大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 012『三途の川・1・少佐のビクニ』

2024-04-03 12:01:10 | 自己紹介
勇者路歴程

012『三途の川・1・少佐のビクニ』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者


 

「三途の川だ」


 キリリとした声に振り返ると、戦闘服に身を包んだショートヘアの女が自動小銃を構えて立っている。

「え……?」

「なにを驚いている、見た目はコロコロ変わると言っただろうが」

「ビクニなのか?」

 それには答えずに銃を構えて周囲を警戒するビクニ。

 ついさっきまでの静岡あやねではない。陽気に振舞いながらもどこかオドオドした少女ではなく『少佐』という通称が似つかわしい女サイボーグに変わっている。

「三途の川と言えば分かるな?」

「此岸と彼岸の境目、これを渡れば地獄……」

「なにをゴソゴソしている」

「三途の川なら渡し賃がいるだろ……」

「バカか、渡ってしまったら地獄だぞ」

「渡るんじゃないのか?」

「どこかに天路歴程行きの船着き場がある、そこから川をさかのぼる」

 ガチャリ

 槓桿をひく少佐、いやビクニ。

 臨戦態勢だ。

「自分の身は自分で守れ、おまえの武器は、そのオリハルコンの剣だ。敵認定したら迷わずに、そのオリハルコンを抜け」

「あ、ああ」

「ちょっと頼りないなあ……よし、少し練習をしておこう」

「チュートリアルか」

「ああ、だが、ポイントがつく」

「楽〇ポイントか?」

「天路ポイントだ。 貯まればレベルが上がったりアイテムと交換できる」

「スーパーとかでも使えるのかなあ?」

「いくぞ」

 少佐……ビクニが手を上げると、河原に人形(ひとがた)の影が現れた。手に長い剣を持っている。形と動きはイッチョマエだが影なので、あまり怖くはない。

「始め!」

 ビクニが声を上げると、とっさにわたしはオリハルコンを抜いたまま河原を走った。

 ザザザザザザザ

 影も同時に走り出す。

 ザザザザザザザ

 予測していたわけではない、イメージが湧いたのだ。

 巌流島のイメージだ!

 すると、並行して走っている影は高倉健の佐々木小次郎の姿になった!

 そして、手にしたオリハルコンの感触が変わった。それは、神が与えたもうたアトランティスの玉鋼の剣ではなく武蔵が小船の中で櫂を削って作った木刀だ。

 そうだ、決め台詞があったぞ。

「小次郎、貴様はもう破れている!」

『なにを言う、刃も交えずに喝破するとは匹夫のハッタリ、見苦しいわ!』

「そっちこそ見苦しい! 勝負もつかぬのに鞘を捨てるとは、すでに心が負けておるわ!」

『なに!?』

 チェストー!

 一瞬の隙を突いて跳躍、小次郎の太刀が閃くが、武蔵の木刀は小次郎の脳天に一撃を決める!

 ズサ!

 着地すると、一呼吸おいて小次郎の鉢巻きは朱に染まって、わたしの背後でドウっと倒れる。

 決まった(-_-;)!


 パチ パチ パチ


「え、なんだ、その気のない拍手は?」

「宮本武蔵でかっこつけるのはいいけどな……」

「なんだ、古臭いとでもいうのか?」

「巌流島の武蔵にしたのは、真剣が怖いからということの言いわけ、置き換えだ。それに、武蔵は作州浪人『チェストー!』とは言わんだろ。まあ、人を殺したことが無いのだから仕方がないけどなぁ……ポイントはこんなものかぁ」

 シャキン

 目の前に『5』という数字が現れて『レベル3・半歩踏み出した勇者』という称号が続いた。

「いくぞ」

 ウウ……少佐のビクニは目も合わさずに、再び森の中に入っていく。

「河原を行かないのか?」

「その腕では、まだまだ姿を隠しながらだ」

「そ、そうか……」

 再びの森は蚊が飛んでいて、あちこち咬まれる。

「ほれ、5ポイント分の景品だ」

 振り向きもしないで投げてよこしたのは虫刺されのスプレーだった(^_^;)。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第128話《尾てい骨骨折・8》

2024-04-03 07:24:28 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第128話《尾てい骨骨折・8》さくら 




 それは番組が終わってすぐだった。


「わたしの楽屋に寄ってらっしゃい、お姉さんもどうぞ」

 恵庭さんに促されて付いていこうとしたら、足がもつれた。

「オットトト……!」

「あなたも、どうぞ」

 恵庭さんが、あらぬ方向に向かって言った。恵庭さんの部屋に入るとマネージャーとお付きの人がいたけど、恵庭さんが目で合図すると、阿吽の呼吸で部屋を出て行った。

「お姉さんはそちらに。さくらさんは正面。左端は空けてね。桜子さんがお座りになるから」

「「ええ!?」」

 びっくりした。だって部屋にはあたしの他はさつきネエと恵庭さんだけだったから。

「ひいお祖母様の桜子さんがいっしょにいらっしゃるの。驚かなくてもいいから。ね、そうでしょ……ハハ、そうなの。桜子さんお彼岸に帰り損ねたのね?」

「ひい祖母ちゃんが、いっしょにいるんですか?」

 あまり不思議な感じはしなかった。

 お姉ちゃんは、あたしの横あたりを見ているけど視線が定まらない、見えていないんだ。

「見えるようにしましょう。いいでしょ桜子さん?」

 どうやらひい祖母ちゃんも同意したらしく、お姉ちゃんが後ろにまわって、左隣を空けたツーショットになった。

 カシャ

「はい、これでどう?」

 恵庭さんのスマホには、わたしの横に同じ帝都の制服を着たお下げの女の子が透けて写っていた。

「あ、さくらに似てる!」

「そりゃ、血がつながってるし、想いが重なってるんだもの。でも、こんなにはっきり写るなんて、想いが強いのね」

 それから、恵庭さんを通してひい祖母ちゃんとの会話が始まった。

 ひい祖母ちゃんは戦後大恋愛の末に十九で結婚した。ひい祖父ちゃんは戦争で復員したら戦死したことになっていて奥さんは弟と再婚していた。
 ひい祖母ちゃんの家も跡取りの兄が戦死していたので、二つ返事で養子に入ってくれた。当時は、よくあった話らしい。二十歳でお祖父ちゃんが生まれ、お祖父ちゃんが成人した年にひい祖母ちゃんの桜子さんは亡くなっている。

「どうして、女学生の姿で出てくるの?」

「……それはね。桜子さんは空襲のとき熱風を吸い込んじゃって、声帯を痛めて歌が唄えなかったの。で、心残りだったのが女学校の音楽の試験で『ゴンドラの唄』が歌えなかったこと。今年のお彼岸で、さくらさんが歌のテストが近いんで、つい、憑依しちゃたって。同じ学校で、同じ音楽のテストで……ハハハ、さくらさん、半日一人カラオケやらされたの忘れてるでしょ?」

「あ、さくらひどい声して帰ってきたじゃん!」

「あ、お姉ちゃんにのど飴放り込まれた……」

「恥ずかしいから、記憶から消したんだって……え、それはダメよ」

「ひい祖母ちゃん、なにか言ってるんですか?」

「さくらちゃん、SNSのアクセスすごいでしょ。で、桜子さんは、気を良くしちゃってアイドル歌手になりたいって!」

「エエ……!?」

「それいいかも。あたしマネージャーやります!」

 お姉ちゃんが二つ返事。軽はずみはうちの家系のようだ。

「桜子さんは想いが強すぎるから、さくらさんの人格まで支配してしまう」

「どういうことですか?」

「さくらさん、あなた、尾てい骨骨折してるでしょ?」

「え、どうしてご存じなんですか!?」

「あれで、一瞬心に隙間ができて、悪気はないんだけど、桜子さんジワジワと憑依しちゃった。まあ、いま反省してるみたい。さくらさん自身歌の才能があるから、いろんなところから声がかかるでしょうけど、けしてプロになっちゃダメ。むつかしいけど、アマチュアで時々やるぐらいにしておいて。さくらさんは自分自身のものなんだから。まあ桜子さんも分かってるみたいだから、大丈夫でしょ。このことは、わたし達だけの秘密にしておきましょう。わたしの番号教えておくわ。困ったことがあったら、どうぞ相談して。じゃ、お引止めしてごめんなさいね」

「いいえ、こちらこそ」

 姉妹そろって頭を下げる。

「それとぉ、お家に招き猫が居ると思うんだけど……大事にしてあげてね」

「は、はい!」

 さつきネエはちゃっかりサインをもらって失礼する。

「では失礼します」

「はい、それじゃ……ちょっと待って!」

 ドアを閉めようとしたら、恵庭さんが声を掛けてきた。

「桜子さん、もう一つ秘密があるみたい……」



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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