースというのは、見習い女性看護師の頭文字Mに女性看護師を現すナースを接着した言葉だ。ちなみに、正規女性看護師は正規看護師の頭文字Sを付けてSナース。
 いちいち見習女性看護師と言っていては長いのでMナース。もっと縮めてMと呼ぶこともある。SナースはMの資格も併せ持っているんでSMナースと呼ぶすることもある。

「ドクターに対してはM、患者に対してはSなのかもな」

 ふざけるダッシュははり倒しておく。

 バシ!

「現場じゃ一律にナースよ!」

 で、落とし主のMナースは腹を立てている。

「まだ三つも検査が残ってるんですよぉ、ドクターもパルス性多臓器不全になる可能性があるって言ってるのにぃ!」

 場所が休憩室で、わたしが診療所の医者なんで気を許したんだろう、忘れ物の手帳のお礼をいっぱい言った後、男子がサボったのを先生に言いつける女子児童という感じでまくしたてた(^_^;)。

 それから、担当医にも聞いてみた。

 姉崎先生は、パンデミックの寸前にプラトン空港に着いた火星航路船に乗っていた。
 メディカルゲートで引っかかって検査にまわされると、190センチのマッチョにもかかわらず、いろいろ不具合が見つかって強制入院になってしまった。最終検査をしなければ、最悪、数カ月の命だろうと、こちらはお手上げの顔で言われた。


「ごめん、せっかくの非番なのに」


 助手席に座ると、すぐに侘びを入れる。ダッシュも心配なんだ「いいや」と一言言ってアクセルを踏んだ。

 何と言っても高校二年と三年、担任と生徒だったんだ。修学旅行が中断された時もシャトル船を一人で操縦して連れて帰ってくれた。
 口で言うより……という先生だったけど、時には子どもっぽくて、先生でありながら本気でムカつくオッサンだったけど、やっぱり恩師、放っておくわけにはいかない。

「でも、先生、なんで月に来たんだろう? 動物的勘?」

 先生はマス漢と戦争になった日、もっと詳しく言うと、戦闘が起こる10分前に出発する航路船に乗っている。

「出発の三日前には学校も辞めている。まあ、定年明けの非常勤講師だから、いつ辞めても問題は無いんだけどな……」

「先生らしくないよねぇ……」

「調べてみたんだけど、先生、火星にやってくる前は月に居たんだ」

「何年前?」

「25年前、静かの海紛争のころだ」

「静かの海紛争!?」

「ああ、今世紀に入っての月世界最大の紛争」

「その戦闘に加わって?」

「分からねえけど、可能性は高いよな。なんせ、あのガタイだ、昭和時代風に言えば甲種合格だろうからな。ま、でも予断を持つのは控えよう」

「うん、そうねぇ……」

 ……黙っていては、悪い想像しか出てこない気がして、車載のモニターを点ける。

『……番組の途中ですが、扶桑養生所からの発表です。扶桑科学研究所の教授で養生所の委託博士研究員である平賀照教授が、急性パルス病のワクチンの製造に成功しました。消息筋によりますと……』

「テル、またやったね(^▽^)!」

「すごいやつだなぁ」

 第一の捜索地、ピタゴラスに着くまで、友だちの成功と疫病の終焉に頬を緩ませた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第87話《吉本一佐の退職》

2024-02-20 07:38:32 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第87話《吉本一佐の退職》惣一 





 吉本一佐はGパンにポロシャツというナリで裏門を出ようとしていた。


「待ってください、艦長!」

 我々はいっせいに駆けだした。

「あちゃー、見つかってしもたな」

 護衛艦たかやすの艦長吉本一佐は、オンボロ艦隊の司令職も解かれ、定年にまだ数週間を残し、依願退職というカタチで自衛隊を放り出されようとしている。

「言うとくけどな、この依願退職は、わしが言いだしたこっちゃ。基地司令は、せめて定年退官をて言うてくれたんやけど、自衛隊に迷惑かけられへんよってな」

「しかし艦長。世論の中には、艦長や我々の戦いを擁護、いや、積極的に賞揚する声もあります」

 遅れて江田島に送られてきた船務長も一歩前に出た。

「艦長の父上は……」

「親父は親父、わしはわしや」

 艦長は船務長の言葉を封じた。

 知っている。

 艦長のお父さんは、護衛艦てんぽうの艦長をやっていた時、遊覧船との衝突事故をやって艦長職を解かれ退職に追い込まれている。後の海難審判で、非は遊覧船側にあるとされ、法的に無実が確定しているが、解職を決定した防衛大臣は処分を取り消さないばかりか、退職に追い込んだと言われている。

「国際的な常識から言っても、艦長の指揮も我々の行動も適切です」

 艦長は首をコキっと言わせて切り出した。

「おおきに船務長。せやけど、わしが文句言うたら、やしまの船長が処分されよる。それに真田君のこともなあ……」

 ボディカメラの映像を流した真田三曹は、機密漏洩の咎で逮捕され、あくる日には免職された。
 彼の映像公開で、世論はこちらに向くかと思ったが――全ての漁船がドローンであったとは言えない――とマスコミは言い出し、官房長官も記者会見で「調査中であります」と逃げを打ち、こちらを向きかけた世論は、あくる日にはまたソッポを向いた。

 そしてさらに、世間の七割はたかやすを責めているが、三割は曳航中にC国船を沈めてしまったやしまに責任があるとしている。C国船を沈めろと命じたのは国交大臣の命を受け、やしまに乗り込んできた役人だ。与党もマスメディアも国交大臣の後ろにいるK党に遠慮して積極的にはやしまには触れない。

「海自と保安庁はマシになったとはいえ仲が悪い。これからは、有事に備えて海上保安庁は沿岸警備隊になっていかなあかん。それに水を差すようなことはあかんのや」

「しかし、艦長……」

「わしは自衛官や、日本の防衛体制を後退させるようなことはでけへん。佐倉君、ポケットに入ってるもん出し」

 ウ……

 見透かされていた。オレは黙って、白い封筒を取り出した。

「こんなことで連れション気分出すなよ」

「連れションでもありますが、自分は……」

「君が嫌になっても、自衛隊は君を嫌にはなってへんで。あの時、無事に任務を果たせたのは、いつにかかって君らの技量と錬度のお蔭や。そんな自衛官を養成すんのにどれほどの税金と時間がかかってるか、よう考えならあかんでぇ……まあ、ほんならなぁ」

 吉本艦長は、まるで見学のオッサンのように飄々と裏門を出た。

 門衛の敬礼にもオッサン然と頭を下げただけである。我々は、まだ収まらず、裏門の際まで迫った。

 ブォォォ

 すると裏門に通じる道を一台の軽自動車がやってくるのが分かった。

 市民団体に見つかったかと一瞬緊張した。市民団体は江田島の幹部学校にまで押し寄せてきている。

 車から出てきたのは、艦長同様ポロシャツにGパンという外人のオッサンだった。一呼吸して気づいた。

「ジェンキンス司令!?」

 我々は、一斉に敬礼した。相手は在日佐世保アメリカ海軍のジェンキンス司令官だった。司令官は慌てて、我々の敬礼をやめさせた。

「吉本さん。四月にやったゴルフ、ドローだったから、勝負つけようよ。ちょうどボクも休暇だし」

「アメリカの諜報は一枚上手やなあ。わしちょっとも凹んでへんさかい、負けしませんよぉ」

「口ではなんとでも言える。正門前にいる人たちみたいにね(^_^)」

「しゃあないなあ。ほなワンラウンドだけ……(^▽^)」

 日米のオッサン二人は軽自動車に乗って、古鷹山の裾を撫でるようにして行ってしまった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
 



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