大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・043『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・2』

2024-04-24 10:12:27 | カントリーロード
くもやかし物語 2
043『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・2』 



 ナザニエルとナサニエル……どう違うんだろう?


 祖父と孫だから同じ一族だと思うんだけど『ザ』と『サ』が違う。

 もっと細かくいうと『‶』があるかないかだけの違い。

 祖父というんだから、血のつながりがあるわけで、それは、顔つきやエルフ独特の長い耳でも分かった。

 手紙を読んだ時のネルの驚きとうろたえぶりを見ると、すこしためらわれたけど、聞いておかなきゃと思った。


「日本語だと『‶』があるかないかだけだろうけど、横文字で書くと『Nathaniel 』と『NaZaniel 』、違うだろ」

 ネルは、メモ魔法で浴槽の湯気を文字に変えて示してくれる。

 あ、今はお風呂に入ってるんだよ。

 今日は福の湯の掃除当番にあたっていたし、しまい風呂に入って、浴槽以外を掃除してから湯船に浸かる。そうすると、ゆっくりお湯に浸かった後、ザザっと湯船の掃除だけで済むからね。

「どう違うの?」

「『NaZaniel 』の方が、本当の苗字なんだ」

 そう言うと、湯気の『NaZaniel 』が『Nathaniel』の三倍くらいに大きくなった。

「うちのお父さんは長男だったけど、お祖父ちゃんや一族の反対押し切って結婚しちまったから『NaZaniel 』は名乗れなかったんだ」

「それで『Nathaniel』なの?」

「うん、日本の将軍て『徳川』だろ?」

「あ、うん。他にも御三家とかが徳川だけどね」

「将軍から枝分かれしたのは『松平』って呼ばれるだろ」

「あ、うん」

 松平っていうのは徳川の旧姓で、徳川よりも一段低い。

「その『松平』に似てるかなぁ……でも、立場はもっと低い。お父さん死んでから、いっそうひどくなってさ……この学校に来たのも……まあ、そういうわけさ」

「あ、えと……でも、ちゃんと手紙とかくれたんでしょ?」

「ああ、あれなぁ……」

 ネルが湯気文字を消すと『親愛なる我が孫娘コーネリア・ナサニエルへ』という手紙が現れた。ネルが読むなりベッドに座ったまま飛び上がった、あの手紙だ。

「親愛なる我が孫娘って、なんだか優しいじゃない(^_^;)」

「それは、ただの慣用句。中身はこれだよ……」

 
――今度、そっちの学校に行く。顔を洗って待っていろ!――


「え……ええ!?」

 あんまりビックリして、湯船を掃除するのも忘れて部屋に戻ってしまったよ(-_-;)。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)010・「「あ、あんたは!?」」

2024-04-24 06:56:19 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
010・「「あ、あんたは!?」」                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 副題を(惣堀高校演劇部)としながら演劇部のことがほとんど出てこない。


 けして作者がサボっているわけではなく、その理由は、第一に、惣堀高校の演劇部は広い部室のわりに活動の実態がないからである。

 第二には、この名ばかり演劇部の物語が、生徒会より「部室の明け渡し」を迫られ、部長であり、たった一人の部員である小山内啓介の悪あがきに影響され、巻き込まれる生徒たちの青春群像でもあるからである。

 その群像の要である啓介は、近所のコンビニに入ったところである。

「いらっしゃいませ~」

 コンビニ店員のマニュアル挨拶はシカトして冷蔵食品のコーナーを目指す。

「お、あったあった(^▽^)!」

 啓介は、連休限定冷やし中華を手に取って、まっすぐレジに向かった。

 連休限定といっても特別なものではない。平常価格よりも50円安いのである。安いのでレジの順番待ちをしている間に、カウンターのドーナツに目が行ってしまう。

 で、ドーナツの中に新製品があった。

 ドーナツのくせに穴が開いていない。値段はレギュラーのドーナツと変わりがない……ということは穴が詰まっている分「お得だ!」と思ってしまい、自分の順番が回ってきたときには冷やし中華といっしょに勘定してもらうことになる。

 まんまとコンビニの策略にしてやられたわけだけれども、啓介に自覚は無い。

「いい買い物をした(^~^)」

 独り言ちて、第二目標の真田山公園を目指す。

 真田山公園はグラウンドが隣接していて、そのグラウンドも公園の一部に見えて都心の公園としては広く感じられる。

 啓介は、そのグラウンドを望むベンチに腰掛けて冷やし中華を取り出した。ベンチの端は植え込みになっていて道路側からの視線を隠してくれるので、絶好の休憩スポットなのだ。

 目の前のグラウンドでは、地元の野球チームが試合の真っ最中である。

――見てるぶんには、野球はおもしろいよなあ――

 中学で肩を痛めて以来、自分でやる野球はご無沙汰だけれど、野球観戦はする。しかし身銭を切って野球場に行くようなことはしない。
 こうやって、ジャンクフードを持ってボンヤリと草野球の空気の中にいるだけでよかった。

 8回の裏、先攻のチームが三者凡退に終わったあと、後攻のチームがツーアウトで満塁になった。


 あの時といっしょや……。


 啓介は、中三の時の自分の試合を思い出した。

 あのとき無理をせずに……という想いが無くは無かったが、その後の萎んでしまった自分の情熱を思えば、これで良かったのだと思いなおす。

 お!?

 バッターが、思い切りスゥィングした。カキーンと小気味いい音がして、ボールはホームラン!

 おお!

 ボールはフェンスを越えて啓介に向かって飛んできた。だが、元野球少年の勘は、わずかに逸れると判断。

 判断通り、ボールは真横の植え込み、それも木の幹に当った。当たり所もよかったのだろう、バキッっと音がして植え込みの中心になっていた木が折れてしまった。

「「あ……………」」

 声が重なった。

 折れた木の向こうは、同じようなベンチがあって、ベンチには鏡で映したように同じポーズで女の子が冷やし中華を食べていた。

「「あ、あんたは!?」」

 クラスメートのミリーであった……。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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