大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』

2024-04-13 11:42:50 | 小説4
・215

『納骨の旅・2・甲府』ミク 





「甲府盆地はハート形なんですよ」


 お墓に行く途中の坂道で振り返ると、和尚さんは景色を撫でるようにして言った。

「うわぁ…………」

 つられて振り返ると、笛吹川、釜無川、富士川と、それに沿って走っているリニア路線がハートの骨のように見える。

「勘十郎は血管だと言うとりました」

「血管ですか?」

「血管じゃったら、一本余計じゃろと言うてやると『一本は気脈じゃ』と笑うておりました。奴は、甲府盆地を日本の心臓のように思うて子どもの頃から喜んでおりました」

「気宇壮大な子供だったんですね」

「はい、実は甲府の下には三つのプレートがせめぎ合っておりましてな。ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート。その境目が三つの川です」

「そうなんですねえ……」

 先生の実家を探すのはダッシュの力もあって、そう難しいことじゃなかった。

 山梨県の甲府にある旧家が先生の家で、家系をたどれば武田信玄の参謀だった山本勘助に繋がる。そう、本姓は姉崎でもなく山野でもなく山本。

 山本の家は令和の時代からエコ発電の関連部品の製造で力をつけ、この二十三世紀でもパルス燃料の端子製造では結構なシェアを持っている。
 
 三つのプレートがせめぎ合うように、山本の家は跡継ぎを巡って争い、それに嫌気がさした先生は、苗字を山野に変え、いろいろあった末に静かの海戦争で傭兵をやっていたわけなんだ。

 甲府のお墓に納めるには少し迷った。先生自身嫌気がさして飛び出した家だからね。

 そして、山本の家は衰退というか、甲府では消滅していた。

 外国の会社と提携したのが20年前で、そのあと、いろいろあって会社は社名だけ残して外国企業になってしまった。

 そして、先生の最後の姿を見て、ダッシュと二人、山本のお墓に納めるべきだと思った。

「いやあ、けっこうあるんですねえ」

「バテましたか?」

「いえ、大丈夫です」

「うちのお墓は寺よりも古いんですよ」

「え、そうなんですか?」

「おそらくは弥生時代からの墓地です」

「や、弥生時代!?」

「ええ、山の斜面に南面して墓を作ったのが最初です。600年前にうちの寺ができた時に引き受けたんです。墓というのは、常日頃から管理が必要ですからねぇ……さ、着きましたよ」

「うわぁ……」

 山の斜面が三段、ところによっては五段になって、ざっと千基ぐらいのお墓が並んでいる。

「ところどころ抜けてますねえ」

「はい、墓じまいをされた家もありますし、月や火星に移住する時に移されたお墓もあります」

 そうか……そう言えば、姉崎すみれさんのお墓も地球からご先祖ともども移してこられたお墓だった。

「山本のお墓はこちらです」

 墓地全体に合掌した後、三段上の区画に上る。

「立派なお墓ぁ」

 上様に招かれてお城の奥に上がった時、チラリと見えた将軍家のお墓を一回り小さくしたような立派なお墓だ。

「いえいえ、なかなか行き届きません……これは、少し掃除してからだなぁ。お手伝い願えますか?」

「はい、喜んで」

 よく見ると、墓石もくすんで、墓域の端っこの方は草が生えたり枯れ葉が溜まったりしている。

「道具がいりますねえ……少々お待ちを」

 和尚さんがハンベをクリックすると、麓の方からガシャガシャと音がして、四足歩行の作業機械が上がってきた。

「檀家さんから農作業用の型落ちを譲ってもらいましてね」

「すごいですねぇ、三世代前のピックアップですよ!」

 ガッシャン プシュー

『ソウジガスンダラ ジブンデ ドウグハモドシテクダサイ』

 すごい、自己収納機能すらも無いんだ(^_^;)

「さ、やりましょうか」

「はい!」

 なんだか、学校時代に奉仕活動をやってるみたいで楽しくなってくる。

「でも、少しは手入れされてるんですねえ、他のお墓はもっと荒れてるのがありますよ。やっぱりお身内の方が?」

「いえ、この十年余りはどなたも……」

「でも……」

「たまに家内と二人で……」

「ああ、そうだったんですか!」

「あ、今のは内緒です。他のお墓は行き届いてませんから」

『シンガタ カエバ ヤッテクレマス カタログダウンロードシマショウカ?』

「今はいいよ。どうもCM機能はしっかりしているようで(^_^;)」

「あはは、あ、ごめんなさい」

「いえいえ、勘十郎は家内の先輩なんです」

「え……」

「わたしは高校の同期で、ま、そんな縁もありましてね……」

 和尚さんの横顔にほんのりと朱がさす。

 ひょっとしたら、なにかドラマめいたことがあったのかもしれない。

 一通り手入れも終わって納骨。

 こんど扶桑に戻ったら、作業機械のいいのを見繕って送ろうと思った。

 だって、わたしとダッシュの出せる供養料ってたかが知れてるしね。


 いい汗をかいて、甲府からリニアに乗って東京を目指す。

 たった一日だけど、9年前の修学旅行を偲んでみようと思う。

 ピーヒョロロ……

 発車までの僅かな時間、お弁当を買って空を見上げると、トンビがきれいに輪を描いた。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第138話《おとついの蟻さん?》

2024-04-13 06:57:13 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第138話《おとついの蟻さん?》さくら 




 コップに半分の水をどう表現するか?


 もう半分しかない派と、まだ半分有る派に分かれる。

 わたしは「まだ半分有る」派のお気楽人間。

 だから、デフォルトのわたしは夏休みが半分過ぎても、小遣いが半分になっても「まだ半分有る」と、ポジティブに生きている。

 でも、今度の中間テストでは逆だった「もう半分終わった!」と思って、マクサと恵里奈とついカラオケでハジケテしまった。まあ、女子高生の自称『ナントカ派』なんてあてにならないんだろうけど。

 一応は、マクサの家でお勉強という名目だったけど、10分もたつとガールズトークになってしまった。

 昨日の日本史のテストで居眠りして『蟻さんの夢』の話をしたのがよくなかった。マクサも恵里奈もケラケラ笑って勉強にならない。

「ちょっと休憩にカラオケでもいこっか!」

 お気楽が伝染した恵里奈が言いだした。言いだしべえは恵里奈だけど、三人とも同じように気が弛んでいたことは確かだ。けっきょくマクサんち近くのカラオケで5時まで遊んでしまった。夢の中の蟻さんが言ってたシンパシーなんだろうけど、気持ちの発信者はわたしだ。それくらいの自覚はある。


 三人それぞれ家に帰ってから、今日のテスト勉強はしてるので、ノープロブレムっちゃ、それまでなんだ。だけど、めっちゃきつかったし、朝は久々にお母さんに起こされた。

「また、髪の毛乾かさずに寝たでしょ」

 怒られた。

 お母さんはフェルンじゃないから櫛なんかかけてくれないし、久々にヘアピンをXの形につけて学校に行く。電車の窓に映った顔はショボショボでエルフの魔法使いそっくり。でも、魔法なんて使えないし奇跡も起こらなくてみっともないだけ。

 ダスゲマイネ

 久々に呪いの言葉まで浮かんで気持ちは完全にブルーだ。

 高校二年にもなろうかと言うのに、わたしは一年先の自分も見えていない。で、マクサや恵里奈のようにクラブとかにどっぷり浸かって高校生活をエンジョイしきっているわけでもない。その時その時の面白いことに引きずられ騒いでいるだけだ。

 お姉ちゃんは大学に行きながら出版社でバイト。近頃ではバイト以上の能力を発揮して記事のネタを拾っている。こないだの兵隊さんの髑髏ものがたりが大ヒット。むろん編集責任は本業の編集者になっているけど、中身はお姉ちゃんが集めてきたものだ。

 お姉ちゃんは、確実に自分の道を探り当てつつある。

 そうニイは、海上自衛隊の幹部で、全身生き甲斐のカタマリ。たまに帰ってくると、妹としてはとても眩しい。そうニイには、相変わらず無邪気でわがままな妹一般で通している。兄貴は「相変わらずのガキンチョ」だと思ってるだろう。

『ゴンドラの唄』が少しブレイクしかけた。SNSのアクセスも沢山あって、スカウトなんかも少し来た。

 でも、あれはひい祖母ちゃんが歌っているのといっしょ。けしてわたしの力なんかじゃない。それはわたしとひい祖母ちゃんだけの秘密なんだけど、お姉ちゃんは知ってか知らでか、わたしが、流れのままにそっちにいく道を閉ざしてくれている。

 本当は、今日の午後はラジオ出演が決まっていたんだけど、お姉ちゃんがNGにしてくれた。

 テストは赤点じゃないだろうけど散々だった。親友二人もさすがに直帰。

 帰りの電車に乗ろうとパスを出すと、カバンに着けた招き猫の金具が指に当って血が出てくるし。

 家の近所まで帰りながら、わたしは近所の公園のブランコに揺られている。子供のころから乗り付けたブランコ。わたしは、いつまでこうしているんだろう……。

 足許を蟻さんが歩いている。じっと見つめていると、ふいに蟻さんが顔挙げてわたしを見たような気がした。

 おとついの蟻さん? まさかね(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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