大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 176『三合河原超説法会・1』

2024-04-14 16:16:24 | ノベル2
ら 信長転生記
176『三合河原超説法会・1』信長 




 きらきら星が流れている。


 と言っても夜空に星が流れているわけではない。

 モーツアルトのきらきら星だ。それも冒頭の『きらきら星よ~よぞらの星よ~♪』のところをリフレインさせている。
 実際、観衆たちの中には子どもといっしょに『一閃一閃亮晶晶 滿天都是小星星 ~♪』と口ずさんでいる者もいる。
 聞法が待ちきれずに一杯ひっかけていた者たちはコックリコックリと舟を漕いでいるものも居て、御説法二日目を迎え、三合河原は静かに高揚している。

 昨日はビバルディ―の『四季』、それも春のところをリフレインしていた。

 どちらも頭にアルファ波が湧きまくり、聞く者を心穏やかにする名曲だ。

 ん?

 そこに、そよ風が吹いてきたかと思うと、諸葛茶孔明が例のハエタタキを戦がせながら近づいてくる。

「ニイ少佐……いや、悟空殿」

「おう、孔明殿も寛いでおられるのか、ウキ」

「昨日は大成功でしたね。三合の河原は、魏、呉、蜀、いずれからも等距離であるだけでなく、舟が使えることで、上流下流方向からも大勢の善男善女が集まり、初回であるにもかかわらず、聞法の聴衆は万余を数えました」

「二回目の今日は二万を超えるかもな、ウキ」

「『きらきら星』、よく思いつかれました。三蔵法師さまの御説法はボレロのリズムで始まりますからねえ、あれを最初から流してしまっては観衆たちは興奮しすぎて不測の事態も起こりかねないところでした」

「あれは……」

「ビバルディ―の『四季』の二番煎じです、諸葛茶孔明さま」

「おお、これはこれは大橋様、豊盃ではろくにご挨拶もできずに失礼いたしました」

「いえ、丞相さまもご健勝でなによりです。豊盃でのプログラムしか持ち合わせておりませんでしたので、とっさに『これをお掛けなさいませ』とカセットテープをお出しになった機転には頭が下がるばかりです」

「いや、お恥ずかしい。蜀の田舎者ですので、未だにウォークマンで聞いておりますので」

「いえいえ、お年寄りの中にはカセットテープの味わいが懐かしいと喜んでいる人たちも居ましたよ」

「いやはや、汗顔の至りです。しかし……この河原の整備も見事なものです」

「たしかに……すり鉢状に造成された聴衆席、説教壇、照明音響設備、突貫工事のようではありますが、みな適切。将来を見込んで隣り合う河原も造成のための縄張りが済んでいます」

 俺も気づいていた。

 この河原の造成は、少し行き届きすぎている。

 むろん三国志最大最高の規模と実力を兼ね備えた大国魏。その気になればこの程度の作事やプロディーユースは何でもないのだろうが、曹操は長江の上流で堤防を築くことにも忙しいと聞く。

 俺も前世ではいつもどこかで大規模な作事をやっていた。むろん作事の指揮を執るのは将官クラスの家来共。

 家来共にはそれぞれ癖があった。柴田勝家は頑丈なものを作るが、面白みが無い。サルは何を作らせても見事で明るく。光秀も綺麗で見事なものを作るが、なんとも辛気くさくて肩が凝った。滝川一益は何にでも忍者の仕掛けを忍ばせて、ちょっと危なかった。家来ではないが、家康は地味、正直趣味的には使えなかった。

 それと同様の癖が、この河原の作事にも現れているはずなのだが、今のところは――行き届いていいる――という匂いだ。

 ひょっとして裏があるのかもしれないが、曹操のことは茶姫を通しての知識しかない。

 予断を持ってしまうと目が曇る。

 かつては信玄を恐れるあまり、三年も死んだことに気付かず時間を無駄にした。荒木村重を説得に行かせた黒田官兵衛が戻ってこない時は裏切りと思い込み人質の息子を殺した。サルの機転でじっさいには殺さずに済んだが、救助された官兵衛を見た時「あ、有馬の湯が効くぞ!」と声を上ずらせてしまった(-_-;)。

 言葉には言霊がある。

 だから、大橋も孔明も、それ以上には口にしない。

 見る限り聞く限りの情報では曹操という男、権力を持ったサイコパスかと思っていたが、違う尺度で見なければならないのかもしれない。

 ん?

 きらきら星がボレロのリズムになってきた。

 三蔵法師の三合河原超説法会は二日目を迎えようとしている。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》

2024-04-14 08:28:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第139話《9個目の招き猫……たぶん》さくら 





 前々から言ってるけど勉強は好きじゃない。


 だから、中間テストも後半だっちゅうのに身が入らない。

 日本史のテストなんか、暗記したこと全部書いたら、見直しもしないでい眠ってしまう。そんで蟻さんとお話しする夢なんか見てしまう。一昨日は、試験の後、家の近所まで帰っていながら公園に寄って、ガキンチョのころから乗り慣れたブランコに腰かけて二時間。アンニュイに身を任せながら、結論も出ないあれこれをもてあそんでいた。

 残っている教科は昨日すませた。ノートやプリント見て、出そうなところをゆっくり読んで、一回ずつ紙に書いておしまい。もう一回やったらプラス5点くらいは取れそうなんだけどやらない。

 ボンヤリ紙に書いていて、引っかかったのは国語。
 
 小説の単元で習った太宰治の『富岳百景』。

 太宰は中学で10個ほど読んだ。読んだ中に『富岳百景』もある。いまさら違う解釈とか読み方されたら、最近ハマってる魔法使いアニメの弟子のようにムスっとしてしまって気分悪いからノートとってもらったプリント残してるだけ。

 漢字の読み、代名詞の「それ」とか「あれ」が何を指すかを斜め読み。
 読書力というか本を読む馬力はあるから、抜粋しか載っていない教科書を5分で読んで、文庫の省略無しのを一回読み直す。

 それからノートの中身を少しだけ力を入れて紙に書く。線を引いたところは、もう一度線を引く。

「富士には月見草がよく似合う」「棒状の素朴さ」「富士はなんの象徴か」「単一表現」とはなにか。プリントの答えを丸のまま頭に入れる。こういうことの答えを全部集めても、『富岳百景』は分からない。

 例えば「富士」というのは「軍国主義・封建主義・当時の文学などの権威」などと書けば正解。だけど、あたしは、これでは収まらない。権威の否定だけで納得できるほど人生は甘くない。太宰だって、そう思っている。それでも掴みきれない自分のいらだちが見えてこない。でも、そんなことを書いたって減点されるだけ。だから考えない。

 軍国主義への反対? 笑わせちゃいけない。太宰は、そこまで考えて書いていない。御坂峠の茶屋の母子に癒される……とんでもない。
 あの茶屋の主人は戦争に行って中国大陸で戦っている。もし、戦争というものの権威に反対するなら、太宰ほどの文才があれば、別の形で書いている。失礼だけど、教えてくれた国語の先生は、こんな事実も見落としたまま授業をしたんだ。あの先生の授業からは太宰の苦悩も、そこから出てくる命がけのユーモアも分からない。

 今日は録画したまま見てなかったロボットアニメを見た。わたしが生まれるずっと前からやってる国民的アニメ。

 なんで中学生が、ここまで苦しんでロボットに乗り込んで、正体不明の敵と戦わなければならないのか? 観ても読み込んでも答えは出てこない。主人公が痛々しい。

 あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、作者も「敵」の意味よく分かってないんじゃないだろうか。分かっていないからこそ、面白いと思っちゃうんだろうな。太宰の「不安」と共通する曖昧さ、漠然さ。それが「青春なんだよ」と言われても、あたしは納得しない。

 納得しなくても最終話まで観てしまう、観させてしまうんだからすごいよね。やっぱりすごいアニメなんだ。


「あ、しまった!」


 お母さんが台所で叫んだ。どうやら生協に注文しておいた食材に、注文のし忘れがあったみたい。

「あたし、行ってくるよ」

 アニメも最後まで観て「思わせぶり」を納得。当然消化不良。で買い物に行く。

 買い物は良い。メモしてもらったものを駅前のスーパーまで買いに行って、帰ってくる。お母さんが感謝してくれる。そして晩ご飯は滞りなく食卓に並ぶ。

 あたしは、こういう単純な問題と、問題解決が好き。

 一度はアイドルとか俳優になる夢を見た。確かに夢なんだろうけど、実際に、そんな人生を途中まで生きていたような気がするけど、あれは長い白昼夢。でなかったらパラレルワールドのわたし。なんかの拍子で、あっちへ行って戻ってきたんだろう。
 もしくは、向こうに戻っていないか。言えることは、どっちも生まれ育った世田谷は豪徳寺で起こったということ。どんな生き方をしようと、生まれ育った豪徳寺から道が伸びていくんだ。やっぱり不器用なんだろうね。

 長い話に付き合ってくださってありがとう、中間テストが終わったら豪徳寺名物の招き猫を買いに行きます。

 めったに行かない豪徳寺駅の向こう側、新しいファンシーショップが出来ているのを発見。そのウィンドウに可愛い招き猫があるのを発見したから。むろんレトロに作られた新製品。ひょっとしたら焼き物でさえなくてプラスチックかもしれない、高校生が、ふと買ってみようかと思うくらいの値段だしね。

 これで、うちの招き猫は8個……9個目、たぶん。

 9個目は机の上に置いて、新しい温故知新が湧いてきたらね、またお目にかかります。


 佐倉 さくら


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする