大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・217『納骨の旅・4・秋葉原』

2024-04-25 15:37:35 | 小説4
・217

『納骨の旅・4・秋葉原』ミク 





 万世橋に行くについては神田で降りた。


 最寄りの駅は秋葉原なんだけど、秋葉原の駅に下りてしまったら根が生えてしまって、下手をすると万世橋には行かずじまいになってしまいそうだったからね(^_^;)。

 万世橋商会で用事を済ませたわたしは、足取りも軽く史跡指定もされているラジオ会館に突撃した!

 幼いころから憧れたラジオ会館は、修学旅行で来た時のままだ。外観も内装も全盛期だった平成の終りから令和の頃の状態を残している。

 正面こそはラッピングいっぱいのガラス張りだけど、他の三面は八階建てというだけのビルに過ぎない。その素っ気なさは手抜きなんじゃなくて、建物として堅牢であることの証で好ましい。

「うわあ、リアルエスカレーターだよ!」「上ってる感ハンパない!」

 わたし同様、地方(月や火星も含む)からの観光客が喜んでいる。今どきの商業施設で200年前のエスカレーターなど使っているところは無いんだけど、重要文化財なのでパルスベーターよりも、文化財級のエスカレーターがメインになっているんだ。

 素直にお上りさんになっておこう。

 そう決めて、工場の生産ラインを思わせるエスカレーターに足を載せる。

『エスカレーターをご利用の際は、ベルトにつかまり黄色い線の内側にお乗りになり、お足もとに十分お気をつけくださいませ。またベビーカーや車いすでのご利用はご遠慮くださいますよう。お子様をお連れのお客さまは……』

 なんともレトロなアナウンスがお客を喜ばせている。ひょっとしたら、音源はAIなんかじゃなくて人間のアナウンサーが吹きこんだ声かもしれない。

 階が上がるごとに、フロアーの店舗や売り場が見えてそそられるんだけど、屋上に直行する。

 昔の屋上はスタッフオンリーで買い物客は踏み入ることができなかったけど、今は、その程よい高さが好まれて、屋上展望デッキのようになっている。

 ドリンクコーナーでメロンソーダを買ってアキバの街を見下ろす。

 JR総武線を挟んで駅前広場、その向こうにアキバUDXやらのビルが望める。

 9年前、御即位25周年記念のアキバフェスの真っ最中で、広場全体にグラビテーションコントロール(重力操作)を仕掛け、観客も巻き込んで『ミクとそに子のバトルショー』をやっていた。

 初音ミクチームとすーぱーそに子のチームに分かれて三次元鬼ごっこ。最初は自分と同じ名前のミクチームで遊んで、途中からそに子チームも面白そうで、そっちに移った途端にパスポートをすられたんだ。

 それから、ダッシュが犯人を追いかけてくれて、取り返したと思ったら偽物だった。

 あの後、大使館に呼び出されて……靖国神社の例大祭に……そうだ、靖国神社に行かなくちゃ!

 先生の納骨と和尚さんに送る作業機械のことで頭いっぱいだったけど、東京に来て靖国に行かないわけにはいかない。
 今度のマッパ病や、その後に起こった紛争で沢山の犠牲者が出ている。姉崎先生……山野勘三郎……やっぱり、我らの姉崎先生も傭兵とは云え軍人だったんだ。ウウ、明日の朝には月に戻らなくてはならない(-_-;)。

 ズズズ―!

 メロンソーダを飲み干すと、文化財のエスカレーターではなく、パルスベーターで一気に地上階に戻ると中央通りに出てタクシーで靖国神社に向かった。
 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)011・コンビニの冷やし中華

2024-04-25 06:59:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
011・コンビニの冷やし中華                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 日本に来る外国人にコンビニの弁当が評判である。


 お花畑のように可憐でありながら安くて美味しい。その開発には自動車や家電を開発するような情熱が注がれ、品質管理は医薬品のように厳密に行われる。
 そのクレイジーなまでにクールなコンビニ弁当は、ネットで繰り返し取り上げられ、中にはコンビニ弁当を目的に日本に来る外国人も居るくらいである。

「そんなこと、ずっと前から知ってるわ」

 ミリーは豪語する。
 
 ミリーはコンビニ弁当の中でも冷やし中華が大好きだ。食べ方にもこだわりがあって、買った冷やし中華を小さな特製クーラーボックスに入れてお出かけする。気合いの入った時は京都や奈良、近場では大阪城公園や花博公園、どうかすると近所の公園などで冷やし中華を食べている。

「なんで外で食べるのん?」

 下宿先の真理子に聞かれる。

「う~ん」

 と唸る。

「なんでえ……?」

 ミリーが真剣に考えた時はマニッシュに腕を組んで目が斜め上を向く。だから真理子の追及も真剣になる。

「一言でいうと、気持ちがいいからなんだけど。なぜ気持ちがいいかというと、あの美味しいサワーの感覚は青空が合うの。それからね、コンビニ弁当っておいしいけど、包装のパックやフィルムがざんないでしょ(「ざんない」は、ミリーが覚えた数少ない大阪弁。ミリーは来日する前に日本語をマスターしていたので、大阪訛にはならないが、古い大阪弁が好きなのだ)。だから、家の中で食べると、ちょっと凹むけど、外だと気にならないんだよ」

「ふーん……」

 真理子は、もうひとつ理解できないが、こういう飛んだところも含めてミリーのことが大好きだ。


 冷やし中華との出会いには、腐れ縁と言っていいエピソードがある。

「冷やし中華みたいやなあ……」

 中三の夏に、斜め後ろの男子に呟かれた。

 真田山中学に入って日本人に幻滅していたので、クラスメートとはろくに口をきかなかったが、この一言が気になった。単なる冷やかしではなく、無垢な冷やし中華への憧憬を感じたからである。

「ヒヤシチュウカってなに?」

 聞かれた方の男子が驚いた。

「あ、えと……」

 男子は、めずらしく幻滅や蔑みではないミリーの言葉に素直に答えてしまった。

「ラーメンのクールバージョン……ミリーの髪の毛見てたら食べたなってきてん!」

「え、わたしの髪?」

 で、探求心旺盛なミリーは学校の帰りにコンビニで冷やし中華を買って、それ以来ハマってしまった。

 そのミリーの斜め後ろで呟いた男子が、野球部でエースと言われた小山内啓介であったのである。

 連休の谷間の昼休み、ミリーの教室に車いすの一年生女子がやってきた。

「あら、なにか用かしら?」

 一年生女子は、ブロンドのミリーが流ちょうな日本語で聞いてきたので驚いた。

「あ、えと、演劇部の小山内啓介さんはいらっしゃいますか?」

「え、啓介? あなた、ひょっとして演劇部の入部希望者!?」

「は、はい……(^_^;)」

「ほおぉぉぉ」

 ミリーと沢村千歳との出会いは冷やし中華とはなんの関係も無かった。
 


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする