大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・093『お婆さんが付いてきた』

2024-04-15 11:03:24 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
093『お婆さんが付いてきた』   




 令和の時代から昭和の宮之森高校に通って一年。


 だいぶ慣れて来たけど、土日とかが、ちょっと癪。

 だって、昭和の学校は土曜日にも授業があるし、令和が日曜でも向こうはウィークデイで学校に行かなきゃならない。

 4月14日の昨日は日曜だったけど、昭和46年の宮之森は水曜だから学校に行った。

 家からは寿川に沿って100mの戻り橋を渡るんだ。

 100mだから1分ちょっと、たいてい人に合うこともなく橋を渡る。

 でもね、4月になって三軒隣に〇〇というお家が引っ越してきて、そこのお婆さんの朝の散歩とかち合うようになってきた。

 引っ越しのご挨拶は両隣だけで済まされたようで、うちには来なかった。

 まあ、それはいいんだけどね。

 ほぼ毎日出くわすもんだから、シカトもできず、コクンと目礼してすれ違う。お婆ちゃんも笑顔で「おはよう」と返してくれる。

 目礼に対して、声に出しての「おはよう」は、こっちが一点負けてる感じ。

 それで、昨日は、小声だけども「お早うございます」と挨拶した。

 すると、お婆さんは、いつもの倍くらいに笑顔になった。

『ああ、よかった』という気持ちと『あ、まずった』という二つの気持ちが湧いてきた。

 よかったと思ったのは、ご近所で挨拶もしないでいてはきまりが悪いから。まずったと思ったのは、お婆さんにボケの気配が見えたので、関わると面倒なことになるかもと思ったから。

 モヤモヤした気持ちで『M』の標石(しるべいし)を蹴る。

『M』の標石は、わたし専用の『戻り橋』を出現させるためのスイッチ。この橋を渡ると昭和の宮之森。渡り終わったら昭和側の『G』の石を蹴る。
 橋は、わたしが橋に踏み込むと令和からは見えなくなるんだけど、念のためにロックするのが『G』の標石。

 橋を渡り終えて、五六歩行ったところで『G』の石を蹴っていないことに気付いた。

 振り返ると、お婆さんがついて来ている!

「おやぁ……あら……あらぁ……」

 お婆さんは、軽いパニックを起こしてキョロキョロあたりを見回している。

 わたしは魔法少女の孫で、未登録だけどいちおう魔法少女。

 昭和の学校に通うにあたって、日に一回だけ魔法が使えるようになっている。

 日に一回じゃ足りないかもと思ったけど、じっさいに魔法を使ったのは数えるほどでしかない。魔法を使うと、前後のつじつまを合わせるのが結構たいへんだしね。

 でも今こそは魔法を使う時だ!

――お婆さんを令和に戻せ!――

 そう念ずると、お婆さんの姿は一秒もせずに掻き消えた。


 でも……なにか違和感。


 戻って確認しよう!

 そう思って『G』の石を蹴ろうとしたら、後ろで「あらぁ……」という声がして、振り返ると川筋の医院の屋上にお婆さん!

 ヤバイ、ミスった!

 どうしよう、今日の分の魔法は使ってしまった!

 これは、訳を言って医院の屋上に上がらせてもらって令和まで送り届けなきゃ……

 でも、どう説明して屋上に? 

 すみません、間違って令和からお婆さんついて来てしまってぇ、戻そうと思って魔法使ったら、ここの屋上に……(^_^;)

 なんて言えるかぁ!

 オロオロしていると、医院の向こうの通りからわたしと同じ宮之森の制服が現れた。

「こまってるみたいね(^▭^)」

「え……あ……御神楽さん!?」

「巫女服じゃ目立つから、あなたのコピーした」

「そ、そうなんだ……」

 二十代半ばって感じの御神楽さん、ちょっとJKの制服はきびしい……けど、それはおくびにも出さずに説明。

「実は……」

 屋上を指さして「付いてきちゃって……」と説明すると分かってくれて、ドンと胸を叩いた。

「まかせておいて」

 そう言うと、瞬間で屋上にテレポして、一言二言お婆さんにヒソヒソ話。

――じゃあね――と口の形で言うと、お婆さんといっしょに消えてしまった!

 
 一時間目が終わってボンヤリしてると佳奈子が「お客さんだよ」と廊下を指さす。

 あ、御神楽さん。

「お婆さんは無事に送り届けたから」

「あ、どうもすみません」

「いいわよ、式場のお仲間なんだし。久々にきたら学校も楽しそうだし」

 御神楽さんの制服は、朝よりもしっくりしてて、現役の生徒と変わらない。

 クラス章が実在しない9組なのはご愛敬。

「でもね、魔法少女でもないのにこっちに来たから、ちょっと影響が出るかも……ま、またなんかあったら言ってちょうだい」

「は、はい、お世話になりました!」

「じゃね」

 パタパタパタ……

 そう言うと、元気よく階段を下りて行く御神楽さん、降りる音は踊り場の当たりで消えた。
 


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 001・ただ今四時間目

2024-04-15 07:19:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

001・ただ今四時間目                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 世の中で一番だるいものは四時間目の授業だ。


 三時間目まででなけなしの集中力は弛み切っているし、空っぽの胃袋は昼食を欲して何を見ても食べ物をイメージしてしまう。

 小山内啓介は窓側の一番後ろに座っているので、並み居るクラスメートがコンビニの棚に整然と並ぶお握りの列に見えてきてしまう。

 姫ちゃんこと姫田先生が板書の左端に付けたしの注釈を書いたので、啓介の二つ前のミリーが身を乗り出した。

――ああ、冷やし中華食いたいなあ…………――

 啓介は交換留学生のブロンドの髪もコンビニの冷やし中華の黄色い麺に見えてくる。

「4時間目て、お腹空いて眠たくなって、板書のトレースだけになってしまうよねぇ」

 姫ちゃんがチョークを置いて語り始めた。語ると言っても姫ちゃん先生はお説教などはしない。程よく脱線してみんなの脳みそを覚醒させようとするのだ。

「わたしも高校生のころは眠たかったあ……」

 そこから始まって、姫ちゃん先生は自分の高校時代を語り始める。高校の先生というのは妙なプライドがあって出身校の話は、あまりしない。
 しないからこそ効果的だろうと姫ちゃん先生は語る。教師としてツボを心得ているというよりは、いまだに学生気分、いや、高校生の気分が抜けないからだろう。

「北浜高校は校舎を建て替えたばっかりでね……」

――ほう、北浜高校やったんかぁ――

 北浜高校と云えば府立高校でも五本の指に入ろうかという名門校。初めて聞く姫ちゃんの履歴でもあり、姫ちゃんの評価は5ポイントほど上がった。

「食堂がメッチャきれいやねんやんか。きれいになると味もようなるようで、唐マヨ丼がワンランクほどグレードが上がってね」

「唐マヨ丼て、どんなんですか?」

 丼もの大好きなトラやんが聞く。

「丼ご飯の上に唐揚げが載っててね、出汁とマヨネーズがかかってんのん」

「美味そう!」と「キモイ!」の声が等量で起こった。

「ヌハハ、それで、それをテイクアウトのパックにしてもろて中庭とかで食べるのん! キモそうやけど、あたしら三年生には一押しのメニュ-やったなあ! 数量限定やったけど、あたしらの教室は食堂に一番近かったから食いぱぐれはなかった!」

 昼ご飯前に美味しいものの話をするのは反則だ。これは姫ちゃん先生の憎めない人柄だ。お腹の虫の鳴き声に閉口しながらも啓介は思い至った。

 そう言えば、世界史の隅田先生も似たような話をしていた。

「丼ものはパックに入れて食堂の外でも食べられた。府立高校ではうちだけで、ゴミの始末が問題になって一年で廃止になってしもたけどな。ぼくら3年生は嬉しかった」

 ……隅田先生は学校名は言わなかったが、同じ北浜高校だと考えられた。

「ひょっとして、姫田先生……」

「なに、小山内くん?」

 そのとき廊下を歩く隅田先生が目に入った。廊下側のセーヤンも同じことを考えていたようで、開けっ放しの後ろの出入り口から隅田先生に声をかけた。

「……ということは、姫田先生と隅田先生は北浜高校のクラスメートとちゃいますのん!?」

「「え……ええ!!」」

 二人の若い先生は教室と廊下で同時に驚いた。

 姫田先生は現代社会、隅田先生は世界史、共に社会科だから同じ部屋に居る。それも二人そろって去年の春に新任でやってきた。それが今の今まで同級生であることに気づかなかったのだ。惣堀高校二年三組の教室は暖かい笑いに満ちた。


「そやけどなあ……」


 啓介はコンビニの袋をぶら下げながら思った。

――なんや一幕の喜劇を観るようやったけど、同級生やったいうことにも気づかへんいうのは、ちょっとコミニケーション不足なんとちゃうのかなあ――

 惣堀高校は府立高校の中でも老舗で、レベルもそこそこだ。春の海のように波風がたたない。生徒も教師も温泉に浸かった猿のように平和だ。
 イジメや校内暴力とも無縁で穏やか。生徒の自主性を重んじるという伝統の下に、実質は放任されて、少々の無茶やはみ出しは見過ごされる。

――大丈夫なんかい?――

 チラとは思ったが、昼食のため演劇部の部室に入ったとたんに忘れてしまう啓介だった……。


 
 

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