大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 174『献茶にことよせて』

2024-04-05 11:50:39 | ノベル2
ら 信長転生記
174『献茶にことよせて』織部 




 いつに変わらぬ所作で茶をたて、それからは常には使わぬ高坏に茶碗を載せ、恭しく神前の八脚案(はっきゃくあん=神さまのテーブル)に備える利休パイセン。

 パイセンの一礼に合わせて、わたしも、信玄・謙信の両先輩と共に頭を下げる。

 長江の築堤工事を観て扶桑に戻ったわたしは信玄パイセンに報告したのだが、それが少し大げさになった。

 御山に登って神前で考えようということになった。

 山頂の草原に毛氈を敷き、献茶の様式をとっている。

 御祭神の天照大神は趣味がお菓子作り、畏まったことが苦手な神さまだから、この場には姿を現さない。信玄・謙信両パイセンも百も承知だ。

 神前で話すということで、わたしの報告と、報告を基にした分析、分析の結果に出た作戦というか行動指針に重みが付く。部室や生徒会室、まして、いつもの中庭では軽すぎるしね。

 それに、御山は学院の聖域なので、学園の者たちを呼ばなくても角が立たない。

 さすがに信玄、やることにソツが無いし無駄もない。

「それじゃあ、本題に入るぞ。織部、もう一度話してくれ」

 献茶の後、利休パイセンのお手前でお茶を頂くと、信玄パイセンはさっそく振ってきた。

「はい、長江の上流では……」

 見たままに話をする。

 感想や意見は交えない。気にかかる茶器を見つけて、その姿形を述べるだけで欠点も長所も述べないことに似ている。感じた長所や欠点を述べるのは、見た者の主観に過ぎず聞いた者の目を眩ますことになる。信玄・謙信パイセンも優れた武将で、例え主観を交えても的確に判断するだろうが、及ばずながら、この古田織部も二人に倣う。

 魏の曹操が長江の上流、魏と呉の境界で長堤を築いている。その費用の過半を魏が負担、築堤の指揮は魏が行うものの、労務の大半は呉の兵士や応募してきた人夫に任せ、賃金は平等に支払い、就労時間や福利厚生も行き届いていている。宿舎周辺は工事関係者相手の出店などが多く現れ活況を呈している。そして、事業費が足らずに魏の側の堤防を二尺近く低く作っていることなどを、用意した資料を基に説明した。

「作事は信玄が専門でしょ」

 腕組みする信玄パイセンに謙信パイセンが水を向ける。

「利休、神前であるが膝を崩しても構わぬか?」

「ご随意に、元々神代の時代に正座の習慣は無いしね」

「それでは……」

 足を組みかえると、刹那、赤のパンツが覗く。常は生成りの木綿と決めているパイセン、気構えのほどがうかがえる。

「治山治水は為政者たる者の要諦、それに力を注ぐのはなにも不思議ではない。儂も、信玄堤の工事には力を注いだからなぁ……織部、図面を見せてくれ」

「はい、どうぞ」

「「え?」」

 利休・謙信パイセンが意外の声を上げる。

「儂も驚いた、この図面、売店で売っているんだそうだ」

「相場の三倍はするんですけどね、高い分は工費の足しにするそうです」

「……単なる思い付きではないなぁ、規模も工程も理にかなっている」

「織部、あなた自身もこれを確認したのね?」

「はい、武蔵といっしょに要所要所の現場を見てきましたが、図面の通り。場所によっては、それに増す補強が行われていました。これが写真です」

「むむ、ていねいな作事だ」

「よく写真に撮らせたわね」

「実に協力的でした、曹操殿も『いっそ、定期的に説明会をやってもいいかなあ』と言って、料金設定の相談もされたぐらいです」

「その料金も?」

「はい、築堤の資金になります。出ている出店などからも2%の冥加金を徴収しています」

「2%ではたかが知れているでしょ?」

 魚屋やら貸倉庫を生業にした商売人でもある利休パイセンも質問を挟む。

「はい、利はそれ以上にあると思われるので、業者の半分以上がプラス2~3%の寄付をしております」

「うまいやり方だ、初めから4%5%の税を課しては店を出す者も少なく反発も招くだろうしな」

「はい、その意に感じた洛陽の大商人たちは自発的に資金を提供し始めていると聞いています。商人たちに国境はありませんので、これに同調する者も現れるかもしれません」

「しかし、これほどの大事業、空気や善意に頼っていても全ては賄えないだろうに……はてさて、曹操という男、有能なサイコパスとばかり思っていたが……得体がしれん」

「武蔵がいっしょだったはずだが?」

「はい、工事関係者の町では売り切れの店からニギヤカシにライブめいたことをやるんですが、その雰囲気が気に入って居ついてしまいました」

「なんと、あの剣術バカがか!?」

「はい、探索の折にはカラコンをさせて目の鋭さを隠していたんですが、あいつ、目つきを柔らかくすると人格が変わってしまいまして……剣術使いでもあって、リズム感もいいし、身のこなしも軽いもんですから……あ、動画を観てもらった方が早いですねえ(^_^;)」

 タブレットで動画を出すと、三人とも笑顔になって見てくれる。

「水を得た魚というか、戦場の謙信というか……」

「信玄というか……」

「まさに『野(や)にある花ごとく』ね」

 これは言い間違いではない、前世では『野(の)にある花の如く』と言った利休パイセンだけど、こちらに来てからは『野(や)にある花の如く』と折に触れて言う。

『窯変』に通じる言葉と思っているけど、なぜか、曹操の顔が浮かんでしまったわたしだった。



 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第130話《髑髏ものがたり・2》

2024-04-05 06:21:38 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第130話《髑髏ものがたり・2》さつき 





 トムの話はこうだ。
 
 アレクのひい祖父ちゃんが、ニューギニアで戦っていたとき、オーストラリアの兵隊とポーカーをやって巻き上げたのが、この髑髏。

 ここまで聞いたところで、あたしはニューギニアなんかで昔行われていた首狩族の戦利品。それを土産代わりにオーストラリアの兵隊が現地の人から巻き上げたか掴まされたかしたガセだと思った。

 ところが、話は想像を超えていた。

 ニューギニアのラム河谷というところで、日本軍とオーストラリア軍の大激戦が行われ、数日間の戦いで日本軍は全滅した。オーストラリア兵は、戦場の異常心理なんだろう……日本兵の死体から首を切り落とし、ドラム缶の鍋で煮詰めて髑髏の標本のようにしたらしい。戦争も末期になって、連合軍に余裕が出てくると、こういう残虐な行為は禁止されるようになったけど、激戦ばかりの中期には、ままあったことらしい。

 ひい祖父ちゃんは、アメリカに持ち帰ったが、戦争が終わって復員すると、日々の忙しさにかまけて忘れてしまった。アメリカでも、戦後の復員兵の再就職は難しい時期があったようだ。

 それが、90歳を超えて、自分の持ち物を整理していると、これが出てきた。むごいことをしたと思ったそうだ。たとえ自分はポーカーの戦利品としてオーストラリア兵から巻き上げたものだとはいえ心が痛んだ。そこで日本に留学する曾孫のアレクにこれを預けた。

「できたら遺族の方に返してあげて欲しい」

 アレクは留学費用の半分をひい祖父ちゃんの世話になっているので、断ることもできず持ってきてしまったが「いつかやろう」が一日延ばしになってしまい、とうとうアメリカに帰る前日になり。スコットランドの独立騒ぎで半分酔っぱらっていたトムに押し付けていったそうだ。

「高坂先生に相談してみたら?」とトムは言ったらしいが、アレクは首を横に振った。

 そのわけは、実際に相談に行って分かった。

「こんなものガセにきまってるじゃないか。クジラ獲るのにも目くじらたてる国だぜ。オーストラリアが、こんな非人道的なことするわけないじゃないか。それに本物の骨というのも怪しい。最近のレプリカはよくできてるからね。まあジャンク屋にでも持っていけば、ちょっとした値段で買い取ってくれるかもしれないぞ。あ、今のクジラと目くじらのギャグ気が付いたぁ?」

 高坂先生はけして悪い人じゃないけど、根っからの市民派。日本人の非道はたとえ朝日新聞が撤回しても信じてやまないけど、外国人が日本に非道なことをするわけがないと信じ込んでいる。アレクもオチャラケたアメリカ人だったけど、なかなか人を見る目はあったようだ。

「分かった、あたしが預かる!」

 江戸っ子の心意気で引き受けてしまった。

 でも、さすがに家の中に入れるのは気が引け、愛車のマンボウ(ホンダZ)の座席の後ろに置きっぱなにしてしまった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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