大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・040『樺太の空を飛ぶ』

2024-04-06 15:07:59 | カントリーロード
くもやかし物語 2
040『樺太の空を飛ぶ』 



 おいしく樺太ランチをいただいて郷土博物館の外に出る。

「ちょっと高く飛ぶので息を合わせて」

 少彦名さんが指を立てる。

「息を合わせるって?」

「1、2、3、でジャンプ。そのタイミングを合わせるんだ」

「は、はい」「う、うん」

 デラシネと返事をすると、少彦名さんは狛犬の太郎と次郎に合図を送る。太郎と次郎は首だけこっちに向けて、顔が怖くて図体が大きいものだから、ちょっとおっかない。

「それ!」

「「えい!」」

 グワーーーーーーッ!!

 ジャンプすると同時に太郎の方が盛大に息を噴き出して、やくもたちを屋根の高さまで上げてくれて、すこし遅れて次郎が息を噴き出して、次に太郎、次郎と交互に息を噴き出し、あっという間に、ジェット機、いや、人工衛星が飛ぶくらいの高さに上げてくれた!

『すごいですね! わたしの力ではこの高さまでは無理でした!』

 交換手さんが御息所の口を借りて感激する。

「でも、なんでコマイヌは互い違いでしか息を吐かないんだぁ、ジグザグに上がったから、ちょっとクラクラする」

 デラシネが目を回しながら言う。

「申しわけない、阿吽の呼吸と云ってな、片方が口を開けている時、もう片方は閉じているものなんだ」

「そうか、まあ、上がってしまったからいいんだけどね」

『樺太の形がよく分かりますねえ』

「うん、それを見てもらうために高く上がったんだ」

「樺太って、大きいんですねえ……」

「ああ、北海道と同じくらいの面積だからね」

『真岡って、けっこう北の方にある感じだったんですけど、南ですねえ』

「交換手のころの日本領は南半分だけだったからね」

『そうですね、人間は、自分が住んでいるところを中心に考えますねえ』

「なんだか、美味しそうにも見える」

 グルグルが落ち着くと変なことを言うデラシネ。

「え、島がか?」

「吊るしたシャケに見える」

『お昼にチャンチャン焼きを食べましたからね』

「島が食べ物に見えるのは平和で楽しいね」

「そうだな、やくも」

「ほんとうは、昔の樺太を見せてやれるとよかったんだけどな、まあ、逆にこういう樺太を見るのも悪くはない……ほら、あの海が狭くなったところが間宮海峡だ」

 少彦名さんは、指で空中に字を書いた。

「……日本の名前が付いているのか?」

「ああ、間宮林蔵って人が発見したんだよね」

 ちょっと得意になって知識をひけらかす。

「ああ、そうだ。それまで樺太は島なのか半島なのか結論が出てなかったんだ」

「半島?」

「ああ、カムチャツカ半島と区別がついてなかった」

「アハハ、バッカじゃない、どう見たって島だろぉ、カムチャツカ半島って、もっと東の方……あれだろ?」

 身を乗り出して東の水平線のあたりの陸地を指さすデラシネ。

「ほぉーー」

「なに感心してんだ、こんなの中学レベルの地理だろがぁ!」

「あ、いや……」

「しっかりしろよ、王立魔法学校の生徒だろーが」

「あははは(^_^;)」

 ほんとは、デラシネの伸ばした指と横顔がきれいで「ほぉーー」だったんだけど、言わない。

『そう、間宮林蔵が樺太を船で一周して島であることを確認したんですよね、女学校で習いました』

「え、だったら樺太は日本だろ?」

「え、なんで?」

「領土と言うのは、最初に発見した奴の国になるんだぞ、ヨーロッパじゃそうだぞ」

「あ、そろそろ下りるぞぉ」

 質問には応えずに、少彦名さんは間宮海峡に近い小さな村を指さした。


 ザザザーーー


 地面をこするようにして下りてきて、自分たちが乗っていたのが芋の皮のようなボートであったことに気付いた。

『天乃羅摩船(アメノカガミノフネ )ですね』

「え?」

『ふふ、むかし習ったんです。少彦名さんは、これに乗って海の向こうからやってきたことに……あ、もう先に行ってますよ!』

 少彦名さんといっしょに行ったデラシネがたぶん「早く来い!」というように腕を回してる。

「もう、先に行かないでよね」

「すまん、これを見せたくて焦ってしまった」

 頭を掻きながら少彦名さんは太い二本の柱に挟まれた石板を示した。

『これは……間宮林蔵到達記念碑?』

 石板は立派なのに、柱は枕木みたいに粗削りで武骨だ。

「ああ、古地図や間宮林蔵の残した資料を基に、林蔵がこの村に来たことを知った日本の関係者が残していったんだ。草に埋もれてしまいそうになったのを村人たちが補強して目の高さにしてくれたんだ」

 ええ!?

 みんなビックリした。

 交換手さんも知らなくって、感動して涙ぐんでいる。

 借りているのが1/12サイズの御息所なものだから、なんだか御息所がとても優しくなった感じで、ちょっと混乱(^_^;)。

 デラシネは微妙にブスっとして、でも、わたしには分かったよ。

 デラシネは感動すると、こういう顔になる。


 それから、わたしたちに気付いて家から出てきた村の人たちと、陽が沈むころまでお話して、ヤマセンブルグに帰ったよ。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名


 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第131話《髑髏ものがたり・3》

2024-04-06 08:08:47 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第131話《髑髏ものがたり・3》さつき 





 さつきぃ……さつきぃ……


 わたしを呼ぶ声で目が覚めた。

 もう夜が明けはじめ、机の招き猫の招福の文字も仄かに読めて、目玉を巡らすとカーテン越しの外もほんのりと明るい。

 え?

 その微かな光をバックライトにして帝都の制服が立っている。

 一瞬さくらかと思った。だが、さくらがこんなに早く起きて身支度しているわけがないという常識が頭をよぎる。

「あたしよあたし、桜子よ」

「桜子ぉ……ひいお祖母ちゃん!?」

「大きな声出さないで、さくらが起きてしまう」

「大丈夫、さくらは爆弾でも落ちてこない限り目が覚めないから。ねえ、さくら」

「う~ん……」

 プ~~~~~

 さくらは寝返りを打ったかと思うと、オナラで返事した。桜子ひい祖母ちゃんがお腹と口を押さえて笑うのを我慢している。

「でも、ひい祖母ちゃん。ひい祖母ちゃんは、さくら専門じゃなかったの?」

「ヒヒヒ (*´艸`*) ……そのひい祖母ちゃんてのは止してくれる。せっかく女学生の時のナリで出てきてるんだから」

「じゃ、なんて?」

「さくらって呼ばれてたけど」

「それじゃ、さくらと区別つかないよ」

「じゃ、桜子。ちょっと呼びにくいけど」

「桜子……さん。御用はなーに? 言っとくけど、あたしに憑りついても、さくらみたいに上手く歌えないからね」

「そうじゃないわ。さつきが車の中に入れてる兵隊さん」

「あ……ああ!」

 もしやと、カーテンの隙間からポーチのホンダZを見た。

 すると、車の傍に、鉄兜の兵隊さんが立っている。

 目が合ったような気がしたので、目礼すると折り目正しい敬礼が返ってきた……鉄兜の下の顔が無かった。

 でも、不思議に怖さは湧いてはこない。

「恥だっておっしゃって、お顔も見せてくださらないし、名前もおっしゃってくださらないの。あたしが分かるのは、階級章で歩兵の中尉さんだってことぐらい。ご本人は日本に帰れただけで嬉しい。身元なんか探さずに、川の土手にでも埋めてもらえば結構だって……でも、それじゃ、あまりにお可哀想。今は科学が進歩してるんだろ。なんとか元のお顔を復元して身元を確認してご遺族のもとにお返ししてあげられないかしら」

「う~ん……そうだ、そうニイに相談してみる。自衛隊だから、なんとか面倒みてくれると思う!」

「ああ、それいいかもよ! あ、夜が明けるわ。名残惜しい、さつきとももっとお話ししたかったんだけど、あたし、あたしね……」

 サッシから差し込んできた光を浴びて、ひい……桜子さんは消えてしまった。

 そこで目が覚めた。横を向くと、さくらがお尻向けて寝ていた。カマされてはかなわないので、早々に起きる。


「あら、早いのね」


 ダイニングに下りるとお母さんに言われた。お父さんが朝ごはんを食べていたので、久々に三人で朝ごはん。
 あの話をしようかと思ったけど。車の中に髑髏があるなんて言ったら、お母さん卒倒しちゃう。まあ、あとでそうニイに電話で話そう。

「あ、そうそう、惣一休暇で帰ってくるって」

「ほんと!?」

「うん、船が急にドッグ入りとかでハンケン上陸だって」

「ハンケン?」

「半舷上陸だよ、乗組員の半分がオフになることだ」

「おお!」

「やっぱり、お兄ちゃんが帰ってくると嬉しい?」

「あはは、まあね(^_^;)」

 渡りに船とも言えず、滅多にしない愛想笑いでごまかした。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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