大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・216『納骨の旅・3・万世橋』

2024-04-20 11:47:37 | 小説4
・216

『納骨の旅・3・万世橋』ミク 




 トンビが視界から消えて――さて、どうしよう――と考えた。


 今度の納骨に際して三日の休暇をとった。

 初日に納骨を済ませた後は、東京か京都かのどちらかだろうと思っている。

 両方は回れない。

 扶桑のルーツは日本だ。その日本のルーツは京都だ。

 794年に遷都されて以来23世紀の今日に至るまで千年以上日本の都は京都なんだ。
 明治維新で天皇は東京にお移りになったけど「ちょっと江戸に行って来る」とおっしゃられただけになっている。

 実は、憲法にも法律にも――日本の首都は東京である――とは書いていないらしい。各種の法律には「首都開発」とか「首都機能整備」とか「首都防衛」とかの冠がついたものがいっぱいあって、国の内外を通じて東京が日本の首都であることは常識。

 でも、肝心の首都法という法律は無く、東京=首都とも規定されていない。

「これが日本人の知恵なんだ」

 姉崎先生は言っていた。

 世俗的な意味での首都は東京、霊的には京都が都なんだそうで、京都の人たちは天皇陛下が京都にお越しになるのを「お戻りになる」と言う。
 そういう日本のソウルに触れてみたいという気持ちもあったけど、9年前の修学旅行をトレースしてみるというプランも捨てがたい。

 山梨を過ぎてトンネルを出るころには決心がついた。

 やっぱり東京に行こう。

 特に日本史に興味があってとか、扶桑の公務員としての意識に目覚めたというわけじゃない。

 和尚さんとの約束を思い出したんだ。作業機械のいいのがあったら送りますって。

 アキバ近くの万世橋に、修学旅行でお世話になった万世橋商会がある。

 あそこで相談すれば、月や火星に戻って手配するよりも早い。月に戻ってからじゃ次の休暇までは動きが取れないだろうしね。

 ほんとうはアキバ……という誘惑はグッと呑み込んだ。


「あ、扶桑第三高校の……!」


 受付のオネエサンが反応する前に、どこか見覚えのあるオジサンが立ち上がった。

「え、あ、その節は、お世話に……」

 と言いながら完全には思い出せないわたし(^_^;)。

「あの時の御縁で、平賀先生とは懇意にさせていただきまして、先生ご発明のアイテムを取り扱わせていただいて繁盛させていただいております(^▽^)」

 あ、車の駐車をお願いした時の総務のニイチャン(修学旅行・5・『アキバ 初音ミク』に出てくる)だよ、たしか。

 胸のIDには『営業課長』の肩書がついている。総務から営業へ転身、やり手だったんだねぇ。

「あちらのショーケースに先生との提携商品を並べております!」

 受付のオネエサンも、立ち上がってショーケースを示してくれる。

「ほおぉぉぉ」

 そこには、テルが片手間というか気分転換というかに思いついたアレコレが並んでいた。

 アルファ波消しゴム:(使うとアルファ波が出る) 
 提案貯金箱:(入れた金額に合わせて使い道を提案する) 
 思念工具:(思い浮かべるだけで機能や形を変える家庭用工具)
 ミニトング付きポテチの袋:(手が汚れない)
 卓上グラビテーションコントローラー:(机の上の物を浮かせて掃除しやすくする)
 失せものホイッスル:(あらかじめ登録しておいた物は、失くした時に吹くと返事する)
 知り合い感知器:(身内 友人 知人 苦手な奴)が一定の距離に近づいてくるとアラームを発する)
 お別れ機能付き電池:(残り5%を切ると「お別れの時です」と別れを告げる)

 あげるとキリがないんだけど、全部冗談半分のアレコレ。

「売れてるんですか?」

「はい、半分近くはヒット商品になって、ご愛顧いただいております」

「そうなんですか」

「ああ、こういうファンシーグッズ系だけではなく、素材系やエネルギー系の発明や新案特許がありまして、売上金額的には、そちらの方が三倍以上ございます。はい」

 ウウ……大した奴だとは思っていたけど、いやはや、かなりの大物なんだ(^_^;)。

「それで、緒方さまは、どのようなご用命で?」

「あ、実は……」

 甲府の和尚さんの話をすると、3分でモノを見つけてくれて、手配と発送までやってくれることになった。

 いやはや、人の縁というものは大事にしなくちゃと感じ入る。

 そして、晴れてアキバに足を運べることになった\(^_^)/!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)006・ああ演劇部!!・1

2024-04-20 06:50:34 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

006・ああ演劇部!!・1                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 なんと掲示板に貼り出されていた。


 以下のクラブは部員数を5月12日までに規定の5人以上にならない場合同好会に編入する。

 演劇部 新聞部 社会問題研究部 上方文化研究部 園芸部 薙刀部 ワンダーフォーゲル部

 生徒会規約により、同好会に編入された場合、予算の執行を停止し部室を明け渡すものとする。

              空堀高校生徒会(担当 副会長:瀬戸内美晴)


「ハ~~~~(´Д`) 」

 演劇部部長の小山内啓介は、盛大にため息をついた。

 このため息が図書室にいた沢村千歳とシンクロしたのだが、この物語における自分の役割を認識していない二人に自覚は無い。

「そら大変やなあ……」

 セーヤンは頭の後ろで手を組み、脚を突っ張って椅子をギシギシ言わせながらのけ反った。セーヤンが気乗りしない時の癖である。

「名前貸してくれるだけでええねん、頼むわ」

 啓介は、のけ反ったセーやんの顔を覗き込むようにして食い下がった。

「ちょっと、ツバかかるやんけ!」

「ああ、すまんすまん」

 啓介はハンカチを出してセーヤンの顔を拭く。

「ちょっと、止めてくれ。男のハンカチで顔拭かれたない!」

「すまん、そやからさあ……」

「ケースケ、ちょっとミットモナイわよ」


 訛のある標準語が降ってきた。振り向くとミリーが腕組みして立っている。


「え……」

「ケースケの演劇部って部室が欲しいだけでしょ。たった一人で広い部屋独占して、演劇なんてちっともしてないじゃん。生徒会が言うことのほうが正しいよ。みんな知ってるから、誘いにのらないんだよ。ケースケ見ていると日本男子の値打ちが下がるぞ」

 ブロンドの留学生は手厳しい。

「俺は目覚めたんや! これからは伝統ある空堀演劇部の灯を守るために精進するんや!」

「ショージン?」

 むつかしい日本語は分からないミリー。

「えと、Do my best!や!」

「ケースケ、窓から飛んでみるといいよ」

 ガラガラガラ!

 ミリーは傍の窓を目いっぱいに開いた。

「飛べるわけないやろ」

「ケースケ軽いから飛んでいくと思うよ」

「グヌヌヌ……」

 ククク(* ´艸`) ムフフフ(〃艸〃) プププ(*`艸´) ブフフ( ´艸`)

 休み時間の教室に堪えきれない失笑が湧いた。

「ミリーも辛らつやなあ……啓介も突然部室の明け渡し言われてトチ狂とんねんで。まあ、これが刺激になって部活に励みよるかもしれへんやろ」

「トラヤン、おまえこそ心の友や! やっぱり演劇部入るべきや!」

「それとこれは違う。お手軽な身内から声かけるんと違て、せめて中庭とかで基礎練習してアピールしてみろよ」

「え、あの意味不明な『あめんぼ赤いなアイウエオ』とかお腹ペコペコの腹式呼吸とかか?」

「そや、そういう地道な努力こそ大事やと思うで」

「そうだね『隗より始めよ』だね」

「なにそれ、ミリー?」

「ことを始めるには、つべこべ言わないで自分からやってみろって、中国の格言だよ」

「……ミリーの日本語の知識は偏りがあるなあ」

「なに言ってんの、古文で習ったでしょ?」

「え、習ろた?」

 墓穴を掘りっぱなしの啓介であった。


 いいかもしれないなあ――掲示板を見て千歳は思った。


 学校を辞めるにしろ、なにか口実が欲しかった。

 入学して一カ月余りで辞めるには、致し方なかったという理由が欲しかった。それはもう仕方がない、千歳はよくやったという状況で辞めるのがいい。

 演劇部が、それにうってつけだと千歳は思った。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする