やくもあやかし物語 2
ナザニエルとナサニエル……どう違うんだろう?
祖父と孫だから同じ一族だと思うんだけど『ザ』と『サ』が違う。
もっと細かくいうと『‶』があるかないかだけの違い。
祖父というんだから、血のつながりがあるわけで、それは、顔つきやエルフ独特の長い耳でも分かった。
手紙を読んだ時のネルの驚きとうろたえぶりを見ると、すこしためらわれたけど、聞いておかなきゃと思った。
「日本語だと『‶』があるかないかだけだろうけど、横文字で書くと『Nathaniel 』と『NaZaniel 』、違うだろ」
ネルは、メモ魔法で浴槽の湯気を文字に変えて示してくれる。
あ、今はお風呂に入ってるんだよ。
今日は福の湯の掃除当番にあたっていたし、しまい風呂に入って、浴槽以外を掃除してから湯船に浸かる。そうすると、ゆっくりお湯に浸かった後、ザザっと湯船の掃除だけで済むからね。
「どう違うの?」
「『NaZaniel 』の方が、本当の苗字なんだ」
そう言うと、湯気の『NaZaniel 』が『Nathaniel』の三倍くらいに大きくなった。
「うちのお父さんは長男だったけど、お祖父ちゃんや一族の反対押し切って結婚しちまったから『NaZaniel 』は名乗れなかったんだ」
「それで『Nathaniel』なの?」
「うん、日本の将軍て『徳川』だろ?」
「あ、うん。他にも御三家とかが徳川だけどね」
「将軍から枝分かれしたのは『松平』って呼ばれるだろ」
「あ、うん」
松平っていうのは徳川の旧姓で、徳川よりも一段低い。
「その『松平』に似てるかなぁ……でも、立場はもっと低い。お父さん死んでから、いっそうひどくなってさ……この学校に来たのも……まあ、そういうわけさ」
「あ、えと……でも、ちゃんと手紙とかくれたんでしょ?」
「ああ、あれなぁ……」
ネルが湯気文字を消すと『親愛なる我が孫娘コーネリア・ナサニエルへ』という手紙が現れた。ネルが読むなりベッドに座ったまま飛び上がった、あの手紙だ。
「親愛なる我が孫娘って、なんだか優しいじゃない(^_^;)」
「それは、ただの慣用句。中身はこれだよ……」
――今度、そっちの学校に行く。顔を洗って待っていろ!――
「え……ええ!?」
あんまりビックリして、湯船を掃除するのも忘れて部屋に戻ってしまったよ(-_-;)。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名