大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:229『勝利、そして心の準備をする間もなく』

2024-02-12 16:49:32 | 時かける少女
RE・
229『勝利、そして心の準備をする間もなく 』テル 




「ここを開けろぉ! ここを開けろぉ! 開けぬかここをぉ!」

 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!
 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!
 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!
 ドンドンドン!! ドンドンドン!!! ドンドンドン!!!!

 イザナミに加えて無数の鬼や醜女たちが頭突きや体当たりして、内側から千曳の大岩を動かそう、絶ち割ろうとする。
 その度に、大岩はビリビリと震え、イザナギ組というか『黄泉の国を目指す神々の会』の仲間は全員で大岩を押しとどめた。

 ウーーーーーン!!

 力は拮抗して、もう少し頑張れば完全に密封できるかと思った。

 死ぬ気で力を合わせれば、どんなことだってできるんだ!

 ウーーーーーン!!!

 勝利を確信した時、岩の内側から声がした。

「ええい、憎いぃ憎いぃ、憎いぞイザナギぃ……かくなる上は、これからは、日に千の命を奪って黄泉の国にさらってやるからなあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 日に千人の命を奪う……千とは単なる数の問題じゃない。イザナギさんへの怨みの深さを数で表したんだ、この怨み、千尋の海よりも千尋の谷よりも深いという怨みの多寡でしか表せない心の内を胃袋を裏がえすようにして吐き出した毒なんだ(-_-;)!

「千人の命ぃ……上等じゃないですか! それなら、わたしは、このイザナギはぁ! 日に1500の新たな命を生むことにします1500の命をぉぉぉぉぉぉ!」

「1500の命ぃ……1500の命ぃぃぃぃぃ………だとぉぉぉ………」

 イザナミ……イザナミさんの言葉には力が無かった。 

 最後には引きずるような吐息になって、そして千曳の大岩の向こうに、その気配といっしょに消えて行ってしまった。

「最後に名を与えます、これよりはイザナミ、あなたはぁ、あなたはぁ黄泉大神です!!」

 千曳の大岩の奥の奥、もう一つのなにかが閉じる音がしたような気がした。


 ミーンミンミンミーン ミーンミンミンミーン ミーンミンミンミーン


 気が付くと、黄泉平坂をワッサカと覆う森の至る所から蝉の鳴き声。

イザナギ:「みなさん、どうもありがとうございました……イザナミを救うことはできませんでした。それどころかとんでもない鬼にしてしまいました。こちらにも、タングニョーストさん、桃太郎くん、二人の尊い犠牲を出してしまいました。申し訳ありません、ほんとうに不甲斐ない、ダメな神さまで、自分でも嫌になります」

タングリス:「大丈夫ですよイザナギさん、少しだけですが骨と皮を回収できました。いずれまた、きっと回復します。その日まで、タングニョーストはずっと、このタングリスが背負っていきますから」

ヨネコ:「桃太郎の伝説は山陰の方でも伝えていくし」

雪舟ねずみ:「今度のことは、拙いながらも、この雪舟ねずみがイラストを描いて絵本にします」

ケイト:「そうだね、アニメにもなるだろうしサブスクで実写になるかもしれしれないよ」

与一:「わたしは、国に帰って領地を守ります。母も年ですし」

イザナギ:「では、天の斑駒を連れて行ってください」

与一:「天の斑駒は神馬です、わたしにはとても……」

イザナギ:「黄泉の国はあまり使ってやることもできませんでした。元々は高天原の農耕馬、田畑で使ってやるのがいいでしょうから」

与一:「はい、それでは遠慮なく」

イザナギ:「ヒルデさん、タングリスさん、テルさん、ケイトさん……あなた方にもお世話になりましたが、異世界の方々です。どう言葉をかけていいか分からないのですが、とりあえずはオノコロジマにまで戻ってご苦労ご協力に報いたいと思います、ごいっしょしてはくださいませんか?」

雪舟ねずみ:「岡山までは、うちの営業区です、遅らせていただきますよ」

ケイト:「あ、それは嬉しいなあ!」

テル:「お言葉は嬉しいのですが、どうやら、ここでお別れのようです」

 手足の先が消え始めている、どうやら、元の世界か、どこぞの異世界に飛ばされる時がきたみたいだ。

ヒルデ:「あ、わたしも……」
タングリス:「自分も……」
ケイト:「あたしも……」

 ヒルデの他にもタングリスもケイトも消え始めている。

イザナギ:「そうですね、そのようですね……どうか、みなさんの世界も、明るく安らかでありますように、ほんとうにありがとうございました」

テル:「こちらこそ、いままで、みんなあり……が……と……」

 最後の言葉を言い終る前に、視界は白く渦を巻いて、心の準備をする間もなく、みんな遠く滲んで消えていってしまった。



☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第79話《さくら その日その日・1》

2024-02-12 07:27:44 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第79話《さくら その日その日・1》さくら 







 鈴奈(りんな)さんが肉じゃがになるためにアメリカに行って十日あまりがたった。


 ちょっと説明。

 鈴奈さんは二つの意味で先輩。だいいちに帝都女学院の一年上の先輩。そしてもう一つは女子ユニット『おもいろタンポポ』のメンバーで芸能界の先輩でもある。

 鈴奈さんは高校生としての自分とアイドルとしての自分を完全に使い分けていた。

 ええとね、折り紙に『だましぶね』ってあるじゃない。帆掛け船のへさきだと思って指で挟んでいると、いつの間にか帆柱になってるの。あんな感じ。
 朝にスタジオで見た時は、なんか――薬でもやってんのかぁ!?――ってぐらいにイケイケだったのが、午後に学校で見かけた時はそよ風の妖精かってぐらいにソヨソヨしている。

 それだけでもすごいのに、アーティストとしての自分を発見するためにアメリカに行ってしまった。自分のやっていることは、人真似のビーフシチューで、これを作り直して肉じゃがになりたいと赤坂見附の東京志忠屋で言っていた。

 これも説明がいるわね。肉じゃがというのは、ビーフシチューを日本人に合うように時間をかけて改良された日本料理。

 鈴奈さんは『おもいろタンポポ』がビーフシチューであることを分かっていた。

 でも、それでは五年十年先には持たなくなると思い、アメリカに渡った。わたしは、学校でタレントとして見られることだけに悩んでいた。鈴奈さんは、とっくに、そんなことは克服している。

 そのことを、アメリカに渡る前に分からせてくれた。そんなことは、まだまだ入り口の戸惑いに過ぎないことを。

 で、二週間余りで、あたしも不器用ながらもタレントであることと、普通の帝都女学院の生徒であることを使い分けられるようになった。


「いや、まだまだよ」


 お茶をたてながらマクサが言う。

 えと、これも説明がいるわね。あたしの学校での親友は一年の頃から、この佐久間マクサと、バレー部でセッターをやっている山口恵里奈の二人。

 で、今日は久々にマクサの家に集まって三人で女子会をやっている。

 我ながら信じられないんだけど、マクサにお茶をたててもらうのは、これが初めてだった。

「お作法なんて気にしなくていいからね」

 マクサは、そう言ってくれたけど、やっぱ形を気にして、一年の時家庭科で習ったお茶のお作法を必死で思い出して、ぎこちなくいただく。

「学校で飲んだお茶と、ぜんぜん味も香りも違うのね」

「似たようなお茶よ。お茶って、入れ方で味わいが全然違ってくるの。どうよ、なかなかのもんでしょ?」

 いつものマクサの言い方で、ナリもチノパンにカットソーってラフな格好なんだけど、醸し出される雰囲気は立派なお茶の先生だ。

「マクサのお作法、学校のときとちゃうねぇ」

 恵里奈がハンナリと指摘する。

「鋭いね。茶道部は裏千家だけど、うちは表千家なのよ。でも、どうして分かった?」

「なんでやろ……たぶんセッターやってるからかな。バレーは相手と味方の動きをよう見て、次の動きを予想せなあかんよって、自然と人見る習慣がついてんのかもしれへん」

「「ふーん、大したもんだ」」

 マクサとあたしがハモってしまった。


 いつまでも茶室にいては足がしびれるので、そのあとはすぐにリビングに移った。


「たまには、お互いの違う姿見とくのんもええねぇ。学校におったら、マクサは、なんか一本抜けたお嬢ちゃんいうかんじやもんなあ」

「あはは、抜けたは余計よ。いや、足りないかなぁ……わたしが抜けてるのは一本や二本じゃない気がする」

「「アハハハ」」

 今度は恵里奈とハモった。

「さくら、映画の仕事終わって戻ってきたころはガチガチだったもんね」

「そう?」

「うん、悪気はないんやろけど、あたしは女優ですて、顔に書いたったみたいやった」

「やだ、そんなだったの? あたしは、みんなの方が意識して変な目で見てるって思ってた」

「うん、でも、一週間もしないで、さくら、元にもどっちゃったね」

「え、ああ……」

 やっぱ、鈴奈さんと話したことが境目になっているようだ。

 それから、いろいろおしゃべりして、マリオで遊んで、お昼は外のお蕎麦屋さんに行った。今日はお稽古日で、お弟子さんたちが来るので遠慮したんだ。

「お蕎麦食べたら、カラオケでも行こかぁ」

 恵里奈が提案、あたしも乗ったが、マクサはお弟子さんたちに挨拶するのに追われていた。ナリはラフだけど、物腰は佐久間流家元のお嬢さんのそれだった……やっぱ切り替えに慣れている。

「平野さん、宗さんは?」

 平野と呼ばれたお弟子さんは、そっと言った。

「宋さんのお国とややこしくなってますでしょ。ご遠慮なさってるみたいで……」

「そうなんだ……」

 唐突にこじれた日本とC国の関係が、こんなところにも……と、ちょっと気になった。




☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
 
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