やくもあやかし物語 2
四時間目の魔法史の時間が終わると全員講堂に集められた。
「グ……校長が来てんぞぉ」
ハイジが地声で呟いた。
本人は呟いたつもりでも、ハイジの声はよく通る。とたんに集会指揮のメグ・キャリバーン教頭先生が睨む。
あ、気持ちは分かる。
校長はめったに顔を見せないし、いかつくってとっつきにくい。
なんでも、学校を立ち上げるについて、各方面に気を使ったり抑えがきくようにしたそうで、それは総裁にヨリコ王女を頂いていることでも分かる。
でも、議会や貴族たちの抑えとしてはヨリコ王女は若すぎるし、日系でもあることから軽んじられることも無きにしも非ず。それで、直接のファイアーウォールとして長老的貴族であるカーナボン卿を校長に戴いているんだとか。
ハイジが睨まれたので、その後は静かになって、教頭先生が演壇の下に居たままマイクを握る。
「授業終了後の全校集会で申し訳ない。でも、とても大事な話だから、しっかり聞くように。校長先生、どうぞ」
「うむ」
鷹揚に頷くと、猛禽類が鬚を付けたような校長のカーナボン卿がゆっくりと演壇に上がった。
「諸君らも承知している通り、ヤマセンブルグを含む全ヨーロッパは東からの脅威にさらされている」
みんなの顔が上がる。
日本で東といえば単なる方角だけど、ヨーロッパで東というと、あの巨大すぎる国の事を指す。じっさい戦争やってる真っ最中だしね。
「かの国の脅威は実弾飛び交う戦場ばかりではない。様々な妖や精霊による侵攻は少しずつヨーロッパ全域に広がりつつある。その脅威に備えるために、本校を含む王宮全域に結界を張ることになった」
「校長先生、すでに王宮には結界が張られているのではないんですか?」
英国貴族でもある優等生のメイソン・ヒルが口を挟む。
「いかにも。ヤマセンブルグ最高の結界が張られてはいる。だが、それでは心もとないという状況になりつつある。そこで、結界と防御魔法の第一人者を本校に招へいし、結界の補強と防御、それに防御魔法の指導の為に北の国より特別講師をお呼びした。ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿であーる!」
こういう場合、礼儀として拍手が起こるものだけど、奥のドアからものすごい圧がして、みんな声も無かった。
だって、ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿は立派な耳を持ったエルフ!
そのうえ、なんとなくうちのネルに似たおっさんだ。
え?
「うん、うちのクソジジイだ(-_-;)」
ええ、ネルのお祖父さんが来るって、こういうことだったの!?
チラ見すると、ネルは赤い顔して俯いて、でも耳だけはピンと立ってる。
これは、ネルがブチギレてる時の特徴だよ……たぶん。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名