大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 178『栞のひとり語り』

2024-04-26 15:17:56 | ノベル2
ら 信長転生記
178『栞のひとり語り』書籍栞(範夫人) 





 若いころから本だけ読んでいられればいいという人だった。流行らない書店をやるにはうってつけの性格。


 たまに出かけることがあっても、本に書いてあることを確かめるという感じで、用件さえ済んでしまえばさっさと戻って来る。本に書かれていることを補強、確認するための旅。

 五回に一回ぐらいは「栞ちゃんもどうですか」と誘ってくれて、年に一度ほどは「そうねぇ、それじゃあ」と、今回のように付いていく。たいてい、美味しい名物料理とかがあるところで、たまにおいしいものを食べさせれば女房孝行だと思っている。危なげが無く安心できる亭主。

 ごくたまに「ちょっと見てくる」と日帰りの小旅行に行く。これに誘われたことは無い。

 これも雑誌とかに出ている歌姫や女優さん、時には売り出し中の遊女を観に行く。これも、雑誌の評判を確かめに行くという風で、色香に迷うとかハマってしまうことはない。

 そうやって、本に書かれていることのイメージを確かにして、常連さんと新刊本や古書籍のあれこれを喋っていれば幸せという人だ。

 あ、一度だけ……呉王孫策さまのお妃、大橋さまが豊盃楼を買い取ってパサージュにされたとき。あの時の大橋さまを見る目はちょっと危ないかと思ったわ。
 だけど、義弟のカメラ小僧……孫権くんが「範じいちゃんのは……ほら、こういう目ですよ」と写真を見せてくれた。

 その写真は朝の豊盃寺、ご本尊にお参りするお年寄りたちのお祈りする姿だった。

「純粋に祈るという姿は尊いですね。散歩で寄った時に思わずシャッター切っちゃったんですけどね。そうそう、義姉さんも言ってましたよ、パサージュの説明会で『そんな目で見ないでくださいな、まだまだ仏さまになる気はありませんから』って」

 その大橋さまが、旅の手配をしてくださって、前回は亭主ひとりで敦煌あたりまで足を延ばしたんだけど、こんどは夫婦二人で。「あとで土産話を聞かせてくださいな」と微笑まれて。
 むろん、孫策さまのお妃、いろいろねらいの有ってのことなんでしょうけどね。ろくに新婚旅行もできなかった老夫婦には願ってもない御褒美。

 あちこち足を延ばして、とうとう赤壁までやってきて、思いもかけずに魏王曹操さまにもお目にかかれてお話ができた。

 かねがね、魏の曹操さまと言えば、悪逆非道なサイコパスと聞いていたけど。どうしてどうして、ご自分の魏だけではなくて、三国志全体の発展を願って長江治水の大工事をかって出られ。それも、隣接する呉や蜀のこともお考えになられて。

 ホホホ、いま思い返してもおかしいわ。曹操さまを見るわたしの目は、主人が大橋さまを見る時の目と、きっと同じでしたよ(^_^;)。

 
 それで、仏さまには尽さなければなりませんからね。


 赤壁から、さらに西に向かいました。洞庭湖を臨む岳陽では湖水の向こうに舜帝の御陵を見た時は、少女のように「ステキ!」を連発して「ねえ、ひょっとしたら汨羅 (べきら)に身を投じた屈原さんに会えるかもぉ(^▽^)!」と年甲斐もなくはしゃいでしまいました。

「土座衛門になった屈原に会ってもしかたないだろうが」

 真顔で返す亭主は、所帯を持ったころの文学青年時代のようにトンチンカンで笑ってしまいました。

「あなただって、ずっと西の空を見てるじゃないですか」

 そう返すと、こう言いました。


「……空が青すぎる」


「青くちゃいけないんですかぁ」

「いや、この時期は西の空は花粉が舞って、もっと霞んでいるものなんだ、時には河北の黄砂をもしのぐと言われている……」

 そう言うと、懐から『長江古説』という本を出し、二三度めくって静かに呟いた。

「はるか西方で大雨が降っている。花粉は雨に打たれて落ちてしまったんだ……栞ちゃん、ここで待って居ろ、ちょっと確かめてくる!」

「あ、ちょっとぉ!」

 亭主は、どこにそんな力が残っているんだという勢いで西に向かって走って行った。

 


☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
 


 


 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)012・千歳の入部

2024-04-26 08:41:36 | 小説7


REオフステージ (惣堀高校演劇部)
012・千歳の入部                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 とにかく驚いた。


 生徒会副会長の瀬戸内美晴から「5人以上の部員がいなければ、同好会に格下げの上、部室を明け渡し!」と宣言されて2週間。

 部員募集のポスターを貼ったり、身近な生徒にしつこく声を掛けたり、セーヤンに頼んで3Dホログラムで部員を多く見せて発声練習をしてみたり。そのことごとくが空振りで、今週の金曜日には演劇部のお取りつぶしは確定する運命であった。

 その運命の崖っぷち、あと一歩で谷底に転落というところで、入部希望者が現れたのだ!

 
 トントン


 部室のドアがノックされた時は瀬戸内美晴の催促かと思い、ぞんざいに「開いてますよ(-_-;)」と顔も向けずに返事した。

 ガラガラ……

 ドアの開く音がしたが、開いたドアの所に人の姿はなかった。

 啓介の定位置である窓側の席からはドアの上半分しか見えない。机にうず高く積まれたガラクタが視界を狭めているからだ。でも見えないと言っても床から1メートルほどである。惣堀は幼稚園でも保育所でもない、高校なんだから身長が1メートルに満たない人間など居るわけがない。

「なんや、気のせいか……」

 啓介が、そう思ったのも無理はないかもしれないが、きちんと確かめなかったのは、入部希望者など来るわけがないという思い込みからだ。

「入部希望なんですけど!」

「イテ!」

 啓介はびっくりして立ち上がり、その拍子にパソコンに繋いでいたイヤホンがバシッっと外れて耳が痛んだ。

「え、えと……入部希望者?」

「はい………………なにか?」

「あ、いや…………」

 入部希望者はルックスこそ可愛いが車いすだった。車いすだから見えなかったんだと、啓介は納得した。

 次に――なんで車いすの子が演劇部に入ろうとするんだ?――という疑問が戸惑いと共にに湧いた。

 空堀高校はバリアフリーのモデル校ではあるけれど、友だちの中に身障者の生徒はいなかった。中学までは野球ばかりやっていたので、身近に関わったこともない。演劇部は看板だけだけれど一応は演劇部、車いすで演劇はあり得ないだろう……などなどが一ぺんに頭に浮かんだ。

「車いすじゃダメなんて、ポスターには書いてなかったけど」

 見透かしたように車いすの少女は言う。

「仮に書いてあったとしたら、それって差別だし」

「え、ああ、そうだよ、そうだよね。障害があるとかないとか、そんなのは全然関係あれへんし」

「それじゃあ……」

「あ、ああ、ごめんなあ。もう入部希望者なんかけえへん思てたから、びっくりしたんや。まあ、こっちの方に、まずはお話し聞こか」

 少女は器用に車いすを操って、啓介が指し示したテーブルの向こう側ではなく、啓介の横に来た。

「1年2組の沢村千歳です。これが入部届」

 保護者印と担任印のそろった書類をパソコンの横に置いた。

 その間、啓介は計算していた――足の不自由な子が入部したら、学校もムゲに演劇部を潰すこともでけへんやろ。ひょっとしたら、この子一人入っただけで存続確定かもしれへんなあ!――

「わたし、演劇部潰れるの前提で入るんだから。そこんとこよろしくね」

「え……ええ!?」

「この部室グチャグチャじゃん。棚の本は色あせてホコリまみれだし、ゴミ屋敷寸前の散らかりよう。とてもまともに部活やってるようには見えないし」

「いや、これはやなあ(^_^;)」

「それに、なんですか、これぇ?」

 千歳の視線はパソコンの画面に移った。

「あ、ああ!」
 
 パソコンの画面では、ボカシの入った男女が絡み合ってあえいでいた。千歳が入ってきたときに驚いてクリックしてしまったようだ。

「四の五の言わずに入れてちょうだい。さもないと部室でエロゲやっているって触れ回っちゃうわよ」

「え、あ、はい!」

 演劇部の新しい扉はエロゲと共に開かれた。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜


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